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リクルートに見る、大企業に開発文化を根付かせる方法~『受験サプリ』などサプリコレクション開発の裏側

タグ : Java, Ruby on Rails, ウォーターフォール開発, サプリコレクション, スクラム開発, リクルート, 受験サプリ, 開発体制 公開

 

上場の前後から「テクノロジーシフト」を打ち出しているリクルート。その中で、急速な体制刷新を進めている事業部の一つが、『受験サプリ』などのサービスを開発・運営するラーニングプラットフォーム推進部だ。

現場で採用している開発手法は、スクラム開発とウォーターフォール開発の二本立て。彼らはなぜ、対照的なやり方を並行して進めているのだろうか?

その理由を、リクルートマーケティングパートナーズのネットビジネス本部・執行役員本部長の山口文洋氏と、『受験サプリ』の編集長を務める松尾慎治氏、そして2013年に中途入社したエンジニアの山田晋平氏に聞いたところ、「サービスのスケールと文化づくりを同時に進めるため」とのこと。

グループ全体では日本屈指の巨大組織であるリクルートが、開発文化を本気で変えるプロセスに迫った。

対照的な開発手法を併用する、先を見据えた戦略

リクルートが展開する『サプリコレクション

『受験サプリ』とは、Webサイトやスマートデバイスで視聴できる大学受験生向けの「インターネット予備校」だ。過去の入試問題、大学情報などは、無料サービスとして提供。月額980円(税抜き)を支払って有料会員になると、プロ講師による動画講義を無制限で視聴できる仕組みになっている。

サービス開始の2011年から現在までの4年ほどで、累計会員数は約150万人に到達し、すでに受験生の約2人に1人が使っているメガコンテンツに成長している。

有料会員も順調に増やしており、教育業界の中で急激に存在感を増しているところだ。

この『受験サプリ』は、リクルート社内の新規事業提案制度でグランプリを受賞したことが誕生のきっかけ。提案者である山口氏と、同社のインターネットマーケティング局から異動してきた松尾氏が中心となってサービス企画が進められ、2011年にリリースされた。

その後、姉妹サービスとして『資格サプリ』や『料理サプリ』が生まれ、現在はサプリコレクションという全体ブランドのもとで展開中。当初5人でスタートした開発チームは、わずか4年ほどで、社外エンジニアも含めると総勢150人規模にまで成長を遂げている。

『受験サプリ』立ち上げから携わる松尾慎治氏(写真左)と、ラーニングプラットフォーム推進部の執行役員本部長・山口文洋氏(右)

『受験サプリ』に関しては、当初から開発は社外の協力会社を交えた「Java+ウォーターフォール型」で行われており、リリースから約4年が経った現在も、このスタイルで運営されている。

一方、ここで注目なのは、姉妹サービスである『料理サプリ』などは「Ruby on Rails+スクラム型」で開発されている点だ。『受験サプリ』とは異なり、当初からインハウスで開発・運営することを念頭にチームが組まれ、プログラミング言語や開発スタイルも内製チームが主導して決めたという。

ではなぜ、『受験サプリ』の開発スタイルはスクラムに移行しなかったのか? 山口氏によると、今後事業がスケールした時のことを考え、あえて“二刀流”を貫いているそうだ。

「例えば『料理サプリ』は、既存のレシピサイトなどと伍してユーザー数を伸ばしていく必要があるので、使い勝手などを短いサイクルで改善していかなければなりません。この場合は、スクラム開発の方が向いているでしょう。

一方で、『受験サプリ』はすでに多くのユーザーさまにご利用いただいており、絶対にバグやトラブルを避ける必要があります。この場合は、ウォーターフォールで進めた方が、安全にサービスを運営することができるはずです」(山口氏)

リーン・スタートアップが普及した近年のWeb開発では、ウォーターフォール型の開発が「悪」であるかのように語られることがある。しかし、サービスの規模が拡大して開発要件が多岐にわたるようになると、スクラムによるスピード重視の開発だけでは確実性の面でマイナスも出てくる。

そのため、現在はあえて2つの開発手法を並行して進め、開発チーム内の経験値を高めているというのだ。

複数のやり方をポートフォリオとして持っていれば、事業のフェーズが変わってもさまざまな状況に対応しやすい。また、チーム内で異なる手法を用いることで、互いに影響を与え合う効果もあると松尾氏は語る。

「『Ruby on Rails+スクラム開発』ばかりやっていると、皆がそういう手法を当然だととらえてしまいがちです。でも、真逆なアプローチで開発するグループが同じフロアにいれば、『こういう場合、どっちのやり方で進めるのがベターか?』と柔軟に考えることができます。これは、大きなメリットだと思います」(松尾氏)

リクルートは昔から「変わることが常態」

実際、最近は『受験サプリ』開発を行う協力会社が内製チームの影響を受け、フロント寄りの機能開発をアジャイルで進めるケースも増えているという。その結果、「以前はがんばっても2週間に1回くらいだったリリースが、最近では毎週1回やれるようになっている」(松尾氏)という。

