Vol.55

保険業界の異端児がネクタイ4000本を集めた理由――営業マンのセルフブランディングを考える

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近年、自らをブランド化し、プロモーションする「セルフブランディング」という手法が脚光を浴びている。自身の知名度が収入にダイレクトに響く、フリーランスや個人事業主は大きい効果が得られそうだ。一方で、企業に所属している営業マンには一見、あまり関係なさそうに見える。

だが、こんなに言葉が流行する前から、セルフブランディングで抜群の成績を残してきた、1人の元・営業マンがいる。一般社団法人 保険健全化推進機構 結心会 会長の上野直昭氏だ。彼がセルフブランディングに使ったのは、営業マンの必須アイテム「ネクタイ」だった。彼の半生から営業マンにとってのセルフブランディングの価値を紐解いていく。

取引先のジョークから始まった個性派ネクタイ道

一般社団法人 保険健全化推進機構 結心会 会長の上野直昭氏
一般社団法人 保険健全化推進機構 結心会 会長の上野直昭氏

上野氏は1981年、新卒で日本火災海上保険株式会社(現・損保ジャパン日本興亜)に入社。全国トップセールスに常に名を連ね、まだ店頭での保険の対面販売という業態が世にない時代に、いち早く保険ショップの立ち上げに挑戦した、知る人ぞ知る保険業界の風雲児だ。

納豆柄、ギターモチーフなどズラリと並ぶ個性的なネクタイの数々。上野氏が所有するネクタイの本数は述べ4000本以上。上野氏は20代の頃から毎日このようなド派手なネクタイを身に着け、重要な商談や会議をこなしている。

今や上野氏のトレードマークとして知られるこのインパクト抜群のネクタイも、身に着け始めたのは20代後半ごろのこと。彼自身、最初からセルフブランディングを意識していたというわけではなく、きっかけは、代理店契約を結んでいた取引先の担当者が発した何気ないジョークだったという。

「沖縄に配属されていた頃に何げなく買ったトロピカルなネクタイ、それを次に転勤した奈良でも着けていたんです。それが担当者の方にウケて『来週は愛鳥週間だから鳥のネクタイでも着けてこいよ』って言い出したんです。それで次の週に鳥柄のネクタイを着けていったら、ますます面白がってくれて、いろんな年間行事をリストアップして、『次はこれにしよう』なんて話が広がっていった。それにノッているうちに、今みたいに変わったネクタイばかり着けるようになったんです」

狙いはあった。
当時は保険商品の自由化が行われる前で、どの保険会社も同じ保険商品を同じ保険料で売らなければならなかった。つまり、商品で一切差別化を図ることができないという時代背景があった。こうやって面白いネクタイを着けて顔を出せば、保険代理店もそれを楽しみに自社の保険を売ってくれるのではないか。その目論見は的中し、それ以来、どんどん契約数は伸びていった。

新規の飛び込み営業にも効果はてきめんだった。初回はそっけなく断られても、二度も行けば必ず覚えてくれる。結果、そこから契約に結びついた事例は枚挙に暇がない。「上野直昭」の名前は覚えていなくても、「ネクタイが派手なやつ」という記憶は取引先の頭にしっかりインプットされる。それは、営業にとってこれ以上ない武器となった。

非差別化型商品に生来の口下手。
悪条件と弱点が、強みを生み出す鍵

「喋ることは決して得意じゃなかった」という上野氏にとってド派手なネクタイは最強の会話の切り札となった。

一般社団法人 保険健全化推進機構 結心会 会長の上野直昭氏
上野氏のコレクションの一部。納豆柄のネクタイには「粘り強く頑張れ」という部下へのメッセージが込められている

「変わったネクタイを着けていけば必ず訪問先で話題になる。そうしたらアイスブレイクがすごく楽になった。コミュニケーションが下手な私でもこれさえあれば何とかなったんですよ」

当時、ネクタイへの投資金額は月間2~4万円。最も高額だったものは、背広の袖の形をしたネクタイ。もちろん素材は背広と同じものだ。価格はおよそ6万円。部下にネクタイの先端に手の形をした布を縫いつけてもらい、契約の段になったらネクタイの先から隠していた特製の手を出して申込書を受け取る、といった遊び心ある演出で取引先を和ませた。

偶然のきっかけで始まった上野氏のセルフブランディング。しかし、彼が営業マンとして受けた恩恵は計り知れない。

セルフブランディングをすることで
想いを共有できる仲間が見えてきた

そんな上野氏、現在は経営者として意図的にセルフブランディングを行っている。

2011年、上野氏は業界初の少額短期保険業者同士の合併を実行し、アイアル少額短期保険株式会社の社長に就任した。と同時に、彼は髪を金色に染め、周囲を驚かせた。その風貌は業界内でも話題となり、おかげで日本経済新聞など大手メディアに取り上げられ、コストをかけずに自社の宣伝を果たすことに成功した。

だが、セルフブランディングに意識的に取り組むのは、何も宣伝のためだけではない。

「僕はこれまでもマーケットにない商品やサービスをつくり出してきました。髪型やネクタイくらいで眉をしかめるような人とは、そもそも新しいことやオリジナルの商品はできないんですよ。もちろん相手に合わせて自分を曲げることは簡単だけど、僕は自分という人間そのものをお客さんに買ってほしい。ネクタイがおかしかろうが金髪だろうが、僕の発想を面白いと思ってもらえるか。そこをスクリーニングするためのツールがネクタイであり髪型なんです」

セルフブランディングとは単に自分をPRするための手段ではない。自分に共感・賛同し、同じ目的に向かって立ち上がってくれる仲間を募るためのリトマス試験紙でもあるのだ。想いを共にできる仲間が集まったとき、新しい何かが生まれ、ビジネスは加速する。

一般社団法人 保険健全化推進機構 結心会 会長の上野直昭氏
セルフブランディングはまず一歩踏み出すところから始まる、と上野氏

「だから異端になることを恐れず、みんな何かやってみたらいい。やってみないと何にも分からない。もしやって失敗したら修正すればいいだけ。それより、何もやらないことの方がよっぽどリスキーです」

まず自分という人間を覚えてもらわなければ営業は始まらない。では、どんなことから手をつけてみればいいだろうか。

「ネクタイって割と簡単だと思いますよ。ちょっと派手なものにしてみたり、あえて蝶ネクタイにしてみたり。お金もそんなにかからないから挑戦しやすい。他にも名刺入れの色やデザインを他の人が選ばないものにしてみたり、スーツに帽子を合わせてみたり。セルフブランディングをするなら、まずは見た目から入るのが一番楽で効果的ですよ」

セルフブランディングの第一歩はやはり外見が一番分かりやすい。早速仕事終わりに百貨店にでも足を運んで、普段はスルーしがちな個性的なファッションアイテムに手を伸ばしてみてはいかがだろうか。

取材・文/横川良明 撮影/小林正

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