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[連載:NEOジェネ!]”ソーシャル・チップ”『Grow!』が正式リリースでこだわった、善意の輪を広げる「3つの仕掛け」

タグ : Grow!, Web, Webアプリ, スタートアップ, ソーシャル, ビッグデータ, 起業, 開発 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。第2回に登場してくれたのは、前回登場のザワットと同じシェアオフィスで働くGrow! Inc.の2人だ。1月10日に『Grow!』正式リリースを行い、がぜん注目度が高まっている彼らが、サービス開発でこだわり抜いた「ある視点」とは?
Grow! Inc.
(左)CEO  一ツ木崇之氏    (右)CTO / Co-Founder  斎藤幸士氏

個人や組織がサイト上に設置したGrow!ボタンを通じて、チップ(心づけ)を授受できる「ソーシャル・チッピング・プラットフォーム」だ。 例えば1人のミュージシャンが、楽曲配信している自身のサイトにGrow!ボタンを貼り付けたとしよう。彼のファンは、Grow!ボタンを1回押すごとに、PayPalで購入した1ポイント=1ドルのGrow!ポイントを直接渡すことができる(日本ではAmazonギフト券とのポイント交換)。

 

今年1月10日の国内正式版リリース後は、後述する機能追加のほか、Grow!ボタンを設置する自サイトを持たないクリエイター向けに、Grow!に登録するだけでGrow!ボタンを持つことができるようになった。

構想の出発点は2010年の夏。学生時代からDJとして音楽活動を続けてきた一ツ木崇之氏が、Twitterを通じて出会った元ミュージシャンのカズワタベ氏(現・Grow! CCO)と話すうち、ファンが好きなミュージシャンを気軽に資金援助できる「100円ボタン」というアイデアに行き着いた。
 

「あらゆるコンテンツがネットを介してエンドユーザーに直接届けられる世の中になったのに、お金に関してはいまだにエージェントや代理店が間に入らなければ授受できないでいる。この現状を変えたい、多くのクリエイターがもっと簡単に支援を受けられ、彼らの支援者がもっとダイレクトに応援できる仕組みを作りたい、と盛り上がったんです」(一ツ木氏)
  

「100円ボタン」をチップの文化が根付く欧米でも通用するサービスにすべく、腕利きのエンジニアを探していた一ツ木氏は、IPA未踏ソフトウェア創造事業に採択された経験を持つ斎藤幸士氏とTwitterを通じて知り合う。

以前から「世界で使われるプラットフォーム開発」を目指していた斎藤氏は、Grow!のコンセプトにすぐさま共感。一緒に企画をブラッシュアップさせ、2011年に入ってすぐに開発をスタート、同年4月にテスト版リリースまでこぎ着けた。

データベースはMongoDB、課金に関わる部分はMySQL、アプリ関連はRuby on Rails(HTML5対応)で作り込まれているが、斎藤氏が誇るのは「開発当初からビッグデータを意識したシステム構成にしたこと」。

テスト版から話題を呼び、2011年4月からの利用ユーザー数は3500人、Grow!ボタン設置サイトの総ページは360万ページにもなったという。それらの実績から得られる、ユーザーがチップを渡す際の行動データを分析すれば、機能改善はもちろん、世界各国向けのチューニングも容易になる。先日の国内正式版のリリース時も、下記で説明するように分析結果から得たヒントが数多く盛り込まれた。

「今の時代、海外展開に挑戦しない理由なんてない」

一ツ木氏、斎藤氏ともに30代で、ビジネス経験が豊富なのが、ほかのスタートアップ企業と異なる点だ

一ツ木氏、斎藤氏ともに30代で、ビジネス経験が豊富なのが、多くのスタートアップ企業と異なる点だ

前回の「NEOジェネ」に登場してくれたザワットから、「すごい人たちがいます」と紹介してもらったGrow! Inc.の2人。彼らもザワットの『WishScope』同様に、サービス開始前から世界進出を当然と考えていたNEOジェネレーションだ。

会社設立の登記住所は、日本ではなくアメリカのデラウェア州。サービスメニューも日英2カ国語対応となっている。

一ツ木氏の調べでは、投資支援、つまりドネーション・ビジネスは右肩上がりを続ける市場。しかもその規模を日米で比較すると、アメリカは日本の30倍のスケールを持っている。

「わたしも斎藤も決して英語が上手いわけではないんですが(笑)、今の時代、市場規模を考えてもアメリカやヨーロッパでのビジネス展開に挑戦しない理由なんてないじゃないですか。そもそもチップの習慣や文化は欧米に根付いています。だからだと思いますが、Grow!は早くからアメリカの投資家や有力ビジネスデベロッパーに評価をいただいてきました」(一ツ木氏)

昨年12月、総額48万5000ドルの資金調達で話題になったGrow!としては、「むしろチップ文化のない日本での展開の方が挑戦かもしれない」(斎藤氏)わけだ。

では、日本市場での成功に向け、彼らはどんな戦略を持っているのか? その背景には、非常にマチュア(成熟した)な分析があった。

ユーザーが「ボタンを押したくなる動機」を徹底的に研究

「ユーザーの支持を得るために必要なのは、たった一つだけ。それは、Grow!ボタンが多くの人にとって『押したくなるボタン』になることです」(一ツ木氏)

