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11年ぶりに改訂!『コンピュータグラフィックス』の編集委員長に聞く、CGクリエイターが考えるべきこと

タグ : コンピュータグラフィックス, 五十嵐悠紀, 藤代一成 公開

 
天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活

明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 講師
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。日本学術振興会特別研究員(筑波大学)を経て、明治大学総合数理学部の講師として、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは三児の母でもある

2015年3月、コンピュータグラフィックスの分野で広く活用されている書籍『コンピュータグラフィックス』(CG-ARTS協会) が11年ぶりに改訂されました。

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CGのソフトウエア開発の専門書『コンピュータグラフィックス』

『コンピュータグラフィックス』は、コンピュータグラフィックスを教えている大学、専門学校、企業の研修などで標準テキストとして広く使われてきた書籍。改訂版の出版直後たった1週間で販売冊数は1800冊を記録したそうです。

同書籍を出版しているCG-ARTS協会は公益財団法人で、この分野の教育の普及振興に取り組む他、学生CGコンテストの主催や文化庁メディア芸術祭の企画運営などに携わっている団体になります。

1991年にCG-ARTS協会が日本のCG界の底上げと普及を願って、検定試験を作ったのが、「CG検定」と呼ばれていたもの。2005年6月以降は、文科省後援の「CGエンジニア検定」となり、ベーシックとエキスパートという2つの級に分かれた検定試験となっています。

ちなみに、書籍『コンピュータグラフィックス』はエキスパート試験のための標準テキストという側面もある書籍なんです。

『コンピュータグラフィックス』11年ぶりの改訂に伴い、今後、CGエンジニア、クリエイターに求められる技術や考え方とは何か? 皆さんも気になるポイントだと思います。

そこで、私の恩師でもあり同書籍の編集委員長を務めた慶應義塾大学の藤代一成教授にインタビューを行いました。

藤代教授はコンピュータグラフィックスや可視化分野の権威として、初版本の出版から同書籍の編集委員長を務めている方です。藤代教授が考える書籍の裏話や今回の改訂に至った経緯をお聞きしました。

カリキュラム、本、検定の“三位一体”で構成されている

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『コンピュータグラフィックス』の編集委員長を務めた慶應義塾大学の藤代一成教授

私も学生時代『コンピュータグラフィックス』の第2版を使って勉強していました。そこで、まず書籍の主旨について伺ってみました。

「『コンピュータグラフィックス』の背景には、きちんとしたカリキュラムが存在しているんです。カリキュラムさえしっかり作れば本はそれに沿って書けるわけですね。また、カリキュラムは本を書くシナリオとして機能するだけではありません。検定試験の出題目安にもなります。偏りなく、きちんと全てを一回の試験の中で出題できているか?この項目をチェックするためにも使われます」(藤代教授)

11年間細かい修正などは行ってきたそうですが、基本的に版を変えていなかったそうです。ですが、この分野の11年というのはすさまじい発展があります。

今回の改訂では書籍を作り直す前に、カリキュラムを全面的に見直したそうです。その期間はなんと4年。長い歳月を掛けて改訂を行ったことが分かりました。

「カリキュラムが存在するということはその領域の知識体系になります。そして、それを測る検定がある。カリキュラムと本と検定で“三位一体”です。CGは急激な成長と進化を遂げている分野。そのため、比較的短いスパンで改訂が必要になります。そして、まだこれが最終形ではありません。

初版が発刊された2004年はGPUが出始めたころですね。現状のCG技術と乖離を確認し、11年間の歩みの中で新しく生まれてきた技術を中心に、改めてカリキュラムを見直してみると、思い切ったリストラクチャリングが必要なことが分かりました。

当たり前のことですが、11年前には最先端の技術として教えていたことが2015年では定番になっていたりそのような技術革新に沿って編集し直した結果、節ごと移動した項目もたくさんあるんですよ」(藤代教授)

検定試験は5つ。社会人が受験することも多い

コンピュータグラフィックスには2つの側面があります。

1つは、技術的な側面。次に意匠的な側面。書籍『コンピュータグラフィックス』は技術面にフォーカスして書かれた本になります。

CG-ARTS検定の試験は5つの分野に分かれていて、同じCGでもクリエイターの人のための「CGクリエイター検定」や今、たくさんの人口が流れていると耳にするWEBデザイナーのための試験「WEBデザイナー検定」などがあります。

検定試験と聞くと、受験者は学生が多い印象がありますよね? ですが、実態は少々違うそうです。

「就職してから受験する人も多いですよ。これまでCGを勉強してこなかったけど、映像系の企業に入った人たちが、検定を受けて能力を測りたい、という人もたくさんいます。また、新入社員の研修プログラムに組み込んでいる会社もあります。社会人はより明確な目標をもっているからか、成績が良いですよ(笑)」(藤代教授)

