エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン
  • TOP
  • キーパーソン
  • 旬ネタ
  • コラボ
  • ノウハウ
  • 女子部
  • キャリア

ロボットが家庭に普及するには何が必要?セラピー用ロボ『パロ』開発者・柴田崇徳氏に聞く

タグ : IoT, ギネス, パロ, ロボット, 柴田崇徳 公開

 

セラピー用アザラシ型ロボット『パロ』

「IoT」や「ロボティクス」という言葉が登場して久しいが、そのブームは業界の中だけに閉じている感が否めない。業界の殻を破り、人々の生活に浸透するための突破口はどこにあるのだろうか――。

それを探るべく、ギネスブックで「世界でもっともセラピー効果があるロボット」にも認定され、国内外の医療の現場で活躍しているアザラシ型ロボット『パロ』の開発者として知られる柴田崇徳博士に話を聞いた。

博士によれば、「IoT」や「ロボティクス」が生活に浸透するためのカギは、開発者が「3つの壁」を越えられるかに掛かっているという。そして、その壁を越えるための開発者の「次の一手」についても、経験に基づく持論を披露してもらった。

プロフィール

産業技術総合研究所 人間情報研究部門 上級主任研究員
柴田崇徳氏

名古屋大学工学部・電子機械工学科を卒業、名古屋大学大学院博士課程・電子機械工学専攻を修了。博士(工学)。通商産業省工業技術院機械技術研究所の研究官や、マサチューセッツ工科大学の人工知能研究所・研究員を兼任、チューリッヒ大学人工知能研究所客員研究員などを経て、1998年より通商産業省の工業技術院機械技術研究所・ロボット工学部で主任研究官を務める。2001年より独立行政法人産業技術総合研究所の主任研究員に。2009~10年には内閣府政策統括官付参事官(情報通信担当)付、2013年より現職および東京工業大学大学院連携教授を歴任。マサチューセッツ工科大学高齢化研究所客員フェロー

10年使える、愛着湧くテクノロジーを目指して

日本では大和ハウス工業のロボット事業部も代理販売を行っている

国内外の医療福祉の現場で活躍しているアザラシ型ロボット『パロ』は現在、世界30カ国以上の主に公的機関で約3500体が利用されており、導入が相次いでいる。

パロの特徴は、ユーザーの名前や行動などを学習して「個性」を形作ること。その仕組みの基本は「強化学習」にある。

パロは、その音声認識機能(日本では日本語、英語圏では英語、ヨーロッパでは5カ国語など)により、人が赤ちゃんやペットなどによく話し掛ける言葉を認識することができる。それ以外の言葉でも、例えば飼い主がパロに名前を付けてかわいがると、パロがそれを頻繁に聞いて名前として学習し、反応するようになる。

また、なでられると心地良く、叩かれると嫌がるという「価値」を持っており、飼い主との触れ合いの中でなでられた行動が、同じような状況の場合に出やすくなるなど性格を変えるよう学習する。

そのパロが世界で脚光を浴びるようになったのは2002年。同年1月末から3月中旬まで45日間、ロンドンのScience Museumで日本の最先端技術の展示会として、日本からレクサス、ドコモ、ソニー、パロの4つが展示され、その中でもパロは大人気だった。

会期中、テレビや新聞などのメディアで毎日のようにパロが紹介されたが、1週間ほどしてパロに興味を持ったギネス世界記録の研究員が訪れた。

研究員の方からパロのセラピー効果について聞かれ、2000年から2001年にかけて筑波大学付属病院の小児病棟で実施したセラピー実験での気分の向上、退院意欲の向上などの定量的な評価を説明。また、2001年に実施した高齢者向け施設でのセラピー実験において、気分の向上やうつ症状の改善、会話の増加といった定量的な結果が見られたという論文も提出した。

すると約2週間後に、ギネス世界記録から柴田氏宛てにメールがあり、パロを「The Most Therapeutic Robot(世界でもっともセラピー効果があるロボット)に認定した」と連絡が来たという。

