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力のモーメントで、物語と現実のドアを開く。新会社トルクのこと。【連載:川田十夢】

タグ : AR三兄弟, コルク, トルク, 佐渡島庸平, 川田十夢 公開

 

会社が嫌いだ。だって、法人格というだけで法人きどり。なんか偉そうだし、平気で人間を待たせるし、すぐ管理しようとするし、査定までしてくる。名刺でも、当たり前のように一番いい場所に名前が印刷されている。そこだけ、カラーだったりする。たまに、リストラを持ちかけてきたりする。デリカシーがまるでない。人間だったらとっくに嫌われているはずなのに、それを避けるための露骨な特別扱いが、法律によって、もっというと法人税を納めることによって、社会から担保されている。鼻持ちならない。

そんな会社を、自らの手でうっかり設立することになってしまった。しかも、編集者と投資家と開発者という、まるで職能が違う三人で。一体どういうことなのか。そもそも、なぜ今まで会社を作らなかったのか。個人で成立していたものを、会社にしてまで続ける意味があるのか。どんな目論みがあるのか。僕は現代のエジソンになれるのか。多くの人にとってどうでもいいことだが、大切なことなのでまとめておく。

フリーランスとも、ベンチャー企業とも、名乗りたくなかった。

この新会社トルクを立ち上げるまで、僕は単なるフリーランスに過ぎなかった。要するに個人事業主。いち個人として、あらゆる分野の大手企業と仕事をしてきたし、執筆を続けたし、発明を公にしてきた。AR三兄弟としてメディアに出るとき、冗談っぽく「お金でつながった兄弟ですから」と答えることがあったが、冗談ではなく事実だった。僕が個人的にお金を支払うことで、人件費と諸経費を全て負担することで、AR三兄弟は成立してきた。

メーカーからリストラされたときに突き付けられた悪魔の条件も手伝って、最初は資金繰りが苦しかった。持ち前のプレゼン能力で、ARという未知領域を投資対象として持ちかければ、お金は集まったかも知れない。フリーランスだとか、ベンチャー企業だとか、スタートアップだとか、ノマドワーカーだとか、そういう看板を掲げれば、より多くの仲間と出会えたかも知れない。フォロワーが増えたかも知れない。でも、やりたくなかった。AR三兄弟という未来から来たような人たちが、ビジネスを第一に掲げた瞬間に、生活を語った瞬間に、下請けとして振る舞った瞬間に、たちまち失うものがあると考えたからだ。

あと、会社という存在が、やっぱり鼻持ちならない。だって、僕は会社からリストラされたのだ。不要だと言われたのだ。プライドを深く傷つけられたのだ。そんなものを自ら立ち上げてまで、勝ち残らないといけない世界に、何の未来が来るというのだ。会社を作るという選択肢も、僕は意識的に遠ざけてきた。

耐えるべきを耐え、悩むべきを悩み、残すべきを残した。AR三兄弟は、企画・開発・出演をこなし、ジャンルを縦横無尽に越えて展開できるユニークな存在となった。オファーは、引く手数多の状態。ただ忙しいという状態からも脱し、やりたい仕事だけを選べる余裕もできた。個人で十分成立している仕事を、会社にしてまで続ける理由は、特になかった。

佐渡島庸平という稀代の編集者と、出会ってしまった。

去年の秋、あるアーティストとのトークショーの客席に、その男は姿を現した。講談社に入社するなり井上雄彦や安野モヨコといった大作家を担当し、まださほど有名ではなかった三田紀房とドラゴン桜を、小山宙哉と宇宙兄弟を、それぞれ作ってヒットを導いた、気鋭の編集者だ。ちょうど講談社を退社して、作家のエージェント会社コルクとして、独立の準備を進めている段階だった。勿論、彼の名前は知っていたし、宇宙兄弟のネーミングは最高だと思っていた。だから、一度ゆっくり話がしたかった。でも、その夜は用事があって、挨拶だけしてすぐに帰った。

間髪入れずに、厳密にいうとその翌週から、彼と仕事することになった。宇宙兄弟と真心ブラザーズとAR三兄弟が共演するミュージックビデオを作ったり、BUMP OF CHICKENとのコラボを進めたり。そのうち毎週会うようになって、そのうち毎週では足りないという話になって、現在はうっかり共同経営者という間柄になっている。

