エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン
  • TOP
  • キーパーソン
  • 旬ネタ
  • コラボ
  • ノウハウ
  • 女子部
  • キャリア

「IoTヨット」と「しゃべるドローン」の研究が人類の未来を変える!?テクノロジスト末田航氏の挑戦

タグ : IoT, ドローン, 末田航, 海外で働く 公開

 

人間はまだまだ進化できる――。

テクノロジーの進化によって、バーチャル世界と現実世界のギャップが縮まり、人間の身体能力、またはそれが発揮される領域はますます拡張される。エンジニアtypeの読者なら、「人類の拡張」とも言うべきこのようなビジョンは、周知の事実かもしれない。

しかし、そんな未来の実現に向けて、当事者として海外で研究を進めるテクノロジストの存在をご存知だろうか。約15年間に渡り、コンピュータで「空間意識の可視化」と「気配のコンピューティング」をすることに情熱を注いできたエンジニアの末田航氏だ。

現在はシンガポール国立大学で、人間の生活をテクノロジーの力で豊かにするプロジェクトを進めている。

根っからの研究者である末田氏が新たに挑んでいるのは、「ヨットのIoT化」と「しゃべるドローン」の開発。一見、人類の拡張とは何の脈絡もないように見えるが、彼の中では「技術要素とビジョン」の面でつながっているという。

同氏が考える、この2つの研究開発が交わった先にある未来とは。ユニークなプロジェクトと個性的なキャリアについて話を聞いた。

プロフィール

シンガポール国立大学 IDMIリサーチフェロー
末田 航氏

武蔵野美術大学造形学部建築学科を卒業後、早稲田大学大学院修士課程にてメディアアートを学ぶ。卒業後はモバイルITベンチャーのボルテージで女性向け恋愛ゲームのディレクターを3年務め、妻と子育てを分担するため転職。デジタルハリウッドでモバイルコンテンツ講座のカリキュラムを企画監修。在職中にAugmented Realityの父、暦本純一教授のもとで研究者の道を志す。同氏の東大の研究室でHCI(Human Computer Interaction)を研究。博士課程を修了後、シンガポール国立大学IDMIのリサーチフェローとなる。職場での研究テーマは「エンターテインメント・コンピューティングとインタラクションデザイン」。修士研究で発表した『Communication Grill Chang-tei』は世界最大級のメディアアートの祭典『Ars Electronica』などで招待展示される

IoTヨットとしゃべるドローンの2軸から成る「空間づくり」プロジェクト

―― 現在取り組んでいる事業について教えてください。

2010年からシンガポール国立大学の研究室でリサーチフェローとして働いていて、現在は、主にヨットの簡易化を目的とした『スマートセイル(Smart Sail)プロジェクト』に取り組んでいます。

ヨットにセンサー付きのBluetoothデバイスを付けてスマホと通信し、ヨットへの風向きに対するセイル(帆)角度の最適化、操作のログができる装置とアプリケーションの開発です。

『スマートセイルプロジェクト』については、末田氏のWebサイトに詳しく載っている

『スマートセイルプロジェクト』については、末田氏のWebサイトに詳しく載っている

ヨットは風をつかんで操作する乗り物なので、ある程度経験を積まないと操作は難しいのですが、この「IoTヨット」は風の受け方によってセイルの色が変わるようにすることで、どう風を当てるのがベストなのか、素人でも実際にセールにかかる力を観察しながら直感的に分かるようにしています。

―― なぜヨットに着目したのですか?