このギネス認定もパロの普及を後押ししたが、ほかにも機能やインターフェース面での工夫、それに伴う工夫は数多くあった。

例えば、パロは「人と触れ合うロボット」であるため、人からの強い力に対処したり、叩かれたり、落とされたり、投げ付けられたりしても壊れないようにする必要があった。2000年8月に第5世代のパロを展示会で人々にふれあってもらった際には、1カ月弱で約100万人に触れ合ってもらい、3日に1回はパロが壊れて、その対応に追われた。

それを踏まえて、新しいセンサやアクチュエータ(モータのシステム)を開発し、第6世代を製作。2002年のロンドンの科学技術展では、45日間で11万人に自由に触れてもらったが、1度も壊れることなく乗り切ることができた。

その後の第8世代も、2005年の『愛知万博』で約半年間の期間中に約2200万人に触れ合ってもらい、故障や事故などのトラブルなく来訪者に喜んでもらうことができた。

肝は「見た目・触り心地・抱き心地などについて人からの受容性を高め、子供から高齢者でも誰でも簡単に使えて、安全で、壊れず、本物のペットの寿命のように10年以上の利用が可能で、愛着が持てるようにすること」だという。

ロボット普及のために開発者が越えるべき「3つの壁」

海外の病院でパロが利用される様子(スウェーデン、カロリンスカ病院)

昨今、さまざまな切り口でロボット開発が進んでいるが、一般家庭にも普及するために「越えるべき壁」について、柴田氏は3つのポイントを挙げた。

1つは「明確な目的とそれを達成できる機能・効果を持ち、その費用対効果でメリットがあることを示す」こと。

柴田氏は1993年から研究開発を行っているが、当時はペットやセラピーのためのロボットというコンセプトが誰からも理解されず、研究予算をもらうことができなかった。

また、その評価についても、人の主観が入る研究であるため客観性を求めるサイエンスとは相容れないテーマであり、論文を書くことさえも難しいという局面に立たされたこともあった。それをどう乗り越えるかが、最初の難関となったそうだ。

そして2つ目は、「専門家でなくても、誰でも容易に使えて、安全で、壊れず、メンテナンスが楽な物を作る」こと。

これについては、ひたすら実績を積むしかなかった。国内では先述のケースのほかに、東日本大震災の際には、短期的な支援として首都圏や被災地の避難所を訪問し、パロと触れ合ってもらったり、その後は東北3県の高齢者向け施設、病院、学校などでも長期的な被災地支援として約80体のパロを今でも活用してもらっている。

ちなみに、こうした医療福祉の現場では、実際にパロと接してもらうと、皆が笑顔になってうれしそうにしてもらえたり、時には亡くなった旦那さんを思い出して涙を流しながらパロをぎゅっと抱きしめる人がいたりと、さまざまな心を打たれるシーンもあったそう。

そして3つ目は、「異なる文化や宗教観などを理解して、適切に既存の仕組みや制度に組み入れていく」こと。

例えば、アメリカではパロを医療機器にしなければ販売することができないため、パロに関する安全性とセラピー効果のエビデンスを示し、2009年にFDA(アメリカ食品医薬品局)から神経学的セラピーのための医療機器の承認を得て、販売を開始した。

その後も、アメリカの各種医療福祉施設でパロを利用してもらうとともに、各種の応用事例でのエビデンスの蓄積を行っている。

今年3月にはホワイト・ハウスに招待され、パロについて紹介するとともに、今後のアメリカでの展開についても議論してきた。アメリカ政府にも、在宅医療・福祉でのパロの活用により、医療福祉の社会コストを低減することに興味を持ってもらったが、このような活動を欧州、アジア、オセアニア、中東などでも展開している。

また、文化や宗教観のほかに、法制度も異なるため、それらを個々に分析して、各国でパロをフィットさせることを目指した。

その努力の甲斐あって、デンマークでは約80%の地方自治体でパロが公的導入されているという。同国では、認知症ケアにおいて暴力・暴言、徘徊といった問題行動が低減することにより、年間30万円以上かかっていた抗精神病薬が不要(30万円が0円に)になり、介護者の介護負担も大幅に低減された。