こうした環境づくりを、転職者はどう見ているのか? 主に『料理サプリ』の開発担当として内製チームの構築に注力してきた山田氏は、以前いたWeb企業に比べても進化の速さは印象的だと明かす。

「内製チーム」で腕を振るう山田晋平氏

「感覚としては『社内スタートアップ』ですね。働き方から開発言語、開発手法まで、エンジニアのやりたいように進めることができています」(山田氏)

その証拠に、山田氏ら内製チームによって、ラーニングプラットフォーム推進部の開発環境はどんどん変化している。昨今、開発者たちの間で注目を集めているコミュニケーションツールSlackの導入や、GitHub上で自社ソフトウエアをOSSとして社外公開するような動きも進んでいる。

さらに、見識を深めるためにAndroidの有名開発者やスクラム開発のコーチなどを社外から招き、技術顧問のような形で話を聞く機会も増えたという。これらの取り組みは、ほとんどがボトムアップで行われるそうだ。

「スキルアップや開発力アップに役立つことなら何でもするというのが、このチームの基本的なスタンス」と山田氏が語れば、「リクルートは昔から『変わることが常態』なので、良いものは取り入れる」と山口氏も続ける。

「過去の成功体験に酔うのではなく、時代に合わせて新しい道を選び続ける。だから、山田のような中途入社のエンジニアでも、ほんの1~2年でリーダーとして活躍できるんです」(山口氏)

現場発で環境を変えられる秘密は「事業の磨き込み」にあり

執行役員の山口氏(中央)も含めて、サービス開発に精通したメンバーがそろっている

リクルートほどの規模の組織でもこのような動きが可能になる背景には、「変化が常態」というDNAのほかに、同社ならではのサービスづくりの鉄則がある。

それは、サービスの初期段階で事業プランを徹底的に磨き込む姿勢だ。

「多産多死を前提に取り掛かるのではなく、社内で十分検討されてから事業がスタートします。『受験サプリ』も、事業化までの道のりは大変でした(笑)。その代わり、いざ動き出したら当初から大きな予算がつくし、リクルートグループの経営資源も存分に使えるわけです」(山口氏)

山口氏や松尾氏の役割は、事業計画・ビジネスモデルを一生懸命に煮詰めること。そして、事業の目的とゴールをしっかりと固めてから、山田氏のような作り手に手渡す仕組みだ。だからこそ、現場のエンジニアは思う存分力を振るえるのだろう。

ちなみに『受験サプリ』をはじめとするサプリコレクションの「目的とゴール」は、所得や地域による教育格差をオンラインで解消するという、社会期待事業としての側面が強い。そのため、想定ユーザーは一部のネットリテラシーの高い層だけではなく、「そういったことにあまり興味関心が高くない層も入ってくる」と山口氏。

「Webスタートアップやアプリベンダーは、目新しい機能をふんだんに使い、斬新な機能やUIを提供することが多いですよね。その『目新しさ』で、メディアなどからの注目も集めやすい。これに対し、リクルートが手掛ける事業は、各分野でNo.1を狙うサービスばかりです。ユーザーの方々は、『ヤフーニュースとLINEくらいしか使わない』という層が中心。そうした中、あまりにぶっ飛んだUXを狙うのは得策ではありません」(山口氏)

シリコンバレーのように先進テクノロジーが生まれる場所では、「アクションラーニング」(問題を解決する過程で生じる行動を、当事者が自ら実施・検証することで、能力の向上につなげる学習法のこと)や「アダプティブラーニング」(学習者の状況に合わせて、教え方を最適化すること)といった未来型の学習スタイルがもてはやされているが、最先端のテクノロジーにあまり興味のないような高校生にそれらをいきなりぶつけても、拒否反応を示してしまうだろう。

『受験サプリ』の編集長として、主にUXデザインに奔走してきた松尾氏。そこにも「リクルート流」があるという

「まずは、予備校の講座をそのままオンラインに移す。そうした分かりやすい入り口から入ってもらいながら、データ分析などあらゆる技術を駆使して幅広い層にも支持されるUXを作っていく。このやり方の方が、結果的に早く社会を動かせると思っています。」(松尾氏)

このスタンスだからこそ、チームの開発スタイルも「二者択一」ではなく「共存」の道を選んでいるといえるだろう。

今後も、ユーザー数のさらなる拡大と、海外進出という中長期目標を実現すべく、開発チーム全体で試行錯誤を続けていきたいと皆が話す。

「私個人としては、開発体制を『Large=_Scale Scrum(LeSS)』に発展させるなど拡張を検討しています。大規模チームによるスクラム開発の例は、これまでの日本ではほとんどないはず。その先にどんな風景が見えてくるのか、ここで確かめてみたい。そのために、海外カンファレンスに参加してLeSSの創始者の話を聞くなど、すでに準備を始めています」(山田氏)

「海外進出にあたっては、サービスのマルチランゲージ化が求められるだけでなく、サービスのさらなる磨き込みも不可欠になる。その際、内製チームにかかる期待も大きくはずです。世界中のユーザーにオープンエデュケーションの恩恵を提供するべく、これからもテッキーな人材を採用していきたいと思っています」(山口氏)

取材・文/白谷輝英 撮影/竹井俊晴




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