そもそもヨットは、セイルへの風の作用を予測しなければ進まない乗り物であり、スポーツです。つまり、風という目に見えない力の変化を想像する力が求められます。

そこで「空間意識の可視化」をずっと研究してきた僕は、この「風の力が働く空間」もテクノロジーの力で可視化したいと思ったんです。こうした世界をモバイルアプリケーションなどに仮想世界として創り上げるのは簡単ですが、一番の目的はヨットの操作の難しさを下げつつ、いかにヨット元来の楽しさである爽快感・浮遊感を維持できるかという点です。

そのためには、プレイヤーが万能に振る舞うことができるバーチャル世界と、現実の競技の間にある「ギャップを調整すること」と、達成感のような人間が楽しいと思う感情的な按配をどこに設定するのかが要です。

開発中の「IoTヨット」試作デバイスを取り付けて、セーリングしている風景

開発中の「IoTヨット」試作デバイスを取り付けて、セーリングしている風景

また、ヨットの操作者だけでなく、観戦者が楽しむことに対しても技術的な挑戦をしています。

ヨットレースは沖合いで開催されることが多く、観戦者は遠目から観戦することになります。また、レースでは船が多数あるので誰が勝っているのか分かりにくいこともあって、今までは「観戦を楽しむスポーツ」としてあまり人気ではありませんでした。

ところが、ヨット界で一番大きなレースである『アメリカスカップ』で、チャンピオンチームがオラクルになったこともあり、ヨットの技術に革新が起きました。

艇体が浮いているように見え、風速よりも早い水中翼式の双胴艇型ヨットが登場したり、ワイヤレスで船員に風向きなどのデータを送ったりと、アナログなスポーツからハイテクスポーツへと変化しています。

これらのヨットはF1マシンと同様、とても素人が操作できる船ではありません。ヨットは野球やサッカーのような 観るスポーツへとして新たなステージに入りましたが、とっつきにくさの点においては改善があまりされていない。

こうした状況を知るうちに、遠方でも目立つ「帆」に色付けをすると、ヨットのプレーヤだけではなく、草レースであっても観戦者にも分かりやすい、観るためのスポーツ化として促進できるのでは?と思ったのこともプロジェクト開始のきっかけです。

―― どのような地域の市場を狙っていますか?

アジアの新興国です。5年後から10年後の間には、アジア新興国の5億人が先進国並みの暮らしをするようになると言われています。すでにスマホや家電の普及しているこれらの地域では、コンテンツ、レジャー、スポーツなどにお金をかける 有望市場になるといわれています。

特に、1年中常夏の東南アジアでは、メジャーなマリンスポーツのスポットがたくさんあります。また、シンガポールにはアジアで最も古いヨットクラブ『ロイヤルシンガポールヨットクラブ』があり、教育の一環として多くの親が子どもをヨット教室に通わせています。

社会活動も重視される学歴社会のシンガポールでは、世界的に若年競技人口が少ないヨットを頑張れば、自分の子どもをナショナルチームレベルに育てられるかもしれないと考える人もいると聞きます。

ヨットはもともと上流階級の嗜みだったこともあり、人口の多い中国やアジアの上位中間層の人々を取り込むことで、今まで以上にメジャーな市場になると言われています。

今後は、シンガポール国内のヨットスクール向けに、モバイルアプリケーションでヨットのスピードや現在地を確認、航跡を記録し生徒と先生と親御さんとがレビューできるようなサービスの事業展開をする予定です。

―― さきほど、研究室にドローンも見つけたのですが、これも研究の一環ですか?

実は先述のスマートセールプロジェクトを進める傍ら、総合研究大学大学院・学融合推進センターの塚原直樹助教と共同で「しゃべるドローン」の研究を行っています。

「しゃべるドローン」のプロトタイプを持つ末田氏

「しゃべるドローン」のプロトタイプを持つ末田氏

もともとは趣味として、1人で鳥や人と「しゃべるドローン」を製作していたのですが、カラスの害鳥対策として音声によるカラスのコントロール研究している塚原さんにお会いする機会がありまして。塚原さんのカラス対策ノウハウを空中で自由自在に試すことができるということで、「しゃべるカラスドローン」を開発することになりました。

「しゃべるドローン」は、カラスと同じ鳴き声を発するドローンを飛ばして、カラスを追い払ったりおびき寄せたりするために作られています。日本でドローンと言えばヘリの形が主流ですが、それだとプロペラ音がカラスに不信感を抱かせてしまう。ですから、鳥型で静かに、エンジンを切ってもグライダーのように飛べる飛行機型が都合がいいのです。

ちなみに、無人機としてのドローンの起源は1950年代の空戦訓練用のおとり無人機で、ドローンはその後も翼のついた飛行機型が主流なんですよ。

―― 「ヨットのIoT化」と「しゃべるドローン」をパラレルに研究していることで得られるシナジー効果は何でしょうか?

