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成毛眞「10年後、大半のエンジニアは食えなくなる」『2040年の未来予測』著者が示す“日本衰退の未来”への備え

働き方

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    エンジニアのキャリアって何だ?

    技術革新が進み、ビジネス、人材採用のボーダレス化がますます進んでいる。そんな中、エンジニアとして働き続けていくために大切なことって何だろう? これからの時代に“いいキャリア”を築くためのヒントを、エンジニアtype編集部が総力取材で探る!

    日本では将来にわたってIT人材不足が予想され、「エンジニアならいくらでも仕事はある」と考えている人も多いかもしれない。だが、「今のエンジニアの大半は、10年後には食えなくなる」と衝撃的な指摘をするのが、元マイクロソフト日本代表の成毛眞さんだ。

    成毛さんの新著『2040年の未来予測』(日経BP)では、20年後には空飛ぶ車やドローン配送が当たり前になるといった、少し前までSFの世界でしか語られなかった未来の姿を解説している。

    では、そのような環境変化の中で、エンジニアの仕事や役割はどう変わるのか。長期的なキャリアを考える上で、誰もが知っておくべき未来について聞いた。

    プロフィール画像

    HONZ代表 成毛眞さん

    1955年北海道生まれ。元日本マイクロソフト代表取締役社長。 86年マイクロソフト株式会社入社。91年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイアを設立。現在は、書評サイトHONZ代表も務める。 『アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト』(KADOKAWA)、『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』(SB新書)、『2040年の未来予測』など著書多数。

    少子高齢化、株価下落、天変地異…
    明るい未来は「テクノロジーの進化」だけ

    ――『2040年の未来予測』が話題ですね。20年後の世界をテクノロジーや経済、衣食住などの切り口から予測した内容ですが、なぜ「2040年」をテーマにしたのでしょうか。

    1年後や5年後の予測は外れるからです。例えば株式市場の動向も、短期の見通しはほとんど当たりません。ところが長期の予測ならほぼ当たります。

    もし今日にもブラックマンデー級の大暴落が起こって株価が半値になったとして、1年後や5年後にどれくらい戻っているかは分からないけれど、20年後には間違いなく暴落前の水準に戻っていると断言できます。

    なぜなら、過去250年のダウ平均や日経平均の推移を見ると、同じことが何度も繰り返されてきたからです。

    ――なるほど。

    地震や富士山の噴火といった天変地異も同様です。過去の地殻変動や火山活動の周期は研究で明らかになっているので、次の周期がいつやってくるかも分かる。今後30年以内に南海トラフ地震は70%から80%、首都直下地震は70%の確率で起こると予測されているので、多少の誤差があるとしても「20年±5年」の間にはほぼ確実に発生するでしょう。

    つまり歴史に学べば、20年後は予測可能になる。私が本に書いたことは「必ずくる未来」なのです。

    ――書籍の中では、これから日本経済はほとんど成長が見込めず、「日本は貧しくなる」「衰退していく」という見通しを示されています。やはりこれは避けられない未来なのでしょうか。

    私の予測が悲観的すぎると思う人もいるかもしれませんが、先ほど言ったように確定的な未来というのは存在するわけです。これからの20年で必ず起こることを整理すると、次の四つに集約できます。

    一つ目は、日本の少子高齢化がさらに進む。2035年には三人に一人が65歳以上になる一方で、高齢者を支える若者は減っていきます。二つ目は、世界の株価は上がるが、日本の株価は伸びない。労働人口が減ればGDPも増えないし、右肩上がりの成長は見込めないからです。三つ目は前述の通り、日本に天変地異がやってくる。そして四つ目は、テクノロジーが劇的に進化する。

    この四つのうち、最後の「テクノロジーの進化」だけが唯一の明るい未来です。これからの日本で個人や企業が生き残れるかどうかは、この変化に対応できるかどうかにかかっています。

    通信システムの進化だけでも、2030年には6Gが登場し、2040年には7Gが当たり前になる。これも確定的な未来です。なぜなら、中国が必ず実現するから。それに日本も巻き込まれて、嫌でも進化していきます。

