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「TEDxTOKYO 2012」スピーカーのシュアール・大木洵人に聞く、テクノロジーを駆使した社会貢献の形

タグ : ShuR, Skype, TEDx, TEDxTokyo, YouTube, アショカ・フェロー, テクノロジー, 大木洵人, 社会企業家 公開

 

世界中を熱狂の渦に巻き込んだ「TEDxTokyo」の季節が、今年もやってきた

日本でも年々注目度の高まる「TED」。今年の東京会場でも、豪華スピーカー陣が登壇する

Twitter Japan代表の近藤正晃ジェームズ氏やMITメディアラボ副所長の石井裕氏、ゲームクリエイターの水口哲也氏など……。昨年、そうそうたるメンバーがスピーカーとして登場したアイデア発表カンファレンス「TEDxTokyo」が、今年は渋谷ヒカリエで開催される。テーマは、「Where Art Meets Science」だ。

今年も独創的なアイデアを持ったスピーカーたちがそろう中、「手話のWikipedia」と呼ばれる『SLinto Dictionary』を開発した人物に熱い視線が注がれている。それがシュアールグループ代表の大木洵人氏(@juntoohki)だ。

今年5月に世界的な社会起業家のネットワーク「アショカ・フェロー」 にも選出された大木氏は、「テクノロジーを駆使して聴覚障がい者の社会進出をサポートしたい」との思いで、25歳の若さで手話ビジネスを展開している。
大木氏がなぜ「手話ビジネス」に取り組み始めたのか、そして、テクノロジーが介在することでどんな価値を生み出すことができるのか。同氏への取材を通して、あまり知られていない聴覚障がい者たちの世界を覗くことができた。

知見を広げるために入った大学で、没頭したITビジネスと手話

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高校時代は写真に没頭していた大木氏。コーが主催する「写真甲子園」では、2年連続で関東予選の決勝に進む

中学2年生のころに初めて手話を見た大木氏は、「その動きの美しさが印象深く残っていた」という。しかし、それからしばらくの間は手話とのかかわりはなかった。「中学・高校時代は、誰も知らない事実を伝えるジャーナリストになりたかった」と語る大木氏。

「結局、ジャーナリストの夢も高校時代にあきらめてしまい、大学に入るころにはとにかく自分の知見を広げるためにいろいろやろうと思いました」
そこで、幅広い分野を学べる慶應義塾大学環境情報学部(SFC)に入学。1年生の春には、バイオ・朝鮮語・外交・環境・ITサービスなど、さまざまな分野の授業を受け、サークルも4つほど入っていたそうだ。

「半年ほど幅広く勉強してみて、一番興味深かったのが、ITサービスに関するの授業でした。小学5年生のころにPCを買ってもらい、当時から簡単なHPを作ったりしていたため、インターネットとは相性が良かったとも言えます」

ITサービスに興味を持ち始めたのと時期を同じくして、偶然友人から「手話サークルをやらないか」と相談された。そこで大木氏の頭をよぎったのは、中学生のころにテレビで見た手話だった。大学に入り、まだ夢中になり切れるものを模索中だった大木氏にとって、願ってもない一言だった。

これが、大木氏が本格的に手話ビジネスに取り組む大きなきっかけとなる。

ろう者と深くかかわることで、見えない事実が見えてきた

手話の美しさを、実演しながら語ってくれた大木氏

手話の美しさを、実演しながら語ってくれた大木氏

「一度熱中すると、没頭してしまう」性格だという大木氏。友人と手話サークルを立ち上げてからは、手話にのめり込む。「地域活性化」をテーマにビジネスアイデアを考案する授業では、聴覚障がい者に娯楽が足りないことから「手話による旅番組」を企画した。

「2007年の大晦日に、紅白歌合戦のバックパフォーマーとして手話で出場させていただいたことがあるのですが、放送から半年以上経っても、紅白歌合戦に関する問い合わせをいただいたりしました。手話を活かした娯楽って、それくらい少ないんです」

その後、大木氏はYouTubeのようなイメージで、Web上に動画コンテンツをUPしていく手話の娯楽番組を作るため、学生団体を設立。それが、シュアールの原型だそうだ。