実は、ヨットと飛行機の構造体や、ヨットの帆と飛行機の翼などは似ているところがあります。帆は風に押されているのではなく、飛行機と同様に「揚力」によって進んでいきます。

技術的にも、ヨットの帆の向きや姿勢を計測するのにジャイロセンサーが使われているのですが、ドローンにも同じものが使われています。そのため、ジャイロの技術情報を収集するにはドローンのオープンソースコミュニティを利用することが多いんです。

―― 技術要素以外にも近いところはありますか?

はい。我々人間が気配や触覚として感じている感覚をコンピュータで可視化して、分かりやすく、楽しいものにする点では共通していると考えています。

ヨットはセイルにかかる力とそれに対応するセイルの表情の微妙な変化を、初心者でも分かりやすくする可視化手段が発想のコアになっています。一方のしゃべるドローンについては、共同研究を通してですが、 鳥のように飛ぶ感覚の重要な要素として、音声コミュニケーションは非常に重要だと考えるようになりました。

こんな感じで、技術が介在することで人間が感じている世界が拡張されるといいなと考えています。

情報空間への関心は「茶室」「建築」から芽生えた

―― 末田さんのキャリアについても聞かせてください。もともと大学では建築学を専攻していたそうですね。

空間と人間の関係性などに興味があり、大学では建築学科を専攻して、設計課題で公共空間とプライベート空間の違いをコントロールし空間デザインに落とし込むための勉強をしていました。

けれど、そのうちに携帯電話が出現して、電車という公共の場で人々がプライベートの話をするような光景が当たり前のようになりました。こうした公共空間とプライベート空間の交わりを目の当たりにしたことで、僕の建築に対する考えが大きく変化することになったんです。

そもそも建築学科に通った理由は、建物の設計をする建築家になることが目標だったんですね。ですが、この光景を見て、「今後 建築家が空間をコントロールし、デザインすることができなくなるかもしれない」と感じました。

そうして設計を離れ、建築史の先生のゼミに入りました。そこで 神社や茶室の空間について勉強してみたところ、「人々が空間から影響を受けるのは壁や天井などの物体だけではない」と気付きました。

そして、茶道で扱う小さな道具や人の振る舞いでもって空間をコントロールしていることを知り、 それは十分建築の一環であるという考えに至りました。

茶室は相手を思いやることで成り立つ空間で、一つ一つの道具や動きに意味があります。その場所で、主人と客が交わす物理的な実体のないコミュニケーションと、小さな道具の組み合わせが、そこでの体験や気配をコントロールしていることにインスピレーションを得ました。

さらに、ユビキタスコンピューティングの考え方を知り、将来の社会の変化を考えるうちに、ケータイのような小さな道具とコミュニケーションで「気配の操作」ができるのではと思い付いたのです。そして、だんだんとテクノロジーと空間の関係の方に関心がシフトしていきました。

研究施設のCUTEセンター内にある3Dプリンタ、レーザーカッターなどで、プロトタイピングや自主製作をしている

研究施設のCUTEセンター内にある3Dプリンタ、レーザーカッターなどで、プロトタイピングや自主製作をしている

―― アプローチする方法は変わっても、「空間をつくる」という軸はずっとブレていませんね。

自分の中で腑に落ちる答えが見つかってからは、建築から情報分野に転向する不安を持つことはありませんでした。

自分が大切にしていたのは、現実の空間デザインとの接点を持つこと。建築科の学生の時に建築という軸を一度なくしかけましたが、紆余曲折して悩み抜いたおかげで、逆に自分の道を狭めない選択を考えるようになりました。

