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グーグルやアマゾンも乗り出す「ドローン開発」日本の第一人者が語る未来【連載:匠たちの視点-野波健蔵】

タグ : COMET, Mini Surveyor, ドローン, マルチローターヘリ, 研究者, 野波健蔵 公開

 

プロフィール

千葉大学 大学院工学研究科・工学部 特別教授

野波健蔵氏

1979年に東京都立大学大学院博士課程を修了後、千葉大学工学部機械工学科の助手、NASA研究員、千葉大学助教授などを経て、1994年に千葉大学教授に就任。2014年より現職。1980年代より自律制御ロボットの研究を開始し、1990年代半ばから紛争地に残された地雷除去や海底測量や送電線の高所点検作業向けの作業用ロボットを次々と開発する。2005年からはマルチローターヘリの自律制御研究を本格化させ、大小さまざまな研究モデルの開発を行う

『Makers』のクリス・アンダーソンがその将来性に魅せられ、米アマゾンや米ドミノ・ピザ、独DHLポストなどが、自社の活路を見出したテクノロジーがある。そう言えばもうお分かりだろう。

ドローン、もしくは自律型マルチローターヘリと呼ばれる飛行テクノロジーのことだ。

実はこの分野で、第一人者と呼ばれる日本人研究者が存在する。千葉大学工学部の野波健蔵教授その人だ。


自律型マルチローターヘリ『Mini Surveyor MS-06』のデモストレーション。自動で離着陸できるだけでなく、世界初のバッテリー自動交換技術により長時間の運用が可能になった

「80年代の半ばから歩行ロボットやマニピュレータなどの基礎研究を続けていたのですが、論文を書くためだけの研究に嫌気がさしてきましてね。それで取り組んだのが、地雷探知ロボットの開発です。これがすべての始まりでした」

『COMET-IV』は6本の脚を持つ大型の歩行ロボット。瓦礫や傾斜のきつい不整地を歩行することができ、地雷探知など危険な作業を代行することができる

きっかけは1993年にカンボジアを訪れた時だった。

当時のカンボジアは、70年代から30年にわたって続いた内戦により国土が荒廃。内戦終結後も、大量に埋設された地雷によって被害に遭う住民が絶えなかった。

地雷探知を生業とする人々にも、甚大な被害をもたらしていたのは言うまでもない。こうした非人道的な状況を、自律型ロボットで解決できないか。そこから野波教授の挑戦は始まる。

「当時は平和利用を目的としたとはいえ、海外での地雷探知は軍事利用に抵触する可能性もあり、しばらくは現地での小規模な調査と実験だけに留まっていました。しかし97年に日本が対人地雷の使用禁止を定めたオタワ条約を批准したことで、状況が大きく変わります。それまで大学内で細々と続けてきた歩行型の6脚ロボットが、偶然、文部科学大臣の目にとまり、日本学術会議内の正式プロジェクトとして動き始めることになったんです」

「海外で日の丸貢献を」という掛け声の下、同プロジェクトには多額の予算が付けられ、国内のロボット研究者が参加する国家プロジェクトとして動き出す。

野波教授は同プロジェクトの幹事として歩行型6脚ロボット『COMET-1』を完成させ、2000年以降、地雷に悩むカンボジアやアフガニスタン、イラク、クロアチアの各地にたびたび足を運ぶことになる。

ソフトウエア開発の方法論をモノづくりの世界へ

自律飛行型のシングルローター型ヘリによる、広域地雷原の空中探知の可能性も検討し始めたのも、ちょうどこの頃だ。

「アフガニスタンやイラクでは調査地域のすぐそばで散発的な戦闘が起こることもあり、衛生状態が悪く体調を崩す人も多かったのですが、問題はそればかりではありませんでした。肝心の地雷探知精度が思ったほど上がらなかったのです。

例えばクロアチアで行った調査では、実用レベルとされる99.6%に対し、われわれのロボットが残した地雷探知精度は82%。地雷5個のうち4個しか見つけられない計算です。地雷が埋設されている環境は想像以上にひどく、現地で試してみて分かることも少なくありませんでした」

