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新しい技術領域を学びたい人に、“隣の領域”の勉強を勧める理由【連載:五十嵐悠紀】

タグ : UI, UX, 五十嵐悠紀, 研究 公開

 
天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

4月になりましたね。新生活が始まった方もそうでない方も4月は何だか元気がみなぎっている時期。新しいことを始めようと考えている方も多いのではないでしょうか。

最近、「ユーザーインターフェース(以下、UI)を勉強したいのですが、何から始めたらいいですか?」といった相談をよく受けるようになりました。確かに、新たな分野は何をどこから勉強していいか分からないことも多いと思います。

From arcreyes [-ratamahatta-]
新年度に新たな挑戦を始めようと思っている方へ、五十嵐さん流の自分の専門領域の広げ方を伝授

そこで今回は、わたしが初めてUIを勉強した時に何をしたかを思い出しながら、知らない分野の勉強の始め方について書いてみたいと思います。

異分野を勉強するのは大変と思いがちですが、自分の周辺分野を知ることで、自身の専門分野をより深く知ることもできるのでオススメです。英語の文法を習い始めてから国語の成績も上がった、という経験のある方もいらっしゃるでしょう。

また、勉強した分野の人に自身の専門分野をアピールする際にはどのような言い方をしたら伝わるか、など違った視点から見ることができるようになるのも異分野を勉強するメリットです。

10年分の論文が教えてくれる、専門知識と業界構造

初めてUIについて勉強したのは、大学の研究室に配属された4年生の時でした。この時には、コンピュータグラフィックス分野、UI分野の学会のプロシーディングス(学会精選論文集)を国内外含めて過去10年分読みました。ただ、1人で読んだのではありません。輪講形式で行い、当時の4年生4人で順番に、何年のどの学会か担当を決めて読んできて発表をする、といった形で、週1回勉強会を開いていました。

UI分野では国内では「WISS」, 「インタラクション」といった学会、海外では「UIST」, 「CHI」といった学会に目を通したのを覚えています。4年生だけではなく、輪講の時間にいてくださった修士1、2年の先輩が適宜アドバイスしてくれたのも、より理解が深まりとてもよかったと思います。

とにかく最初は論文の著者を見ても、誰が大御所で誰が学生さんか分かりませんでした。どの論文がどうスゴいのかも分かりませんでした。でも過去5年分くらいの論文を読んだあたりから、研究室の派閥や研究テーマの流れが分かってきました。「この研究はあの研究の後でされた後続研究だな」というのも分かってきます。

研究されているテーマが分かってくると、逆にまだ手つかずの分野も見えてきて、そのころからだんだん面白くなってきたのを覚えています。

同じことが論文読みではなく、読書にも通じると思います。Amazonを使えば、本を検索するとその本を読んだ人がほかにどんな本に興味を持っているのかが表示され、芋づる式にその分野の重要そうな本を見つけることができます。最初の1冊を探すのが大変ですが、それこそ検索で最初にひっかかった1冊でも良いと思います。何冊も何冊も目を通すうちに、「これは!」という面白いものに出合えるものです。

「そんなたくさん本を読む時間がない」とお思いかもしれませんが、全部一字一句読む必要はありません。何冊も目を通すうちに、重要なところを上手く読めるようになってくると思います。

UX専門家との交流が、UIをより深く理解するきっかけに

最近では、UIと並んでユーザーエクスペリエンス(UX)についてもよく聞かれるようになりました。「UI・UXについて教えてください」、「UI・UXが~(略)」とよく言われるのですが、わたしはUI の専門家であって、実はUXについては詳しく知りません。

しかし、そこで「分かりません」と終わらせるのも面白くない。このままではいけないと感じて、知識を身に付けるために最近勉強している分野の1つになっています。

ここでも先に挙げた、「がむしゃらに専門書を読みまくる方式」で始めました。まずはUXで検索した時に出てくる書籍をたくさん読みました。そのうちに、UXのほかにもユーザビリティ、エスノグラフィなど、知っていたけれどきちんと勉強したことのなかったいろんな単語が出てきました。また、黒須正明教授がユーザビリティの分野の第一人者だと分かり、今度は黒須教授が執筆された本を片っ端から読みました。