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CG-ARTS検定の受験生は、学生から社会人まで幅広いそうです

日本の主なゲームメーカーやプロダクションが率先して受けるようにしてくださっているため、徐々に資格を持っている人たちが増えてきているそうです。

CGには技術だけではなく、デザインの側面もあるので、「こんなスキルを持った人材に来てほしい」という指標として、「これとこれの認定資格を受験してください」という一覧表を出している会社もあるようです。

「網羅的に知っていると、現場で優位に立てたり、価値のある人材になれる。実際に実務でやっていると点では知っているけど、全体像を把握できていないため、仕事をしていて文脈の合わないケースもでてきます。

CGについて体系的に知ることで、有利に働くことが多いのです。作品に新しい表現を使いたい際、既存技術の組み合わせでできるものなのか? 新しくアルゴリズムを開発しなければいけないのか? と予測が立てられます。現場で大事な工数管理にも影響が出てくるわけですね」(藤代教授)

自分だけの軸を見つけてほしい

藤代教授は便利になり過ぎるがゆえの、課題についても指摘していました。

「CGで多くのものはそれなりに表現できるようになりましたが、まだ映像化されていないモチーフが我々の周りにはたくさん転がっています。実物のものを観察する力、独自の世界観が大事です。皆さんが共通したライブラリを使うと、誰が作っても同じような絵作りになってしまう危険性があります」(藤代教授)

誰が作っても似たような作風になってしまうと映像を新鮮に感じてもらえません。基本を押さえた上で、これまでにない映像表現が必要な時代に差し掛かっているのかもしれません。

「慶應では3年生で実験の授業があり、学生が1週間でCGの作品を作っています。私が見ても学生の観察観がスゴいと感じることも多いですよ。それぞれ自分の作りたい絵があって、きちんと仕上げてきます。1週間で7000~8000行のコードを書いてくることも珍しくありません」(藤代教授)

そういって見せてくださった学生さんの作品には、凸レンズを何枚も仕込んでレンズのテカりを作ったり、多層薄膜構造をきちんと作り、薄い層を何回も反射屈折を繰り返すことで漆らしい表面を持つ器を表現をしていたりなど、ユニークな作品がたくさんありました。

金平糖はフラクタル構造になっているので、砂糖が固まっていくプロセスを全部シミュレーションさせて映像を作ったり……なんて、本当にすごい!

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学生さんたちの作品には目を見張りました

「グラフィックスがある程度使えるようになると、このくらいのことは学生でも1週間でできます。勉強を始めたばかりの学生でも、それぞれのプチな世界観というのがあり、見事に表現できています。若い力はすごいですね。

しかし、このレベルではまだまだ。基礎技術の上に表現者として、どんなプラスαを乗せるか。プロとしての仕事ではそこが肝なんです。

私の所感ですが、ソフトウエアやハードウエアが便利になればなるほど考えなくなってきて、これからの作り手たちが『このくらいでいい』と思ってしまうのが怖い。しかし、本当のプロフェッショナルはそんなことは考えていないんですよ。

登山で例えると、1つの作品を作る際、以前は1合目から登らなければ行けなかった。技術的に未完成な部分が多かったためです。今の時代は、技術の進歩に伴い、5合目まで道路ができてしまっていると言ってもいいかもしれません。以前ならとても時間を掛けなければ完成できなかったCGが、短時間で完成するようになりました。

ですが、より高い次元で作品を完成させるには、5合目以降を自分の足で登っていくしかない。『コンピュータグラフィックス』を活用して、スムーズに5合目までのスキルを身に付けた後に、自分だけのその先の道を歩んでほしいと思っています」(藤代教授)

和製版「フォーリー・ヴァンダム本」を作りたい

藤代教授には『コンピュータグラフィックス』を日本での教典に育みたいという思いがあるそうです。

「コンピュータグラフィックスの分野ではJames D. Foley, Andries Van Damらが書いた昔から有名な書籍『Computer Graphics,Principles and Practice』(アディソンウェズリー出版社)があり、略称『フォーリー・ヴァンダム本』と呼ばれています。

この本は世界中のCGの研究者や学生が読んでいますが、CGが広がっていこうとしている裾野を考えると、日本には日本のバイブルがほしい。そんな思いで作られたのが、このCG-ARTS協会の 『コンピュータグラフィックス』です」(藤代教授)
9月には画像電子学会の秋期セミナーが予定されており、執筆者の先生方に話していただく予定だとのこと。

また、今年はACM SIGGRAPH Asiaが6年ぶりに日本で開催される年。日本のCG業界は、大学も企業も盛り上がっていくこと間違いなしです。

>> 五十嵐悠紀さんの過去の連載一覧はこちら




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