Techトレンド Vol.437

企業のIT部門はデジタル・ラボに変わる、変われない情シスを除き。東急ハンズ長谷川秀樹氏に聞く「社内SE」進化論

慢性的に続くエンジニア不足。テクノロジーに何かしら関わるビジネスを展開する企業なら、ほとんどが人員不足の悩みを抱えていると言っても過言ではない。

それゆえ採用熱は日に日に高まっているが、特に求人数が増えている職種がある。事業会社の情報システム部門やIT部門におけるエンジニアの募集だ。

それを裏付ける調査結果も出ている。転職サイト『@type』で2015年10~12月に掲載されたエンジニア関連求人のうち、【社内SE】のカテゴリに属する求人は対前年比で186%増となっていたのだ(※3カ月単位で対前年比を計測したため、直近2016年1~2月は集計外とした)。

求人数の増加率に焦点を当てたこの調査で、100%以上の増加率となったエンジニア関連の求人TOP3は、社内SEに次いで【建築・設備設計】の162%、【オープン・Web系エンジニア】の146%となっている。オリンピック需要で人材不足感の強まる建築関連を上回る増加率で【社内SE】の募集が出ていると説明すれば、需要の高さが伝わるだろうか。

ただ、一口に事業会社のエンジニアと言っても、昨今は企業ごとに役割が多種多様なものになっている。その動向について、東急ハンズの執行役員で情報システム部とEC・オムニチャネル推進部の部長を務める長谷川秀樹氏に尋ねたところ、「今後はラボ的なテクノロジー部隊を擁する事業会社が増えていくだろう」と説明してくれた。

長谷川氏が「デジタル・ラボの台頭」と呼ぶこの潮流は、具体的にどのようなものか。そして、この新たな動きの中で求められるエンジニア像はどう変わっていくのか。詳細を聞いた。

今後の役割は「人間にできないことをシステムでやる」に

長谷川秀樹氏

東急ハンズの執行役員で、ハンズラボの代表取締役社長も務める長谷川秀樹氏

その前に、長谷川氏がどんな人物かを簡単に説明しておこう。

アクセンチュアでさまざまなシステム・ソフトウエア開発プロジェクトに携わった後、2008年に東急ハンズに転職した同氏は、社内システムの内製化から全面的なクラウドシフト、EC事業の建て直しなど広範囲で実績を残してきた人物だ。

2013年には、同社の情報システム部を「利益を生み出す部門」にするべく分社化・子会社化し、各種の小売業向けITソリューションを提供するハンズラボも設立している。

その長谷川氏が最近目を向け始めているのが、前述のデジタル・ラボづくりである。

「まず、事業会社のIT部門を取り巻く大きな流れとして、Webと業務システムとの融合が挙げられます。東急ハンズも現在、お客さまとのコミュニケーション強化を前提に、iPadを使った独自のPOSレジシステムを開発・導入し始めているところです。こういった取り組みのさらに一歩先、つまり人間にできないことをシステムでやるためのR&D的な取り組みをやるのが『デジタル・ラボ』になります」

デジタル・ラボづくりは、業務システムの企画・運用だけを行ってきた情シス部門には難しいと長谷川氏は言う。効率化やコストダウンを主目的にシステム構築を進めるのとは、異なる“筋肉”が必要になるからだ。

「これまでも、事業会社のCIO(最高情報責任者)やSIerは『攻めのIT』を謳ってましたよ。でも、アレは完全な嘘。どの会社の社長も、人間がやっていた業務を効率化するだけのITが、本当に会社を変えるなんて思ってませんわ」

そこから、売上増や顧客とのタッチポイント増を視野に入れたIT活用にシフトさせることが、デジタル・ラボの役割となる。

「これは、日経コンピュータの木村岳史さんの言う『第2の情報システム部』や、ガートナーさんが提唱する『デジタル・スタートアップ』のようなもの。いっそ既存の情シスとは別部門、もしくは別会社としてやった方がええかもしれない。正直に言えば、大多数の情シスはこの流れに対応できないでしょうから」

米の小売りチェーンが開発した「御用聞きロボット」が好例

ここで気になるのが、デジタル・ラボがやるべきは具体的にどういう仕事で、求められるアウトプットはどんなものかという点だ。

長谷川氏はその一例として、米のホームセンターで業界第2位の小売りチェーン『Lowe’s』の取り組みを引き合いに出す。

同社は2014年の米ホリデーシーズン以降、店舗内で来客対応をする独自ロボット『OSHBot』を導入している(下の動画参照)。開発は、Lowe’sのインキュベーション部門であるLowe’s Innovation LabsとロボットメーカーのFellow Robotsが共同で行ったそうだ。

「これ、要は『御用聞きロボット』ですわ。でも、数カ国語が話せるし、店舗内の在庫と商品のありかをすべて把握してるから、『今、在庫数はいくつあるか』、『その商品はどの棚に置いてあるか』というお客さんの質問にもすぐ答えられる。アメリカは多民族国家で、店舗もとんでもなくデカいところが多いから、こういう仕事は人間の店員には無理なんです」

まさに、長谷川氏が言う「人間にできないことをシステムでやる」取り組みの一つといえる。こういった企画・開発を行うのが、デジタル・ラボに身を置くエンジニアの仕事になるのだ。

