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「基礎を磨け、SFを見ろ、ゴールを描け」PostgreSQL伝道師が若手に贈るメッセージの真意【対談:法林浩之×石井達夫】

タグ : ITコミュニティー, jus, OS, OSS, PostgreSQL, イベント, エンジニア, キャリア, ギーク, コミュニティー, プログラマ, 法林浩之, 言語, 転職 公開

 
市場や技術の流れが、めまぐるしく変わるIT業界において、専門領域の技術者として己を磨くには、どうすればいいのか。ITイベンターとして幅広い人脈を持つ法林浩之氏が、それぞれの技術領域において親交の深いベテランエンジニアとの対話を通し、生涯技術者を目指す20代の若者に贈る「3つのメッセージ」を掘り下げる。

 

ITイベンター・法林浩之のトップエンジニア交遊録

日本UNIXユーザ会(jus) 幹事・フリーランスエンジニア
法林浩之(ほうりん・ひろゆき)

大阪大学大学院修士課程修了後、1992年、ソニーに入社。社内ネットワークの管理などを担当。同時に、日本UNIXユーザ会の中心メンバーとして勉強会・イベントの運営に携わった。ソニー退社後、インターネット総合研究所を経て、2008年に独立。現在は、フリーランスエンジニアとしての活動と並行して、多彩なITイベントの企画・運営も行っている。2012年には、「日本OSS貢献者賞」を受賞

今回の対戦相手

SRA OSS,Inc.日本支社 取締役支社長/PostgreSQLコミッター
石井達夫氏

1953年生まれ。1984年にSRA入社後、担当プロジェクトでハワイへ赴き、そこで当時「PostgreSQL」と名付けられる前段階にあった「Postgres」を知り、その魅力に取りつかれた。1995年にはPostgreSQLのメーリング・リストを立ち上げるなど、一貫して「伝道師」ともいえる開発・普及活動を展開。2008年には「日本OSS貢献者賞」を受賞した。主な著書に『PostgreSQL完全攻略ガイド』(技術評論社)などがある。日本PostgreSQLユーザ会初代理事長

法林 さて、「トップエンジニア交遊録」の対談も第2回となりました。もちろん、テーマは前回に引き続き「長生きする技術屋」について。今回もこのテーマにぴったりの大物にいらしていただきました。

石井 ちょっとやめましょうよ、そういう紹介は(笑)。改めて、おめでとうございます、「日本OSS貢献者賞」受賞。

法林 ありがとうございます。2008年にこの賞を受賞していらっしゃる大先輩に祝福していただけるなんて、うれしく思います。ようやく少しは先輩に近づけたかなぁ、と思っていますよ。それにしても、久しぶりと言いますか、石井さんとは不思議なご縁ですよね。

石井 そうですね。お互い昔から名前も知っているし、OSCやjusのイベントや記者会見などで会えば話もしているけれど、仕事では同席したことがない。だいたい2~3年に一度のペースで、どこかでばったり会うという感じでしょうか。

法林 今日はこういう機会を得たので、前から聞きたかったことをまず質問しますね。今や「PostgreSQL開発の顔」、「伝道師」とまで言われるようになった石井さんですけれど、いつごろからこの技術に取り組むように?

石井 ざっくり言うと今から20年前、1990年代の初めだったと思います。ハワイの某研究機関とのプロジェクトで知りました。当時はPostgreSQLという名前さえ付いていませんでしたが。

法林 当時はオープンソースなんて言葉もなくて、フリーソフトという呼び方をしていたはずですが、その1つにPostgreSQLの原形があったということでしょうか? 一体、どういう使い方をしたんですか?

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技術者とOSSのかかわり方が、今と昔で大きく変化しているが、そのこと自体は「喜ばしいこと」だと話す石井氏

石井 当時、多くの企業や組織は、COBOLなどで組んだレガシーの資産を「今後どうやって活かしていこうか?」という問題を抱えていました。この時のわたしのプロジェクトでも、プログラムを動かせるDB環境が必要になり、後のPostgreSQLプログラムが大いに役立ったというわけです。

法林 90年代はUNIX的なものとメインフレーム的なものとの間に壁があって、その壁にどう対処していくか、というのが大きな課題でしたよね。わたしもソニーで「壁との格闘」を体験していました。それにしても、石井さんの場合は最初から仕事の流れでPostgreSQLと付き合っていたんですね。今のエンジニアの場合、オープンソースと向き合う場面が、必ずしも仕事がらみとは限らなくなっていますが。

石井 まあ、そうですね。時代背景も技術環境も大きく違いますから。ただわたしは、今の若いエンジニアが、身近なものとしてOSSに触れていることは良いことだととらえています。わたしにせよ法林さんにせよ、技術を仕事主体で吸収していった世代とは、まったく違う発想を彼らはすることができるはず。その可能性を伸ばすバックアップを、わたしはしていけたら良いなぁ、と思っているんです。

法林 良いですね。50代を迎えて、社長業まで始められて、今なお現役の技術者である石井さんが、そういう視点で若いエンジニアを見ているということですものね。SRAやPostgreSQLコミュニティの人たちは幸せ者ですよ。では、この対談のテーマでもある、「スペシャリストを目指す若手エンジニア」に向けたメッセージを挙げてもらえますか?

