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IT業界全体のトレンドを知るジャーナリスト

ジャーナリスト(IT・自動車)
神尾 寿氏@hisa_kami

IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社勤務を経て、1999年、フリーランスのジャーナリストに。モバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネスなどを軸に、ICT技術の進歩がもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。国際自動車通信技術展(ATTT)企画委員長、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを務める

ビジネス視点で技術者の今後を形づくる敏腕経営者

ウルシステムズ株式会社 代表取締役社長/ULSグループ株式会社 代表取締役社長

漆原 茂氏

東京大学工学部を卒業後、沖電気工業に入社。同社在籍中、スタンフォード大学コンピュータシステム研究所客員研究員を務める。2000年、ウルシステムズを設立し、代表取締役社長に就任。2011年10月3日付けで、イーシー・ワン(現ノーチラス・テクノロジーズ)と経営統合。発注側を支援するITコンサルティングと戦略的ITソリューションを展開している

エンタープライズ領域における技術のスペシャリスト

株式会社ノーチラス・テクノロジーズ 代表取締役社長
最首英裕(さいしゅ・えいひろ)氏

早稲田大学卒業後、ITマネジメント企業に入社。1998年、イーシー・ワン設立に参画。2004年、代表取締役社長に就任。早期にRubyを活用したシステム開発を成功させる。2011年10月3日付けで、ウルシステムズと経営統合を果たし、同社のソフトウエア事業を分割して継承。同時に社名をノーチラス・テクノロジーズに変更


―― 本日はお集まりいただきありがとうございます。さっそくですが、皆さんにうかがいます。今、SIerやベンダーのソフトウエアエンジニアが直面している課題とは何でしょう?

最首 今、ITの世界には大きな変化が起こっています。例えば、システムにおけるコスト性能比の伸びは、今や10%や20%向上などというレベルではありません。性能が100倍でコストは100分の1なんていうことが当たり前の時代です。

業界もメーカー主導からオープンソースへと大きな変化を遂げていますし、情報の多さや早過ぎる変化によって不安を感じている人も多いでしょうね。

漆原 業界全体が大きなイノベーションの波にさらされているだけに、特にベテランはうかうかしていられないと思いますよ。逆に言えば、すごい人にはチャンスが増えているとも言えるわけですが。

キャプ

「IT産業と非IT産業間のコラボレーションに、エンジニアのチャンスがある」(神尾氏)

神尾 IT業界と非IT業界のボーダーがあいまいになっている点も、この問題に関係しているのではないでしょうか。

この1~2年の傾向としてわたしが注目しているのは、IT産業と異業種のコラボレーション。昨年トヨタが『G-BOOK』というテレマティクスサービスをスマートフォン向けに展開した際、開発パートナーとして選んだのはユビークリンク(2011年7月NRIと合併)というベンチャー企業だった時はとても驚きました。

かつてなら、おそらく「Tire1」と呼ばれる一次請けの部品サプライヤーがやっていたであろう仕事を、自動車業界とは無縁のITベンチャーが勝ち取ったからです。

最近のトヨタが、マイクロソフトやセールスフォースとも積極的に提携を組んでいることからも分かるように、世界中からIT分野のスタンダードを積極的に取り入れています。

『G-BOOK』

例えばスマホ用サービスの場合、アプリをインストールすれば、スマホをカーナビとして使用できるようになる

これは、従来の自動車会社的なものづくりの変化を表すと同時に、IT業界に求められるニーズの変化、そして ITを必要とする分野が大きく広がっていることを示しているのではないかと思います。

漆原 神尾さんの話につながりますが、かつてITにかかわるプロジェクトの現場では、発注側であるお客さまと受注側の開発者という構図は揺るぎないものでした。発注側の人たちは、ITをあまり知らなくても受注側にすべて任せればよかったですし、開発者の方も、長年積み上げてきた”安定している技術”を使えば事が足りた。

でも、今は違う。技術的なイノベーションは加速度的に進んでいますし、発注側のITリテラシーも上がっています。受注側も言われたことだけをやっているようではダメで、過去の技術を組み合わせるだけではお客さまはとうてい満足していただけない。

使い古された技術とは、まったく違う次元の技術を使って対応しなければならない時代になっていると思います。

神尾 漆原さんがおっしゃったように、わたしも発注側、受注側の区別がかつてのように明確ではなくなっているのを感じています。

例えば、先ほど挙げたトヨタにとって、ITは事業戦略の根幹という位置付けです。すでに他人に任せられる領域ではなくなっています。ですから、彼らが求めているのは発注先や受託先ではなく、一緒にやってくれるパートナーなんです。