しかし、本を読むよりももっと大事なのは、その分野の専門家と直接話をすること。以前、UI・UXと名前の付くイベントに講演者として呼ばれた際、「大学関係者からUI・UXの研究者をもう1人呼んでいただけないか」と言われました。周囲にはたくさんのUI研究者がいるのですが、わたしはあえてUIではなく、UX専門の千葉工業大学の安藤昌也先生にご無理を承知で依頼しました。

この時点ではあまり接点がなく、ほんの少しお話したことがあるだけだったのですが、快く引き受けてくださり、久しぶりの再会となりました。

「既存研究を調べて、やられていないこと」として五十嵐さんが始めたぬいぐるみ設計システムの研究

専門家と直接お会いすると、本を読んだだけでは得られない情報も取り入れることができます。例えば、先のイベントでは安藤先生がわたしのぬいぐるみ設計システムの研究を取り上げて、次のように説明してくださいました。

初心者でも設計しやすいように工夫するのがUI。ぬいぐるみを自分で設計して作るという体験がUX。そして、オリジナルなぬいぐるみを子どもたちがデザインするというワークショップを企画する、つまりどんな体験をしてもらうのかをデザインするのが、UXデザイン(UXD)。

自分がこれまでやってきたことがUIだけでなく、UX、さらにUXDといったことも意識する必要があるのだな、ということを知ることができたのです。この出来事は、よりUXを勉強したいと意識するきっかけになりました。

その後も安藤研究室の成果発表会に出かけてワークショップのプロトタイプを体験したり、UX関連のシンポジウムや勉強会などに単身乗り込み、積極的に参加したりして、情報収集をしています。

「キーワード」ベースで専門分野を少しずつ広げていく

お茶の水女子大学で情報倫理の非常勤講師を半年間受け持った際にも、1週間に20冊以上のペースで本を読んでいました。この半年間は、IPアドレス乗っ取りによる誤逮捕、違法ダウンロード改正、と時事ニュースだけでもさまざまな事件がありました。この時には、新聞や週刊誌などをいろいろ読み比べてみると、執筆者の立場によって目線が異なるので面白いと感じました。

UIに関する勉強も一緒で、UIの専門家の意見を聞くといっても、芸術家、デザイナーに近い人、AR(Augmented Reality)に近い人など、立場はさまざまです。ちなみにわたしはComputer Graphics に近い人です。それぞれの立場によってUIの定義も意識も違うと思いますし、それこそ正解はない分野ですので、あえて定義をそろえる必要もありません。

「1人の専門家に会って話を聞いて終わり」、「1冊の本を読んで終わり」ではなく、さまざまな視点から情報を収集するのが大事だということが分かると思います。

ちなみに、UI・UXの専門家として呼ばれ、「UI・UXの専門家は日本でほとんどいない」と紹介されたこともあったのですが、それは間違いです。UIの専門家、UXの専門家がそれぞれいるのに、何も考えずに「UI・UX」などで検索するから見つからないだけなのです。

そう考えると、検索キーワードも大事ですね。視点を変えて柔軟に調べてみることは大事です。他分野のシンポジウムに行くと難しい話ばかりに感じることも多々ありますが、理解が深まらない時には勉強の「キーワード」を入手できただけでも一歩前進と考えて、それを元に自宅で検索し直したりして勉強しています。

さまざまな分野の垣根を越えてコラボレーションすることで、新しい技術やサービスは次々に生まれています。異分野の人同士が組んで仕事をするのももちろん多いのですが、自分自身がマルチにこなせる人材になればアイデアもわきやすくなりますし、会社からもより重宝されることでしょう。

この春、何か新しいことをやってみたいけれど、まだ具体的に決まっていないという人は、ぜひ自身の専門分野のちょっと隣の分野を勉強し始めてみてはいかがでしょうか?

>> 五十嵐悠紀さんの連載一覧はコチラ




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