キャリア Vol.418

「営業辞めて、ピエロになります」28歳脱サラピエロが語る、後悔しない人生の法則【営業のNEXTキャリア図鑑:豊田淳氏】

アノ人もこの人も「営業」を経験したから今がある!
営業のNEXTキャリア図鑑
新卒で入社した今の会社。同期のほとんどが営業職。「まずは現場を知りなさい」と営業に配属されたけど、このまま営業をやっていて、自分はこの先どうなるんだろう……? 管理職や経営者のポストはごくわずかしかないけれど、仲間の営業マンたちはどこに向かっていくんだろう……? 未来に不安を感じている若手営業マンは多いだろう。そこで本連載では、営業経験者たちへのインタビューを通じ、「営業マンのネクストキャリア」の可能性を探っていく。多種多様なキャリアメイクをしてきた先輩たちの姿から、自分の「なりたい姿」をイメージしてみよう
ピエロ  豊田淳氏(28歳)

ピエロ  豊田淳氏(28歳)

愛知県生まれ。大学卒業後、名古屋で広告会社に就職。営業に配属され、高い成績を上げて新人賞を獲得。2年目に東京へ転勤となるが、ピエロの養成学校に通うため、会社を1年8カ月で退職。現在はフリーランスのピエロとして活動中

本連載の2人目は、営業職のNEXTキャリアとして、なんと“ピエロ”を選択した男性だ。営業が嫌になったわけでも、向いていなかったわけでもなく、むしろ新人賞を取るほど高い成果を出していた彼が、なぜサラリーマンとは全く異なるパフォーマーの道へ進んだのか。その理由を語ってもらった。

早く一人前になるため、あえて“ブラック企業”に入社した

大学卒業後、出身地の名古屋で広告会社に就職し、営業として働き始めた豊田淳氏。その1年8カ月後、彼は会社を辞めて“脱サラピエロ”となる。だが、それは豊田氏本人にとっても予想外の展開だった。なぜなら入社した時から、営業という仕事にかける意欲と掲げた目標は、他の誰より高かったからだ。

「最初に決めたのは、『やるからには一番になる』ということ。高校ではラグビー、大学ではアメフトと、ずっとスポーツに打ち込んできたので、何ごとも負けるのが嫌なんです。だから営業に配属された時の自己紹介で、『先輩後輩は関係ありません。私が一番になります!』と宣言しました」

それほど高いモチベーションで仕事に臨めたのはなぜか。本人に理由を問うと、これまた驚くような答えが返ってきた。

「就職活動の時に考えたことは、『ブラック企業に行きたい』でした。うちの家系は自営業や士業で生計を立てる人が多く、自分もいつかは好きなことを見つけて独立するだろうと考えていたんです。とすると、それまでの修行の場として最良の選択は何か。そう考えて出した答えが、『病むくらい働ける会社にいくこと』でした(笑)。表現が良くないかもしれませんが、要は自分のキャパシティをオーバーし続けるくらいがむしゃらに仕事をして、早く一人前の社会人に成長したいということです」

素顔の豊田氏は、爽やかな好青年だった!

素顔の豊田氏は、爽やかな好青年だった!

豊田氏が配属されたのは、レッスンや習い事の情報を扱うスクール事業部。学校や教室に営業して、自社媒体に広告を出してもらうのが仕事だ。このビジネスモデルには、リクルートの『ケイコとマナブ』という強力な競合が存在する。だが、豊田氏はそれをハンデとは感じなかった。

「知名度で負けているからこそ、営業するのが楽しかった。自社のサービスにネームバリューがないのだから、受注できるかどうかは、私個人のさじ加減ということ。自分の力だけで勝負できるなんて、面白いじゃないですか」

その言葉通り、豊田氏はトップの営業成績を勝ち取るために工夫と努力を重ねた。

「飛び込み営業が基本なので、まずはインターホンを突破できるかどうかが最大の勝負。だからいろいろな作戦を試しました。例えば、インターホンのカメラに向かって100円ショップで買った砂時計を見せて、『この砂が落ちきったら、絶対にすぐ帰ります! だから、少しだけお話させてもらえませんか?』とお願いするとか。この方法は、かなりうまくいきました」

しかも初対面の相手には、営業トークを一切しなかったという。

「『隣の店で売ってるメロンパン、食べました? おいしいですよね〜』といった雑談をするだけで、砂が落ちたら本当に帰るんです。それでなぜ契約が取れるかというと……、人柄かな(笑)。というのは冗談にしても、実際のところ、私の営業スキルは決して高くなかったと思います。作り込んだ資料や細かいデータを見せてプレゼンするようなロジカルな営業は、得意ではありませんでしたから」

『人生で一番大事なことは、腹の底から笑い転げた回数が多いことだ』
父の言葉に後押しされ、脱サラピエロに

こうして会社や商品の力に頼らず、“自分”という商品の魅力だけで勝負し続けた豊田氏は断トツの営業成績を上げ、社内の新人賞を獲得。その実績が評価され、翌年には東京へ転勤となる。この人事は、社内でも前例のない“超栄転”だった。だが、この異動が豊田氏の人生を大きく変える。