最初に出会ったときの印象を、佐渡島はこう書いている。
“エジソンに出会ったら、きっと今の僕のような気分だ。エジソンと話して、未来の姿を想像した人は、今の僕みたいに興奮したんじゃないか。川田十夢は、現代のエジソンだ。”
http://bylines.news.yahoo.co.jp/sadoshimayohei/20130918-00028180/

AR三兄弟は、わりと凄いことを大したことなく、おもしろく見せることに長けた開発ユニットだ。こんな風に評価してくれる人は少ない。正直、嬉しかった。半面、戸惑いもあった。確かに、僕はうっかり現代のエジソンにも成り得る可能性がある。天才という自覚もある。でも、それは必ずしも自分自身の人生を豊かにするということではない。エジソンが生涯孤独だったのを、僕は理解している。

エジソンが抱えた孤独について、ドクター中松から逆算した。

ドクター中松と対談したことがある。彼は開口一番「エジソンは大したことない」と、豪語した。エジソンをディスる人なんて、初めてだ。おもしろい。どんどん、話を聞き出した。「彼は所詮、町の発明家に過ぎない。言わば、アマチュアだ。私は違う。発見から発明までを、ひとりで手掛けている。」「フロッピーディスクもFAXもカラオケもパチンコもフライングシューズも、全部私が発明した。」「今回の震災は全て予言していた。マスコミがそれをとり上げなかった。」などと、続けてくれた。エジソン発言の信憑性、そして彼自身が手掛けたという数々の発明の真偽、大震災の大予言。前のめりでお話を伺いつつ、どの話も本当は重要ではなかった。

大発明というのは、同時代にある全ての知見をいったん吸収し、集約し、忘却し、予測し、象らないと、生み出せない。何がオリジナルでオリジナルでないという議論自体が、何が未来で過去かなんてことも含めて、全てナンセンスである。僕の興味は、一点。ドクター中松が、何を楽しみに生きているのかというシンプルな問いだった。これは、おそらく天才発明家エジソンにもつきまとったであろう問題だし、いつか僕だって遭遇するかも知れない深刻な問題でもあった。「ドクターは、あれですか。SF小説とか、漫画とか、映画とか、観ないですか?」恐れていた答えが返ってきた。「読まないし、観ないな。あんなの全部下らない。だって、全部嘘じゃないか。絵空事なら、誰でも書ける。」

発明家は、孤独である。想像の余地から日常の余白まで、夢も悪夢も際限なく、自らの発明に捧げなければならない。小説も漫画も映画も、全部死ぬまで楽しみたい。ゲームは、老後の楽しみにとっておきたい。なのに、いつしか小説は、もう小説として楽しめなくなってしまった。作者の作為に付き合うのが、本当にしんどくなってきた。辞書やシンポジウムで配布されるマニアックなグラフを見て、急場を凌ぐしかなかった。そんな時に出会ったのが、稀代の編集者。佐渡島庸平だったのである。

編集領域、順番の熟考、流通経路の開拓。全てが圧倒的だった。

佐渡島は、会話をはじめるなり、エージェントをやらせて欲しいと申し出てくれた。露骨に答えを渋った。理由があった。僕が作るものは、単なる小説とは違う。物語のなかでも、現実でも、成立させなくてはいけない。どちらにとっても、斬新かつユニークでないといけない。デザインやグラフィックといった、出力が分かりやすい領域でもない。彼が過去に担当してきたどの小説家とも、漫画家とも、タイプが違う。商材として考えると、とても扱いが難しい。なのに、なぜこんなに熱心に口説いてくれるのだろう。不思議に思うと同時に、興味が湧いてきた。ちょうど池袋のカルチャーセンターで彼の編集と企画に関する連続講義がはじまるというのをインターネットで見つけたので、丸半年通うことにした。

生徒として聴講するうちに、ひとつ分かった。彼は、編集領域が途轍もなく広い。これだと惚れ込んだ作家と、有名無名関係なく、生活ごと向き合う。一緒に悩んで、新しい作品を生み出す。苦心の末に傑作を生み出しても、彼の仕事は終わりではない。いい作品だけど売れないという編集者特有の言い訳は、ダサいと思っている。作家を信じた自分の感覚ごと疑うことでもあると、自覚している。結果につながるまで、新しい読者に届く新しい棚を開拓し続ける。

