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パナソニック解散“中の人”が痛感「大手でも安泰じゃない」

ITニュース

    「パナソニック解散」のニュースが世間をざわつかせた2月頭。実はこの解散が報じられる1年前に、パナソニックから切り離された事業会社があることをご存じだろうか?

    パナソニックの車載事業の一翼を担っていたパナソニック オートモーティブシステムズ株式会社(以下、PAS)だ。

    パナソニックHDは2023年11月、このPASを米投資ファンドのApollo Global Management(アポロ)に売却すると発表。

    そこから約1年の移行期間を経て、譲渡手続きが24年12月に完了し、PASはパナソニックHDの連結対象から外れた*。

    つまり、今は切り離し宣言から1年が経過したわけだ。

    本記事では、現在もPASの社員であるAさん(仮名)に、1年経過した現在の状況と「切り離し宣言」が社内に告げられた当時の心境などを聞いた。

    *2024年12月までに株式の80%をApollo Global Management Inc.の関係会社が投資助言を行うファンドが、20%をパナソニック ホールディングス株式会社が保有する経営体制に移行(発表資料

    【お話を聞かせていただいたAさん】

    ・仮名:Aさん
    ・在籍企業:パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社
    ・年代:40代~50代
    ・職種 技術職

    パナソニックHD下で「俺たちはマシな方だった」

    ーーPanasonic解散のニュースはご覧になりましたか?

    もちろん、見ました。僕らは1年前にすでにその状況に置かれていましたから、複雑な気持ちでした。

    ーーPASの社員は、「切り離し」についていつ、どんな形で告げられたのですか?

    23年末頃に全社員が集められました。在宅の社員もいるのでオンライン会合でしたが、そこに楠見さん(パナソニックHD代表・楠見雄規さん)がいました。楠見さんの姿を見てすぐに「これは良くない発表があるな」と思いましたね。

    ーーそんなに一瞬で察した?

    はい、「楠見さんはコストカッター」と先輩から聞いていましたから。案の定、「PASはアポロに売る」と切り離されることが告げられた。それはもう社内はざわつきましたよ。ただ、話された内容はあくまでも前向きなものでした。

    ーー具体的には?

    PASで開発している車載機器というのは大前提、ものすごい開発資金がかかります。「パナソニックHDでその資金を用意するのは正直厳しいが、代わりに資金を提供してくれる会社を探してきた。それがアポロだ」という話でした。

    早く切り離したかったのかもしれませんし、建前で言っている部分もあると思いますが、莫大な開発資金が必要なことは確かなので、嘘ではないんです。

    ーーPASの売却発表から1年が経ちました。昨年末には譲渡も完了。そんな矢先での解散ニュースをどう見ていましたか?

    今はもう僕らはパナソニックの社員じゃないですし、公表されている資料を見た感じですが、事業ごとに数値化されていて「芳しくない事業は今後厳しい」という表現に危機感を持たざるを得ない雰囲気を感じました。

    パナソニック決算発表資料_低収益事業の見極め

    「成長が見通せない低ROICの課題事業、競合に劣後して競争力の挽回メドが立たない事業、そもそも事業立地が悪い事業については再建の可否を見極め、再建が見通せない事業は、事業あるいは商品、地域からの撤退やベストオーナーへの事業承継への方向づけと整理を加速していきます」(楠見社長)

    パナソニック 第3四半期決算 リリース資料

    その話を聞いて、PASの同僚たちと「俺たちってマシな方かもしれないな」なんて話をしています。

    ーーマシな方?

    PASの中でも、赤字部門はほんの一部。会社全体でみれば黒字経営です。つまり、黒字の状態で“会社丸ごと”売却されたんです。なので現在に至るまでリストラや退職勧奨は行われず、処遇・待遇や制度も変更されることなく、パナソニックだった当時のままです。

    言ってしまえば運営している会社がパナソニックだったところがアポロになった。それだけです。

    でも、直近取り沙汰された解散ニュースで触れられているのは低収益な事業(会社)が中心ですよね。今後売却はもちろん、撤退の可能性も十分あり得る。

    売却されれば転籍、売却されずに解体となれば別の事業に異動、といった道が考えられるのですぐにリストラされるわけではないと思いますが、僕らの状況よりかなり厳しい状況に見えますね。

    ただ、個人的にはこうした展開を迎えるのは時間の問題だったんじゃないかとも感じています。

    非効率で人員が多い開発体制のため、利益率が低くなりやすい?

    パナソニック解散報道の裏側を語る社員Aさん

    ーー苦境に立たされるのは時間の問題だったと…..それはなぜでしょう?

