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人工おかあさんは、実家を出るときにビットコインを持たせてくれるのか?【連載:川田十夢】

タグ : ディープラーニング, 人工知能, 拡張現実 公開

 

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この連載は、読者層であるところのエンジニアへ向けた手紙のつもりで書き始めた。プログラム越しに現実世界と接続することの楽しさ、虚しさ、苦しみ、喜びについて書いてきた。流浪のプログラマとしてプロジェクトごとに数々の大企業を渡り歩く敏腕から、覚えたてのプログラムでようやくひと仕事終えた若手まで。エンジニアという仕事は、世間一般に理解されにくい。顔も表情もない世界だと思われている。そんなこと全くないのに、おかしな話だ。

すべての記事の更新が止まり、事実上の廃刊となるエンジニアtype(※編集部注:更新停止とリニューアルのお知らせ詳細はコチラ)。最終回となる本稿では、実際に触れてみて明らかになった人工知能の可能性について掘り下げつつ、読者を取り巻く明るい未来について、要するに「伊藤編集長、担当の小禄くん、おつかれさまでした。エンジニアtypeというマインドは不滅です!」について、書きます。

触れる前のイメージと、触れたあとのイメージ

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人工知能について。メディアが変な煽り方をするものだから、人間の職業を奪うだけの悪者のように感じている人が多い。僕がイメージする人工知能は、むしろ逆。学習のさせ方や表情の与え方によって、人間ひとりひとりの経験や感覚を尊重することになる。記録できないものが記録できるようになり、買えなかったものが買えるようになる。感覚とは何か、痛みとは何か。天才はなぜ天才なのか。人間に対する理解が深まる。母を想うように、人工知能を大切にする時代は必ずやってくる。

どんな新しい技術であっても、まずは触れる前にイメージを膨らませておきたいものだ。人間の想像は、GoogleMapのように拡大縮小ができる。逆にいうと、それができないイメージは、点に過ぎない。文化や時代、文明といった大きなスケールで印象を残せない。つかの間の夢花火、私の心は夏模様、夢が覚めて夜の中、永い冬が窓を閉じてしまう。

季刊猿人という、文化から文明のサイズまで丁寧にあつかうフリーペーパーがある。僕はそこで、占いコーナーを担当している。未来の星座を勝手に占おうという趣旨。ユーモア仕立てであるものの、技術に触れる前のイメージとして適切なのでひとつ紹介したい。2年前の冬に書いたものだが、だいたい2045年まで使えるものとして設計してあるのでまだまだ新しい。最初に出てくる触覚プログラマは、文字通り触覚に特化したエンジニアだ。視覚、つまりディスプレイに触れるスマホのような筐体に次に備わるべきは触覚によるフィードバックであり、その開発とデバッグを担う職業が生まれるのは必然である。【健康運】の欄で、「デバッグのやり過ぎ、皮膚炎に注意」とある。現代のプログラマが目と腰に強い負担を感じているのと同じく、未来のプログラマは皮膚感覚の疲労を覚えることになる。他にも、生体認証デザイナー、オキュラス建築家、Photoshop探偵、ビックデータ占い師など、興味深い職業に関する記述があるが、それは紙面で確認してほしい。最新号では、まさに人工知能の使い道について先回りして占っている。

ゴッホより普通にラッセンが好きって、本当ですか?

イメージを十分に膨らませたあとに開発者が行うべきは、実際に技術に触れてみて現実に落とし込むことだ。触れてもいない技術について雄弁に語るのは、予想屋さんに任せておけばよい。僕たち開発者の仕事は、人類の多くがまだ触れていない冷たい印象の技術に、温かい表情を与えることなのだ。

まずは、A Neural Algorithm of Artistic Stlyeという論文で明らかになったアルゴリズムについて書いておこう。任意の画像からパターンを分析・学習してスタイルを確立、モデルとなるコンテンツ画像を根拠に結果を出力するというもの。つまり、画家の画風を学習して、好きな画像を絵画にしてくれるということでもある。具体的な実装には、Neural-Styleを使った。Ubuntu(アフリカのズールー語で「他者への思いやり」を意味する、とにかくやさしいLinux系OS)とTorch(ディープラーニング:深層学習を実装するためのC++ライブラリ)と CUDA SDK(NVIDIAが提供するGPU向けのC言語の統合開発環境)さえ用意すれば、わりと簡単に動く。そのため、世界中のプログラマによって肖像権と著作権を無視したフリーダムな試みが実装されている。技術展開のパターンは、だいたい萌芽とともに出尽くして、あとは制約という名のダウンスケールへ向かう。旬なうちに旬な話題を、まずは扱っておくべきなのである。

