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小宮山悟が身をもって感じた、プロ野球「デジタル戦略」の未来とは?【球界初のハッカソン『パッカソン』レポ】

タグ : Jリーグトラッキングシステム, データ, ハッカソン, パッカソン, プロ野球 公開

 

さまざまなテーマや業種に特化したハッカソンが毎週のように開催される中、プロ野球界初のハッカソンが5月16、17の両日、都内で開催された。デジタル活用により新たなファン層を獲得したいパ・リーグが『パッカソン』と題して行ったもので、エンジニアやデザイナー約40人が参加した。

テーマは「プロ野球観戦の新しい1ページを創る」。パ・リーグ6球団が共同出資する事業会社パシフィックリーグマーケティング(以下、PLM)と富士通は、運営するVODサービス『パ・リーグTV』において、見たいシーンや打席結果から当該シーンを自由に探して視聴できる「対戦検索」機能を開発しており、ハッカソンはこのAPIを活用したプロ野球の新たな楽しみ方の発案を狙いに開催された。

PLM執行役員の根岸友喜氏によれば、ここ数年、球場を訪れる観客は増加傾向にあるものの、プロ野球に関心を持つ、広い意味でのプロ野球ファンの数は年々減り続けていることが、複数の調査によって明らかになっているという。

プロ野球、特にパ・リーグの球場来場者は35〜45歳の男女が中心で、10〜20代の若者が極端に少ない。PLMがデジタル戦略に力を入れているのには、こうした若い世代へ訴求したい思惑がある。

実際、PLMのデジタル活用施策の柱である会員数6万2000人の『パ・リーグTV』は、やはり30〜40代が会員の中心ではあるものの、球場来場者と比べると20代の比率が大きいという。先行するアメリカのMLBでは、いち早くデジタル戦略に力を入れてきた結果、ファンの若返りに成功しているという実績もある。

では、プロ野球がデジタル技術を活用していく上でポイントとなるのはどういったことなのか。ここでは、実際の開発に先駆けて行われた、元プロ野球投手で現解説者の小宮山悟氏によるキーノートの内容を紹介したい。

現役時代、「精密機械」や「Mr.コントロール」の異名を取った小宮山氏は、150キロの豪速球や目を見張るような変化球を持ち合わせていない代わりに、正確無比な制球力とデータに裏付けられた緻密な投球術により、日米で19年の長きにわたり第一線で活躍した。

野球とデータ活用の相性が良いと考えられる理由とは? プロ目線で見たデータ活用のポイントは? マニアックなエピソードを盛り込みつつも理路整然としていて分かりやすい語り口は、球界屈指の頭脳派・小宮山氏ならではと言えるだろう。

データは「一目瞭然」でなければならない

きょうは「プロ野球とデータ」ということで呼ばれたわけですが、私がプロに入った1990年当時のプロ野球のデータ活用は、ひどいものでした。

プロ野球では、次の対戦チームの試合をネット裏で観戦する「先乗りスコアラー」と呼ばれる人たちがいますが、当時は手書きの資料に印をつけていき、それを選手にフィードバックしていました。でも、書いてあることは基本的に、「アウトコース低めに投げておけば打たれません」といったざっくりしたものに過ぎませんでした。

千葉ロッテマリーンズ時代の1995年に、データが大好きなボビー・バレンタインが監督になったのは運が良かった。ざっくりしていたそれまでの資料から、数字を図式化してフィードバックする詳細なものになりました。ちょうどアソボウズのデータがリーグに導入されたころで、それを上手に活用していたのが当時のロッテです。

データは「一目瞭然」であることが非常に重要。言葉にすると簡単ですが、それがなかなか実現できないものです。

一つの紙に情報が詰め込まれ過ぎていると分かりづらい。そこで、ストライクゾーンを9分割した図に全て書き込まれていた情報を、図の横に色分けして別に書き出してもらえるように、こちら側からリクエストしたことがありました。そうすることで、速いボールなのか遅いボールなのかが視覚的に分かるようになる。頭の中で整理するのに、ものすごく助かりましたね。

