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「絶望の淵にいる“過去の自分”のような子を救いたい」30代SES社長が語るエンジニア成長論

#働き方

検証!“SESはダメ”ってホント?

ネット上には、数々の「SES脱出」ノウハウが出回っている。しかし、SESは本当に“脱出”しなければいけない場所なのか? 本特集では、SESで働く技術者・経営者や人材業界の識者への取材をもとに、SESにまつわるネガティブな噂の真相を検証。SESエンジニアが仕事を楽しみ、“いいキャリア”を築くための方法を紹介する。

「SESはブラック企業」「SESが日本のIT業界をダメにしている」

国内のIT業界にSESは欠かせない存在であるにも関わらず、ネット上にはSESに対するネガティブな発信が溢れている。

そんな「SES叩き」の風潮に一石を投じたのが、SESとスマホアプリの受託開発を手掛けるマンハッタンコード代表の飯村有さん。飯村さんが2018年に執筆したnote「IT業界でSESがクソって言われるのに対して実体験を元にした反論」は、業界関係者の間で瞬く間に広がり、この2年間で閲覧数は10万ビューを突破した。

現在は当時に比べると「全てのSESが悪いのではなく、経営者や従業員によって良し悪しがある」という正しい認識が広まりつつあると飯村さんは言う。しかし、未だ多くの人が「SESはエンジニアをダメにする」という主張を続けているのも事実だ。

では、飯村さんが考える、「エンジニアがSESで働く良さ」とは何か。自身がSES企業を興した経緯と併せて聞いた。

マンハッタンコード 飯村有さん
株式会社マンハッタンコード
代表取締役 飯村有さん(@MHTcode_Alex
18歳で「投資家になりたい」という目標を持ち、ビジネスを学ぶために数社で営業職を経験。その後24歳の時にSIerに転職するも、所属企業がリーマンショックの影響を受けSES事業を開始。飯村さん自身も客先常駐案件を数年担当する。その後個人事業主として独立し、2016年3月にSESと受託開発を手掛けるマンハッタンコードを設立。18年、株式会社アクシアの代表、米村 歩さんがに書いたブログ「日本のIT業界のためにSESは消滅するべきだと思う」に対する反論note「IT業界でSESがクソって言われるのに対して実体験を元にした反論」を公開し、話題に

「身寄りのない子どもたちを救いたい」飯村さんがSES会社を起業した原点

僕がこの記事を書いたのは、自分たちがプライドを持ってやっている仕事を外野から否定されて黙っていられなかったのもありますが、SESの契約で働く人たちにも、「SESは悪」とか「SESでは成長できない」という考え方はしなくても良いのだということを伝えたい思いもあったんです。

ちょっと昔の話になりますけど、僕がSESの世界に入るまでの話をしてもいいですか?

僕は、家庭環境が複雑で。父親は僕が14歳の時に借金をつくって女性と逃げ、その翌年に母親は脳梗塞で倒れて働けなくなりました。残されたのは僕と、9歳と12歳の弟たちだけ。途方に暮れて役所に行くと、生活相談課に回され、こう言われたんです。「飯村さんはお母さまの持ち家にお住まいなので、生活相談課でできることはありません」と。社会の洗礼ですよね。15歳の僕は心の底から絶望しました。

結局親戚のお世話になることになり、昼は働き、夜は定時制の高校に通う生活に。18歳のとき、大検(大学入学試験検定)を取得して、卒業したら大学に行くつもりだったんです。ところが受験当日の朝、信じられないことに寝坊してしまって……。

よく考えれば、前日の深夜2時まで働いていたので、起きられないリスクは十分あったんです。でも、当時はそこまで考えが及ばなくて。正直な話、恥ずかしくて死にたくなりました。ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、若かった自分は本当に“死”を考えたんです。

マンハッタンコード 飯村有さん

その時、ふと「どうせなら死ぬ代わりにできることはないだろうか?」と思って。頭に浮かんだのは、15歳の時に役所で絶望した経験でした。

自分には助けてくれる親戚や友達がいたから、なんとか生きてこられた。でも、助けがない人たちは、あの瞬間に死んでたっておかしくない──。

だから身寄りのない子どもたちを救うために財団をつくろうと考えたんです。そのためには膨大なお金が必要だから投資家になろう、ならまずはビジネスを知らなければいけない。だったら、若いうちに会社を立ち上げるのが一番じゃないか?