事業の将来性を考えるまでもなく、今まで以上にITを活用しなければ燃費競争を勝ち抜くことはできないでしょうし、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)EV(Electric Vehicle)のようなインフラ連携の車を普及させるには、自分たちもIT技術を持って作る側に回らなければならない。これは自動車業界の一例ですが、非IT業界におけるITの意味が、大きく変わっていることを示す好例だと思います。

ITが「機能」から「戦略」になる中、ただの受託ニーズは減少する

―― ITの普及と発展が、IT業界のみならず非IT業界の構造やニーズに変化を与え、さらに顧客との関係を変えていったわけですね。最首さんはどうご覧になりますか?

キャプション入る

「技術者は顧客の課題の、さらに根本にある問題を指摘、解決しなければならない」(最首氏)

最首 そうですね。わたしは最近、「目の前で起きている問題の本質は、目の前で起きている事象ではない」ということを感じます。

例えば、アラブの民主化運動がFacebookがきっかけで大きく広がっていきましたよね。ほかにも、タイの洪水がきっかけとなって世界の自動車生産がダメージを受けたり、ギリシャやイタリアの金融危機が世界に影響を与えている。つまり、世界はあらゆることが相互に連携しながら動いている、ということに目を向ける必要があると思うんです。

わたしたちがビジネスで求められているのは、局所的なニーズの解消ではなく、根本にあるもっと大きな問題の解決なのではないでしょうか。だとすると、今までのイノベーションレベルではとうてい乗り越えられない。

技術者が目指すべきは、お客さまが「こうしてほしい」とおっしゃる要望を実現することではなくて、その先にある直接的には見えない課題を乗り越えていくこと。そんな気がしたんです。これは先ほどの、「パートナーは必要だが受託はいらない」というお話と絡むんじゃないかと。

神尾 今のお話は、一般的な事業会社でのITのとらえ方が、「機能」から「戦略」変わっていていることにも関係していると思います。

これから企業がIT企業や開発会社に求めるのは、要求通りのものを納めるだけでなく、一緒に事業をつくっていくとか、パートナーとしての役割を担えるだけのスキルがあるかどうかで判断されるはずです。取材などで、開発現場で働く方々とこうした話をしていると、「これからは個人がプレーイング・コンセプターでないとやっていけない」という話がよく出ます。

オフショア化に負けないのは「戦略的IT」を駆使する少人数チーム

―― 「プレーイング・コンセプター」とはどんな役割を果たす存在なのでしょう?

神尾 文字通り、コンセプトワークができるプレーヤーということです。コンセプトづくりに必要なフレームワークがつくれて、かつ手を動かせるプレーヤー

「プレーイング・マネジャー」も重宝される存在ですが、それよりも、もっと戦略的でマクロな視点を持っているイメージです。単に依頼された要望に応えるのではなく、ITを使って顧客と何を成すのがベストなのか、そういう段階からかかわれる人です。ITの世界でもこういう人材は必要とされるでしょうね。

キャプ

「オフショアで置き換え可能なエンジニアにならないためには『戦略視点』が必要」(漆原氏)

漆原 神尾さんのお話の言い換えになるかもしれませんが、弊社ではそうした仕事のカテゴリーを「戦略的IT」という言葉で定義しています。

昔はハードのお守りをするだけで大変でした。サーバを何百台も調達し、大人数で一生懸命セッティングしていたのが、クラウドやスマートフォンが広がってくるとわずか数分でセットアップできてしまう。しかもたった一人で。

となると、こうした分野を担っていた人たちはいらなくなってしまいます。もちろん人手の掛かる仕事は残るでしょうが、その大部分は安価なオフショアに移行してしまうでしょう。そういう状況になっているからこそ、お客さま側に立って「戦略的IT」を実現する開発者たちが必要なんです。

これからは、開発だけでなくビジネスや戦略についてのノウハウを持つ少人数チームが活躍する時代。エンタープライズ開発の世界でも、個人が脚光を浴びる場面が増えるのではないかと思います。

(2/3に続く)

>>[特集:SEに明日はあるか? 2/3] スピード重視の今、極端な分業体制は時代のニーズに逆行する
>>[特集:SEに明日はあるか? 3/3] 技術者だからこそ非IT産業で働く、逆転の発想もアリ




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