「私はそれまで地元から出た経験がなかったので、『東京でたくさん友達をつくろう』と目標を立て、給料日の前日には数百円しか残らないくらい毎日飲み歩いたんです。脱サラしてお店を経営したり、イベントを主宰したりと、自由に生きる魅力的な人たちにもたくさん出会い、刺激を受けました。ただ、そこで気づいてしまったんです。彼らの生き方に比べて、自分の人生がまったく面白くないことに。私は子どもの頃から学級委員長や部活の主将に選ばれるような優等生で、社会人になっても新人賞を取るくらいの“出来過ぎ君”だった。それがすごくつまらなく感じて、『順風満帆だった自分の人生を壊したい』と思い始めました」

豊田淳氏

ただ、具体的に何をすれば良いのか分からない。悩んだ豊田氏が父親に相談したところ、こんな答えが返ってきた。

「『人生で一番大事なことは、腹の底から笑い転げた回数が多いことだ』と言われたんです。その言葉がしっくり来て、『自分も周囲の人も、笑い転げる人生にしたい』と思えた。ただ、お笑い芸人ならすでにたくさんいる。自分はもっとユニークな存在になりたいと考えていた時に、たまたまピエロの養成学校があることを知ったんです。その瞬間、『これだ!』と直感しました」

養成学校は仕事をしながら通うことは難しい。そこで豊田氏は、あっさりと会社を辞める決断をする。

「上司に『ピエロになりたいから、会社を辞めます』と言ったら、精神科の受診を勧められました。あまりに仕事が忙しくて、おかしくなったと思われたんでしょうね」

そう本人は笑うが、エリート街道を走っていた期待の若手が突然そんなことを言い出せば、周囲が驚くのも無理はない。しかも飲み歩くのにお金を使い過ぎて、退職時の貯金はゼロ。会社を辞めれば収入が途絶え、バイトで食いつなぐことになる。なぜ迷うことなく、不安定な将来を選択できたのだろうか。

豊田淳氏

「私は以前、ある本を読んで衝撃を受けたんです。そこには、90歳以上のアメリカ人1000人に『人生で後悔していることは何か』とアンケートを取ったところ、9割以上が『もっと冒険しておけばよかった』と答えたことが紹介されていました。だから私は、絶対に同じ後悔をしたくないと思った。それと、脳科学の本を読んで、脳が幸福ホルモンを分泌し続ける条件は、“愛”と“夢”の2つだということも知りました。愛とは、自分が人に受け入れられ、自分も人を受け入れること。夢とは、1つの目標を追いかけることです。私は『人生における成功とは、幸せになることだ』と思っているので、たとえ生活が苦しくなったとしても、この2つを判断軸として自分の進む道を決めました」

営業経験を活かして仕事を獲得
“稼げるピエロ”のロールモデルを目指す

こうしてピエロの養成学校に1年間通った後、現在はフリーランスのピエロとして活動中の豊田氏。結婚式やパーティーなどのイベントでパフォーマンスを行う他、居酒屋や路上で芸を披露して観客からチップをもらう活動もしている。そんな時は、サラリーマン時代の営業経験が大いに役立つという。

「飲食店と交渉して、『ギャラはいらないので、お店でマジックを披露させてほしい』とお願いするのは、まさに営業活動ですよね。誰に会い、どのように自己アピールして、交渉を進めればいいか。こうした作戦を考え、自分から能動的に仕事を取りに行くことができるのは、営業経験があってこそです」

さらに、豊田氏にはもう一つの目標がある。それが、“稼げるピエロ”のロールモデルになることだ。

「今取り組んでいるのは、単発の仕事だけに頼らず、自分のファンクラブを作って月3000円の会費で入会していただくこと。こうした“稼げる仕組み”をつくれば、『自分も面白いことをやってみたい』と思って、チャレンジする人が増えるはずです。私がピエロになると宣言した時も、“経済のハードル”が一番高かった。周囲からは『どうやって食べていくんだ』と散々言われました。だから私がこのハードルを越えてみせれば、迷っている人たちの背中を押せるんじゃないかと思っています」

豊田淳氏

今まさにNEXTキャリアを考えている人の中にも、新たな一歩を踏み出せず迷っている人がいるかもしれない。そんな人に、豊田氏はこんなアドバイスをくれた。

「『今の会社や仕事を辞めたら、周囲からどう思われるか』と気になる人は、新しい友達をたくさんつくるといいですよ。今つながっている人から批判されたとしても、フィールドを変えれば別の価値観を持つ人に出会えるし、自分を応援してくれる人もいるかもしれない。私も東京でさまざまな生き方や考え方の人に出会って、ピエロへの道に進めたわけですから」

他人からどう思われようと、自分の軸となる価値観が確立していれば、自信を持って新しい道へと踏み出せる。自分のキャリアを晴れやかな笑顔で語る豊田氏の姿が、そのことを証明してくれている。

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取材・文/塚田有香 撮影/大室倫子(編集部)

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