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宇宙より真心をこめて。消えない絵になるまで。【連載:川田十夢】

タグ : AR三兄弟, YO-KING, コルク, 佐渡島庸平, 宇宙兄弟, 川田十夢, 真心ブラザーズ 公開

 

SFというジャンルは、まことに不思議だ。サイエンス・フィクションなのだから、科学的根拠とその飛躍だけに評価の基準が置かれてもいいはずなのに、あんまり通用しない。「人間がしっかり描かれている」という評価がないと、とたんに駄作だと酷評されてしまう。

おいしい魚への最大の評価が「お肉みたい」だったり、おいしい肉への最大の評価が「ジューシー」であったり、逆に果物を褒めようとして「魚みたい」「お肉みたい」では通用しなかったり。人類は、褒め言葉ひとつ使うにも、気を遣わなくてはならない。

複雑な文明のタームに差し掛かっている。こんな時代に於ける物語の中の兄弟の在り方について、書きます。

地球三兄弟ってネーミング、AR三兄弟っぽくね?

地球三兄弟、活動発表当時の嘘みたいなアー写

隕石のように、突然降って湧いた話だった。ユニコーンの奥田民生と、真心ブラザーズの二人が、地球三兄弟という名前の新ユニットを始動させるという。2012年9月のことだった。

僕らはちょうど、拡張現実オーケストラの準備をしていたころ。地球三兄弟は、三人ともパーカーを頭に丸かぶりしていた。嘘みたいなアー写だった。また、ノリで何か始めたのだろうくらいにしか、気に留めていかなった。

これがまさか、宇宙と地球を巻き込んだ、大いなる兄弟の物語につながるなんて、この時点では知る由もなかった。

編集者 佐渡島庸平と、重ねてきた会話。

佐渡島庸平は、この頃。小山宙哉や安野モヨコといった蒼々たる漫画家や作家のエージェント会社としてコルクを立ち上げ、独立したばかりだった

地球三兄弟結成の少し前、佐渡島庸平という編集者と知り合っていた。鈴木康広というアーティストと行ったトークライブ(「対話のスケッチ」)を、聴講しに来てくれたのがキッカケだった。彼のことは、すでに知っていた。

宇宙兄弟やドラゴン桜といったヒット作を生み出した、稀代のヒットメーカー。軽やかな文体の、宇宙兄弟のtwitterも人気だった。その中の人という印象もあった。既存の枠にとらわれない、数々のコラボ作品の妙技がとにかく見事だった。

価値に乗っかるというより、価値の源泉から生み出して、交差させて、飛距離を出す。一度、ゆっくり話をしたいと思える人物だった。

一度ゆっくり話をしたら最後、今日に至るまで、週に一度は佐渡島庸平と会って話をするようになった。内容は多岐に渡る。途轍もなく膨大で、その中には物語と現実の関係性を大きく揺るがす発見や発明が多く含まれている。そのうちの一つに、宇宙兄弟とAR三兄弟のコラボレーションの話があった。

わりと深刻だった、AR三兄弟存続の危機。

三男卒業を記念して行われたライブ、三男最後の日のキービジュアル

2012年から2013年といえば、AR三兄弟としても大きな岐路に立たされた時期であった。三男として活動していた小笠原雄が、脱退したいと申し出たのだ。理由は、AR三兄弟としての活動と、自らの作家としての活動の両立ができないということだった。

彼が学生の時からの付き合い。僕が作った組織以外の社会のことを、彼は知らない。一人で何かを始めたいという気持ちも分かった。ただ、AR三兄弟の長男であり、AR三兄弟という物語の作者でもある僕には、それを簡単に受け入れることはできなかった。まだ三男が脱退するというシナリオが、描けていなかった。だから、多忙に任せて、明確な返答を先延ばししていた。