もし、自分のキャリアを変える局面にぶつかっている人がいたとしたら、自分の核心を理解することをおすすめしたいですね。核心さえ自分で分かっていれば、あとは直感的に判断したとしても、一貫した答えになっているはずです。

僕の場合は、プラスアルファの判断軸として、この環境が自己成長という面で最適なのか、ということも考えています。

アスリートの為末大さんは「義務は無邪気には勝てず、努力は夢中に勝てない」と言っています。大変だなと思いながらやっている人は、好きでやっている人には勝てません。なので、自分が努力していると思わなくてもできることや、好きだと言えることを仕事に選ぶのが大事なんだと思います。

―― 今は海外(シンガポール)に拠点を移されていますね。

シンガポールに働く場所を変えたことも、僕にとっては大きな転換になりました。

日本にいると、「正しいとされている」ことを正しいと考える風潮に流されたり、常に自分のやっていることが正解かどうか不安になったりすることがあります。しかし、外国に来てみると、そもそも共通理解として 「正しいとされている」が少ないので、日本で世間一般で正しいとされていることに対して無批判であったり、流されたりすることはありません。

いろんな価値観の中で視野を広げることができますし、これからもさまざまな挑戦を続けてきたいです。

―― 最後に、モノづくりに対する自分の好奇心を育みながら、ビジネスとしてのエンジニアリングを続けるコツを教えてください。

自分の好奇心に基づく純粋なモノづくりと、商業目的のモノづくりを両立し、いずれ融合させるためには、忙しくても無理してでも自分の時間を作らなければなりません。

また、「これだ!」と思うものを続ける過程において、挫折や失敗は付きものだと思います。それでも続けること。懲りずに挑戦し続ければ、100発中3発くらいは当たります。

―― 今回お話されていた「しゃべるドローン」に関してですが、最近クラウドファンディングを始めたようですね。

はい。「カラスと対話するドローンを作りたい!」というプロジェクト名で、カラスの剥製のロボット化と、カラスと対話できる鳥型ドローンの開発資金をクラウドファンディングしています。

>> ファンディングページはこちら

何かとネガティブな話題が多いドローンですが、今回のプロジェクトを通して、農作物の被害や都心部の糞害などの問題を解決することで、その有効性を世にアピールしていきたいと考えています。応援よろしくお願いします。

―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

取材・文・写真/井上美穂




人気のタグ
業界有名人 スタートアップ 開発 SE 転職 エンジニア Web プログラマー スキルアップ ソーシャル アプリ シリコンバレー プログラミング 起業 キャリア スマートフォン Android SIer 技術者 えふしん クラウド UI アプリ開発 btrax Webサービス スペシャリスト Twitter Apple ギーク CTO Facebook 英語 デザイン IoT ツイキャス Brandon K. Hill Google SNS 世良耕太 モイめし IT 30代 赤松洋介 採用 コーディング 20代 村上福之 勉強会 プロジェクトマネジメント UX Ruby 中島聡 法林浩之 ITイベント Webエンジニア 五十嵐悠紀 モノづくり ひがやすを LINE 受託開発 ビッグデータ ウエアラブル IT業界 ドワンゴ コミュニケーション MAKERS ハードウエア ロボット インフラ Webアプリ SI 女性 tips ゲーム ソーシャルゲーム iPhone 高須正和 女性技術者 UI/UX トヨタ マイクロソフト イノベーション 研究者 ノウハウ 自動車 息抜き iOS システム プラットフォーム 和田卓人 チームラボ グローバル メイカームーブメント 教育 イベント エンジン 開発者 ソニー オープンソース Java サイバーエージェント 女子会 コミュニティ 家入一真 メーカー ソフトウェア スーパーギーク GitHub 増井雄一郎 IPA ニュース テスト駆動開発 日産 40代 TDD グーグル 音楽 モバイル PHP ソフトウエア TechLION

タグ一覧を見る