これに近しい取り組みを進めている日本の事業会社は、すでにいくつか登場している。東急ハンズのIT子会社であるハンズラボもそう。ほかに、ファーストリテイリングやトヨタ自動車などの取り組みにも注目していると長谷川氏は言う。

では、新しい時代のIT部門とも言えるデジタル・ラボの業務スタイルは、どんなものになるのだろうか。

カギを握るのは、Lowe’s Innovation Labsの例のように、高度なテクノロジーを持つ専門企業とのコラボレーションになると長谷川氏。さらに「今のトレンドを踏まえてもう少し現実的なところで言えば、Web系企業とのお付き合いが大事になる」と補足する。ECやオムニチャネルなどの取り組みで、顧客とのタッチポイントになるのはWebだからだ。

多くのSIerは、この変化に乗り遅れているとも指摘する。

結局、デジタル・ラボづくりで求められるエンジニアとは?

穏やかながら、単刀直入に従来型の情シスの課題を語る長谷川氏。デジタル・ラボの台頭で、エンジニアに求められることはどう変わる?

穏やかに、でも単刀直入にエンタープライズ開発の課題を語る長谷川氏。デジタル・ラボの台頭で、エンジニアに求められることはどう変わる?

「ですから、デジタル・ラボを作る時に必要な人はどう確保するか?と問われたら、『まずWeb系のエンジニアを中途で採用するのがええんとちゃいますか』と答えるでしょう。ただ、ここであるジレンマが生じることも覚えておいた方がええと思います」

そのジレンマとは、「Webの人」と「事業会社の人」の違いについてだ。

長谷川氏はすべてのWebエンジニアがこの傾向に当てはまるわけではないと前置きしつつ、こう話す。

「Webの人たちの多くは、最新技術を勉強しすぎ。(ベイエリア~シリコンバレーがあるアメリカ)西海岸に毒されてるケースが多いんですわ。そういう人たちは、技術の仕組みが分かると、そこで満足してしまう。これは、いろんな事業の現場にまで影響力を及ぼさなければならないシーンで弱みになるんです」

東急ハンズに転職後、業務システム開発の内製化を始めた当時は既存社員をエンジニアとして育成し、その後の拡大フェーズでエンジニアの中途採用をするようになった長谷川氏は、実体験としてもこの差が生むリスクを体感してきた。

「プロパーで育てたエンジニアと、中途エンジニアの大きな違いは興味の対象でした。プロパー組は、業務改革に興味がある。一方、中途で採用したエンジニア、とりわけWeb業界出身の人は、やはり技術そのものに興味があるという人が多かったんです」

ちなみに、SIer出身のエンジニアは「業務理解は得意でもPMPみたいな管理ノウハウにこだわりすぎる傾向がある」とのこと。どちらも、帯に短したすきに長しというのが実情だ。

「これらは育ってきた環境の違いなだけで、どっちが良くて、どっちが悪いとは僕は言いません。ただ、Web出身、SI出身のどちらであろうと、事業会社で開発をやる以上はその会社の業務を覚えるのが必要不可欠になります。技術にはすごく精通していても、業務を覚えようとしないエンジニアは、事業会社には合わんでしょうね」

事業へのコミットメントがあるエンジニアさえそろえば、あとは「それぞれの得意、不得意を把握した上で、チームとして機能させるしかない」と長谷川氏は言う。例えば新規のシステム企画フェーズではWeb業界出身のエンジニアを中心に据え、開発・導入フェーズではSIer出身のエンジニアをリーダーにするといったように。

「情シスで働くエンジニアも、転職して事業会社で働きたいというエンジニアも、デジタル・ラボのトレンドは知っておいて損はないと思いますよ。少なくとも、PMみたいな管理の仕事ではなく、『開発で飯を食っていきたい』と思っているエンジニアにとっては面白い職場になるはずですから」

取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/赤松洋太

この記事が気に入ったらいいね!しよう

エンジニアtypeの最新情報をお届けします

RELATED POSTS関連記事

JOB BOARD編集部おすすめ求人

この記事に関連する求人・キャリア特集

記事検索

サイトマップ



記事ランキング

SIerって本当にヤバいの? ひろゆきが語る、業界ごと沈まないためのキャリア戦略

SIerって本当にヤバいの? ひろゆきが語る、業界ごと沈まな...

【BASE、CTO世代交代の舞台裏】新CTOに抜擢された20代エンジニアに学ぶ“任される若手”の基本姿勢/えふしん×川口将貴対談

【BASE、CTO世代交代の舞台裏】新CTOに抜擢された20...

英文メールでよく見る「略語」の意味は?アメリカ&シンガポール企業で働くエンジニアが解説

英文メールでよく見る「略語」の意味は?アメリカ&シンガポール...

元COBOLプログラマから見た、最近の「COBOL狂騒曲」に関する考察【連載:澤円】

元COBOLプログラマから見た、最近の「COBOL狂騒曲」に...

【ひろゆき】人間関係のストレスで潰れる前にエンジニアが“諦めていい”3つのこと「他人ルールからさっさと降りて、自分ルールで生きればいい」

【ひろゆき】人間関係のストレスで潰れる前にエンジニアが“諦め...

TAGS

「type転職エージェント」無料転職サポートのご案内