キャリア Vol.357

40代のタクシードライバーが勤務中に大粒の涙を流したわけ。東洋交通の乗務員に乗客とのエピソードを聞いてみた

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人口が集中する東京23区を中心に、都内全域を営業エリアにしているタクシー会社、東洋交通。

同社では、タクシーを走らせながら利用客を獲得する「流し」のスタイルが一般的であり、「付け待ち」と呼ばれるターミナル駅や大規模商業施設などで利用客を待つスタイルはむしろ効率が悪いと教わっているという。

その理由は2つある。1つめは、営業エリアが都内のため、タクシー利用客が豊富にいるから。2つめは、日本交通グループに属しているため、日本交通の配車アプリの恩恵を受けられるためだ。

そんな乗客獲得に困らない東洋交通のタクシードライバーだからこそ、毎日さまざまな人々と出会い、思いがけない出来事に遭遇する機会は多いことだろう。

今回は、そんな東洋交通のドライバーがこれまで乗務中に経験した乗客とのエピソードから、印象的なものを教えてもらった。

(写真左から)東洋交通の大塚広樹氏、徳山正敏氏

(写真左から)東洋交通の大塚広樹氏、徳山正敏氏

深夜のカラオケタクシー

―― 乗務員として働いていると、さまざまな乗客との出会いやエピソードがあるかと思いますが、まずはおもしろいエピソードを教えてください。

徳山 私はまだ乗務員になったばかりのころ、同級生を乗せたことがありましたね。私がタクシー業界に転職したのを知っていて、「ひょっとしたら徳山が来るかも」と思って呼んだんだと思います。

―― そういう時はやはり知らないふりを?

徳山 ええ。ドライバーとお客さまの関係ですのでもちろんそうです。いつものとおり「ご利用ありがとうございます」と丁寧な接客を心掛けました。どうやら接待だったようでしたが、お連れの方が先に降りたので、降りたあとは「なんだよー」と昔の話に花が咲きましたけどね。

―― 大塚さんは印象に残っているお客さまはいますか?

大塚 私は31歳の時に転職して乗務員デビューしたんですが、まだ仕事を始めて間もないころにお乗せした方がとても印象に残っています。深夜の道端に私と同じ年くらいの女性が立っておられ、ご乗車された際、コンビニに寄って缶コーヒーを買ってくださったんです。「長くなるからさ」と。

―― 長距離のお客さまだったんですね。

大塚 ええ。ちょうどお客さまが少ない時間帯だったので、内心「やった!」と思いましたね。都内から郊外へと車を走らせ、途中から高速道路に乗りました。すると突然そのお客さまがスマホから音楽を流されて、「この曲知ってる?」と聞かれたんです。知ってます、と答えると、「じゃあ歌いながら行こうよ」と。

―― えっ? 一緒にですか?

大塚 はい。一曲目は確かGLAYの『HOWEVER』でした。 まるで“カラオケタクシー”ですよ。2時間くらいでしょうか、2人で歌いながら目的地までお送りしました。もちろん、運転があるので控えめにですが(笑)

―― おもしろいお客さまですね。

大塚 おもしろいお客さまといえば、土曜の明け方に六本木を流していたら4人組のオネエの方々をお乗せしたことがありました。転職して、まだ2回目の乗務の日だったので強烈に覚えています。

明け方の六本木、オネエ4人が乗車

大塚 お乗せしたタイミングからおおよそ覚悟はしていたものの、かなりお酒を召し上がっていたようで、テンションがすごく高かったんです。窓から手や足を出そうとしたりと、それはそれは大変でした。

―― 楽しいお酒だったんでしょうね。

大塚 車内の乗務員証で私の名前を確認されたようで、「ねえ、大塚ぁ! 大塚は彼女いないのー?」「大塚、このまま飲みに行こうよー!」と絡まれたり。そのうちのお一人に口説かれましたが「すみません、妻がおりますので」と返すのが精一杯でした。まだ乗務員歴も浅く、動揺からか道を間違えてしまったことを覚えています。

一番困るのは、泥酔したまま熟睡する乗客

―― 乗務中に困ることは何ですか?

