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「気軽に実験できることが大事」日本でロボットカー開発の礎を築いた男のモノづくり論【連載:匠たちの視点-谷口恒】

タグ : RoboCar, ZMP, ロボット, 自立走行車, 谷口恒 公開

 

プロフィール

株式会社ZMP 代表取締役社長

谷口 恒氏

1964年生まれ。群馬大学工学部卒業後、自動車部品メーカーでアンチロックブレーキシステム開発に携わる。その後、商社の技術営業、ネットコンテンツ会社の起業などを経て、2001年にZMPを創業。家庭向け二足歩行ロボットや音楽ロボット開発・販売を手掛け、2007年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両の提供を行う。現在、物流やヘルスケア、建築・土木、農業分野へのロボット技術の展開を進めている

「究極の自動車」とも言える自律走行車の開発競争が本格化している。

各社とも2020年ごろの実用化を目指し実証実験を繰り返している状況だが、開発に名乗りを上げている企業の顔触れを見ると、過去の技術革新とは一線を画しているのが分かる。日米欧の大手自動車メーカーをしのぐ勢いで、情報通信産業のGoogleが重要な地位を占めているからだ。

実はこの日本にも異分野から自律走行車開発に参入し、独自の地位を占めている企業がある。かつて家庭用ロボット開発で一世を風靡したZMPだ。

代表の谷口恒は、自律走行車開発に乗り出した経緯をこう話す。

「私自身、関心があることにグっとのめり込んでしまうタイプで、頭の中に構想が湧いてしまうと、居ても立ってもいられなくなるんです。もともとZMPは、家庭用二足歩行ロボットを量産するために創業した会社でしたが、2輪で動く音楽ロボットを作った時、二足歩行に比べて自由度が高い車輪による『自律移動』の面白さに気付きました。それで、これまで培った技術を自動車に投入してみようと」

RoboCar(ロボカー)』と名付けたオリジナルの自律走行車の研究は、2007年から進めている。

自動車用ブレーキシステムの開発者から緑色レーザーの技術営業へ

ZMPが開発した乗用車ベースの自律走行車『RoboCarHV』

谷口が本格的にモノづくりにかかわるようになったのは大学卒業後。大学では高分子化学やDNA合成の研究をしていたが、就職先は地元・兵庫県の制御機器メーカーに決めた。

エンジニアとしてのキャリアは、この会社から始まることになる。

「配属先はブレーキシステムを部署だったので、まったくの畑違いな世界に飛び込んでしまったわけですが、取り組んでみるとメカトロニクスの世界もなかなか面白いなと(笑)。入社からしばらくして、ドイツの大手部品メーカー・ボッシュとアンチロックブレーキシステムの商用化を経験させてもらった時は、仕事に対する考え方や視界がものすごく広がったように思えました。

まだインターネットもない時代だったので、日暮れになると、一緒に働いていたドイツ人たちがテストコースの脇にパラボラアンテナを広げて衛星経由で本国に走行データを送っていました。その光景を見た時、『世界にはこんな仕事のやり方があるのか』と驚いたのを覚えています。こうした経験を通じて、もっと広い視野で技術にかかわりたいと思うようになっていきました」

ただ、そうは言っても、このままエンジニアを続ければ、割り振られた技術を深掘りすることを求められる。先々を考えればマーケティング知識も身に付けたい。そう考えた谷口は、化学品やハイテク機器を扱う商社へ転職する。

「技術についての知識も活かせるだろうと考えて選んだのが、アメリカのレーザー製品を国内販売する商社の技術営業でした。その会社で扱っていた緑色レーザーは、当時まだアメリカとドイツだけの独占技術。価格競争もほとんどなく、用途開拓に専念することができたので、営業経験がなくてもけっこう売れたんです。

毎日専門誌や経済紙に目を通しながら、『この会社が買ってくれるんじゃないか』、『この技術に応用できるんじゃないか』と思ったら、すぐに電話をかけて売り込みに行くような感じで面白かったですね。時折来日するアメリカ人エンジニアと一緒に営業先の研究所を巡る道すがら、日ごろの疑問をぶつけて技術の勉強をしたのもイイ思い出です」

大手の3倍のスピードで作り、7割できたら世に送り出す

その後、谷口は友人とともに立ち上げたインターネットコンテンツ会社の経営を経て、ロボット開発を手掛けるためZMPを設立する。

本人はその経過を「気の赴くままに好きなことばかりやってきた」と振り返るが、取り組んできたことに共通項がなかったわけではない。

「それは、将来性があって過度な競争がない分野だということです。商社時代もそうでしたが、私たちが世界で初めて家庭用二足歩行ロボット『nuvo(ヌーボー)』を世に送り出した当時は、競争相手と言えばソニーとホンダだけでした。

創業後初の製品となった家庭用二足歩行ロボット『nuvo』。2005年に58万8000円で発売された

また、初めて開発した小型自律走行車の『RoboCar 1/10』も、当初は『そんなおもちゃが売れない』と散々叩かれたものでしたが、実際には思いのほかたくさんのお客さんに買っていただきました。

