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「どこでもコンピュータの時代」まであと10年、技術者はどう生きるべきか?坂村健教授に聞く

タグ : IoT, TRON, ビッグデータ, ユビキタス, 人工知能, 坂村健 公開

 

今月初めに米ラスベガスで開催された『2015 International CES』でも家電や自動車のスマート化が話題の中心をさらっていたように、2015年はいよいよ「IoT元年」と呼ぶのにふさわしい1年になりそうな雰囲気がある。

そんな潮流の中、国内シェア6割、世界でも4割を占めるとされる国産組込みOS『TRON』が再び大きな注目を集めているのは、必然のことといえるだろう。

昨年12月に30周年を迎えた「TRONプロジェクト」は、まだ「IoT」という言葉が生まれるずっと以前より、ユビキタス・コンピューティングの実現を目指してひた走ってきた。

構想の域を出ない時期も長かったIoTは、ようやく実現の時を迎えるのか。「TRONの父」と称される、プロジェクトのリーダーで東京大学大学院教授の坂村健氏に、「IoTの今」を聞いた。

プロフィール

東京大学大学院教授 工学博士
坂村 健氏

1951年東京生まれ。日本を代表するコンピュータ・アーキテクト(電脳建築家)。純国産コンピュータ・アーキテクチャーである『TRON』の提唱者であり、プロジェクトリーダーとして知られる。現在は東京大学大学院で後進育成に携わるかたわら、執筆や講演活動も精力的にこなす。SF評論家、コラムニストとしての一面も、著書に『毛沢東の赤ワイン』など

イノベーション、研究を経て、ようやくビジネスのフェーズへ

—— 2015年は「IoT元年」とも称されますが、IoTの現状をどのように見ていますか?

「IoT」、「ユビキタス・コンピューティング」の概念、思想、考え方などは、私が1984年からずっと言い続けてきたことです。研究、開発のフェーズを経て、それがようやくビジネスのフェーズになってきました。インテルなどがIoT事業部を立ち上げたり、正月の経済紙はもちろん、一般紙までが特集を組むようになったことからも、それを感じますね。

我々が扱う『TRON』は、IoTのノードになるところ。モノに組み込むためのOSは情報処理のOSに比べ、今まではネジやクギのような役割だったため地味な分野でしたが、IoTすなわちモノのインターネットですので、モノがネットの主役になれば、『TRON』にも注目が集まるのは自然な流れです。昨年末のTRONショーには例年の何倍もの人が来ました。

条件がそろって、研究からビジネスへとフェーズが移るのには、一般的に言って10年はかかります。IoTの世界もここ10年で大きく変わりました。

—— この10年で研究からビジネスへとフェーズが移ったのは、どのような条件が整ったからだと言えますか?

クラウド、非常に高速なネットワーク、より小さな組込みコンピュータ。IoT実現のためのハードウエアインフラとしては、これら3つが必要です。

従来のインターネットは人間のためのものだったから、世界の人口が70億人であることを考えると、つながる量も何十億レベル。それが、自動車、道路などあらゆるものがつながるIoTでは、何百億個にまで膨れ上がる。それだけのデータを取り扱えるインフラがまず整わないと、IoTは実現しないということです。

この10年で、何十テラというデータを扱えるクラウドができたし、ストリームデータ処理やビッグデータ解析技術も進化した。ネット環境はLTEをはじめとして無線、有線の大容量の通信回線が整備され、またSDN(Software Defined Networking)のようなネットワーキングアーキテクチャも進化しています。昔のスパコン、Cray-Ⅰより性能が良いスマートフォンを皆が持つようになった。そしてTRONのようなリアルタイムOSの進化、普及が進んだ。各種センサも数多く出てきています。

しかも、これが格段に安価になってきた。そのことがIoTビジネスの実現を後押ししているのだと思います。

—— 制度・運用面の整備が進んだことも盛り上がりの要因の一つですか?

確かに、今では「吸い上げたデータは誰のものか」といったアクセスコントロールやプライバシーについての議論など、法律、制度面の整備がホットな話題になりつつあります。ただ、これらはIoTが現実的になってきたことの要因というよりは、むしろ結果でしょう。

例えば「サイバーセキュリティー」という言葉自体はインターネットが商用利用され始めた25年前からすでにありましたが、本当に重要になってきているのは、まさに今。言われ始めてから現実的な問題になるまでというのは、大抵それくらいかかるものです。

『ガバメント2.0』といって、先進各国政府が持っているデータをオープン化し、官民の融合を狙う動きも活発になっています。私自身もここ数年、オープンデータが重要であることを主張してきましたが、やっと我が国でも重要性が認識され出しています。

最優先されるのはいつも産業機械。家庭に普及するには時間が必要

どこでもコンピューティングの時代が本格到来するにはまだ10年は掛かると見ている

「どこでもコンピュータの時代」が本格到来するにはまだ10年は掛かるという

—— 現実的なビジネスとして、IoTはどんな活用が考えられるのでしょうか?