『近未来は今』の企画・開発合宿をしていた沖縄で、深夜に突発的に放送した三兄弟のUstreamの中で、小笠原雄のフラストレーションは頂点に達した。

ハブ酒やら華酒やら、沖縄で摂取できるアルコール分をすべて摂取したあとの放送であったため、厳密にどんな会話が交わされて終焉を迎えたのか定かではないのだが。あの放送の中で、AR三兄弟の三男としての小笠原雄は、終わった。

公私ともに長男であるところの僕は、自他ともに認める天才でもある。AR三兄弟の存続なんて、大した問題だと思っていなかった。また、新しいユニットを作ればいい。会社でもいい。個人で、何かを始めてもいいだろう。ただ、弟のことが心配で仕方がなかった。

小笠原雄は、作家になりたいと言う。作家で、食えている人間がどれだけいるだろうか。作家としての入り口は、三兄弟を続けながらの方が、広がるのではないか。それでも、辞めたいというのだから、辞めさせてあげるべきだろう。

AR三兄弟は、存続させるべきか? そもそも僕と髙木伸二と小笠原雄、三人の存在があって、当て書きのように書き下ろしたシナリオだった。誰か一人抜けるのであれば、潔く看板を下ろすべきではないか。さまざまな考えが、浮かんでは消えた。僕は途方に暮れて、現実の重力から逃げるように、宇宙兄弟の単行本を読み返した。

物語の中の兄弟のことは、物語の中の兄弟にしか分からない。

宇宙兄弟でいうところの、長男。南波六太は、先に宇宙に行った弟の日々人に対して、コンプレックスを抱いている。大きく遅れをとりながら、兄としてのプライドを保ちながら、弟と交わした約束を果たすため、宇宙を目指している。

兄らしく振る舞おうとして空回りするも、やっぱり人間としてかっこよくて正しい六太は、公私ともに長男であるところの僕を、大いに励ましてくれた。

思えば、三男になる前の小笠原雄は、僕よりも遥かに優秀だった。2008年、音景というコンペティションで、腕試しとしてそれぞれ自由に作品を作って応募して、彼は審査員のコーネリアスの心を射止めたのに対し、僕は審査員のFPMの視界にさえ入らなかった。

クリエイティブチームのリーダーを務めていた僕が、部下の作品に劣ってしまった。組織に、あるまじき事態。赤っ恥もいいところ。僕はみっともないので、クリエイティブチームを解散して、会社を辞めようとまで考えた。

でも、賞を射止めた張本人。小笠原雄は、それに浮かれる気配もなく、「川田さんの作品。僕は好きですよ。」と、声を掛けてくれた。「僕の作品だって、川田さんからもらったヒントがなければ、完成しませんでした。」とも、付け加えた。

なんて、いい奴なんだ。そして、なんて素晴らしいスタッフに、僕は恵まれているんだ。凹んでいる場合ではない。この最高のチームで、最高の作品を作ろう。吹っ切れた僕は、天才としての自信を完全に取り戻し、コンペティションを勝ち抜く作品をいくつか残し、AR三兄弟のシナリオと作品の設計図を書いた。

宇宙兄弟を読み返して、それを思い出した。

三男が三男でなくなっても、物語の向こう側でつながった兄弟の絆は消えない。むしろ、素晴らしい門出じゃないか。AR三兄弟も、終わらせる必要なんてないじゃないか。抜けた三男を、どこか抜けている長男を、完全にサポートできる次男がいるじゃないか。賞を逃し、小笠原雄が声を掛けてくれたあの時と同じ。吹っ切れる思いがした。

それにしても小山宙哉という作者は、なんでこんなに物語の向こう側に生息する兄弟のことを分かっているんだろう。会ったら一度、お礼を言おう。思っていた矢先に持ち上がったのが、宇宙兄弟とAR三兄弟のコラボの話だった。

