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『Airレジ』ヒットの陰にある「2つの開発スタイル」とは?リクルートライフスタイル淺野健氏に聞く、ITでリアルビジネスを変える方法

タグ : Airレジ, コミュニティマネジャー, チーム開発, リクルートライフスタイル, 淺野健 公開

 

「地域を元気にすることが、日本を、世界を元気にすることにつながる。そのビジョンを変わらず貫いているという点では何も変わっていません。ただ、ビジョンを具現化するためにテクノロジーの力がより重要になっているのは間違いないですね」

こう話すのは、リクルートライフスタイルの代表取締役社長である淺野健氏。今年4月に代表に就任して以来、同社には新しい風が吹き始めている。

宿・ホテル予約サービス『じゃらん』や飲食店検索・予約サービスの『ホットペッパー グルメ』、ヘアサロン・リラク&ビューティーサロン検索・予約サイト『ホットペッパービューティー』など、以前から人々の生活に関わるさまざまなサービスを手掛けてきたリクルートライフスタイル。

かつては紙メディアと営業力によって冒頭で紹介したビジョンの実現を推進してきたが、淺野氏が言う「テクノロジーの力」による拡大戦略が加速度的に進み始めているのだ。

海外企業を買収しながらグローバル展開を推し進めるのと同時に、リクルート流のWebマーケティングノウハウを移植することで現地でのシェア拡大にも注力。また、各種店舗のレジ業務とそこから派生する「お金まわりの業務」を効率化させる無料のPOSレジアプリ『Airレジ』は、2013年11月のサービス提供から1年半で16万アカウントを突破するなど好調を維持している。

どちらも、「テクノロジーでリアルビジネスを変える」という難しいテーマに取り組みながら結果を残している。

「難しい」と書いたのは、高度な技術を駆使してWebの世界を変えることと、実社会にイノベーティブな変化を起こし、定着させるのは異なるからだ。この“深い溝”を、なぜリクルートライフスタイルは越えることができているのか?

淺野氏に、ITとリアルビジネスの融合を実現させるためのノウハウや、それらをチームで果たすユニークな開発文化について聞いた。

「ちょっと先の未来」を形にするには、コミュニケーションの中で“種火”を作る

2015年4月より、4期目を迎えたリクルートライフスタイルを新たに率いる淺野氏

―― まずは御社の現状についてお聞かせ下さい。

私たちがこれまでやってきたことは、全国にある飲食店や旅館、美容室など、さまざまな領域の店舗さまの業務をITで合理化することで、経営をサポートすることです。

今まで顧客は国内のみでしたが、今年からグローバル販促SBU(ストラテジックビジネスユニット)という国内外のマーケットへの提供価値を高め、同時に、この先のグローバル戦略推進のために組織体を発足。海外展開には力を入れていきます。

すでに買収して子会社化している海外のオンライン予約サービスでは、我々のスタッフが現地に飛び、一緒にテコ入れに取り組んだ結果、さっそく数字が上がっています。

―― 具体的には?

今年3月に欧州各国でオンライン飲食店予約サービスを展開するドイツの『Quandoo(クアンドゥー)』を、5月にはイギリス発の美容オンライン予約サービス『Wahanda(ワハンダ)』を展開するHotspring社を子会社化しましたが、両社の営業生産性は約2カ月ほどで1.5倍に伸びています。

リクルートが国内のオンラインサービスで培ってきた拡販やマーケティング、ユーザー集客のノウハウが、すぐに海外でも通用するということが分かりました。

―― 即海外でも通用するというのは意外でした。

私もここまですぐに変わるとは思っていなかったので、意外な発見でした。

当社は、WebマーケやUI設計などさまざまな分野において、「これが好きで好きでしょうがない」という社員に業務を任せるようにしているんですね。

なので、彼らが自ら勉強したり実体験を通じて得た知見は、世界のどこでも通用するレベルだったということなのかな、と。

―― リクルートライフスタイルが手掛けるドメスティックなビジネス領域は、これまで「IT化しづらい世界」と言われてきました。長く根付いた商習慣を変えるのには時間が掛かると思われますが、どのように進めているのですか?

