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「高齢者にとっては今でもテレビ>スマホ」チカク梶原健司氏がAppleでの12年で学んだこと【連載:NEOジェネ!】

タグ : Apple, IoT, まごチャンネル, スタートアップ, チカク 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、スマホで子供の動画や写真を撮るだけで、離れて暮らす実家のテレビにすぐに届けることができるIoTプロダクト『まごチャンネル』を開発するチカクだ。スマホの使えない祖父母世代にITの恩恵を届けるためのポイントとは?
(右から)代表取締役社長 梶原健司氏
Co-founder 桑田健太氏
Co-founder 佐藤未知氏

Appleはかつて、Macのキャッチコピーに「The Computer for the Rest of Us」(普通の人々のためのコンピュータ)を掲げた。マウスやGUIの概念を導入したMacのこの思想は、iPhoneやiPodへと引き継がれる形で今なお貫かれている。

しかし、それでもあまねく「Rest of Us」が網羅されているとまでは言えないのが現状だ。例えば高齢者などにとっては、スマホやタブレットの操作はまだまだ敷居が高い。

2014年創業のチカクはまさにこの問題に切り込もうとしている。第1弾製品の『まごチャンネル』はITが苦手な祖父母世代をターゲットにしており、離れて住む孫の写真や動画を普段から使い慣れたテレビで見ることを可能にする。

家の形をしたセットトップボックスとテレビをケーブルで接続するだけで利用でき、本体に無線インターネット環境が整っているため他には何も必要ない。スマホで撮影した写真や動画がクラウド経由で届くと、本体の窓部分が光ってリアルタイムに知らせてくれる。

クラウドファンディングサービス『Makuake』での先行販売募集には、9月14日の募集開始から半月で、目標額の100万円を大きく上回る450万円以上が集まっている(10月7日現在)。

チカク代表取締役の梶原健司氏はApple Japanでプロダクトマーケティングや新規事業の立ち上げなどをしていた人物。12年に及ぶAppleでの経験は、「普通の人」が使えるプロダクトの開発にどのように活かされているのだろうか。

アイデアの出発点:目指したのは淡路島の両親にも使えるUI

Appleに身を置いていたことが、勝手にプレッシャーとなっていたという梶原氏。そこから解放されたことが『まごチャンネル』誕生のきっかけとなった

Appleに身を置いていたことが、勝手にプレッシャーとなっていたという梶原氏。そこから解放されたことが『まごチャンネル』誕生のきっかけとなった

2012年にAppleを辞めた時点で、梶原氏の中にはっきりと次にやりたいことが固まっていたわけではなかった。むしろ「イノベーティブ、“Think Different”を体現するAppleに身を置いていたことが、勝手にプレッシャーとなって思うように動けない時期もあった」という。

そこから解放されたのは、「誰も自分のことなんて気にしていないんだから、変に格好つけずに自分自身が解決したいと思っている等身大の問題と向き合うようにしよう」と思い直してからだった。

それこそが『まごチャンネル』のアイデアの出発点でもあった。

梶原氏の出身は兵庫県の淡路島。遠く離れた東京で生活する現在、実家に帰省できるのはせいぜい1年に1回程度であり、自分の両親に頻繁に孫の顔を見せることができないことを常々残念に思っていた。

「現代では海外にいる友人と久しぶりに会っても、あまり久しぶりという感じがしない。それはなぜかと考えたら、Facebookなどを通じて日々の食事などその人の日常を目にしているから。なのに、自分が最も大切にしている家族同士がそういう関係になれないのはどうしてだろう。テクノロジーはすでにある。それがユーザーに寄り添った形ではないことに問題があるのではないかと考えたのです」

梶原氏はエンジニアではないが、モノは作れなくても「ユーザーに寄り添った形」を模索するためにできることはあった。両親にMac miniを購入し、Dropbox経由で子供(両親から見れば孫)の写真や動画を送り、それをテレビにつないで見せた。さかのぼれば『まごチャンネル』の起源はこれだ。