ドラゴン桜という受験を扱った作品では、参考書コーナーの近くに単行本を置いてもらえるよう、各書店にはたらきかけた。孤独な受験生をきっと励ますことができると考えた。書店とひとくくりに言っても、各コーナーの担当者ごとに与えられる役割とモチベーションが違う。棚を越えてジャンルを越えて、漫画本を参考書コーナーに置いてもらうまでには、大変な苦労があったようだ。少し時間がかかったものの、目論みは見事に的中。ドラゴン桜はドラマ化され、大ヒット作品となった。

あの宇宙兄弟だって最初から人気があったわけではない。厳密にいうと、人気が最初から出版社に届いていたわけではなかった。確実におもしろいのに、出版社まで声が届かない状況を見て、彼は察した。既存のハガキによるアンケート集計システムでは、拾えない声がある。携帯で感想を送れる仕組みを新たに作った。そこで集まった声を根拠に、作家の人気を編集部に示すことに成功、まずは連載が続けられるようになった。苦労して連載を続けて出した単行本も、すぐに売れた訳ではない。限られた宣伝予算を使って、宇宙兄弟の見本を美容院400店舗へ送った。同梱した手紙には、面白いと思ったらお客さんに勧めて欲しいとだけ書いた。「一度でも読んでもらえれば必ず伝わるはず」という絶対的な自信と、「自分が通ってまで指名する美容師の感覚を、疑う人間はいない」という計算し尽くした目論みの、両方があった。これも見事に当たった。

何より、語り口調がよかった。ヘラヘラしていた。自分の成功体験を語るとき、人間はどうしたって肩に力が入ってしまうものだ。声が大きくなるものだ。それなのに彼は、安定してヘラヘラしていた。ヘラヘラと、生徒たちに編集の本質を伝えようとしていた。そこに好感が持てた。佐渡島庸平という人間と熱意と能力のすべてを、全信頼するに至った。また、エージェント契約を交わすことで、彼の力にもなれると思った。僕が関われば、作家が活躍するフィールドは、原稿用紙の上だけに留まらなくなる。出力先だって、必ずしも紙だとは限らない。流通先だって、本屋のワンコーナーである必要はない。小説や漫画と新しく出会う場所を、僕なら生み出すことができる。また、彼を窓口にすれば、僕は僕で発明の檻に閉じこもらなくて済む。小説や漫画との新しい関わりが生まれる。人生が豊かになる。そう思った。

半年間の連続講義が終わる頃、エージェント契約をしてもいいと話した。すると彼は、「その話なんですけどね。川田さんの仕事は、もはや作家という枠には収まりきれないと思うんです。だから、川田さんだけをサポートする専門の会社を、新たに作ることにしましたので、よろしくお願いします。」と返してきた。うっかり話が変わってきた。相変わらず、ヘラヘラしていた。

寺田悠馬という稀代の投資家と、出会ってしまった。

一緒に新しい会社を経営するという人物を、佐渡島から紹介された。その男は、佐渡島に負けず劣らず、ヘラヘラしていた。ハンサムな風貌で、どちらかというと育ちがいい感じがした。あー、そうか。天才にはパトロンが必要だからな。思ったものの、それは単なる早合点であった。ものの三分で、それが実証された。彼は稀代の投資家だった。

まず、自己紹介がてら、箱の上で行われるAR FASHON SHOWと未来のチラシのデモを、iPhoneで見せた。これを見た寺田の最初の感想が「あ、要するにこれ。新しい不動産ですね。凄いです。もうこれだけで、川田さんのこと分かりました。世界が変わりますよ。」だった。なんという読解力。あー、これはヤバい人間と出会ってしまったなと思った。

ちゃんと説明したことはなかったのだが、実は僕が開発してきた一連の仕組み。単なる視覚強化システムに留まらない。空間の意味が変わってしまうほどの、発明的な要素が潜んでいる。紙の上でファッションショーが行えるということは、現実でそれを具体化するために必要な固定資産が不要になるということ。ファッションが、実店舗から解放されることのみによって辿り着く、本当の意味での軽さというものがある。寺田は、それを瞬時に見抜いたのだ。

最初に出会ったときの印象を、寺田はこのように書いている。
“氏の創造物のごく一端を垣間見るだけで、そこには、メディア、流通、コンテンツ、広告、不動産など、既存の産業構造を覆すような「すごい」アイディアが無数に敷き詰められているのだ。”
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37106

