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Web企業5社のツール導入プロセスに込められた開発ポリシーとは?~PyCon JP 2014ジョブフェアレポート

タグ : ITイベント, PyCon, リモートワーク, 情報共有 公開

 

日本でもインキュベーターやシードアクセラレーターが続々と誕生し、スターターイベントも数多く開催されるなど、起業するための環境はかなり整ってきている。

そうした環境の変化も手伝ってか、各企業のトップやそこで働くエンジニアの関心は、「いかにスタートアップするか」のフェーズから、会社としても個人としても「いかにスケールアップするか」のフェーズに移ってきているように見える。

国内有数の言語カンファレンス『PyCon JP 2014』(9月12日~15日)内のジョブフェアでは、Web企業5社の経営・開発トップをパネラーに迎え、「開発の裏側、ココだけの話、こっそり教えます」と題したパネルディスカッションが行われた。

《登壇者》
ヴェッテル CEO 山下英孝氏
白ヤギコーポレーション CEO シバタアキラ氏
VOYAGE GROUP CTO 小賀昌法氏
モバイルファクトリー リードエンジニア 佐藤健太氏
リアルグローブ CEO 大畑貴弘氏

登壇企業は規模もサービスもさまざまだが、開発環境に関するこだわりの裏側には、各社の組織としての目指す方向性や、エンジニア個人に対する考え方が隠れされているはず。

弊誌編集長の伊藤健吾がモデレーターを務め、各登壇者には次の2つの質問に答えてもらった。

【1】情報共有のために使用しているツール、工夫している点は?
【2】技術を導入する上で、プログラマ個人の裁量をどう考えているか?

以下、各社の回答をダイジェストでお届けしよう。

ヴェッテル CEO 山下英孝氏

ヴェッテルでは週に1度どこで働いてもいい「ノマドデー」を試験的に導入したが、うまくいかなかったという

ヴェッテルでは週に1度どこで働いてもいい「ノマドデー」を試験的に導入したが、コミット量が激減し、断念したという

主にスマートフォン向けアプリの開発を行っています。エンジニアは社内に7人で、CEOの私自身もプログラムを書きます。

【1】「ノマドデー」はコミット量激減を受け、断念

プロジェクト開始時にWikiとJIRA AgileHipChatのチャンネルを作って情報を共有します。JIRAはやると決まったタスクのみで使用し、誰が何をやっているのかを見える化するのが目的です。業務上の相談は都度、ホワイトボードを使ってやっています。

週に一度どこで仕事をしてもいい「ノマドデー」をかつて導入しましたが、曜日ごとのコミット量をGitHub上で比較したところ、その曜日だけ明らかに落ちていたため、リモートワークを断念した経緯があります。

【2】新技術提案にはメリット/デメリット明示を義務付け

新しい技術の導入には積極的です。事業上のニーズや目標に沿っているのは大前提ですが、ツールの選択はエンジニア任せです。

導入提案者には、類似サービスなども調べた上でメリット/デメリットを明示することを義務付け、最終的に導入するかは全員で決めます。調べた過程を共有することで、チーム全員の知識が増える利点もあります。

白ヤギコーポレーション CEO シバタアキラ氏

「エンジニアはやりたいことをやっている時に一番力を発揮する」と白ヤギコーポレーションの柴田氏

「エンジニアはやりたいことをやっている時に一番力を発揮する」と話すシバタ氏

情報キュレーションアプリ『カメリオ』の開発と運営を行っています。社員は10人で、3分の2がエンジニアです。

【1】ChatWorkは“過去”を変えられる

小さな会社なので、素早く開発するには密なコミュニケーションが不可欠です。もともとはリモートワークを模索したり、出社時刻も自由だったりしましたが、今では朝10時始業に統一し、席も関連する担当者同士が近くに座るように変えました。

ツールとしてはChatWorkを利用しています。他のツールにはない、過去の投稿を修正できる機能があるため、メンバー間でいざこざが起きた時にも円滑な人間関係を維持することができてオススメです(笑)。

毎昼にはコーヒーミーティングも行っています。今後はこういった場を、KPIのような最終的な結果を意識できる形にしていくことも重要かと思っています。

【2】人はやりたいことをしている時に一番力を発揮する

技術の選択に関してはエンジニア個人の希望を尊重し、進捗の確認だけを行うようにしています。人間は、自分がやりたいことをしている時に一番力を発揮するからです。

そのパワーを会社としての推進力に変えるのに、一番大きいのはリーダーシップではないでしょうか。「これが大事」とみんなが思えるようなものを示すことが自分の役割だと思っています。

VOYAGE GROUP CTO 小賀昌法氏

VOYAGE GROUPでは、挑戦するマインド・文化を根付かせるため、新しい技術の導入提案を社内イベントとして実施している

VOYAGE GROUPでは、挑戦するマインド・文化を根付かせるため、新しい技術の導入提案を社内イベントとして実施している

メディア、アドテク関連を中心に20ほどある事業主体ごとにエンジニアを抱えており、全員合わせると90人くらいのグループです。

【1】横串の情報共有はSlackが人気

プロジェクト単位ではGitHubのissue、事業部を横断した情報共有ではSlackが人気で、技術ごとにチャンネルを立てて会話がなされています。

新しい技術を導入したり、検討したりする際は、毎日のランチミーティングや週1の会議の場で情報を共有します。関心を持った人は随時、担当者にヒアリングしたり、時には勉強会まで発展したりします。

