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地方発全国サービス、登山・アウトドア向け地図アプリ『YAMAP』が注目を浴びる理由とは【連載:NEOジェネ!】

タグ : YAMAP, YAMAP Gears, セフリ, 春山慶彦 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、登山アウトドア向け地図アプリの『YAMAP』を開発・運営するセフリだ。スタートアップ熱の高まる福岡の中で、アウトドア向けアプリが注目を浴びている背景とは?
(左から)新見晃平氏
上野雄三氏
樋口浩平氏
代表取締役 春山慶彦氏
樋口賢祐氏

『YAMAP』とは

2014年5月1日にグローバル創業都市・雇用創出特区に認定されるなど、市を挙げてスタートアップを支援している福岡市。

この九州最大の繁華街の一角から発信され、注目を集めているサービスがある。2013年7月に設立したセフリが開発・運営する、登山・アウトドア向けの地図アプリ『YAMAP(ヤマップ)』だ。

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登山・アウトドア向け地図アプリ『YAMAP

『YAMAP』は電波が届かない山中でも、スマホで現在位置を確認できる地図アプリ。既存のGPS端末を購入しようとすると、3万~10万円程の費用が掛かるが、専用端末を買わずとも『YAMAP』アプリを使えばスマホがGPS端末になる。

その新規性とシンプルな使いやすさが話題を呼び、『YAMAP』は、アウトドアユーザーから支持を得ている。リリースから2年が過ぎだ現時点(2015年6月)で、ユーザー数は12万人超。広告宣伝をほぼ行わず現在のユーザー数を獲得したという。

『YAMAP』が注目を集めているのは、その受賞・表彰歴にある。いくつか実績を紹介しよう。

■2014年グッドデザイン賞受賞・ベスト100選出・特別賞「ものづくりデザイン賞(中小企業庁長官賞)」受賞

■Amazon Web Service主催「Kyushu Startup Showcase」最優秀賞

■第26回「中小企業優秀新技術・新製品賞」ソフトウェア部門優秀賞

■経済産業省「新事業創出のための目利き・支援人材育成等事業」認定事業

■IBM BlueHub支援採択事業

■B DASH CAMP 2015春「ピッチアリーナ」優勝

なぜ、『YAMAP』は受賞・表彰を重ねることができたのか。そして、登山・アウトドアという領域で、事業を展開する春山慶彦氏(セフリ・代表取締役)の考えとは何か? 福岡の若者が集まる中心地、大名にオフィスを構えるセフリを訪ねた。

アイデアの出発点:アラスカと久住山。2つの体験が基で生まれたサービス

地元福岡を離れ、東京の旅行会社にて雑誌『風の旅人』の編集を行っていた春山氏。自身の将来を見据えた際、地元への貢献と子育てなどのライフステージを意識したという。

その結果、春山氏は東京から福岡へのUターンを決めた。2010年に福岡に帰省後、春山氏は学校案内や会社案内などのパンフレットを制作する会社を起業していた。が、2011年5月に久住山を登った際、『YAMAP』につながる転機が訪れた。

「久住山での登山中にiPhoneでGoogle Mapsを使ってみると、真っ白な地図の上に青い点だけが表示されていました。電波がないので地図を表示することはできないのですが、青い点、つまり現在位置表示に関しては宇宙のGPS衛生からデータを受信していることに気づきました」(春山氏)

そして、『YAMAP』誕生の裏側には、もう1つの実体験があると春山氏は続ける。

「京都の大学を卒業した後、アラスカに2年ほど滞在していました。アラスカの極北の村で、イヌイットの人たちとアザラシ猟に参加する機会を得ました。流氷が漂う危険な海の猟です。彼らは、伝統的な知恵を活かしながら、命がけの猟をしていました。

伝統的な知恵とは、例えば『この鳥が南から飛んで来る時は天気が荒れるから猟に出るのはやめておこう』や『この雲の形の時はいずれ天気が良くなるので、猟に出よう』などです」(春山氏)

さらに、そうした代々受け継がれてきた知恵だけではなく、イヌイットの人々はGPS端末を所持し、使いこなしていた。春山氏は一緒に猟に出かけたイヌイットのおじさんに、GPSを使う理由を尋ねたところ、こう返事をもらったという。

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from mark byzewski
アラスカでの経験が春山氏にもたらしたものとは

「『どんなに海が荒れ、霧で目の前が真っ白になったとしても、宇宙の視点で自分の位置が分かる。GPSがあれば家に帰ることができる。こんな便利な道具を使わない手はない』と。