石井 わかりました。説明は後にして、3つ提示しますね。

【1】 「自分を表現する基礎」となる技術をしっかり磨く
【2】 SF的な視点を併せ持つ
【3】 技術者としてのゴールを描く

法林 2番目がものすごく気になりますが(笑)、順番に教えていただけますか?

一つの技術に最低2年。それが技術者としての基盤になる

石井 まず1つ目について。技術が移り変わるスピードはどんどん上がっていますよね。短い間で次々と魅力的に見える新しい技術が登場したり、目覚ましい進化を遂げたりする。けれども、わたしはそんな時代であっても、と言いますか、こんな時代だからこそ基礎が問われてくると考えているんです。

法林 石井さんのいう基礎というのは、具体的に言うと何ですか? やっぱりDBであったり、ということでしょうか?

石井 そりゃあDBやPostgreSQLを勉強してくれる若者が増えてくれたら言うことなしですが、DBのほかにも例えばOSであったり、プログラミング言語そのものを深掘りして理解する、ということでも良いんです。大切だと考えているのは、少なくても2年とか3年、きっちり追いかけて学んでいくこと。それが、エンジニアとしての自分流の基礎になりますから。数カ月とか1年だけ携わって分かった気になると、損をしてしまいます。

法林 石井さんの場合は、それがPostgreSQLだったということですね?

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「自分の技術者としての基礎となる技術さえあれば、ほかの技術への応用は十分できます」(石井氏)

石井 そうです。法林さんの基礎となっているのはUNIXでしょ? そこでしっかりとした基礎を築いたから、ここまでの方になられた。同じことだと思います。

 

わたしは今もよく社員に話すんですが、「PostgreSQLをしっかり身に付けたエンジニアなら、仮にDBMSやMySQLを扱う場面が来ても、半月もあれば使えるようになる」と。

法林 すごく共感します。「身に付けた」、「分かった」、「使えます」と口で言うのは簡単ですが、UNIXにせよDBにせよOSにせよ、本当に深く理解するためには、それなりの時間と経験を費やさないといけませんよね。

石井 わたし自身、最初から「データベースの専門家になろう」と思っていたわけじゃないんです。興味があったのは「データというものをどう使ったら面白いことができるか」。たまたま知ったPostgreSQLが、わたしにとっての理想のツールとして役立ってくれたけれども、違うものをツールにしたって良いんです。今後は、いろいろな技術やツールが多様に組み合わさって、新しい価値を生み出していく様相が強くなっていく。

法林 だからこそ、1つの技術、1つのツールを基礎からしっかり身に付けろ、ということですね? でも、この提言を今の若い人にしっかり伝えるのって難しくないですか? PostgreSQL伝道師としては、ご苦労もあるのでは?

石井 法林さんもそうだったかもしれませんが、わたしぐらいの世代のエンジニアはある意味ラッキーだったんです。魅力的な技術というものが、今ほどあふれかえっていたわけでもない。90年代のOSSの領域でいえば、フリーソフトをビジネス活用して、それで食っていけるようになるには、どうしたら良いんだろうという明確な課題が用意されていた。

法林 そうですね。わたしも秋葉原で「オープンソースまつり」なんてイベントをやったりして盛り上がっていました。「フリーソフトで稼げるようになるぞ」というシンプルな課題があって、皆がそこに対して大まじめに取り組める背景があった。これはモチベーションになりましたよね。今はちょっと違う。

選択肢の豊かさが、逆に技術者を苦しめる

石井 恵まれすぎていてかわいそうだなとも思います。気になる言語や技術があれば、ネットで検索するだけで、おおかた見えてしまったりする。便利で自由である反面、最初から「自分はどれを追いかけようか」、「自分にとっての良いモノはどれなんだろうか」を決めなければいけませんから。

法林 石井さんの場合、PostgreSQLのコミュニティーをメーリングリストで浸透・拡大していきましたよね。当時はそういう手法しかなかったわけですが。日本PostgreSQLユーザ会の初代理事長になられたのは、いつからいつまででしたっけ?

石井 1999年から2004年の間です。

法林 コミュニティーをうまくマネージメントする上で、気を付けたことは何ですか? OSSの開発者を育成していく上で、そこは非常に大きなカギになったと思うんです。

石井 おっしゃるとおりです。やはり、せっかく興味を持ってくれた技術者に、どうすれば気持ち良く参加してもらえるかが重要。ですから、「初心者に優しく」というシンプルな姿勢は、徹底しました。

うれしいことに、PostgreSQLエンジニアは人柄の良い人材に恵まれまして、メーリングリストの炎上も1回くらいしかありませんでした。ただ、今は違う課題が生まれています。先ほど話したとおり、エンジニアには選択肢が増えていますから、どうすればPostgreSQLに興味を持ってもらえるか。そこが重要になっていますね。

法林 基礎となる技術をしっかり学べば、石井さんのようにずっと現役の開発者でいられる、というのは1つ大きな魅力にはなりますよね?

石井 わたしを引き合いに出すかどうかは別として、腰を据えてある水準までPostgreSQLを習得できれば、息の長いエンジニアとして活躍できる、という話はします。実際、わたしの他にも50代でバリバリやっている人がいますからね。

(次ページに続く)




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