パロには副作用がないので、めまいや徘徊による転倒のリスクも低減され、高齢者に喜ばれている。

デンマークの高齢者向け施設での認知症高齢者とパロとセラピスト

同様に、アメリカ退役軍人省病院では、認知症やPTSDの高齢の退役軍人にパロを活用してもらうことにより、抗精神病薬の使用を低減することを定量的に示し、本格的な導入が始まっている。その他、ガン患者のホスピス・ケア、パリアティブ・ケアなどでも利用され、効果のエビデンスの蓄積をしている。

こうしたことを実現するためには、現地の医療福祉の関係者であるパートナーとの連携が欠かせないという。

研究者・開発者がやるべき「次の一手」

それでは、こうした「壁」を越えるために、研究者や開発者がやるべきことは何か。

柴田博士いわく、まずロボットの開発については「目的に合わせて、しっかりとしたハードウエア(センサ、アクチュエータ、構造など)を作り込むこと」。これができると、それらを基盤としてソフトやアルゴリズムが作りやすくなるというが、一方でモノづくり力が落ちてきていることが、日本の課題だとも。

そしてもう一つ。開発を行う際には、最初から世界展開を念頭に入れること。パロの場合は、世界の医療福祉関連機関と連携して臨床研究を行いつつ、医療福祉機器等の研究開発を進めたことが奏功した。

今後パロは、より多くの国で活用されることを目指す。アメリカではパロが退役軍人省病院等向けに連邦政府の公共調達の対象となったので、これから公的機関で徐々に利用されていくと思われる。

アメリカの民間の医療福祉施設や在宅でもパロを活用しやすくできるように、メディケアなどの医療保険でカバーされるようにしたいと柴田博士は考えている。

ヨーロッパでも、国によって制度が異なるが、保険制度での適用や地方自治体などによる公的導入が進むようにしたい考え。ドイツでは、認知症や発達障害等の在宅介護において介護者の負担の軽減のためにパロを用いた訪問セラピーが保険適用になっている。日本でも将来、介護保険や医療保険の対象にできるようにしたいという。

これらにより、世界の医療福祉の質の向上に寄与し、社会コストの低減に貢献することが博士のビジョンだ。

例えば、認知症患者は世界に約4400万人おり、その医療福祉や家族による介護等のコストは年間約70兆円。その1%のコストダウンに貢献できれば約7000億円に相当し、5年後に5%減(約3.5兆円減)の貢献を目指す。

その他、ガン、発達障害、精神障害など、多様な分野での貢献も視野に入れている。こうして「開発以外」の部分での打ち手を地道に行っていけるかどうかが、普及に向けた試金石となりそうだ。

取材・文/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo




人気のタグ
業界有名人 スタートアップ 開発 SE 転職 エンジニア プログラマー Web スキルアップ ソーシャル アプリ シリコンバレー キャリア プログラミング Android 起業 えふしん スマートフォン アプリ開発 SIer 技術者 UI btrax Webサービス クラウド Apple スペシャリスト CTO Twitter Brandon K. Hill ギーク 英語 村上福之 Facebook Google デザイン IoT SNS ツイキャス 世良耕太 モイめし IT 30代 採用 赤松洋介 コーディング 20代 UX 勉強会 プロジェクトマネジメント Ruby ITイベント Webエンジニア 中島聡 ビッグデータ 法林浩之 ウエアラブル iOS 五十嵐悠紀 LINE ドワンゴ ひがやすを ロボット 受託開発 モノづくり IT業界 コミュニケーション イノベーション ハードウエア MAKERS tips ゲーム 女性 ソーシャルゲーム Webアプリ SI インフラ iPhone 女性技術者 高須正和 マイクロソフト 研究者 UI/UX トヨタ 自動車 ノウハウ チームラボ 息抜き システム ソニー プラットフォーム Java メイカームーブメント オープンソース 和田卓人 エンジン グローバル 開発者 教育 イベント サイバーエージェント ソフトウェア 女子会 コミュニティ メーカー 家入一真 スーパーギーク 増井雄一郎 GitHub 人工知能 IPA 40代 日産 テスト駆動開発 ソフトウエア 音楽 TDD ニュース モバイル PHP TechLION

タグ一覧を見る