おっしゃるとおり、オンラインテクノロジーでリアルビジネスを変えていくのは、多くのユーザーにとって「ちょっと先」に感じられる話です。

そうした「ちょっと先」のことをクライアントの方々に理解してもらうために重要なのは、人と人とのコミュニケーションの中で“種火”を作ること。ただ「このサービスで○○が便利になります」と喧伝するだけではダメ。SEO施策を強化したり、Webマーケティングに精を出しても、それだけで世の中は変わりません。

手間が掛かろうが何だろうが、人手を介して「面白そうだからやってみよう」、「それは便利だから使ってみよう」という共感を生むのが大事なんです。

そのために、当社ではエンジニアであっても、ユーザーのもとに直接伺ってサービスの特徴を説明します。例えば『Airレジ』の開発では、あるエンジニアがペットサロンで働きながら実際に業務を体験し、その上で機能開発に取り組んだりしています。

昨今、注目度を高めつつあるFinTechサービスの一つでもある『Airレジ

ほかにも、さまざまなイベントに参加して『Airレジ』を体験してもらう取り組みを行っていますが、そこにもエンジニアが顔を出して現場の生の声を拾うようにしています。

―― チーム全員がコミュニティマネジャーのような役割を担っているわけですね。

エンジニアだって説明上手な人はいるし、そういう人にはどんどん外に出て行ってもらいたい。直接顧客の声を聞くことで、何が喜ばれるポイントで、どこが使いづらいのかが分かるじゃないですか? それって、モチベーションの上がることだと思うんです。

逆に、コードだけ書いていたいというエンジニアはそれでもいい。本当に良いサービスを作ろうとする時には、いろんな人がそれぞれの適性に合った仕事をするべきだと考えています。

「サードを極めるならホームラン性の当たりでも捕れ」

―― 現状、エンジニアの人数はどれくらいものなのでしょうか?

エンジニアに限った数字ではありませんが、ネットビジネス本部の正社員数でいうと250人弱です。その他にパートナーさんと呼んでいる協力企業の方々を含めて1500人ほどでしょうか。

―― その人数の組織が、先ほどのお話のように柔軟に役割を全うしながら動くのはなかなか難しいのでは?

大事なのはゴールの共有です。「これができたら、世の中こう変わるよね」という、サービスができ上がって広まった先のゴールを共有できると、そこに向かって各人の特性を活かして力を合わせられます。

淺野氏は、「地域社会を活性化させる」というビジョンの重要さを強調する

また、とにかくみんないい人ぞろいなんですよ、ウチの社員は(笑)。こういう社風に合ったエンジニアばかりそろっている。だから、変な部門意識や足の引っ張り合いもなく、力を合わせてやっていけています。

―― そうした文化はリクルートに昔からあるのでしょうか?

文化という意味では、ウチの会社には新旧2つのスタイルがあります。

一つは「何でも皆でやる」という文化。野球で例えるなら、ファーストゴロでも場合によってサードが捕りに行き、自らファーストでアウトにする。営業担当だろうが開発担当だろうが、全員でポテンヒットを許さないように動く、昔ながらのスタイルです。

そしてもう一つが、「好きなこと以外やらせない」という文化です。これは、IT化が進む中で生まれてきたリクルートライフスタイルの新しいスタイルで、本人が専門として極めたい業務に集中させて、ノイズを取り除いてあげるというものです。

サードしか守りたくなかったら、サードを完璧にやれ。その代わり、自分の守備範囲についてはホームラン性の当たりだとしてもジャンプして捕れ、という。

今はこの2つの文化をうまく融合させることを目標にしています。

―― その2つは、相反するスタイルでは?

そんなことないですよ。「ゴールに向かって全員が動く」という軸さえしっかりしていれば、そこへの貢献の仕方はそれぞれあっていいはずです。

それに結局、人間は好きなことをやっている時が一番良いパフォーマンスを発揮できるんですよ。私自身の経験を振り返っても、私が「やりたい」と思って考えた事業プランを、他の人に相談したところで、自分より良いプランなんて出てこないものです(笑)。

だから、好きなこと・得意なこと以外の業務は、できるだけやらせないというのが念頭にあります。

例えば、Webマーケティングが好きなメンバーが、Webマーケティングばかりやれるような環境を用意してあげるのが私の仕事。さきほど「コードだけ書いていたいというエンジニアはそれでもいい」と言ったのも、こうした考えがあるからです。

以前にも、「海外で事業経験を積みたい」という若手がいたので、出木場(久征氏。リクルートグループであるIndeedのCEO)に相談してIndeedのUSオフィスで働けるようにしてもらいました。

―― すごい“社内異動”ですね。

その代わり、そういうエンジニアには、何かしらの分野で超が付くほどの専門家になってほしい。

―― 御社のエンジニア採用ページでは「許可を求めるな、謝罪せよ」というコピーが使われていますが、これも、やりたいこと、好きなことを突き詰めるというところから生まれたものですか?