    成毛眞インタビュー
    ――日本がテクノロジーで世界をリードするわけではないのですね……。

    まったくもって無理ですね。日本は100万年かかっても中国の技術には追いつけない。AIも半導体もクラウドも、全ての領域で中国の技術が凌駕しています。

    そもそもテクノロジーにおいて見るべきベンチマークは、世界ではアメリカと中国だけですが、DXについては中国がアメリカの5年くらい先を行ってるんじゃないかな。

    あらゆるものがデジタル化され、個人の信用レベルまでスコア化されて、点数の低い人は航空券や鉄道のチケットを売ってもらえなかったり、就職で不利になったりする世界ですから。

    アメリカはGAFAM以外の一般企業は意外とIT化が遅れていて、今頃になって小売のウォルマートがECを強化したことがニュースになるくらいだから、社会全体で見ればそれほどでもないわけです。

    ――日本が技術で勝てる領域は残されていないのですか。

    強いて言うなら、素材分野くらいでしょうか。少なくともITやデジタルの分野では見当たらない。

    技術力の問題だけでなく、ビジネスとしてもGAFAM級のメガグローバル企業はアメリカにしかつくれないんですよ。

    理由は、「英語」です。英語を喋る人は15億人いて、日本語を喋るのが1.2億人。相手にできる市場規模が違います。同じサービスを作るとしても、アメリカ企業は日本企業に比べて、ユーザー1人当たりの開発コストは10分の1で済むわけです。

    これだけ市場格差があったら、競争にならないですよ。日本企業も英語圏を狙えばいいと言う人もいますが、日本人が作った英語のSNSとか英語のECストアとか、ネイティブは使わないでしょう?

    エンジニアの活躍の場は、SIerからユーザー企業へ

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    ――日本がアメリカや中国に追いつく可能性がないとしたら、これからテクノロジー領域で日本の立ち位置はどうなってしまうのでしょう?

    日本はユーザーになるまでです。アメリカや中国が作った製品やサービスを買って使うしかない。つまり開発者ではなくなるということです。

    ――開発者ではなくユーザーになるとしたら、エンジニアの仕事はどうなるのですか?

    「全員が食っていける」のは、あと10年くらいじゃないですか。それまでにいわゆるゼネコンシステムがなくなって、SIがいらなくなるはずだから。

    現時点ではいまだに日本企業の約7割がレガシーシステムを使っているので、クラウドに移行する作業が残っていますが、それが終わればSIに発注する企業はなくなりますよ。AmazonからAWSを買ってくれば、わざわざ外注しなくても、自社でいくらでも運用できますから。
     
    それにIT業界のゼネコンシステムがいかに無駄な仕組みか、企業側も気付き始めています。最近もメガバンクが立て続けにシステム障害を起こしましたが、銀行が元請けに原因を問い合わせても、下請けや孫請けに丸投げしているから分からないっていうのが大体の回答でしょう。同様の構造が東京オリ・パラやコロナ関連のアプリ開発でも行われていることが報じられた。

    それでも今はまだテクノロジーに疎い世代が経営層にいるので、しばらくは外部に発注する流れが続くかもしれませんが、10年後には今の40代が組織の意思決定者になるので、「外注するのは無駄だから、自前でやろう」となります。

    ――自社サービスに携わるエンジニア以外は、10年後には職場を失うと?

    誤解のないように言っておきますが、エンジニアの仕事は、その後もずっとなくなりません。ただ、私が言いたいのは、エンジニアの活躍の場がSIerからユーザー企業へ移るということ。企業がAWSやAzureを使うにしても、それを担う技術者は必要なので、自社でエンジニアを雇うようになるわけです。

    だからエンジニア個人としては、むしろチャンスだと思いますね。

    ――チャンスというのは?

