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街が丸ごと会場に!Makeで生きる「創客」たちの楽園~Maker Faire Shenzhen 2015レポ前編【連載:高須正和】

タグ : Maker Faire Shenzhen 2015, 高須正和 公開

 
高須正和のアジアンハッカー列伝

高須正和(@tks

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動中。MakerFaire深圳、台北、シンガポールのCommittee(実行委員)、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります。各種メディアでの連載まとめはコチラ

Maker Faire Shenzhen 2015は、3日間の会期に19万3600人の観客、280の出展ブースを集め、アジア最大のMaker Faireとなった。世界最大のベイエリアに並ぶ規模のフェアで、おそらく来年は世界最大のフェアになると思う。

僕は今回、実行委員として会期前からしばらく深圳(シンセン)にいた。実際の出展物、プロジェクトの話は後編記事に書いたので、ここではスケールの話を書きたい。

SFに登場するような、「住民みんながMakerで、ずっとMakeだけで生きている」街があり、そこでは生物が遺伝して突然変異して進化するように、モノが生まれているのだ!

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会場になった、深圳市南山区軟件産業基地(Software Industly Base)

国を挙げてMakeで生きる街、深圳

深圳は、昨年12月に李克強首相が深圳のMaker Space 柴火創客空間(Seeedstudioが運営しているメイカースペース。中国語ではMakerを「創客」と当てる)を訪問し、会員名簿にサインして帰ったことに象徴されるように、国を挙げてMakeに全力を出している。

深圳には秋葉原の30倍大きいと言われる世界最大の電気街、華強北(ファーチャンペー)がある。秋葉原のラジオデパートのような密度で、ヨドバシカメラのような大きさの巨大ビルが10棟以上集積し、世界中の部品が問屋卸で手に入るプロトタイパーには夢のような場所だ。

華強北で売っているものは深圳の周りで製造されている。まさに産地直売で部品や完成品が売られ、分解され、再利用されているのだ。

裏道に入ると道ばたで大量のスマホを分解しているおばさんたちがいる。壊れて捨てられたスマホから加速度センサ、バッテリ、メモリチップなどのまだ使えそうな部品を抜き出し、部品ごとに集め、中古部品として再販売している。この、生産/消費/再利用が一体となった様子を、MITメディアラボの伊藤穣一氏は「世界の製造業のエコシステム」と呼んだ。

とはいえ、これはあくまで「製造」業にすぎない。アメリカ人とか日本人が発明して設計したものを製造しているのが深圳の役割で、それはMakerとは別の種類の生き方のはずだった。これまでは。

深圳が製造業の中心地になって数十年が経つ。

分解して部品を再利用できるぐらい、コピー品が作れるぐらいに、深圳の街には設計・開発能力が蓄積されていて、熟練のエンジニアたちも集まっている。Kickstarterで見られるような小ロットの発明品、Makerが市場に出そうという最初の一歩の多くは、発明家が深圳に協力工場を見つけて、一緒になって作っている。深圳の人たちが自らKicksterterに製品を出すことも増えてきた。

かつて製造だけを請け負っていた街が、今は発明そのものや、少なくとも「発明家の手伝い」ができるようになっている。一方で単純な組み立て、言われた通りに動く仕事は、給料が上がってきたこの街から、中国の奥部やベトナムなどにシフトしつつある。

今年、深圳は大きく方針を変更した。製造業の中心地としての蓄積を活かして、「発明・発明家の手伝いをする街」に。つまり、Makerの街が誕生したのだ。

その華強北を代表するビル、SEG ELECTRIC Marketには今、「創客中心」の文字が高々と掲げられている。世界で一番大きい電気街が、「Makerの中心」と大看板を出しているのだ。