いえ、それとは少し違って、このコピーは「それぞれがある程度自由な裁量で新しいプロジェクトにゴーサインを出せる」ということを示したつもりです。

何かをするにあたって、長い時間を掛けて上層部の決裁を取らないといけないということを極力減らしている。ITの組織は専門家の集まりなので、それぞれの専門の強みを信頼して任せることにしています。僕より詳しい社員たちに余計な口出しをしても意味がないでしょう(笑)。

紙の情報誌ビジネスをやっていた時は、販路をどう確保するかや事業提携など、周到な用意が必要なことも多かったのですが、Webサービスは小さく始めることができるし、やってみればすぐに反応が得られます。なので、何事もとりあえずやってみようと。

会社の最低限のルールの中で、自由にチャレンジができる環境づくりを意識しています。

「面倒な業務」を徹底的に廃しつつ、「手間の掛かる業務」は推奨する

取材中、折に触れて「面倒くさいことが大嫌い」と打ち明ける

―― その環境づくりの肝となるものは何なのでしょう?

余計なルールを排することですね。ルールでガチガチに縛りにいくと、自分で物を考えられなくなるんです。最低限の常識、例えば法律さえ守ってくれれば、基本的には自由にやってほしいと、社員には言っています。

それから、あまり厳しく押し付けることはしませんが、「新しいことをやらないと価値がない」、「誰かと代替される人間は結果的に機械に代替される」といったことは常々言っています。それを前提に、それぞれが自分の尖っているところを伸ばしていってほしいんですよ。

―― リクルートは長い歴史を持つ企業であるがゆえに、レガシーな風土もまだまだ残っているのでは?

かつてのスタイルと今のスタイルは、両方にいいところがあると思っています。ただ、かつてのスタイルでイケていないと思うのは、無駄な努力を美化するところ。残業している人の方が、なぜか早く仕事を片付ける人より評価が高い、みたいな。

そもそも日本人って、面倒くさいものでもコツコツ頑張ることを美化するじゃないですか。でも、努力賞だけじゃ何も生まれませんよね。

私は昔から、とにかく面倒くさいことが大嫌いなんです。あと納豆も(笑)。だから面倒くさいと思ったら、「どうやろうか」ではなく「どうやらずに済ませるか」を考えるんですね。

―― 以前、弊誌が出木場さん取材した際も似たことをおっしゃっていました(参照記事)。

彼よりも僕の方が圧倒的に面倒くさいことが嫌いだと思いますよ。以前、彼に「淺野さんみたいな面倒くさがり屋こそネットの世界に向いてるんですよ」って言われたことがあります(笑)。

―― 一方で、組織運営には面倒くさい業務も必要では?

そうですか? 「面倒くさい業務」というものは基本的に必要ないものだと思っています。

組織には、「手間が掛かる」けれど価値のあるものは確かにあります。さっきお話した『Airレジ』を普及させるやり方などは、確かに手間の掛かる作業です。

「面倒くさい業務」と「手間の掛かる作業」の違いは、ゴールした時の価値が実感できるかどうかだと思うんです。やった後に価値が残るものは、手間が掛かっても、面倒くさいものとは思いません。

―― それぞれのチームやサービスごとに、ただKPIの数字を追っているわけではないと感じたのですが、具体的にはどうでしょう?

そうですね、例えば『Airレジ』はPOSシステムである以上、会計や在庫管理などの機能が現場でちゃんと役立っているかが一番重要じゃないですか。なので、DLやアクティブユーザーなどの数値だけですべてが判断できるとは思っていません。

一方、すでに安定フェーズに入っているサービスについては、「定期的に価値を提供できているか」を測るためにも、数字をこまめにチェックしながら事業運営しています。その点、まだ普及フェーズにある『Airレジ』とは異なるわけです。

大事なのは、それぞれのチーム単位で、本当にそのサービスが受け入れられているかどうかを知ることができているか。そうした積み重ねが「ちょっと先」のサービスを広めていくことにつながるのです。

これからも、いい人ぞろいのチームと一緒に世の中を便利にするサービスづくりに尽力していきますよ。

―― 本日は貴重なお話ありがとうございました。

取材/伊藤健吾(編集部) 文・構成/長瀬光弘、高木マーカス孝志(ともに東京ピストル) 撮影/赤松洋太




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