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[連載:世良耕太⑤] マツダ・スカイアクティブと国産F1撤退に見る、「捨てる技術」の重要性

タグ : エンジン, スカイアクティブ, ダイハツ, トヨタ, ホンダ, マツダ, モータースポーツ, 世良耕太, 業界有名人, 開発 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(ソニーマガジンズ)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー3』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

from_Pirelli 2011シーズンも終わりに近づくF1だが、国産カーが一つも入っていないレースは少々さみしい

from_Pirelli

2011シーズンも終わりに近づくF1だが、国産カーが一つも入っていないレースは少々さみしいもの

ほんの数年前まで、F1世界選手権には、日本の自動車メーカーからトヨタとホンダの2社が参戦していた。出自や経緯は異なるが、どちらもワークス体制での参戦である。

ワークス体制とは、エンジンとシャシーの両方を自前で開発・製造する体制のこと。既存のチームにエンジンを供給するのとは違うし、シャシーだけ自前で作り、ヨソからエンジンの供給を受けるわけでもない。

何から何まで、すべて自分たちの管理・責任の下で行う。それだけにやりがいのある仕事となるが、その分、見なければならない範囲は広くなるので、成功をつかむまでの道のりが険しくなることが予想される。

日本の2社はあえて茨(いばら)の道を選んだ。エンジンだけを既存のチームに供給し、そのチームが成功を収めたとしたら、「シャシーが良かったから」とか、「チームのオペレーションが良かったから」と言われかねない。100%自前で参戦すれば、揚げ足を取られることはない。その代わり、失敗したときの責任もすべて受け止める必要がある。

覚悟の上での参戦だったので、両社とも力が入っていた。だが、結論から言えば、成功を収めることなくF1からの撤退を強いられた。なぜか?

個々の技術は「素晴らしい」が、それらが織り成す総和を見ると…

かつて長期にわたってF1参戦活動に携わり、現在は第三者的な立場でF1とかかわる日本人エンジニアの一人は、「(F1に参戦した企業の)技術は素晴らしかった」と感心した。そう感心したが「でも、物差しが違っていたんでしょうね」と残念がる。

F1における物差しとは、ラップタイムである。すべての技術開発は、ラップタイムを縮めるために行われるべきだ。例えば、エンジンが大幅なパワー向上を果たしたとしても、その引き換えとして余計に燃料を消費するのであれば、ラップタイム向上効果は鈍くなる。燃費の悪化次第では、むしろラップタイムが落ちるかもしれない。

なにしろ、10kgの重量差がラップタイム0.3秒に相当するのがF1の世界なのだ。10馬力パワーを上げる努力をするよりも、燃費を良くして燃料の搭載量を軽くした方が、結果的に305kmのレースを速く走れることになるかもしれない。いくら技術は素晴らしくても、ラップタイム短縮に結び付かなければ意味がない。

エンジンだけでなく、ブレーキについてもトランスミッションについても、歯車一つについても同じことが言える。「ラップタイム」という物差しに対して、何が必要で何が不要なのかを判断するのは、個々のコンポーネントを開発するエンジニアではない。彼らを束ねるマネジメントの仕事である。前出の日本人エンジニアの「技術は素晴らしかった」という発言には、皮肉が込められている。

崖っぷちからの起死回生で、大胆な一点突破へ

F1が陥った事例と好対照のケースが最近、量産車で展開している。何が必要で何が不要なのか、割り切りがうまくいった例(全貌が明らかになっていないので、今のところうまくいっているように見える例)と言っていいだろう。マツダの『スカイアクティブ・テクノロジー』だ。

From MAZDA 『スカイアクティブ・テクノロジー』を搭載したコンパクトSUV『CX-5』は、2012年に発売予定

From MAZDA

『スカイアクティブ・テクノロジー』をすべて搭載したコンパクトSUV『CX-5』は、2012年に発売予定

スカイアクティブ・テクノロジーは、走行性能と環境・安全性能の飛躍的な向上を実現する技術の総称で、エンジン(ガソリンおよびディーゼル)、トランスミッション(MTおよびAT)、シャシー、ボディとカバーする分野は多岐にわたる。というより、クルマ1台分まるごと見直す大胆な決断を下したわけだ。

裏を返せば、そこまで追い込まれていたと勘ぐることもできる。崖っぷちに立っていたことに気付いたマツダの面々は、窮状から脱するため、起死回生の一手を打ちに出たというわけだ。

「走行性能と環境・安全性能の飛躍的な向上を実現する」と聞くと、あれもこれも満足させなければいけないように感じてしまうが、核となるのは低燃費技術である。「燃費を良くするんだ。それも断トツの数値を目指すゾ」というのが、スカイアクティブの開発に取りかかる際の物差しになった。

例えばエンジン。ある燃費向上技術を投入すると、トレードオフの関係でトルクが落ちてしまう。トルクが落ちると、発進時や低速から加速する際に力不足を感じやすくなってしまう。従来の価値観なら、「燃費も向上して走りも満足させる」となるが、スカイアクティブ・テクノロジーの物差しは「燃費」なので、トルク不足を補うのに必要な技術を潔く切り捨てることができた。

ある「物差し」を軸に全ベクトルを合わせる勇気が局面を打開

切り捨てれば、コスト低減につながるし、軽量化にもつながる。

「従来と同等」のレベルさえ満たさないで新しい製品を世に送り出すことには、おそらく心理的な壁があったはずだ。しかし、マツダの開発陣は「燃費」の物差しを盾に、壁を乗り越えた。「燃費」と聞くとすぐにエンジンを思い浮かべるが、トランスミッションの制御やアルミホイールの軽量化、タイヤの転がり抵抗低減や空気抵抗の低減など、あらゆる開発領域においてベクトルをそろえた。

From MAZDA スカイアクティブ技術の一部が搭載された『デミオ』は、燃費優先でもトルク不足を感じさせない仕上がり

From MAZDA

スカイアクティブ技術の一部が搭載された『デミオ』は、燃費優先でもトルク不足を感じさせない仕上がり

スカイアクティブ・テクノロジーがすべて投入されたコンパクトSUVの『CX-5』は、2012年に発売される予定だが、一部の技術を先行投入した『デミオ』や『アクセラ』はすでに発売されている。両者とも、トルクを割り切って燃費に振ったはずだが、トルク不足のハンデを感じさせない仕上がりなのには驚いた(特に『デミオ』には)。

割り切りの美学とでも言おうか。開発陣の意識が一つの方向にまとまり、技術の粋を投入すれば、弱点を補って余りある価値を生み出すのではないか。トレードオフの関係にある要素を、どれも「そこそこ」のレベルで満足させていたのでは、ある領域で卓越した製品にはならないし、エンジンだけ、ボディだけが力んで開発したのでもダメ。しっかりした「物差し」を設け、それに向かって全員が意識をそろえれば、ブレイクスルーするのではないか……。

「リッター30km」の物差しを掲げたダイハツ『ミラ イース』にも、マツダのスカイアクティブ・テクノロジーに似た、捨てる決断をいとわない割り切りの美学を感じる。




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