この単純明快なヒットの定理を実現するため、Grow!正式版は「3つの仕掛け」を意識して開発された。

一つは、Grow!ボタンを押した人にしか受け取ることができないメッセージや、簡単な限定コンテンツを用意できるようにすること。例えば応援したいアイドルのサイトでGrow!ボタンを押したら、「ありがとう」のメッセージやプレミアム画像が受け取れる、といったイメージだ。

現在でもユーザーごとのGrow!ボタンクリック数が表示されるが、『Grow!ボックス』はよりビジュアライズして表示する予定

現在でもユーザーのGrow!ボタンクリック数が表示されるが、『Grow!ボックス』はよりビジュアライズされる予定

2つ目は、同じサイトのGrow!ボタンを押した人が、クリック数に応じてランキング化して表示される「Grow!ボックス」の追加(※現在開発中)。言ってみればファン同士の競争心を煽るような仕掛けだ。

「このクリエイターを一番応援しているのはわたし」ということが目に見えて分かれば、その充実感からより多くGrow!ボタンを押す=より多くのチップを渡すようになる。「これらはある種、ゲーミフィケーションの発想に近いものがある」と一ツ木氏は言う。

最後の一つは、テスト版から採用している、TwitterやFacebookといった各種SNSとの連動だ。

自分がどんなクリエイターやコンテンツに対してGrow!ボタンを押したのかを、SNSで簡単に自分の友人・知人に伝えていくことができれば、クリエイターにとってもより多くの人に存在を知ってもらえるというメリットが出てくる。応援した側も、《お金を払いたくなるほど良いもの》を友だちに伝えられる。

ちなみに、こうした仕掛けはすべて、開発前にいくつも立てていた仮説の中から、テスト版の運用で「効果がある」と立証されたものだという。人がサービスを使う行動心理を徹底的に研究し、新サービスを普及させるための機能や使いやすいUIを選りすぐった。まさに、満を持しての正式版リリースということになる。

「良い行動は習慣化する」。そのためのベースづくりを最優先

サービスを分かりやすく見せるため、アイコンもシンプルで印象的なものに。デザイン・UI設計にはこだわりを見せる

サービスを分かりやすく見せるため、アイコンもシンプルで印象的なものに。デザイン・UI設計にはこだわりを見せる

さらに一ツ木氏は、Grow!の持つ将来的な可能性として、「より深いソーシャルグラフの獲得が、例えば広告ビジネスなどでも大きくモノをいうはず」と語る。たった数ドル分のチップだったとしても、ユーザーがGrow!ボタンを押すからにはそれなりの重みがあるからだ。

当然、そこには「Like」の数では計れない、貴重なユーザー属性や彼らの志向・行動データが蓄積されていく。それが、無料サービスでは得がたい独自のソーシャルグラフを解析する糸口になるかもしれないと語る。Grow!を起業するまで、店舗運営コンサルタントやマーケティング・プロデューサーをしてきた一ツ木氏ならではの周到なビジネス戦略が、ここにも見え隠れする。

一方、この点について斎藤氏は「エンジニアとしての喜び」という視点で語る。

「ビッグデータを世界規模で扱う、というのは高いハードルですが、同時にやりがいにもなります。既存のSNSとは違って、『お金を払ってでも応援したい』という人の思いが込められたデータ。それと向き合えるチャンスなんて、そうそうないと思います」(斎藤氏)

「100円ボタン」というひらめきから、ここまでサービスとして洗練させ、発展可能なものに仕立てる過程を、2人は楽しんでいる。今年3月予定の米国版リリースの後は、スマートフォンアプリのリリースなども視野に入れていると話すが、「今はスマホアプリ単体でのマネタイズが難しくなっています。ですから、アプリのリリースを急ぐよりも、まずはGrow!の魅力、面白さを多くのユーザーに知ってもらうための活動を優先していきたい」(斎藤氏)と話す。

「良い仕事」にチップを払うというアクションも起こるなど、ソーシャルチップ文化の広がりを実感する2人

「良い仕事」にチップを払うというアクションも起こるなど、ソーシャルチップ文化の広がりを実感する2人

その過程で、Grow!はさらに新しいユーザーニーズを掘り起こすかもしれない。「良い行いは習慣化する」(一ツ木氏)のが人の常だからだ。実際、テスト版の運営時、2人は思ってもいなかったチッピングの需要を見つけている。

「ある時にユーザーの方からバグを知らされ、1時間以内に対応した際、『良い仕事ぶりにGrow!』とチップをいただいたことがあって。僕自身、それまでチップを渡す習慣はありませんでしたが、今では社内のメンバーが良い仕事をしたらGrow!したりしています」(斎藤氏)

サービスが人の行動を変え、世界を変えるとは、つまりはこういうことなのだろう。繰り返しになるが、良い行為は習慣化し、伝播していくものだ。

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴 撮影協力/BOAT by VOYAGE GROUP

Grow!や前回登場のザワットが入居する『BOAT』(VOYAGE GROUP運営)は、賃料無料で有望スタートアップを支援するインキュベーションシェアオフィスとして知られる

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