舞台に光をあてるように、経営について考える男。

僕の目論みを一発で言い当てた寺田という男に興味が湧いたので、彼の著書『東京ユートピア』を開いてみた。そこには、16才で渡米し、コロンビア大学に通いつつオフブロードウェイで照明技師を経験。ゴールドマン・サックスで自己勘定投資に従事したあと、グローバル株式投資を手掛けるヘッジファンドに転身するなど、世界を舞台に華々しく活躍する男の皮膚感覚について書かれてあった。華々し過ぎて、ここ数行は自分でも何を書いているのか分からないくらいなのだが、孤独だとか痛みだとかが文体に現れていて、質のいい私小説を読んだあとのような読後感があった。普段のヘラヘラした雰囲気とはまるで違う、明晰な頭脳の裏付けを見たような気がした。要するに、好感が持てた。

会話を重ねるうちに、彼の考え方が、非常に演劇的であるところも、おもしろいと思った。照明技師が、舞台の光が当たってないところを察知し、どうしたら客席から見えやすくなるのか、あるいは見えにくくするのかを考えるように、投資先を考えているように感じた。法人格の鎧に惑わされず、中にいる人間を見て、投資や経営の判断を下すことができる。東京から見た世界と、世界からみた東京、どちらも複眼で見渡すことができる。こんな投資家は、稀である。そして、この寺田を紹介してきた佐渡島も、やっぱり凄い。いい出会いをしてしまった。

編集と経営と発明が生み出す、力のモーメント。

こんなにパーフェクトな布陣は、他に考えられない。この三人が作ろうとしている会社は、今までの会社の在り方とはちょっと違う。人間のプライドを1mmも損なわず、切り捨てず、むしろそこに光をあてようとする。冷静に考えてみると、AR三兄弟の発明には、まだ産業レベルのスポットライトが当たっていない。エンターテインメントの世界でやったことになっていても、ビジネスの土俵ではまだ何ひとつ成し遂げたことになっていない。佐渡島の編集能力と、寺田の経営判断と、僕の発明的な発想。つまりAR三兄弟の開発力があれば、今まで回転してなかったものが回転するに違いない。物語と現実の境界にあった、いままで開かなかったドアが、存在さえ気づかなかったドアが、開くに違いない。会社嫌いを克服して、会社を作る根拠が整った。

会社名を決めようという段階になって、「トルク」がいいと進言した。佐渡島のコルクでは、作家が作品を生み出すまで、時間をかけて世界の密度を上げようとしている。その作品世界が熟成したタイミング、コルクを抜く瞬間、作用する力のモーメントのような存在に、トルクは成り得ると考えたからだ。

ロゴは、good design companyの水野学さんが作ってくれた。物理法則のようなラフを送って、「トルクっていうのは、現象というより作用」「ドアだと思っていなかった壁を開く」「押すこともあれば、引くこともある」などと、自分の中でもどうデザインしたらいいかわからない概念的過ぎる言葉を投げ掛けたにも関わらず、冒頭のように形にしてくれた。こんな仕事は、水野さんしかできない。感謝している。

文明を以て、発想に換えさせていただくのである。

僕らは創業以来、毎週、取締役会という名の会話を重ねている。ここで交わされる言葉は、どんな雑誌を読むよりも刺激的だ。着々と、産業レベルの拡張準備を進めている。中には「この規模のオファーは、会社じゃないと頼めなかった」みたいなやつまである。幸先がいいとはまさにこのこと、実にいいタイミングで会社を作ったものだ。

勿論、AR三兄弟は続ける。トルクはあくまで、彼らの発明をマネジメントする会社なのである。彼らがいないと始まらないのである。というか、AR三兄弟は、連続デブ小説なのである。このデブはDEVであり開発を意味するのである。つまり、僕が発明を続ける限り続くのである。会社の中での僕の肩書きは「取締役長男」なのである。今後とも「公私ともに長男」として、文明サイズのスケール感を以て、発想に換えさせていただくのである。

AR三兄弟の微分積分、いい気分。

AR三兄弟・長男 川田十夢(@cmrr_xxx

公私ともに長男。日経BPより、「AR三兄弟の企画書」絶賛発売中。11月25日発売 WIRED vol.10『真鍋博の未来がやってきた 都市生活を再編する5つのアイデア』(企画+執筆)、12月12日AR忘年会2013『風の谷の三兄弟』、12月15日BRUTUS『気持ちが軽くなる本』、12月18日-26日スパイラル『声』(森本千絵+高木正勝+AR三兄弟)、TVBros.で「魚にチクビはあるのだろうか?」を隔号で、ワラパッパで「シンガーソング・タグクラウド」を、好評連載中。新会社トルクはこちら




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