エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン
  • TOP
  • キーパーソン
  • 旬ネタ
  • コラボ
  • ノウハウ
  • 女子部
  • キャリア

車窓に映る“幻のクルマ”が先導~ジャガー/ランドローバー開発の「未来のナビ」が業界に与える影響【連載:世良耕太】

タグ : ジャガー/ランドローバー, 世良耕太, 日野自動車, 透明ピラー 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『F1機械工学大全』(三栄書房/1728円)、『モータースポーツのテクノロジー2014-2015』(三栄書房/1728円)など

気が付いたらもう10年である。紙媒体だったごろの『エンジニアtype』で日野自動車を取材したことがあった。環境の次のテーマとして取り組んでいるのが「安全」とのことで、その実例として紹介を受けたのが「透明ピラー」のコンセプトだった。

透明ピラーの発想は、実際にトラックを使う運送業者や配送業者、ドライバーなどから意見を吸い上げた末に出てきたと教えてくれた。彼らの意見をもとに小型トラックで頻発する事故形態を分析してみると、右折時にピラーの陰に歩行者や自転車が隠れることで事故につながっていることが分かった。

「ワイドビューピラー」は、日野自動車の小型トラック「デュトロ」のセールスポイントになっている

「ワイドビューピラー」は、日野自動車の小型トラック『デュトロ』のセールスポイントになっている

車両の最前列にあるルーフを支える柱、俗に言うAピラーに人や自転車が隠れて見えないから事故につながる。Aピラーを透明にすれば障害物はなくなって死角はなくなり、事故の減少につながるはずだ。

だが、実際にAピラーを透明にするには、技術面でも量産性の面でもコストの面でもハードルが高かった。

そこで、日野自動車の技術者は、左右の目がそれぞれ受け持つ視野が異なる点に着目。ピラーを細くしつつ断面形状を工夫することで、右目の視野ではピラーの陰に隠れてしまう歩行者などの対象物が、左目の視野では確認できるようにした。つまり、両目で見た場合には死角が存在しなくなる。

見事な発想の転換だ。

当時は「実用化に向けて取り組んでいる」という回答だったが、10年後の今日はすでに「ワイドビューピラー」の名称で実用化されており、日野自動車の小型トラック『デュトロ』のセールスポイントの一つになっている。

邪魔だと思った時だけ透ける魔法のようなピラー

10年後のAピラーはどうなっているだろうか。(インドのタタ・モーターズ傘下だが)イギリスの伝統的な高級車ブランド、ジャガー/ランドローバーが開発している技術が実用化されれば、(見かけ上は)透明になっているかもしれない。

その名も「Transparent Pillar」で、文字どおり「透明ピラー」である。でも、実際にピラーが透明になっているわけではない。必要な時だけ、バーチャルに透明になる。ジャガーが開発中の技術は、最前列のAピラーだけでなく、2列目のBピラーや最後列のCピラーも必要な時だけ透明になる。つまり、全方位で死角がなくなる。

そんな魔法のようなことをどうやって実現するのか。カメラで捉えた外の映像を各ピラーに埋め込んだスクリーンに映し出すことで、ピラーを実質的に透明にしてしまうのである。運転中ずっと透明にはしない。開放的になり過ぎて落ち着かなくなるからだろうか。

車内のカメラでとらえたドライバーの目の動きや、ウインカー(ターンシグナル)の動きと連動させるなどして、予防安全上必要と思われるピラーを透明化するようだ。追い越しや合流などをする際に頭を右に振った際は、右側のBピラーが透明になって死角をなくすといったような。

画面上のゴーストカーが目的地へと誘導

ジャガー/ランドローバーの透明ピラーはさらに一歩先を行き、進化した形態のヘッドアップディスプレイ、すなわち「360度バーチャル・アーバン・ウインドスクリーン」と連携させる。