同年代の友人にも親をモニターとして紹介してもらい、簡単なモックアップを作って東京と大阪の10数組の家族でニーズを確かめた。口頭で説明するだけではうなずくだけだった人も、内緒で調達しておいたそれぞれの孫の映像をテレビに映し出すと、思わず歓声を上げた。

「自分たちの世代にとって今やスマホは分身のような存在ですが、親世代にとって同じくらい日常的に使うものといえば、それは間違いなくテレビ。『まごチャンネル』というプロダクト名には、4チャンネル、5チャンネル……という既存のチャンネルを切り替えるような手軽さで使ってもらうという意味を込めています」

開発のポイント:バージョンアップは半年で70回。心理的負荷軽減に腐心

佐藤氏、桑田氏ともチカク入社以前から一貫して「人同士をつなぐ」ことをテーマにキャリアを歩んできた

佐藤氏、桑田氏ともチカク入社以前から一貫して「人同士をつなぐ」ことをテーマにキャリアを歩んできた

昨年12月に加入したハードウエア開発担当の佐藤未知氏は、電気通信大学で触覚やVRの研究に従事し博士号を取得した人物。研究成果の一つである「遠隔キス」は、YouTubeで270万回以上の再生を記録している(10月7日現在)。

一方、ソフトウエア開発担当の桑田健太氏は、新卒で入社したACCESSで携帯電話のOS開発に従事、その後Sansanで名刺管理アプリ『Eight』開発に携わった(『Eight』100万DLの裏側は弊誌が以前取材している)。そのキャリアはチカクも含め、一貫して人同士をつなぐことをテーマに置いたものだ。

ハード、ソフトに共通する『まごチャンネル』開発の難しさは「写真や動画を受信する側の祖父母世代と送信する側の父母世代(特に母親)の双方にとって最適なUIでなければならない」(桑田氏)ことにあるという。

そのため、ハード面ではデザイナーとも恊働し、3Dモデリングでモックアップを作ってはユーザーヒアリングをしてという作業をひたすら繰り返した。半年で70回のバージョンアップを重ねた末にようやく現在の形状に落ち着いていた。

家を模した現在の形状になるまでには半年で70回ほどのバージョンアップを経ているという。写真は八木アンテナの生えた初期のプロトタイプ

家を模した現在の形状になるまでには半年で70回ほどのバージョンアップを経ているという。写真は八木アンテナの生えた初期のプロトタイプ

「男目線でプレゼントしたい花束と女性が欲しがる花束とが違うように、自分たち都合のモノになってしまっては意味がない。『埃がたまりそう』といった主婦目線の意見は参考になりました。新着を知らせる通知も、家全体が光る当初の仕様には良い反応が得られなかったのですが、窓だけが光るようにした途端、一気に歓迎されました。結果として『孫が我が家に帰ってきた』ような表現になったことは、僕らが伝えたい価値を伝える上で非常に良いものになったと思っています」(佐藤氏)

一方のソフトの開発では、祖父母世代が感じるであろう心理的負荷をいかに小さくするかに腐心したという。

「心理的負荷が少しでも上がるとDAUなどの数値が如実に下がるというのは、『Eight』の開発において経験済みでした。祖父母世代だとその許容範囲が狭く、より顕著になることは予想できました。そのため、迷うことなく簡単に操作ができるよう、一画面に表示する情報量はあえて絞り、画面遷移についてはITを日常的に触り倒している若者であれば問題がないような一瞬の暗転も排除し、小さな表示が自然と画面全体に広がっていくようなUIを採用しました」(桑田氏)

Appleで培った、スペックでは表現できないUXの追究

3人に共通するスタンスと言えるのは、ユーザー側にモノに合わせてもらうのではなく、まずユーザーがいて、その人にとって最適なモノをゼロベースで考えていくというところだ。スマホとテレビを直接つなぐというありそうでなかった発想はそこから生まれたし、ヒアリングの手間を惜しまない姿勢もそこから来ている。

しかし、故スティーブ・ジョブズは「多くの場合、人はそれを目にするまで自分が何を欲しいのか分からないものだ」とも言っている。本当のユーザーファーストを実現するためのヒアリングとはどのようなものだろうか。