    例えば、現在30代の人がSIを辞めてユーザー企業に転職すれば、10年後には偉くなっている可能性が高い。転職先が中堅企業なら、取締役の情報システム部長になっていますよ。

    SIerの課長になっているのか、中堅ユーザー企業の役員になっているのか。後者の方が給与も高いはずですから、今がチャンスというわけです。

    だから、ゼネコンシステムの中にいるエンジニアは、とにかく今すぐ動くべきです。

    ピラミッドの一番上にいる大手SIなら大丈夫と思っているかもしれませんが、ゼネコンシステムそのものが消え去るのだから、あの構造の中にいる限り、どんな大手でも10年後には会社自体がなくなります。

    ――その未来を予測して、早めに行動したエンジニアだけが生き残れるわけですね。

    会社が潰れる時に辞めると悲惨です。割増退職金も出ないし、転職活動をしても「あんな会社にいたんだから、お前も仕事ができないんだろう?」と足元を見られる。会社は良い時に辞めなくていけません。

    企業に重宝されるのは、ビジョンや理想を持ったエンジニア

    成毛眞
    ――とはいえ、エンジニアなら誰でも雇ってもらえるわけではありませんよね。ユーザー企業、すなわち一般的な事業会社で必要とされるエンジニアの条件とは?

    「会社のビジネスや事業はこうあるべき」というビジョンを持っていることですね。

    例えばある会社が人事系システムを新しくしたいと考えた時、求められるのは技術に詳しい人ではなく、「住宅手当や通勤手当を止めて、基本給を上げた方が社員のためになる。だからこのシステムを作ろう」といった理想を持つ人です。

    それは人事部が考えればいいじゃないか、と思うかもしれません。まさにその通りで、人事のプロが現場の実情に即したシステムを作る方が早いこともある。しかもクラウドの時代は、ちょっと勉強すれば技術自体は誰でも扱えるので、人事がプログラミングやAWSを学ぶのはそれほど難しくないわけです。

    そういった社内のプロたちがライバルになるわけですから、エンジニアとして事業会社で必要とされるには、その会社のビジネスや業務を勉強した上で、「自社に最適なシステムはどうあるべきか」を考えることができなければいけません。

    ――企業活動にITやデジタルが不可欠となった今、ビジョンがあればエンジニアがビジネスや事業全体に貢献することも可能ということですか。

    その通りです。例えば東北のバス会社「みちのりホールディングス」はDXを積極的に推進し、全国に先駆けて高速バスでキャッシュレス決済を導入するなど、顧客の利便性を高めています。

    高知県の老舗菓子メーカー「芋屋金次郎」は、芋けんぴという伝統的な菓子をECで販売していますが、私から見てもとてもよくできたサイトで、ここ数年で会社全体の業績は10倍近く伸びたと聞いています。きっとこの2社は、Web担当者やエンジニアがとても優秀なのでしょう。

    このように、今の企業活動で足りない部分があった時、そこを改善できるのはエンジニアです。エンジニアが提案し、実行することで、コストも下がるし売上も拡大できる。

    ――テクノロジーも事業も分かっているエンジニアだからこそ、会社のためにできることがたくさんあるのですね。

    ただし、会社のビジネスや仕組みを変えるには、偉くならないといけません。だから遅くとも30代のうちに動いて、50代になった時にエンジニアの視点で会社を変えられるポジションにいなければいけない。

    繰り返しますが、もしこの記事の読者が今、20代、30代のエンジニアなら今すぐ動いて、10年後や20年後に偉くなれる場所に移るべきです。

    20年後には、あなたは必ず40代や50代になっている。それは避けようがない事実です。その時のことを今から想像して、できるだけ早く動くことをおすすめします。

    取材・文/塚田有香

    書籍情報

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    成毛眞

    「今日」には、これから起こることの萌芽がある。
    現在を見つめれば、未来の形をつかむことは誰にでもできる。

    成毛眞さんが「あらゆるデータから導き出されるありのままの未来」を書いた。本書は、ただ知識を得るためだけの本ではない。読んだ後、俯瞰的に未来を考えられる力がきっとついているだろう。

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