ドローンのようなロボティクス分野の隆盛は、ソフトウエアのパワーに拠るところが多いとのこと

こうした経験が、野波教授の意識をセンシング技術や制御ソフトウエア、アルゴリズムの品質向上に向かわせる一つの契機となった。

「われわれが取り組んでいるのは『モノづくり』に違いありませんが、競争の本質はソフトウエアにあるんです。特にマルチローターヘリは複雑な構造を持たない分、各ローターをソフトウエア制御によってどうコントロールするかが非常に重要になってきます。この世界が航空工学より、わたしのような機械工学やコンピュータサイエンスの“門外漢”によって開拓されているのを見れば、ソフトウエアの重要性がお分かりいただけるでしょう」

こうして産声を上げてから約10年。今、マルチローターヘリは一般の人々の耳目を集める産業に成長しつつある。すでに中国では年間3万機を販売し、年商100億円を超えるDJI Innovationsという企業も誕生しているほどだ。

こうした急成長の背景にも、ソフトウエア産業の影響があると野波教授は考えている。

「マルチローターヘリメーカーの多くが、ソフトウエア産業で行われているようなスピーディな開発スタイルを取り入れていることが主な要因です。これまで日本のメーカーは時間と労力とお金をかけ、高いレベルの品質に到達するまでは決して製品を外に出すことはありませんでした。もちろん品質を守ると言う意味では悪いことではありません。

しかし、市場にフィールドテストを委ねるようなやり方で製品を提供している中国や欧米企業と戦う場合ならどうでしょう。完ぺきな仕上りを待っていたのでは、彼らに太刀打ちできないのは明らかです。日本のメーカーにも、最低限のクオリティーを満たしたら製品の価値を、積極的に世に問う大胆さが必要ではないでしょうか」

つまり、日本メーカーもアジャイル的な開発手法をもっと積極的に取り入れるべきだと野波教授は指摘している。

もし彼らが古い体質から脱却できなければ、自律型マルチローターヘリに代表されるロボティクス分野も、半導体や液晶パネル産業が辿った衰退の道をなぞることになりかねないという思いがあるからだ。

「日本のエレクトロニクス産業が軒並み総崩れする中、ようやく明るい光がもたらしてくれたのがロボティクス分野です。それにもかかわらず、最近は優れた技術を持つ日本企業がどんどん海外企業に買収されていくのが目に付きます。

それは、有望な技術を持つ企業に対する支援体制が諸外国に比べて脆弱だからです。日本がロボット大国と呼ばれるまでには、約50年にわたる長い歴史と数百億円規模の税金が投入されました。その恩恵を何らかの形で受け継いでいる企業が海外流出するというのは、日本にとって大きな損失です。国内でも開発を続けられるような環境づくりが急務だと思っています」

3年間成果が出せず、研究を止めようとしたことも

2014年夏には5~10kgの積載が可能な市販モデルの販売を予定している

こうした危機感を持つのも、自身の経験によるところが大きい。

わずかな研究費をやりくりしながら、思うような成果が出せず悶々と過ごした時期もあった。研究を放棄しようと思ったことも1度や2度ではなかったと言う。

「地雷探知プロジェクトに予算がついて事態は好転しましたが、実は3年間、思うような成果が出せずにいた時期は、学生に『もう止めようか』と口にしたこともありました。もしあの時『もう1回実験してみましょう』と言う学生の一言がなければ、本当に止めてしまっていたかもしれません。

やはり大事なのは諦めず続けること。途中で道が途切れているように見えても、試行錯誤し続ければやがて進むべき道は見えてきます。正しいことをしていれば、天は必ず味方してくれるものです」

この夏、野波教授は大学発ベンチャーの自律制御システム研究所から市販モデルの販売にも挑戦する。さらに、福島第一原発事故後、まったく調査が及んでいない原子炉建屋内に初めて自律型のマルチローターヘリを送り込む計画も着々と進行中だ。

「研究とは社会の役に立ってこそ価値がある」

30年にわたって温め続けた思いが、ようやく一つの到達点を迎えようとしている。

「近い将来50機、100機と編隊飛行をしながら協働作業にあたったり、枝のしげった林の中を飛び回り枝に止まったりするような飛行体も生まれるでしょう。こうした研究をぜひオールジャパンで実現したい。研究を続けていれば、きっとそんな日が来ると確信しています」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴




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