「ゴッホより普通にラッセンが好き!」「ピカソより普通にラッセンが好き!」という絶叫とダンス。一発ギャグとして普通にテレビから流れてきたときは、たいそう驚いた。そのまま美術史の教科書に載せてもらいたいと思った。でもきっとそれは叶わないし、多くの一発ギャグがそうだったようにやがて飽きられてしまう。永野の功績を讃えて、絵画として(自分なんかホント生意気なんですけど)残してみることにした。

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左から、人工ゴッホ、人工ピカソ、人工ラッセンに描いてもらった。個人的には人工ピカソが描いた永野がいちばん好みだが、当事者はどう感じるのだろう。Twitter越しに確認してみた。忙しいのか、気持ち悪いと思われてしまったのか、いまのところリアクションは何もない。

当事者がよく思わない問題について

画風を人工知能に覚えさせて、さまざまな対象をスケッチしてもらうのは楽しい。技術者が一方的に楽しくても、当事者が楽しくないのであれば、技術は浸透しない。モデルであるところの永野からのリアクションはなかった。では、ゴッホとピカソとラッセンはどう感じるだろうか。説明を間違えると、きっとおもしろく思わないだろう。こんなもの、自分の作品の劣化コピーに過ぎないじゃないか。きっと苦情が出てくるし、権利保持者から訴えられる可能性だってある。これは画家に限った話ではない。もはや人工知能は、音楽や小説などといった芸術分野から、投資や法律や医療にまつわる産業分野まで、多くの領域に及んでいる。正しい正しくないの倫理的な判断さえも、人工知能が司る時代が、遅かれ早かれやってくる。技術開発はもちろん大切だが、当事者とどういう会話を重ねてゆくのかも、重要になってくる。

人工知能が流行ると、予防医療が進む。交通渋滞が減る。

機械やプログラムがこれまで担ってきたのは、ざっくり言うと自動化だ。自動販売機は硬貨を投入するだけで温かいコーヒーを無人で提供してくれるし、ETCや自動改札機の登場によって狭い空間での人間の立ち仕事は少なくなった。時代がひとつ進むたびに、反発は必ず生まれる。自動改札機が導入されたときも、当事者であるところの職員からは、強い反発があった。しかし、すっかり自動改札機が浸透した現在では、どうだろう。新入社員にうっかり切符きりを強要したら、自ら辞めていってしまうのではないか。利用者からしても、いまさら切符の時代には戻れない。自動化が進むたびに、自分がやらなくてもいい仕事をスキップできるようになる。スキップして生まれた余白から、人間にしかできない新サービスや時間の余裕が生まれてくる。歴史が証明している。

深層学習によって拡張された人工知能は、これまでのような単なる自動化を担うだけではなく、より専門的かつ超人的な特定の人間の経験を、何かに宿したり持ち歩いたりできるようになる。ニーズの面から逆算すると、待ち時間が必要なサービス全般が、よりカジュアルに利用できるようになる。たとえば、病院に行くのは面倒臭い。待ち時間も長い。休みを取ってまで足を運ぶイメージが湧かない。本当に危ないときにしか、病院のお世話にならなくなる。結果的に、予防医療という意味で遅れてしまう。国が負担する保険料が嵩張る。本当に危ないときにだけ、救急車を呼ぶ。環八と甲州街道が混み始める。時間を取り戻そうと、ドライバーは高速道路で無茶な運転をする。事故が増える。予防医療の遅れが、渋滞を呼ぶ。悪魔の循環プログラムである。

病院に行くまでもないけど、ちょっと心配なことは人工知能で済ませたい。膨大な待ち時間の末に、医者と対面しなくてはいけない医療行為は、どう考えても敷居が高い。人工ドクターが内蔵されたカジュアルな医療機器で、自分がどんな状況か事前に確かめたい。あらゆるセンサーを搭載した、医療行為の自動販売機があってもいい。処方箋がプリントされて、処方された薬がその場でバタン。その場で買えたらもっといい。

これ、私がやらなくちゃいけない仕事ですか?