宇宙兄弟、真心ブラザーズ、AR三兄弟。モーニング誌面でそろい踏み。

2013年4月4日に発売された、モーニングの表紙。
宇宙兄弟の長男こと南波六太が、白衣とカクメット姿に

宇宙兄弟の編集者、佐渡島庸平からのオファーは、宇宙兄弟と真心ブラザーズの拡張を、週刊モーニングで適えて欲しいということだった。

なんでも、真心ブラザーズが、アニメ宇宙兄弟の主題歌を担当することになったのだそうだ。偶然は必然。勝新太郎(次男/長男は若山富三郎)がかつて明言したように、この三者の共演は偶然ではなく必然だった。

誌面上で、宇宙兄弟原作者の小山宙哉先生と、真心ブラザーズと、AR三兄弟とで、対談をする機会にも恵まれた。この日本を代表する二大兄弟を前に、僕はいつものように振る舞った。そんな僕を、天才YO-KINGはこう評した。「長男、天才だわ。天才が天才として振る舞うの、難しいからね。そういう意味で、ほんと天才。」

ついに、天才に天才と認められた。空に舞い上がる気持ちだった。完全に調子に乗って、自分のTwitterの背景がジョン・レノンであることを明かしたが、これにはYO-KING。グッと来てない様子だった。桜井さんは、そんな僕たちのやり取りを、優しい眼差しで見ていた。ほんの一瞬だけど、真心ブラザーズのオーラの秘密に触れた気がした。

小山宙哉先生に、「物語の中の兄弟の気持ちは、物語の中の兄弟にしか分からない。宇宙兄弟を読んで、励まされる思いがしました。」と、伝えることができなかった。完全に舞い上がっていたこともあるが、照れくさかったというのが正直なところ。本当のことは、なかなかそのまま伝えられない。いつか、感謝とともに、伝わればいい。

対談を終え、真心ブラザーズと小山宙哉先生が、取材場所であった会議室から去ろうという場面。YO-KINGが「今日は楽しかった。長男はほんとに天才だと思う。」「ただ、俺の天才は安いけどな。誰にでもすぐ、天才って言っちゃうんだわ。」と、最後に付け加えた。脳内長男が静かにズッコケつつ、やっぱりYO-KINGはかっこいいと感じた。

僕が天才かどうかなんて、これから現実にする事実と比べたら、大したことではなかった。

アニメ「宇宙兄弟」最初の主題歌『Feel So Moon』のMVに思ったこと。

週刊モーニングの対談のあと、アニメ宇宙兄弟の新しい主題歌のミュージックビデオを撮ることになった。歌うのは真心ブラザーズ。今まで、ミュージックビデオなんて撮ったことなかったが、天才だから撮れると確信していた。

ただ、普通に撮ってはいけないという意識だけがあった。既存の枠組みの中で機能する、かっこいいだけのミュージックビデオを撮っても、それはAR三兄弟の仕事ではないからだ。

加えて、PARTYという世界的にも有名なクリエイティブラボが、ユニコーンが宇宙兄弟の主題歌を歌った時のミュージックビデオを過去に手掛けていた。アニメーションと漫画を行き来するかのような、手の込んだ演出。確かなクオリティで多くの支持をあつめ、賞を総なめにしていた。

僕がAR三兄弟じゃなかったら、諸手を挙げてよくやってくれたと狂気乱舞していたと思う。ただ、悲しいかな。僕は公私ともに長男である。自分が描いた物語の中で、弟を失ったことがある。映像がかっこいい半面、やっぱりどこか無機質な感じがしてしまう。宇宙兄弟に漂う人間臭さだとか、関係性だとかユーモアが、あれでは見えてこない。単行本を折り曲げたりする演出も、好みじゃない。

単行本は作者にとって、作品であると同時に、分身でもあるはず。僕は、僕にしか可視化できない大切なものを、僕にしか分からないルールで、しっかり作り上げよう。それが、ミュージックビデオの範疇に収まらないものであっても、構うものか。覚悟を決めた。