    パナソニック全体がそうだとは言い切れないところがあるのですが、少なくともオートモーティブ社ではビジネスユニット(BU)の開発体制がうまく機能していませんでした。

    ーー具体的には?

    自動車業界は縦割り事業が主流だと思いますが、パナソニックは横割り事業。つまり、各BUが一つの小さな会社というイメージです。例えば、車載カメラやディスプレイ、ETC車載器、スイッチ・センサといった製品ごとにBUが点在し、BU毎に設計、生産技術、品質管理、生産管理、営業部があるため社員数が多くなりますし、同じ職種でもBU毎で仕事の仕方が違ってくるんです。

    ーーユニットごとに開発の権限が与えられ、スピーディーに開発するBU特有のメリットが享受できそうですが。

    うーん、どうでしょうか。私が前職で勤めていたメーカーは縦割り組織でした。ある部署がAの仕事を終えたら、次は別の部署がBの仕事をして、その次はCの仕事へ移り……と、誰が・何を・どうするのかが明確に決まっているので、AからZまで流れ作業でどんどん開発が進む。どこかが詰まると全体の流れが止まるので、自分のところで流れを止めないよう徹底的に仕組み化されていました。

    一方で、BU化された当社の開発現場では、設計職同士、品質管理職同士でも扱う製品が違えば交流する機会が少なく、事例共有もドキュメントベースがほとんど。結果、流れが詰まったり、トラブルがあったときに「人依存になりやすい状態」に陥ってしまい、仕事がスムーズに進まず、縦割りじゃない弊害が往々にして発生してしまうんです。

    BU内でも設計、生産技術、品質管理、生産管理、営業部の部署の責任分担が不明確なので、高頻度で「これは誰がやるのか」「ここをどう対応するのか」と調整ごとが発生し、非効率に拍車がかかる。仕事の押し付け合いになることも多いですしね。

    製品に不具合が出た時も、ネジが外れていたことが原因だったと分かれば、通常まず対応するのは品質管理のはずなんです。ところが設計側に「このネジが外れていましたが大丈夫でしょうか」と尋ねてくる。大丈夫なわけがないのですが「大丈夫なのかどうか確認してください」と品質管理がやるべき調査から設計と一緒にやり始めたりしています。無駄だなと思って見ています(苦笑)

    縦割り、横割りどちらにも良い点悪い点があるとは思いますが、個人的には前職の方が効率が良いと感じています。

    時代のニーズに応えられなければ、大手でも潰れる

    ーー今後、アポロ社からまた別の会社へ売却される可能性もゼロではないですよね?

    そうですね。今はまだ仕事も待遇も変更点はありませんが、いずれ変わってしまう可能性も十分あると思います。

    同僚とは「自分たちの行く末も考えておかないとな」なんて話しています。

    今はハードからソフト主流の時代。パナソニックの主力製品であるカーナビも、スマホで代替できてしまうこの時代ですから、今後の需要がどうなっていくか先は見えません。もちろん、パナソニックの開発陣もそうした時代の変化を見据えて今後の動きを考えていると思いますが。

    車でも、昔は当たり前の仕様だったタコメーターやスピードメーターはデジタル表示に置き換えが進み、製造への需要がなくなっていますし。だから、どんなに大手でも、どんなに売り上げ絶好調な製品でも、一生安泰なものなんてないんだとつくづく実感しています。

    ーー普遍的な製品だったり、置き換わりにくい製品だといいんですかね?

    まあ、タイヤとかワイパー、ガラスなどはなかなか置き換わりにくいですよね。ただ、「目に見えない置き換え」が進んでいることは結構ありますよ。

    ーー目に見えない置き換え?

    はい。求められている性能が上がり、そこについていけない会社や技術者が淘汰されるということです。

    例えば10年前の車と今の車は燃費が全然違います。それだけ燃焼効率技術が上がっているわけです。

    技術が向上するとニーズも少しずつ変化して、今度は「さらに効率よくもっと安く軽く作ってくれ」と要求されます。そのニーズや流れに技術力がついていけなくなった途端、一気に減速してたった数年で事業ごとなくなる……なんて場面もたくさん見聞きしてきました。

    ーーAさんご自身は転職を考えていたりするんですか?

    いえ、家族もいるのでしばらくはこのまま会社にしがみついておこうかなと思っています(笑)

    とにかく休みは取りやすいですし、「明日リモートします」と言っても文句を言われることもありません。育児や介護をしている社員たちはこの環境に「ありがたい」と話しています。

    そう思うと転職はリスクが大きい。違う仕事がしたくなれば、社内公募制度を利用してリスクの少ない形で、新しい経験を積むのはアリだなと考えています。

    聞き手・編集/玉城智子(編集部)

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