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当事者の話に戻そう。カジュアルな医療行為が広く一般に浸透したとして、医者はどんな実害を被るだろう。きっと大きな被害は受けない。それどころか、忙しすぎる現在の状況とプレッシャーから解放されて、心の余裕が生まれるに違いない。

プロフェッショナルの誇りがあればあるほど、「これ、私がやらなくちゃいけない仕事ですか?」と感じる場面がある。存在を聞きかえすような無粋な行為を、その人に頼むしかないというだけで、簡単にしてしまう。これもまた悪魔の循環だ。もしもまだ生きているとして、ピカソに「日本に芸人の永野っていうのがいてですね、彼があなたに敬意を表してお笑いのネタにしてて、ぜひ彼をモデルに絵を描いてもらいたいのですが、いかがですか?」「ちなみに永野は、あなたよりもラッセンが好きらしいです。普通に」と伝えたら、彼はどう感じるだろうか。全世界で有名な彼のことだ。このオファーが許されるならば、対応しなければならない注文は無限にある。ミステリアス・ピカソというドキュメンタリー映画を見ただけでも、彼が一枚の絵を描き終えるまでに相当の迷いと時間が必要であることがわかる。その前提のもとで、カジュアルにピカソの画風を楽しめる人工知能が存在したらどうか。人工ピカソが一枚絵を描くたびに、著作権料が本人や家族に入るとしたら。それが世界各国で無限に繰り返されたら。誰も損をしない仕組みではないだろうか。

ピカソはほんまに天才か?

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開高健が圧倒的な熱量をもって、自らの美意識について一切の妥協なく書き下ろした『ピカソはほんまに天才か?』というタイトルの本がある。その内容は映画・コマーシャル・デザイン・絵画など多岐にわたる。この文章が書かれた1984年、没後11年が経過し、ピカソが天才であることを誰も疑わなくなっていた。無条件に作品を賞賛した。そんな状況のなか、もはやピカソの絵画は、そのものから受けるエネルギーを失っていると開高は評した。確かに、多くの画家が影響を受けたかも知れない。そんなことは私には関係ない。一枚の絵画として目の当たりにしたときの印象は、限りなく薄い。「単なる煽動家に過ぎなかったのではあるまいか」とまで書いてある。時代性を前提とすると、痛快な指摘であるものの、少し寂しい気持ちになる。

ピカソの絵を、同時代にリアルタイムで鑑賞した者が感じた衝撃を、一枚の絵画から推測することはできても、復元することはできない。絵の具が退色するのに比例して、衝撃のエッジは時間とともに失われてゆく。しかし、現在に題材とすべきモデルが存在して、それを人工ピカソに描かせてみたらどうだろう。少しでも評価は変わらないだろうか。確固たるスタイル、そして独創的な色彩を生み出したパブロ・ピカソという孤高の画家への敬意が、装いも新たに時代を越えて広がってゆかないだろうか。そして、人工知能として蘇った人工開高は、同時代感覚をもってどのように評するのだろうか。こんな想像を巡らせるのは、果たして不遜なことだろうか。

イメージと予想は、大きく異なる。予想屋は、虚数を実数のように提示するのが仕事。当たらなくても責任は取らなくてよい。エンジニアは、実数から虚数を導くのが仕事。起きながらにして、夢を見なくてはいけない。それを、現実に示さなければならない。あなたが抱くイメージが、すなわち未来を象ってゆく。連載はここで終わる。だいじょうぶ、あなたがいれば世界は明るい。

AR三兄弟の微分積分、いい気分。

AR三兄弟・長男 川田十夢(@cmrr_xxx

1976年熊本県生まれ。通りすがりの天才。1999年メーカー系列会社に就職、面接時に書いた『未来の履歴書』の通り、同社Web周辺の全デザインとサーバ設計、全世界で機能する部品発注システム、ミシンとネットをつなぐ特許技術発案など、ひと通り実現。2009年独立。開発者、AR三兄弟、公私ともに長男。2011年 TVBros.連載『魚にチクビはあるのだろうか?』スタート。2013年 情熱大陸、2014年 舞台『パターン』作・演出・開発、2015年 NHK『課外授業 ようこそ先輩』。J-WAVE『THE HANGOUT』毎週火曜日23時30分から絶賛放送中。東京藝術学舎にて、2016年2月6日7日集中講座『拡張現実全論』開高もとい開講。申し込みはすでに締め切り、満員御礼。お楽しみに。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://ar3.jp/




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