消えない絵が、消えない絵になるまで。

真心ブラザーズが、宇宙兄弟のために書き下ろした新曲『消えない絵』は、宇宙兄弟という壮大かつ緻密な兄弟の物語の主題歌に相応しい楽曲だった。それはまるで、真心ブラザーズの二人について歌っているようでも、作者である小山宙哉と真心ブラザーズのことを歌っているようでもあった。また、都合のいい話だが。三男が抜けてもなお活動を続けようとするAR三兄弟のことを歌っているようにも感じた。

聴く人間によって、色々な聴こえ方がするというのは、いい曲の証拠。僕はまず、絵コンテに着手した。

言葉を交わすまでもなく伝わる、兄弟の距離というものがあるに違いない。真心ブラザーズには、キャッチボールをしてもらおう。あと、小山宙哉先生が、今回のシングルのために書き下ろすジャケットは、まさに消えない絵だ。もし許してもらえるならば、それを撮影させてもらおう。勝手に感情移入してしまっているAR三兄弟も、やっぱり出演させないといけない。複雑に関与し合うすべての要素を可視化できるのは、やっぱり彼らしかいない。

グリーンカードを登場させるアイデアは、佐渡島庸平から出たものだった。

“真心ブラザーズと小山宙哉が会った回数は、実際は数えるほど。それでも、両者はお互いに深く影響を与え、信頼し合っている。 両者が言葉にしてこなかったこと、見えてなかった関係性を、AR三兄弟が可視化してゆく。”

ミュージックビデオのシナリオの冒頭に配したコンセプトの言葉も、ほぼ彼が考えたまま残している。撮影とインテリアデザインは、岩沢に頼んだ。兄弟のことは、兄弟に相談した方がいいからだ。あと、未来の質感は、未来楽器という発明をした中井ナオトさんにアドバイス頂いた。最後に登場するインフォグラフィカルな年表のモーションデザインは、山崎浩太朗さんに依頼した。

消えない絵が、消えない絵になるまで。多くの人が関わってくれた。レコード会社担当も、真心のマネージャーさんも、照明さんも。要望に一つ一つ答えてくれた。

「星をつないで 絵を書いた 僕らは自由に 心が震える方へと 空の画用紙に 消えない絵になれ」

まさに、そんな気持ちだった。

Augmented Radioの針が、2029年を指す理由。

ミュージックビデオの最後に登場するインフォグラフィックは、時系列で真心ブラザーズと宇宙兄弟の関係性を可視化するものになっている。

ラジオの周波数をあわせるみたいに、2029年の未来とチューニングしている。Augmented Radioと銘打ったその機能は、週刊モーニングで三者が共演したときにリリースした宇宙真心ARというアプリケーションにも実装されている。アプリには、月の場所を探せるレーダーが内蔵されていて、月を探し当てることに成功すると、2029年に放映される予定のラジオ番組を、先行して聴くことができる。

番組MCは、アニメ宇宙兄弟の南波六太役をつとめた平田広明さん。60才で還暦を迎えた真心ブラザーズが、過去という名の未来を振り返る。そこでしか交わされない、物語の中の兄弟同士の、生きた会話がある。

人間がしっかり描かれているから、気が付かない人が多い。もう一度だけ、補足しておく。宇宙兄弟は、実はSFとも呼べる設定の未来の物語である。真心ブラザーズは、2029年に晴れて40周年を迎える。還暦を迎えてもなお、KING OF ROCKの称号を欲しいままにしている。そして、これを記念するラジオ番組を2013年に作ったのが、AR三兄弟である。

AR三兄弟の微分積分、いい気分。

AR三兄弟・長男 川田十夢(@cmrr_xxx

公私ともに長男。日経BPより、「AR三兄弟の企画書」絶賛発売中。TVBros.で「魚にチクビはあるのだろうか?」を隔号で、ワラパッパで「シンガーソング・タグクラウド」を、好評連載中。ここで紹介したミュージックビデオはこちらから、調子に乗ってナレーションまでつとめたコマーシャルはこちらから、未来のラジオ番組を聞けるアプリはこちらから。全部まとめて、耳の穴かっぽじって、お楽しみください。




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