アザラシ猟という命がけの営みに関して、使える道具は何でも使って家へ帰ろうとする彼らの考え方がとても健全に思えたのです。

それから数年後、スマホにGPS機能が実装されました。アラスカでの実体験から、ものすごいデバイスが世の中に出たと興奮していました」(春山氏)

事実、アザラシ猟を経験している最中、春山氏はGPSを駆使することで2度も命が助かった経験があるという。自然の力が圧倒的な山や海。生死に関わる世界を目の当たりにした春山氏の体験が『YAMAP』のサービス企画につながった。

開発のポイント:オフライン前提の仕組みづくり

O2Oマーケティングに代表されるように、今やアプリとリアルを連携させるサービスは主流になったとも言える。

だが、登山・アウトドアで使用する『YAMAP』は、その性質から電波が届かない場所での利用が中心となる。そのため、O2Oとは対極とも言える“オフライン前提”という考えのもと開発が進められた。

当然、前例のないサービスに不具合は付き物である。

「位置情報に関してはiPhone向けのAPIがあるので、比較的簡単に実装することができます。ですが、オフライン前提という仕様には多くの課題がありました」と、リリース以前から『YAMAP』のサービス開発を統括する樋口浩平氏は振り返った。

そして、実際に起こった課題についてiOS版の開発を担当している上野雄三氏はこう語る。

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オフライン前提の開発で生じた課題を語る上野氏

「『YAMAP』には、登山中の記録をログとして残す“活動記録”という機能があります。ですが、このデータが下山後オンラインになった際、消えてしまう障害が発生しました。アプリ上では、サーバにデータを送信しているのですが、実際サーバには届いておらず、活動記録のデータが消えてしまう。そういった不具合が多発しました」(上野氏)

活動記録は、登山中のユーザー体験をログとして残す『YAMAP』でも重要な機能の1つ。この課題に対しては、ユーザーに手動でアップロードしてもらうことで対応した。

「Android版はすでに自動アップロードを実装していますが、iOS版は現在も対応中です。やはりオンライン前提と比較すると、オフライン前提の開発は難易度が高い。ローカルで保有しているデータがサーバ側で削除されているなど、タイミングの問題を解決しなければいけません」(上野氏)

そして、オフライン前提のアプリ開発と同様に、『YAMAP』にはこだわった点がある。それは、徹底したカスタマーサポートだ。

「参考にしたのは、Zappos.com(ザッポス)のカスタマーサポートです。顧客対応は、単なるカスタマーサポートではなく何よりの広告宣伝だ、という考え方です。

電話の対応1つとってもそう。とにかく丁寧に対応することを心がけています。カスタマーサポートを外部に任せるのではなく、私たち自身で行うことにより、ユーザーさんへYAMAPは“本気”のサービスであることをお伝えしたい、と思っています。また、『YAMAP』はリリース初期からお問い合わせ掲示板を設置しています。リアルタイムでユーザーさんからご指摘をいただけますので、スピーディーに改善ができます」(春山氏)

事実、『YAMAP』のお問い合わせ掲示板を見てみると、機能改善後、ユーザーからのお礼コメントが届いていることも珍しくない。カスタマーサポートを、ユーザーとのコミュニケーションの機会ととらえている好例と言えるだろう。

地方発のスタートアップが注目を浴びる術

一台数万円もするGPS端末の機能をスマホで代替、丁寧なカスタマーサポートを実施するなど、『YAMAP』は登山・アウトドアを愛好するユーザーから選ばれるサービスとして、成熟しつつある。

では、数多くのコンテストへの出展についてはどう考えているのか。

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なぜ、『YAMAP』は受賞・表彰を重ねることができるのか

「地方で戦うデメリットを理解した上で、全国展開するサービスとして何が必要なのか?と考えました。お金もコネもない状況で、多くのユーザーさんに『YAMAP』を認知していただき、使っていただくためには、新製品賞やグッドデザイン賞など受賞の“看板”が必要だと思ったのです。その思いから、コンテストには果敢に挑戦し続けています」(春山氏)

そして、春山氏は『YAMAP』が評価されているポイントは2つあると続ける。

「1つはオフライン状態でも使えるGPSアプリで、かつSNSの要素を含んでいること。2つめは、時代の波に乗っていることです。現在、消費者の価値観が、単なる“モノ”の消費から旅や体験など“コト”の消費にシフトしています。消費者の価値観の変化をとらえ、体験に寄り添うサービスであることも、YAMAPが評価されている理由だと考えています」(春山氏)