投手から見て、使えるデータと使えないデータの違いは何か。ひと言で言えば、全体をひっくるめて統計として出されたデータは使えないということです。

アメリカでは、各チームごとに委託した先乗りスコアラーがデータを取っていて、試合前には、キャッチャーを務める人間がそれを投手陣にフィードバックします。自分がいた2002年のニューヨーク・メッツで言えば、マイク・ピアザです。

しかし彼の読み上げるデータといえば大抵、「このバッターは追い込まれたら、ワンバウンドするような変化球に食いつく」というものでした。そんなこと言われなくても分かりますよね? 青と赤でヒットの出やすいところ、出にくいところが色分けされているんですが、どのバッターもほとんど代わり映えしないものでした。これは、投手によって投げる球種、投げる速度がみな違うのに、その全てを一緒くたにしているから起きる問題でした。

マイナーから急に上がった選手でもFAXですぐにデータが手に入るのは、さすがメジャーという感じでしたが、肝心のデータの内容は雑で、日本の方が上でしたね。

データは正確でなければならない

From James G
データは正確性が命だ

1週間に1度投げる先発の仕事をしていた時は、ゲーム全体が3時間だとすると、自分が投げている時間がそのうちの1時間〜1時間半。その間の投げている映像をスコアラーが全部撮ってくれていて、さらに1球ずつ球種やコースを記録しています。

一番大切なのは、データの入力ミスをなくすことです。本人がスライダーだと思って投げているものをカーブと記録されていたら意味がない。さらにコース。アウトコース低めのいいところに投げていても、打たれると大抵、真ん中に記録してしまうのがスコアラーです。甘いところにいったから打たれた、で片付けてしまう。

本来はいいところに投げたのに打たれたのだから、その原因究明をしなければならない。そのためには、データは正確であることが重要です。だから私は、投げ終わった後には自分で映像を全て見て、スコアラーが記録したものが間違っていないかをチェックし、間違いがあった場合は訂正して、次の日に提出するというのをやっていました。

さらに、映像は1球ごとに編集して細切れにしたものではなく、流しっぱなしにしてくれともリクエストしていました。投手というものは、うまくいかずに苦しい時は投げ急いで投球間隔が短くなりがちで、逆に余裕がある時は相手打者をじらせるために、わざと投球を遅らせたりします。そうした時間の使い方の癖を自分で知ることで、自由に操れるようになりたかったからです。

こうしたデータは積み重なると膨大な量になります。これを全部頭にたたきこむ。自分が投げていない日は、所属チームの試合内容よりも、次の自分の登板機会で対戦するチームのデータと向き合っていました。だから正直、投げていない日の方が忙しかったくらいです。

打球の種類のデータ化は可能か

打球の種類のデータ化には開発の余地が残されているという

From Paul L Dineen
打球の種類のデータ化には開発の余地が残されているという

私は早稲田の大学院で修士を終えているのですが、修士論文のテーマは、2005年の日本シリーズでのデータ活用法でした。自分がいたロッテが、阪神タイガースを4勝0敗で下した年です。

この年はちょうど交流戦が始まった年だったので、セ・リーグの阪神の試合にも、先乗りスコアラーを派遣していました。普通のチームであれば、6月半ばに交流戦が終わったら、セ・リーグの試合を追うことはないでしょう。でもボビーは、開幕からシーズン終了までの全てのデータを用意させたのです。これを、日本シリーズ1週間前の直前合宿でフィードバックしました。本当に参考になり、シリーズは嘘のようなワンサイドに。これは全て、データを活用できたからです。

その時のデータに唯一足りなくて、皆さん開発者にリクエストしたいのは、打球の種類についてです。

野球のスコアをつけたことがある人なら分かると思いますが、打球の種類は普通、A・B・Cの3種類で記録されます。芯で捉えたいい当たりはA、普通はB、投手が打ち取った打球はCです。