「出てきた意見自体ももちろん参考にするのですが、それと同じか時にはそれ以上に重要だと思うのは、試してもらった時の声のトーンや表情の変わり方、思わず出てしまった言葉に注意を向けることだと考えています」(梶原氏)

梶原氏がこうした考えに至ったのには、やはりAppleでの経験が大きいという。

今でこそイノベーティブな企業として世界的な地位を築いているAppleだが、梶原氏が新卒入社した当時はiPhoneやiPodの誕生以前であり、Microsoftに押されたAppleは世界的に見てニッチな存在だった。それでもあえてAppleを選んだのは「Macを使った時の言葉にできない気持ちよさが原体験としてあった」からという。

「入社直後に配属されたプロダクトマーケティングでも、先輩がやっていたのは調査とはいっても大人数にアンケートを取るだけではなく、1対1のヒアリングを重ねて反応を見極め、言語化されていない顧客の心理の根底にあるものを探るということでした。ベタな言い方になってしまいますが、Appleの差別化要因として大きいのはやはりUXへのこだわりということになる。中にいる間は気付きませんでしたが、外に出てみて当時の経験が役に立っていると実感しています」

距離も時間も超えて人同士がつながる世界を

チカクが掲げるミッションは「距離も時間も超えて大切な人がつながれる世界を作ること」

チカクが掲げるミッションは「距離も時間も超えて大切な人がつながれる世界を作ること」だ

チカクの創業は2014年3月。当時は梶原氏一人の会社で、外部の開発者の助けを借りながら1年近く市場調査やモニターテストを繰り返していた。フルコミットする現在のメンバーが加わったのはその後のことだ。

チカクという社名には誰でもすぐに想像がつく通り、遠く離れた人同士が「近く」に感じられるようにという意味が込められている。創業後に加わった佐藤氏が全く別のところで進めていた「遠隔ハグ」や「遠隔キス」といった研究が、まさにチカクの思想を体現するものであったというのは非常に興味深い。

そして一方の桑田氏は、前述したように一貫して人と人とをつなぐサービスの開発に従事してきた。その究極的な目標は「テレパシーにも似た人間の6つ目の感覚を発明すること」なのだという。実はチカクには「知覚」の意味も込められていて、ここにも後から加わった桑田氏の人生テーマとの不思議な符合がある。

出会うべくして出会った感のある3人は初めてそろった最初の週末、丸々2日間を話し合いの時間に割いたという。自分たちは何を大事にするのか。何がやりたくて何がやりたくないのか。共通する部分を見つけ出し、いらない部分を削ぎ落としていった。だからこそチカクがこの先に実現しようとしている世界観について、3人の見据えるものは完全に一致している。

『まごチャンネル』という第1弾プロダクトの上位にチカクが掲げるミッションは「距離も時間も超えて大切な人がつながれる世界を作ること」だ。それは桑田氏の人生テーマである「第六感」のように、人間の能力の拡張への試みと言い換えることもできるという。

「例えば車だって、見方によっては移動する能力の拡張と言えます。現時点ではスマホがコンピュータのベストな形であるとされていますが、これからもずっとそうとは限らない。その時々のテクノロジーを使って人間の感覚能力の拡張を実現する会社でありたいと思っています」(梶原氏)

当面の目標は来年4月の『まごチャンネル』発売、そして1件でも多くの家庭で使ってもらうことだが、チカクは将来的に物理的、心理的に離れた人がいるあらゆるシーンへ領域を広げていく。もちろんその挑戦が容易でないことも自覚している。

「AT&Tのベル研究所が初めてテレビ電話を発明したのは1930年代のこと。その瞬間、確かに世界はそれまでと変わったはずですが、今日のように遠隔で映像コミュニケーションができるようになるまでにはそこから100年近く掛かった。世界が変わるのと生活が変わるのは同義ではない。できることベースの考えを超えて、生活を変える気概でやっていきたいと思っているんです」(佐藤氏)

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴 一部写真提供/チカク

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