キャリア Vol.139

マックスむらい氏が語るキャリア論――「営業経験」の通過点的価値とは

YouTubeチャンネル登録者数139万人超。人気YouTuberとして世に名を馳せる“マックスむらい”こと、AppBank株式会社 取締役の村井智建氏。『パズドラ(パズル&ドラゴンズ)』をプレイしている人なら、誰もが知っている超有名人である。

しかし、そんな彼にも「まったく売れない営業マン」だった時代があり、そうした過程を経たからこそ、今があるのだという。

営業マン時代の経験を、自分の中でどう価値あるものに変えるかは、本人次第。常に変化を続ける村井氏が、かつての自分自身を語る。

AppBank 村井智建氏(マックスむらい)

AppBank株式会社 取締役
村井智建氏

1981年生まれ。防衛大学中退後、2000年、株式会社ガイアックスに入社。08年にアプリ情報メディア『AppBank』を開設し、12年に法人化。代表取締役CEOとなる。その傍ら、『マックスむらい』としてネット動画界に進出し、ニコニコ生放送やYouTubeで「超真剣にゲームプレイする姿」が注目を集め、絶大な支持を得る
◆Twitter:@entrypostman
◆YouTube:https://www.youtube.com/user/TheMaxMurai
マックスむらい公式ページ
ニコニコ マックスむらい部
◆著書:「マックスむらい、村井智建を語る」(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)

営業を外され「議事録作成係」になってからの快進撃

大学を中退した後、IT事業を手掛ける株式会社ガイアックスに入社した村井氏。「パソコンもできない、インターネットもよく知らない」状態であった上、履歴書を書いたことすらもなく、大学ノートの1ページを引きちぎり、経歴を書き込んで面接に臨んだ。面接担当した当時の部長がその破天荒ぶりを面白がったことで「拾ってもらえた」というのが自身による分析。

村井氏は、部長のアシスタントとして雑務を経験後、ITシステムを販売する営業マンとなった。最初の1年半は80万円の受注しか取れず、「こんな自分では給料をもらう資格もない」と悩んだという。

マックスむらい氏が語るキャリア論――「営業経験」の通過点的価値とは

「そんな時に会社から、『一度営業を外れて他のプロジェクトのアシスタントをやってみろ』と言われ、複雑な心境になりましたね。おまけに、任された仕事はプロジェクト会議の議事録を取ることのみ。けれど、目の前の仕事をとにかくこなしていくのが私のスタイルでしたから、すべての会議に出席してひたすらその内容をタイピングしていきました」

一日8時間タイピングし続けた日もあったが、腐ることなく、会議の内容をまとめ、課題を整理した。1年が経つ頃、そのプロジェクトの全貌と詳細を誰よりも把握し、営業に同行すれば面白いように契約が決まるようになる。やがて、プロジェクト全体の運営責任者を任され、数億円単位の契約をばんばん決めていく快進撃が始まったのだ。

「自分に都合の良いタイミングでチャンスが訪れるなんてこと、誰にでも起きるわけじゃないんですよ。自分の経験から言えるのは、『やるヤツはどんな状況にあってもやる』ってこと。仕事を与えられなくても、自分で仕事を作っていくんです」

その哲学は自社のスタッフマネジメントにも表れている。村井氏は、AppBankの社員たちには、「頑張れ」とは言わず、むしろ、「休め。自分がやりたくなったらやれ」としか言わない。

「やるヤツ、やらないヤツの両極に分かれますが、そのまま腐っていくだけなら淘汰される。自分で跳ね返せるヤツにならなくては、その先には行けませんよ」

仕事は「自分が飽きないように」するだけ

ガイアックスで同社執行役員就任を経て、村井氏は、子会社のGT-Agency設立を任される。占いコンテンツ商材を企画し、自分と取締役のたった2人で、1年半の間に450社と契約。設立2年目で二億円近い売り上げを叩き出す。

マックスむらい氏

「一日8件ものアポをこなす毎日でした。つまり、一日に8度も同じことを話し続けたわけです。そんな生活に自分が飽きないよう、『一社あたりに割く時間をどこまで減らせるか』に注力しました。ムダな部分をガンガン削り、最終的には伝えたいことを10分間に凝縮できるまでになりましたね」