これは、フロントウィンドウ全体をスクリーンにし、ウィンドウ越しに見える外の景色に情報表示を重ね合わせる技術だ。この技術を利用すると、停車中に歩行者が目の前を横切る際は、画像処理で歩行者を際立たせ、ドライバーに注意を促すことができるようになる。

360度バーチャル・アーバン・ウインドスクリーンを活用した技術の提案に、「フォローミー・ゴーストカー・ナビゲーション・システム」がある。現状のナビシステムは、車載ディスプレイに表示した地図でドライバーを目的地に案内している。右左折する交差点では拡大地図を表示し、銀行やコンビニ、ガソリンスタンドなどのランドマークや交差点名を利用して、利便性を高めようとしている。

「コンビニのある次の交差点を左」、「○○交差点を右」と指示されると、煩雑な街並みのなかからコンビニを見つけ出したり、交差点名を記した標識を探し出したりするのに注意が向いてしまい、本来周囲に向けるべき注意力がおろそかになる。そんな経験はないだろうか。

「フォローミー~」はフロントウィンドウに「ゴーストカー」を映し出してくれる。実際には存在しない幻のクルマを追いかけるようにして走れば、目的地に到達する仕組み。いたって簡単である。

ランドマークや標識を見つけ出すストレスから解放されるはずだ。

クラウドと連携すれば、すぐ先にある駐車場が空いているのか満車なのかといった情報なども、フロントウィンドウ越しに見える建物に重ねて表示することができる。施設の入口が分からなくて通り過ぎてしまうといったミスも防げそうだ。

安全性の高さが商品性に結び付く時代

いろんな情報が表示できるようになると、情報の氾濫によって注意力が散漫になり、安全性を損なってしまう場合がある。そうなっては本末転倒なので、必要な情報を必要なタイミングで表示することを含めたHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の考えが重要になってくる。

それはともかく、ジャガー/ランドローバーといえば伝統の高級車ブランドであり、伝統や上質さ、クラフトマンシップといった観点でユーザーに商品力をアピールしてきた。そこへもってきて先端の安全技術である。「ぶつからない技術」のもてはやされぶりが示すように、高級であるか大衆であるかを問わず、安全性の高さが商品性の高さに結び付く時代だ。

ジャガー/ランドローバーもその流れを敏感に察知し、発想の転換を行ったのだろう。技術を実用化するための発想の転換も必要だが、どの技術に手を出すべきなのか、についても発想の転換が必要なのかもしれない。

>> 世良耕太氏の連載一覧




人気のタグ
業界有名人 スタートアップ 開発 SE 転職 エンジニア プログラマー Web スキルアップ ソーシャル アプリ シリコンバレー キャリア プログラミング Android 起業 えふしん スマートフォン アプリ開発 SIer 技術者 UI btrax Webサービス クラウド Apple スペシャリスト CTO Twitter Brandon K. Hill ギーク 英語 村上福之 Facebook Google デザイン IoT SNS ツイキャス 世良耕太 モイめし IT 30代 採用 赤松洋介 コーディング 20代 UX 勉強会 プロジェクトマネジメント Ruby ITイベント Webエンジニア 中島聡 ビッグデータ 法林浩之 ウエアラブル iOS 五十嵐悠紀 LINE ドワンゴ ひがやすを ロボット 受託開発 モノづくり IT業界 コミュニケーション イノベーション ハードウエア MAKERS tips ゲーム 女性 ソーシャルゲーム Webアプリ SI インフラ iPhone 女性技術者 高須正和 マイクロソフト 研究者 UI/UX トヨタ 自動車 ノウハウ チームラボ 息抜き システム ソニー プラットフォーム Java メイカームーブメント オープンソース 和田卓人 エンジン グローバル 開発者 教育 イベント サイバーエージェント ソフトウェア 女子会 コミュニティ メーカー 家入一真 スーパーギーク 増井雄一郎 GitHub 人工知能 IPA 40代 日産 テスト駆動開発 ソフトウエア 音楽 TDD ニュース モバイル PHP TechLION

タグ一覧を見る