なぜかと言えば、100万円程度の価格で、実車に積んでも遜色ない高性能なセンサを備えた実験車両が、世の中になかったから。テストコースを借りなくても、ちょっとした空きスペースがあれば白線検知走行や隊列走行などの実験が簡単にできたからです。

新しい製品分野を開拓することができれば、既存製品と競合せずに、自分たちが希望する価格でお客さまに製品を売ることができます。さらにそこで得た収益で、次のモノづくりに投資することもできる。大事なのはスピードなんです」

『RoboCar 1/10』は2009年に家庭用ロボット開発で得た技術をクルマへ展開した最初の製品

そうした小さな積み重ねが、その後のHVやPHV版RoboCarの開発につながっていく。もちろん、開発プロセスにも工夫を重ねた。

「完璧な製品を追い求めようと思えばいくらお金や時間があっても足りません。金型を何度も修正すれば、あっという間に何億円もの大金が飛んでいきますし、開発期間が長引けば途中で技術の流れが変わってしまったりすることだってよくあります。

だから、これだと思う製品コンセプトが固まったら、大手の3倍のスピードで作り、7割できた段階で世に送り出すべきだと考えました。

残りの3割はどうするかと言えば、『アタリ』を見ながらお客さんと一緒に詰めていく。機能を絞り込むのは作り手としてツラい部分もあるのですが、新しいモノを生み出そうと思ったら時間をかけてマーケティングするより、この方がはるかに効率的。その事実を、家庭用ロボットの量産を通じて学びました」

谷口が言うように、ユーザーの顕在化したニーズを汲み取るマーケットインの発想では、イノベーティブな製品を生み出すのは難しい。それよりも、プロダクトアウトなアプローチによって手早く開発し、リリース後も継続してニーズを探りながら製品の精度を上げていく方が、大手に比べて制約の多いベンチャーにとって現実的だというのもうなずける。

「今はGoogleの自律走行車が話題ですが、その性能を担保しているのは搭載している高額なセンサによる部分が大きいと私は思っています。一方、私たちはそれほど高額な部品に頼らなくとも、2009年から500ユーザーに対してRoboCarを販売してきた実績があります。

それだけのユーザーが収集した実験データが、やがて自律走行車の実用化に貢献することになると考えると、私たちの実績やアプローチは決して侮れるものじゃないと思っています。気軽に実験できることがいかに大事か。まだまだ知られていませんが、実はとても大事なことなんです」

「ググっておしまい」ではイノベーティブなモノづくりは不可能

ハードエンジニアから始まり、ネット、ロボットとさまざまな世界に身を置いてきたからこそ見える未来とは?

メーカー各社が掲げる、ロボットカーの実用化まではおよそ6年。上手くいけば東京オリンピック会場周辺の公道を自律走行車が走る姿が見られるかもしれない。

その時、谷口率いるZMPはどのようなポジションで業界にかかわっているのだろうか。

「自律走行車に関していえば、量産に欠かせない基幹モジュールを開発し自動車メーカーに供給できるような体制を整えていきたいと思っています。さらに、今後は自動車以外にも、物流やヘルスケア、建築・土木、農業分野といった産業規模の大きな分野に私たちのロボット技術を適用していくつもりです。

目指すは『Robot of Everything』。暮らしの中にあらゆる場面でロボットが活躍するような世界を作りたいと考えています。

日本は、家電製品やエレクトロニクス製品の分野ではかつての輝きを失ってしまいました。でも、Appleやサムスン製品の内部には、いまだ多くのメイド・イン・ジャパンが使われています。電子部品や機械部品、素材、制御技術の分野では世界に誇れるレベルの技術がたくさんあるんです。そうした技術を持つ日本の会社と手を組みながら、『Robot of Everything』を実現できたらうれしいですね」

ただ、そのためには若いエンジニアたちの意識変革が必要だとも考えている。

「アイデア次第でいろいろなものに応用できるのがロボットテクノロジーのすごいところであり面白いところなんですが、若いエンジニアを見ていると、アイデアのヒントをスマホの小さな画面から得ようとする人が増えています。だからググって答えが出てこなければそれでおしまい。そんなのつまらないですよ。

イノベーティブな開発には、観察眼を養うことが欠かせません。だからもっと外に出て、いろいろなものや人をよく観察して考えてほしい。それがエンジニアとしての創造性を磨くことになるんです」

もしエンジニアとして社会の役に立つ仕事に携わりたいと思うなら、これからのロボットテクノロジーは有望だと谷口は力説する。

もはやロボットは機械の組み立てや娯楽分野だけに留まるものではなく、少子高齢化と労働人口の減少、女性の社会進出といった社会問題の解決にも活かされることになるからだ。

「これからは、ITよりRT(ロボットテクノロジー)の時代。リアルを動かすことほど、すごいことはありませんよ。前途有望な産業技術創出にかかわれるチャンスはそう多くはありませんが、今それが起きつつある。若いエンジニアと一緒に世の中を変えて行ければと思っています」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴




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