発電所や産業機械の動作状況のデータを収集・解析して、故障予測を行う試みがすでに始まっています。インダストリアルインターネットです。メンテナンスコストが数%下がるだけでも、産業機械は単価が大きいので、莫大な金額になりますから。

いずれは一般の人の日常生活にも関係してくるでしょう。電球が切れる少し前に交換をうながす通知が来るようになったり、家のカギを閉め忘れたらスマホに通知が来て、指示を出せば勝手に閉まるようにもなる。

ただ、広く一般人がIoTを享受する本格的な「どこでもコンピュータの時代」が来るには、まだ10年くらい掛かるでしょうね。

—— まだそんなに先ですか?

先ほども言ったように、ビジネスとして最優先されるのは日常生活ではなく、高価な産業機械。それでもプライベートな持ち物のコントロールに関してはここ数年でだいぶ普及するでしょうが、まずは高級機に限られる。あくまで付加価値として扱われるから、エアコンにしても冷蔵庫にしても、低価格のものには当然そういう機能はすぐには入りません。

時が経つにつれて、高級機にしかなかった機能が普及機に降りてくる。それには10年くらい掛かるということです。

例えば日本で高級車を今買うと、最初から通話のためではないデータ通信のための携帯電話が入っていて、クラウドにつながっている。窓を開けたまま車を離れれば注意をうながすメールが来るし、故障したらGPSをたどって勝手に修理が来る。しかしそれは高級車に限った話。

トイレに血圧測定器などを付けてデータを専用回線で病院へ転送する「健康トイレ」は、インターネットが開放される以前の1989年に作ったTRONハウスでも実現されていた。ビッグデータ解析を活用した故障診断や、道路の中にコンピュータを埋め込むといったことも、私がもう何年も前から研究して提言していたことです。

ただ、それを実用にするのには、ビジネスモデルの検討が必要です。

技術者は時代を知り、学び続けることでしか生き残れない

—— では、IoT関連で今まさに研究者の視線が注がれているのはどういった分野でしょうか?

ビッグデータを集めることによる人工知能の進化が、国内外で話題の中心になっている。「機械vs人間」という話も本格的に議論されています。

人工知能なんてちゃんちゃらおかしいと言われた時代もありましたが、音声認識一つとっても、昔とは格段の精度になったし、一語一文を対応させるだけでなく、前後の文脈も読めるようになってきている。

2020年の東京オリンピックのころには、おそらく簡単な会話だったら数十カ国の言語への自動翻訳も実用レベルでできるでしょう。まさにシンギュラリティー。僕らはその境目にいる。

人工知能、ビッグデータ、IoT、統計データから推論する技術。これらは互いに影響し合っています。技術はこれからますます相互連携を繰り返し、分散ネットワーク型の巨大なシステムになっていきます。

—— その時代を生きるエンジニアが存在感を示していく上で求められること、できることとは何でしょうか?

昔のように技術が進展しない時代は一つのことを極める道もありましたが、今は変わること、適応することが求められている。つまり、常に勉強し続ける以外に道はありません。

プログラミング言語一つとってもそう。根本原理も進化していますが、状況が変わる、例えばネットワークコストが変われば最適なものも変わる。昔は当たり前のように誰もが使っていたCOBOLなんて、今は誰も使いません。今ある言語が20、30年後には消滅している可能性が十分にあります。

若い人が有利だというのは当たり前です。なぜなら、10年前に学校でビッグデータやIoTについて習うことはあり得ませんでしたが、今なら学校の授業でやる段階に来ているから。ビッグデータ解析のための統計学は20年前からありましたが、コンピュータ界隈の人がそれを勉強することはなかった。

しかしこれは、決して若い人の方が利口だという意味ではありません。年を取っていたって、勉強する気さえあればいくらでも学ぶことはできる。むしろ学習スピードは若い人より速いかもしれません。

プログラミング言語だって、Pythonを知っていたらRubyの覚えは速いし、その逆だって同じ。経験が血となり肉となっているのだから、今がどういう時代かさえ分かれば、対応はできるはずです。

—— なるほど。時代が求めていることを正確に把握し、勉強し続けることが道を切り開くための唯一の方法ということですね。貴重なお話をありがとうございました。

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴




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