半年前に深圳を訪れた時はこのサインはなかったので、すごい勢いで全体をMakeに向けているのが窺える。

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創客中心の文字が躍る電子市場ビル

準備だけで数週間、街を挙げてMakerFaire

今回のMaker Faire Shenzhenは、一角まるごと新しく造成したソフトウェアパーク深圳市南山区軟件産業基地にて行われた。

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近代的なビルが建ち並ぶソフトウェアパーク

ソフトウェアパークが、まだ重機の音が途絶えず、テナントもほとんどが営業開始前の状態。Maker Faire業務のほとんどを行っているSeeedstudioも、フェア2週間前にこちらに移ってきたばかりだ。

広大なソフトウェアパーク全体にMaker Faireのバナーが張られ、街区すべてがブースに変わっている。

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ビルの側面全体にMaker Faireのバナーが

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街区はすべて屋外ブースに変わる

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MakerFaire深圳の会場

会場を地図ソフトで見たところ、縦横600m×200mほどで、約12万㎡の面積がMaker Faireに使われている。もちろん多くのスペースはビルが建ち並んでいるわけだが、幕張メッセ全部のさらに倍ぐらいのスペースの中にブースが並んでいるわけだ。

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街区のあちこちにスローガン「I’m A Maker, 人人都是創客(We are makers)」が並ぶ

この人人都是創客(We are makers)は、別の日に東莞(ドングァン)市にある中山大学を訪ねた時も大書されていた。僕は2週間ほど前に現地に入ったが、その時から準備は途切れなく続いていて、Maker Faireの1週間後に現地を訪れた時もまだ撤収作業は続いていた。

街をまるごと巻き込み、会場の設営だけで数週間を要するような大きなイベントということなのだろう。

急成長した深圳のMakerシーン

深圳のMakerシーンは昔からあったものではない。僕が2014年の12月に訪れた時、市内で「創客」の文字を見かけることはほとんどなかった。

中国で最初のMaker Faireが開かれたのはこの深圳、2012年4月のことだ。深圳のMaker支援企業Seeedstudioは、PCB基盤作成サービスのFusionPCBを2008年から展開し、Grove Kitなど、初心者やベテランまで世界中のMakerを対象にビジネスを広げている。

深圳のMakerシーンは成長を続け、翌年2013年4月に東京で開かれたMaker Conferenceで、社長のエリック・パンは「世界のMakerの中で最もすごい人」と小林茂先生に紹介されている。

2014年のMakerFaire Shenzhenは3万人の入場者を集め、アジア最大のMakerFaireとなった。僕は去年初めて深圳を訪れて、レポートを書いている。

去年のフェアもすごく楽しめるものだったが、今年はさらに6倍に拡大した、国内のフェアからは想像しづらいものだ。20万人弱という来場者は、コミケやニコニコ超会議に匹敵する。どの参加者も「全部見た」とは言えないサイズのものになる。

去年までのMaker Faire Shenzhenは、Seeedstudioが主催していた。会場を借りる、スポンサーを集めるなどの作業含めて1社が行っていたわけだ。

2014年当時のSeeedstudioの社員は80名ほど。超会議を運営するドワンゴに比べるとだいぶマンパワーが少なく、かつ生産ラインで働くエンジニアなどさすがに業務から外せない(あと、英語使えないと運営スタッフはきつい)人たちも多いから、体感では英語得意なマーケティング系の20人ほどが走り回って運営を回していたように思う。

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去年のフェアの様子。その後友達になったスタッフも多いので、後で写真を見返すとどこのセクションの人だかわかる。英語得意なマーケティング系のスタッフ20~30人ぐらいが走り回っていたように思う

今年から主催が変更になり、柴火創客空間(Chaihuo Maker Space)と南山区政府(中国の行政で言う区は日本で言う市ぐらいのレベル。南山は大きい区で、東京23区や政令指定都市ぐらいの力がありそう)の主催、協力に深圳市投資控股有限公司(政府系投資ファンド。深圳市は、日本で言う県や都ぐらいのレベル)、特別協力に万科企業控股有限公司(中国で一番大きい不動産デベロッパー。六本木ヒルズを作っている森ビルとか、そういうサイズの企業)となった。