「30歳までに会社をつくろう」。18歳だった僕の人生に、目標が生まれた瞬間でした。

「SESだから積める経験がある」SESで働いて良かった3つのポイント

会社を立ち上げても、「売る」ことができなければ話にならないと思い、18歳から24歳までは営業職をしていました。プロパンガスから電話契約、OA機器、パソコン、複合機まで、ありとあらゆる商品やサービスを売り、法人向け金融商品の営業にチャレンジした際は、全国の約2000人の社員の中で7番目になれたんです。

「売る」ことはある程度できるようになったので、次はものを「作る」ことを学ぼう。そう思った僕は、IT業界の扉を叩きました。従業員300人規模のSIerに入社し、VBAで帳票印刷するソフトを作ったり、PHPで予約システムや勤怠システムを開発したりと、エンジニアらしい仕事をしていました。

ところが、転職して1年。リーマンショックの発生に伴い、持ち帰りの開発案件はほぼ消滅。会社の方針変更とともに、僕は客先常駐で大手企業のインフラ案件を手掛けることになりました。SES契約を結んだインフラ運用マネジャーとして、複数のベンダーさんと協業したり、デイリーで何千万のアクセスを捌くネットワークを設計したり……。

ソフトウエアエンジニアとして入社した当初は全く予想していなかった仕事でしたが、この時の経験は、独立してアプリケーション開発をしていた時も、経営者になった今も大いに役立っています。

マンハッタンコード 飯村有さん

振り返ってみると、SESを経験して良かったと思えることが、大きく三つあります。

一つ目は、1人ではできない規模の仕事を任せてもらえたこと。

自分だけでサービスをつくったとしても、それをたくさんのユーザーに使ってもらうのはなかなか難しいですよね。でも、SESなら大型案件に参加できる。僕は規模の大きな案件をハンドリングするノウハウをSESで学びました。作った後の運用まで考えた設計を、開発の時にできるようになったんです。

二つ目は、いろいろな人と仕事ができたことです。SESは転職をしなくてもさまざまな現場に行けるので、一つの案件に複数のベンダーが関与しているケースが多い。1社でずっと働く場合と比べて、かなり多くの人と知り合います。

だからいろんな人がいて、いろんな考え方や方法があること学ぶことができます。この経験は、起業してからお客さまやチームメンバーなど、あらゆる人と一緒に働くことに大きく役立ちました。

そして三つ目は、自分の興味を引き上げてくれた点。インフラの仕事をすると分かった時は正直、「IT企業に入ったのにこんな作業をすることになるなんて」と思いました。ソフトウエアエンジニアなのにアナログの電話回線の設計をしているんです、完全に別世界ですよ。

ところが、この時に得た知識が、今の会社でWebサービスを作る際に非常に役立っています。振り返るとあれも良い経験でした。経験を活かすのも殺すのも結局は自分次第であって、「SESだからダメ」ということではないのだと思います。

全てのSESに当てはまるわけではないけれど……「SESはエンジニアをダメにする」と言われる理由

こうして、僕はSESエンジニアとして良い経験を積んでこれたわけですが、世間では「SESはエンジニアをダメにする」と言う人が後を絶ちません。その理由を考えてみました。

一つは、SESで働く全ての人がそうとは限りませんが、営業や管理部も含めて、仕事に対する専門知識を高めようという意識が低いからではないでしょうか。

特に営業については、6年間営業一筋でやってきた僕に言わせてもらえば、業界全体のレベルが低いと言わざるを得ません。

長時間労働が蔓延しているとか、お客さまからのクレームで大変な目に遭ったとか、そういうことがまるで「SES固有の問題」のように語られていますが、実際は営業をする段階で減らせるリスクが山ほどあります。だから、「営業が仕事をしていないだけ」と私はよく言っています。お客さまと自社が両方得をするような、長期的な関係をつくれていないから、現場のエンジニアが苦労しているんです。