導入はトップダウンではなく、個人レベルから始まります。徐々に広がって、定着しそうであれば会社として導入するというスタンスです。

【2】文化醸成のため、技術提案をイベント化

挑戦するマインド・文化を根付かせることが大切と考えているため、新しい技術の導入提案は、コンテストのような社内イベントとして実施しています。

エンジニアは自由を欲する人たちなので、上から一辺倒ではうまくいきません。会社はルールを決めるのではなく、チャレンジしやすい環境を用意することが大事だと思っています。

モバイルファクトリー リードエンジニア 佐藤健太氏

「技術は数年後には陳腐化するリスクがあるので、導入のメリット/デメリットを慎重に判断していくことが大事」と佐藤氏

「技術は数年後には陳腐化するリスクがあるので、導入のメリット/デメリットを慎重に判断していくことが大事」と佐藤氏

ソーシャルアプリ、モバイルコンテンツ制作を主とする事業部制で、社員は約100人。このうち30人ほどが開発者です。基本的にPerlで書いていますが、言語的、技術的縛りがあるわけではありません。

【1】相談ごとがあったらまずはIRC

情報共有には主にWikiとIRCを活用しています。相談ごとがあったらまずはIRCに投げる。問題が複雑な場合はWikiにまとめた上で相談します。

事業部間の情報の断絶が起きないよう、週に1回は事業横断的なミーティングの場を設けているほか、毎日1時間の全社的な勉強会も行っています。勉強会のお題もIRCに投げて反応を見るというカジュアルなスタイルをとっているせいか、提案が途切れることはありません。

【2】試すことは積極的に、運用は慎重に

新しい技術を取り入れることに関しては、「試すことは積極的に、運用は慎重に」のスタンスです。技術は数年後には陳腐化するリスクがあるので、取り入れることのメリット/デメリットを天秤にかけ、慎重に判断していくことが大事かと思います。

リアルグローブ CEO 大畑貴弘氏

「コミュニケーションは重要だが、ツールで縛ると本質を見失う」と警鐘を鳴らす大畑氏

「コミュニケーションは重要だが、ツールで縛ると本質を見失う」と警鐘を鳴らす大畑氏

PaaSの提供などを行っています。社員は11人、開発言語はバラバラ。APIの部分だけはきっちり決めて、残りは担当者の裁量に任せています。

【1】ツールで縛るのではなく、「宣言的」に

情報共有はツールで縛るのではなく、「私は今この仕事をしています」といったふうに宣言的にやっています。コミュニケーションは重要ですが、ツールに落としてしまうと、うまくいかなかった時にツールのせいにしてしまいがちだからです。

技術的に悩んだらその場でディスカッション開始。そのためにも風通しは重要になるので、「干渉はせず、相談はする」を基本スタンスとしています。

【2】高度な勉強会で知識を底上げ

「前提が同じならば、議論を尽くしさえすれば行き着く結論の種類はそれほど多くない」という信念の下に、経営の情報までを全員で共有しています。

現在会社として取り組もうとしているのはAIの分野ですが、バックグラウンドの違うメンバー全員が高度な知識を身に付ける必要があるため、大学から講師を呼んで月2回の勉強会を行っています。

自由と対面コミュニケーションのバランスをどう取るか?

登壇5社は、10人ほどの少数精鋭から100人規模の事業部制を敷く会社までさまざまだったが、各社ともツールの選定にあたっては現場エンジニアの裁量、自発的な提案を重んじていた。

「エンジニアは自由を欲する人たちなので、上意下達ではうまくいかない」(小賀氏)
「人間は自分がやりたいことをやっている時に一番力を発揮する」(シバタ氏)

こうした象徴的な言葉からも分かるように、登壇企業各社は会社としての事業の推進力を出す上で、エンジニア個人の持つ熱量やパワーを削ぐことなく、うまく活かすことに注力しているようだ。

一方で、こうしたツールの機能充実により、エンジニアの“自由”の一つの形であるリモートワークも環境的には実現しやすくなっているはずだが、実施している企業は一つもなかった。導入を試みたというヴェッテルの「ノマドデー」も、コミット量の激減という現実の前に断念を余儀なくされた。

以前、米Yahoo!のCEOマリッサ・メイヤー氏が在宅勤務を認めない方針を打ち出したというニュースが賛否両論を巻き起こしたが、各社の動向はこうした世界的な動きとも通じる部分がある。

業務効率の改善や知識・技術の断絶防止のために、情報共有ツールは不可欠なものだが、そうは言ってもツールはツール。自由と共に、対面のコミュニケーションによる「共創」も重要視しながら試行錯誤しているというのが、各社に共通した開発スタンスのようだ。

取材・文・写真/鈴木陸夫(編集部)


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