「電車に乗る時に障がい者手帳を使って割引切符を購入するには、窓口に行かないといけない。しかし、窓口に行っても駅員さんは手話を知らないためコミュニケーションを取れない。聴覚障がい者の方々と一緒に旅番組を作っていく中で、普段の生活では見えないけれど、ろう者にとっては当たり前の問題に気付くことができました」

そんな日常の不便さもあれば、子どもが夜中に熱を出しても119番ができないという、命にかかわるような問題も抱えている。こうした問題の解決策として生まれた発想が「遠隔手話通訳」で、その発展系として生まれたのが『テルテルコンシェルジュ』だ。

遠隔手話通訳は、駅や美術館、観光地などに設置されたタブレット端末などのテレビ電話を通じて遠隔で手話や英語・中国語などを通訳してくれるサービス。これがあれば、ろう者と聴者が滞りなくコミュニケーションを取ることができる。このアイデアで臨んだ神奈川県・湘南で開催されたビジネスコンテストでは、見事優勝している。

「遠隔手話通訳で用いている技術は、SkypeやFacetimeといったもの。技術的には目新しいものはなく、既存のテクノロジーを聴覚障がい者の生活向上のために利用しているだけ。実際、既存のテクノロジーを使えば聴覚障がい者の生活はもっと豊かになるはずなんです。現在は、『テルテルコンシェルジュ』として英語や中国語、韓国語のサービスとセットで販売を開始しています」

既存技術と少しのアイデアで、ろう者の社会進出は劇的に進む

『SLinto Dictionary』のベータ版。大学1年生の時、授業の「特許」に関するビジネスコンテストでこの企画を発案。実際に特許を取得するまでに至った。

『SLinto Dictionary』のベータ版。大学1年生の時、授業の「特許」に関するビジネスコンテストでこの企画を発案。実際に特許を取得するまでに至った

『SLinto Dictionary』のもともとの発想は、「手話のWikipediaを作りたい」という思いと、「手話をキーボードに落とし込む」というアイデアから生まれている。『テルテルコンシェルジュ』にしても、SkypeやFacetimeなど、すでに世に出回っている技術を活用したサービスだ。

このように、大木氏が「手話ビジネス」を考える際には、新しい技術を必要としない。既存のテクノロジーやサービスを組み合わせただけで、聴覚障がい者の方々の生活が格段に豊かになるのだ。大木氏がアショカ・フェローに選出されたのも、こうした考え方が高く評価されている。

「最近でこそテクノロジーが障がい者のために使われていますが、聴覚障がい者のために使われる機会は少なかったんです。その原因は、『耳が聞こえなくて手話も使えないということの不便さ』を、一般の方々がイメージしづらいというところにあると思っています。だから、聴覚障がい者の世界は今でもすごくアナログ。この現状を、テクノロジーで一つ一つ解決していきたいです」

そのためには、継続的に活動を続けなければいけない。NPOやボランティア活動だけでは、現実的に継続が難しい部分も多い。この難題を打開できる可能性が、IT技術と手話を掛けあわせたビジネスにあると大木氏は語る。

現在、シュアールのメンバーは4名。正規メンバーにエンジニアは在籍しておらず、『SLinto Dictionary』や『テルテルコンシェルジュ』の開発については、プロボノで開発したり、シュアールのビジョンに協賛した企業に協力してもらったりと、外注することで運営している。

「わたしたちのビジョンは、『Tech For the Deaf(技術を聴覚障がい者のために) 』。近年、就労支援や職場環境の支援は充実し始めていますが、聴覚障がい者が楽しめる娯楽はまだ多くありません。そんな聴覚障がい者の生活が今よりもっと豊かになり、美術館や、観光にも不自由なく行ける。彼らがたくさんのことを学べて、働けて、遊べるような社会を、テクノロジーを使ってグローバルに築いていきたいですね」

シュアールという名前には、「手話のRegular化を目指す=ShuR」という意味が込められている。聴覚障がい者の目線に立ってみなければ分からないことは多い。大木氏のように、その目線に立ちつつ、テクノロジーとちょっとしたアイデアで問題を解決していけるような人物がいれば、少しずつ、確実に聴覚障がい者の生活は豊かになっていきそうだ。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)



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