柴火創客空間はSeeedstudioがすべて出資したMaker Spaceだが、Makerすべてのための公益的なものだ。今回のフェアを、深圳市の力が結集されたパブリックなものとするために、主催がMaker Spaceとなった。

つまり、わずか半年で全体がMakeに向けて結集されたのだ。政府の力が強い国はこういうところが強い。

深圳は製造業の街である。深圳だけで1000をはるかにこえる設計・製造の工場があり、隣の東莞や広州などにはさらに大きなスペースを必要とするスクーターや3Dプリンタ、自動車などの工場がある。深圳だけで東京と同じぐらいの人口を抱えているので、首都圏よりも大きな面積と人口がほとんど製造業をやっている(ソフトウエア産業も最近発展しているが)と考えると想像しやすいと思う。

とはいえ、大量ロットをひたすら組み立てまくる工場としては、もはや最適地ではない。

人口と土地、最低限の安全さえあればゼロから生産ラインを組み立てられるFOXCONNや、自動車メーカーといったビッグプレーヤーたちは、中国の奥地や、ベトナムやインドネシアといった新興国に進出している。1980年代から急激な発展を遂げた深圳は、人件費も土地代も上がり、もはや「安価を求めてくるところ」ではない。

でも、30年間「世界の製造業の中心」として育った熟練工や金型職人がいる。

もちろん、「お上」が指示して差配すると、イベントとしては疑問符がつく。大プロモーションが始まると、よく分からないけど流行りモノに乗りたい人たちが入ってくる。深圳でのMakerは、バズワードの性質もある。

Maker Faire Shenzhenの基調講演は、世界のMakerサポートビジネスの代表者Seeedstudioのエリック・パンが、深圳の歴史について語るプレゼンから始まった。6分ぐらいの短いスピーチに示唆が多く詰まっている。

今の深圳の過熱ぶりについて、「Maker(創客)が、すごく知られるようになったことで、言葉だけが一人歩きして、最近ではMakerって名前のヘアサロンまで登場した」なんて苦笑交じりにプレゼンしていた。

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これぞバズワード。ヘアサロン「Maker」(笑)

しかし、僕らは今も笑っている!

エリック・パンのプレゼンは、自分たちの歴史について、「2008年に自分たちが趣味でMakeを始めた時は、楽しみのために太陽光を集めて火をつけるみたいなことをやっていて、お金を生むことなんてできていなかった。でも、多くのMakerが海外から深圳にやってきて、自分たちのアイデアを深圳の人たちと協力して実現化し始めた」という話から始まる。

そして、深圳に世界のMakerが集まり、Seeedstudioが300人近い大企業になった今、Makerのビジネスがお金を生むようになって自分たちの世界が変わり、中国の首相が深圳のMakerスペースを訪れて、大量の起業家が深圳から生まれるようにもなった。

「だけど、ぼくらは今も笑っている。パッションは同じだ」と言い、Arduino/GenuinoプロジェクトのCo-founder、Massimoを紹介して終わる。

僕は深圳は今も、Makerとコミュニティの街だと思っている。他の国とは違う形かもしれないけど、大きくなって有名になって、パッションが失われたとは思わない。

深圳のフェアに、どういうパッションの産物が集まったかは、後編をお楽しみに。

>> マンガのような発明品が目白押し~Maker Faire Shenzhen 2015レポ後編

告知です

■7月25日(土)~26日(日)東京・秋葉原のDMM.Make AKIBAにて、出展自由の物作り系イベント NT東京2015を行います。また、去年大好評だったギーク向けダンスパーティー「新宿Aki Party」を25日(土)の夜に行います。こちらも出展、ご来場お待ちしています!

■7月29日水 17時から、今回の記事でも登場したSeeedstudioのエリック・パン氏と僕が、明治大学中野キャンパスで講演を行います。こちらもぜひご参加ください。

>> 高須正和氏の連載一覧




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