GPSとSNSを兼ね揃えた基本コンセプト。そして、消費者の価値観の変化に適合した『YAMAP』は、ユーザーから選ばれるだけではなく、コンテストでも目立つ存在になった。

「『YAMAP』はまだまだこれからです。山で例えると、まだ1合目から2合目の段階です」(春山氏)

『YAMAP』が目指す頂きまでは、長い道のりが続く。現状の『YAMAP』はスマホで自分の位置を把握することはできるが、第三者に自分の位置情報を伝える手段がない。だが、この点すら克服することを意識している。

「『YAMAP』を登山中に利用するメリットは、道に迷わなくなるということ。今後は、登山届と連携させるなどの施策を打ちます。遭難事故を防ぎながら、日本の山の魅力や登山の楽しさを、世界中の人に届けていきたいと考えています」(春山氏)

新サービス『YAMAP Gears』をリリース

『YAMAP』アプリをインストールし、事前に地図をダウンロード。スマホの電池がある限り、道に迷わずに登山を楽しむことができる。だが、登山を楽しむだけでなく、いざという時の備えを万全にするためには、信頼性のある道具が必要だとも言える。

そこで、セフリは登山・アウトドア用品のレビューアプリ『YAMAP Gears』を2015年6月15日にリリースした。開発責任者を務める樋口氏は自身がセフリにジョインした後、登山が趣味となり、その気付きが『YAMAP Gears』の開発に結び付いたと振り返る。

「私を含め登山初心者は、上級者とつながる機会がほとんどありません。身近にアドバイスをくれる存在がいないため、ネットで登山道具を調べても、本当に良い道具なのか、正直ピンときません。実際に道具を購入する際、店舗に足を運び情報を得るしかないのが実情です。その課題を解決するために、『YAMAP Gears』を考えました」(樋口氏)

『YAMAP Gears』は『YAMAP』ユーザーが保有しているアウトドアグッズの登録管理や他製品との比較、評価を行う機能を実装している。コアユーザーも多い『YAMAP』だけに「あのユーザーが使っているから信頼性の高い道具に違いない」という反応が出ることも期待されている。

さらに、『YAMAP』は次の構想として、Bluetoothを使ってユーザー間にコミュニケーションを生む機能も検討しているという。

Bluetoothを使った“すれ違い”機能を考案したのも樋口氏である。

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『YAMAP Gears』には樋口氏が感じた実体験があるという

「『YAMAP』のユーザーさん同士が山で偶然出会い、その後、交流が生まれ、一緒に山に登る仲間に発展した事例が数多くあります。すれ違い機能は、コニュニケーションが生まれるきっかけになると同時に、遭難迷いの事故を軽減する仕掛けとしても活用できると考えています」(樋口氏)

公益財団法人日本生産性本部のレジャー白書によると、現在日本の登山人口は約860万人。釣りやスキー、スノボーなどアウトドア全般をあわせると約3000万人近い数に上る。海外から日本の山を目当てに観光する方も増えており、『YAMAP』にはまだまだ可能性が秘められているとセフリは考えている。

「セフリでは月に一度、社員全員で山登りに出かけています。これはユーザー目線を忘れないためでもあります。自分たちもユーザーであり続けることが何より大事です。現場に身をおいて生まれるアイデアや気付きを、何より大切にしたいと思っていますね。

また、『YAMAP』は、自然と都市のバランスが良い福岡だからこそ生まれたサービスでもあります。仕事だけでなく暮らしそのものを楽しもうとする福岡の風土に、『YAMAP』は育まれたと感じています」(春山氏)

『YAMAP』が掲げるビジョン。ユーザーと自然をつなげる

「日本社会の最大の課題は、身体を使っていないことだと考えます」と春山氏。農業・漁業・林業などの第1次産業を生業としている人数は、 日本の就労人口の3%程度だという。

「また、3%の半数以上が60歳以上の高齢者という現状があります。つまり、この国に暮らすほとんどの人は、自然の中で身体を動かすということ日常的にやらなくなってしまっている」(春山氏)

そんな現代社会にあって、登山・アウトドアの社会的意義は、“娯楽・レジャー”の範囲を超えて、深いものがあると感じているという。

「登山・アウトドアを通して“生きている歓び”を感じ、感受性を解放する経験が得られると思っています。登山・アウトドアを日本の文化にまで成熟させ、暮らしの身近にある自然とつながるきっかけをより多くの人に提供していきたい。そう願い、YAMAPを続けています」(春山氏)

取材・文・撮影/川野優希(編集部)

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