マンハッタンコード 飯村有さん

一方で、エンジニア自身にも問題はあります。彼らの中には、キャリアパスについて真剣に考えている人が少ない印象です。例えばよく聞こえてくるのが、「テストばっかりやらされているから成長できない」という声。でも実際は、テストを極めればQAエンジニアという市場価値の高い職種にステップアップすることもできるんです。

そういうことを調べたり考えたりすることもせず、与えられた仕事に文句ばかり言っているようでは、例えどんな職種であっても成長は望めませんよね。

第一SESはスキルが低くても入りやすいのが利点ですが、誰も「低いままでいい」なんて言ってないじゃないですか。「研修や仕事を通して一人前のエンジニアに育ててもらおう」という考え方ではなく、本来は自ら得意なスキルを磨き、自分自身を育て、その上で会社員として会社を育てなければならないはずなんですよ。

これは当然どんな業界でも同じことが言えて、ここで認識のミスマッチが発生すると、本人は一生同じ問題で悩むことになってしまいます。

そして、ネット上にSESのネガティブな情報が蔓延してしまっている状況も、「SESはエンジニアをダメにする」と言われてしまう要因の一つです。匿名アカウントの発信した、ふんわりとぼんやりとした情報が、ネット上でまるで真実のように語られてしまっていますよね。

その背景には商売文化が関係しています。SESの仕事内容には守秘義務が課せられるため、仕事に関するポジティブな発信がそもそもできません。また、例えネット上で関係者であろう人物のネガティブな発信を見つけたとしても、表立って否定をすることが難しいのです。

加えて企業・経営者サイドも、SESや自社にまつわるポジティブな発信をすることが少ないですよね。SESで商売をやっているならば、良い部分をわれわれ経営者が発信していくべきだと思います。

もちろん全てのSESが、こうした内容に当てはまるわけではありません。営業が強かったり、エンジニアが将来のキャリアパスを真剣に考えていたり、従業員の声を吸い上げる工夫をしていたりするSESもある。問題は、社会的に必要不可欠なSESを、「良いサービス」として提供している人が少ないこと。それが結果的に、そこで働く人たちのやる気を削いでしまっていると考えます。

「会社が自分に何かをしてくれる」と期待するのが間違い

確かにSES業界には、先ほどお話ししたような問題を抱えている会社はあります。でも、だからといって「SESだから成長できない」なんてことはありません。

マンハッタンコード 飯村有さん

実際に僕は、SESで大きく成長できました。それは、達成したい目標があったからです。18歳の時に考えた「自分と同じ境遇の子供達を助けたいから金持ちになる」という夢。これがあったから、ビジネスを学ぶためにやるべきことを感情抜きで判断してこられたし、どんな仕事にも本気で取り組めました。学歴も無かったから何でもやってきました。

仕事に向き合う姿勢は、僕がSESにいようが他の会社にいようが、変わらなかったはず。逆に言えば、SESで成長できない人は、自社開発の会社でも受託開発の会社でも、きっと成果は出せないと思います。

とは言っても、「人生の目標なんて見つからない」と言う人もいるかもしれません。そんな人にお伝えしたいのは、少なくとも「会社が自分に何かをしてくれる」と期待するのは、やめた方がいいということ。自分が会社に貢献するから、お給料がもらえるんですよ。

そもそも人は他人のことを本質的には理解していません。誰かの手によって自分の望む環境が与えられるという方が不思議なことです。だからこそ自分だけは、自分のやりたいことを最優先で考え、それを達成するために必要な武器を磨いてください。それを繰り返していれば、どんな環境でも絶対成長できますから。

ちなみに「30歳までに会社をつくる」目標は、1年遅れつつも2016年にマンハッタンコードを起業して成し遂げられました。私には「自分と同じ境遇の子供を救う」という夢があります。なのでこれからも、18歳のときに立てた計画通りいに進めていきます。

おそらく大変なことも多いとは思いますが、今まで通りやれることは何でもやる。できるまでやる。それだけですね。

マンハッタンコード 飯村有さん

取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/河西ことみ(編集部)

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