濃密な10分間の作り方を習得したこの経験は、AppBank設立後に大きく役立つ。TV番組に出演した際、短い時間の中で表現しきる力が評価されたのだ。

「営業時代に集中してブラッシュアップしたことで自然と身に付いたんでしょうね。以来、いろんな番組に出まくりましたが、こうした過程が現在の“マックスむらい”の動画配信につながっていきました」

一方、仕事に対するきっぱりとしたスタンスにも、営業時代の経験が生きている。ガイアックス時代、最後の最後に値切ってくるような会社と付き合ってもムダだと気付いた。

「そういうクライアントのために面倒くさい経験をたくさんしました(笑)。でも、おかげで最後の最後に細かいミソを付けてくるような会社を相手にすれば、時間を割くだけで利益にならず、付き合ううちにプロジェクトそのものがダメになると分かった。逆に、こちらの提案にすぐOK を出すクライアントと付き合えば、事業の精度はアップし、より良いクライアントとつながるんですよ」

「金をもらえるから」という理由だけで仕事をすることはない。やりたくないと思った時点で、勇気を持って断るという。やりたくない仕事を続けることで自分自身がやる気をなくす、その方が問題なのだ。

「私が最も大事にしているのは、『続けていくこと』。例えば、商品広告の動画を1000万円で販売した場合、何億円もの商品を売らなくてはスポンサー側に利益は出ません。そんなのキツいし、仕事に対してネガティブな感情が0.1%でも入れば、自分が続かない。だから、面白いものを動画で紹介し、自社のストアやECサイトで販売していく事業を選んだんです」

自分が飽きずに続けていくことを大切にし、それを成立させる方法を生み出す。営業時代の経験は、村井氏が新たなビジネスで価値を生み出すサイクルの根底を作ったと言えるだろう。

続けるために、自ら“新陳代謝”していく

村井氏は、「お金儲けが好き」で「赤字の事業が大嫌い」だと公言してはばからない。その理由はやはり、儲からないと「続かない」からであり、かつ、お金を使う行為そのものがコミュニケーション手段の時代であるからだという。

「まず、アーティストにありがちな『よろしければ自分の曲を聞いてみてください』みたいなスタンスでは絶対にダメなんですよ。買ってもらわないと続かない以上、『聞け! 買え!』です。ウチのストアも同じで、『来て遊べ! カネを使って帰れ!』と言い続けなければ、事業として続かないんです」

実際、AppBank Store(実店舗)には、修学旅行で東京に来て、小遣い5000円分を丸々使う高校生もいるそうだ。村井氏はそれに対し、「もっと使え! すっからかんになって帰れ!」と本気で思っている。

マックスむらい氏が語るキャリア論――「営業経験」の通過点的価値とは

「彼らにとっては『むらいの使ってるアレを買った』『マジかよ、やっべーな!』という、そのやりとりこそがネタになり、密な思い出になる。ウチにカネを落とすことで、ダイナミックなコミュニケーションを体験でき、我々もまたダイナミックに事業を展開し続けることができるわけです」

AppBankが動画配信事業を開始したのはわずか2年前で、小売り事業もそれにともなってスタートしたが、この2つは現在の主力事業だ。設立当時と比較すると、事業収益の8〜9割が入れ替わったが、結果として、前年越えの利益を出し続けている。

「体の細胞が入れ替わるがごとく、事業そのものがどんどん変化しています。毎日毎日、新しい挑戦を求められ、社員もみんなジェットコースターに乗って酔っぱらっているような状態でここまで来ました。でもそれは、動画産業そのものが成長真っただ中にあるから。この産業が衰退した時こそが勝負の時なんです。常に変化し続けること、新陳代謝していくことが大事ですね。これは同じ営業トークで同じ日々を繰り返す営業マンに対しても言えることだと思います。夢見る自分があるのなら、自ら工夫し、新陳代謝していくこと。そこから新たな可能性が広がります」

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取材・文/上野真理子 撮影/竹井俊晴


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