大塚 よくある話ですけど、泥酔されたお客さまが車内で寝てしまわれた時は困りますね。

―― それは多そうですね。

大塚 住所が言えなかったり、お一人で立てないくらい酔われているお客さまはお断りしていい、という規定もあるのですが、体格のいい外国人の方に放り込まれるようにご乗車された方がいらっしゃいまして。たった5分ほどの距離でしたが、その間に寝てしまわれたんです。

―― 到着しても起きない場合はどうするんですか?

大塚 こちらはお客さまに手を触れてはいけないというルールがあるんです。その時は冬場だったのですが、窓を全開にし、「お客さまー! 着きましたよー!」とひたすらにお声がけを続けました。車を離れるわけにもいかないので、運転席で飛び跳ねるように車を上下させながら。

泥酔するお客さん

大塚 降りていただくまでは次のお客さまを乗せられませんし、走り出すこともできません。メーターも停止しているので、この時間が一番つらいですよね。

キッズタクシーで生まれた絆

―― 最後に、「タクシードライバーならではのやりがい」を感じたお話を聞かせてください。

大塚 半年間で同じお客さまを3回乗せたことがあります。それも3回とも違う場所で。30代のやり手のキャリアウーマンという雰囲気のお客さまでした。

―― 3回それぞれ違う場所で、というのがすごいですね。

大塚 しかもこの方、私がドライバーとして最初に乗務した日のお客さまなんです。しかも、そのときは道を大きく間違えてしまいました。

―― 叱られたんじゃないですか。

大塚 思い出すと今でも背中に汗がにじむくらい、すごい剣幕で叱られました。こちらも申し訳ない気持ちでいっぱいで。その後2度目のご乗車をいただいて、そのときは道を間違えることなくちゃんとお送りすることができました。

――お客さまは気付かれたんですか?

大塚 はい。気付いていただけて、しかも、3回目はかなり短時間でお送りすることができたんです。お客さまから「あの時、乗せていただいた方ですよね? 早く送り届けてくれてありがとうございました」って声を掛けていただいて。その時は本当に涙が出るほどうれしかったですね。

―― 徳山さんはいかがですか。

東洋交通の徳山正敏氏

徳山 日本交通グループには、「エキスパート・ドライバー・サービス」という付加価値の高い送迎サービスがあるんです。「キッズタクシー」「ケアタクシー」「観光タクシー」の3つがあり、乗務員はそれぞれに必要な資格や検定を取得しています。

―― 徳山さんはどれを担当していたんですか?

徳山 私は当時キッズタクシーを担当していました。お子さまの家までタクシーで迎えに行き、幼稚園に到着したらお子さまと手をつないで、先生のもとに送り届けるまでが仕事です。

同じお子さまを約1年間、幼稚園へ送り届ける担当をしていたんですが、契約の最後の日に「○○ちゃん、今日が最後だね」ってぽろっと言ってしまったんです。

その途端、お子さまの目からぽろぽろと涙がこぼれてきたんです。私もそれを見たら急に寂しさがこみ上げてきてしまって、大の大人でしたが、溢れる涙を止めることができませんでした。

キッズタクシーで生まれた絆

―― それはぐっときますね。

徳山 その様子を見ていた園長先生がお母様に伝えたらしく、後日、会社宛にお母さまから手紙をいただきました。「この子が1年間、幼稚園に通えたのはキッズタクシーと徳山さんのおかげです」って書いてあったんです。この時は、本当にタクシーの乗務員をやっていてよかったなと心の底から思いましたね。


タクシードライバーの仕事は接客業であるため、さまざまなトラブルに直面するケースもあるだろう。しかし、決してつらいばかりの仕事ではない。

タクシードライバーならではの乗客との一期一会のふれあいは、他の業種・職種ではなかなか経験できないやりがい、醍醐味に満ちている。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴 イラスト/村野千草(有限会社中野商店)


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