ボテボテのゴロは当然C。ですが、空高く打ち上がったフライもまた、Cと記録されます。ここに問題が生じます。

なぜなら、大きなフライとホームラン性の当たりとは紙一重だからです。それ相応のバットスピードがなければ、高く打ち上げることはできません。少し角度が違っていたら、130メートル飛んでいたかもしれないのです。現状ではここを判別するのに、スコアラーの判断力がものすごく大事になります。そのためには専門知識が不可欠です。

ですが、そうしたことを踏まえて、打球が上がってから捕球されるまでの時間などを基に、使えるデータが取れる仕組みを作ってもらえたら、それは投手にとって、かなり分かりやすいものになるはずです。

野球で使うデータで一番大切なのは、今ここで起きていることが、データを見返しただけで単純明快に再現できることです。どこに飛んだかといったことは見れば分かることですが、打球の種類については開発の余地があるといえるでしょう。

サッカーと比べてもはるかにデータとの相性が良い

Jリーグが今季から導入したデジタルトラッキングシステム

Jリーグが今季から導入したデジタルトラッキングシステム

私は実はJリーグの理事も務めているんですが、サッカーで言えば、今年からデジタルトラッキングシステムというものが採り入れられました。これがかなり画期的なものなんです。

私は生まれも育ちも千葉の柏で、日立台のスタジアムが実家の目と鼻の先にある関係で、柏レイソルのサポーターを務めて長い。先日もたまたま仕事がなかったので、理事としてではなくサポーターとして、レイソルと湘南ベルマーレの試合を観戦に行きました。

スコアレスドローでしたが、このベルマーレの選手が死ぬほど走るんです。ボールを奪い取るために相手選手を追い掛け回すんですが、そのスプリントの回数が尋常じゃない。デジタルトラッキングシステムだと、どの選手が何回スプリントしたか、また帰陣するためにどれだけ走ったかといったことが全て分かるようになっている。そのチームがどんなサッカーをしているかが分かるようになっているんです。

野球はポジションが固定しているので、そこまで人の動きがありませんから、残念ながらこのシステムを活用することはできません。でも逆に言えば、ある程度固定しているからこそ、映像を見なくても、流れを追うことができるということです。

6-4-3のダブルプレーといえば、何が起こったか誰でも分かります。打球がどこに飛んだかというのも、ポジションを表す数字の左右や上下に点を打つことで示すことができます。サッカーでは、ゴールキーパーからボールがどう経由して、最終的に点を決めたフォワードはどこでボールを受けたのかといった流れは、映像を見なければおそらく追うことは難しい。

ですから、サッカーと比べて、野球の方がはるかにデータで分かりやすく伝える方法があるということです。サッカーに片足突っ込んではいますが、私も基本は野球人です。野球がより便利なものになり、より多くの人に楽しんでもらえるようになるよう、皆さんにはぜひともいいものを作ってもらいたいと思います。

デジタル活用が秘める新規ファン獲得の可能性

パッカソンでアイデアを出し合う参加者

パッカソンでアイデアを出し合う参加者

ハッカソン2日目に行われたプレゼンテーションでは、Webサイト上で株式のように選手を指名し、活躍に応じて得られるポイントをグッズ購入に活用できるシステムや、打席の結果や配球を予想して特典を得るゲームなど、全部で10個のアイデアが提案された。

PLMでは、今回提案されたアイデアも参考に、実際に新しいサービスの開発を進めていく方針という。

野球に限らず、サッカーのJリーグにおいても、熱心にスタジアムに足を運ぶコアなファンを大切しながらも、いかに新しいファン層を獲得していくかに頭を悩ませ、さまざまな試行錯誤を繰り返している。

デジタル活用は、若い世代に刺さりやすいこと、既得権益を超えて新たなサービスを生みやすいことなどから、その可能性を秘めているといえる。今後の継続的な開催、さらなる展開に期待したい。

取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)




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