キャリア Vol.825

自動車業界が直面する「100年に一度」の大変革期、SIerに求められる進化とは?【SI2社対談】

自動車のEVシフト、現実に近づく完全自動運転車、さらに所有から共有へと移行しつつある消費者ニーズの変化などによって、近年“自動車”のイメージは大きく変わろうとしている。自動車業界は今、ITベンチャーやエレクトロニクス業界などを巻き込み、100年に一度の大変革期に突入したといっても過言ではないだろう。実はこうした潮流の変化は、完成車メーカーや部品サプライヤーのみならず、SIerの役割をも変えつつあるのをご存知だろうか?

そこで今回は、長年にわたって車載向け組込みソフトウェア開発に注力しているSIer2社の事業責任者に登場していただき、自動車業界におけるSIerの過去、現在、未来について語ってもらった。

写真右:SCSK株式会社 ビジネスソリューション事業部門 車載システム事業本部 東日本システム第二部長 鴫原忠大さん  1992年、SCSKの前身にあたるCSKに入社。車載システム事業本部東日本システム第二部長として、関東圏を中心とした完成車メーカー、部品サプライヤーに対し車載システムや開発支援サービスを提供している  写真左:Sky株式会社 クライアントシステム開発事業部 カーエレクトロニクスグループ 技術部 部長 鷺谷善久さん   2000年、Sky入社。カーエレクトロニクスグループ技術部の部長として、東京と名古屋に拠点を置く完成車メーカー、部品サプライヤーに対し、車載ECUやインフォテイメント機器向け車載システムを提供している

写真左:SCSK株式会社
ビジネスソリューション事業部門 車載システム事業本部 東日本システム第二部長
鴫原忠大さん

1992年、SCSKの前身にあたるCSKに入社。車載システム事業本部東日本システム第二部長として、関東圏を中心とした完成車メーカー、部品サプライヤーに対し車載システムや開発支援サービスを提供している

写真右:Sky株式会社
クライアントシステム開発事業部 カーエレクトロニクスグループ 技術部 部長
鷺谷善久さん

2000年、Sky入社。カーエレクトロニクスグループ技術部の部長として、東京と名古屋に拠点を置く完成車メーカー、部品サプライヤーに対し、車載ECUやインフォテイメント機器向け車載システムを提供している

「当たり前」から「差別化」品質へ
高レベルな開発力が求められる

——車載システム開発を担うSIerの目には、現在の自動車業界はどのように映っているのでしょうか。

鴫原さん(以下、敬称略):完成車メーカー、部品サプライヤーともに、グローバルマーケットを見据えた技術開発に取り組んでいます。中でも安全性向上や環境負荷低減、CASEと呼ばれるConnected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Service(シェアリングサービス)、Electric(電動化)への対応が注目分野に挙げられるでしょう。このように対応すべき技術領域が多岐にわたることから、今後業界再編の動きがさらに加速するのではないかといわれています。

鷺谷さん(以下、敬称略):鴫原さんから「業界再編」という言葉が出ましたが、今「ティアワン」と呼ばれる大手部品サプライヤーが、事業提携や企業買収に取り組んでおられるのは、まさにこの流れを象徴した動きと言えそうですね。

鴫原:はい。CASEなど、先進技術分野への対応には、これまで培った自動車作りとは次元が異なる知見が必要です。どうしてもエレクトロニクスやITとの融合が必要になってきます。

鷺谷:今後完成車メーカーがMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と呼ばれる移動を軸とした付加価値サービスの提供に比重を移すようになれば、おのずとティアワンメーカーが車体製造の中心を担うようになるはずです。そうなれば業界構造が大きく変わりますね。

鴫原:鷺谷さんがおっしゃるように、業界の内外でそうした観測を耳にする機会が増えました。それがどのタイミングで訪れるかは分かりませんが、今がその端境期にあたるのは間違いなさそうです。

——そうした業界の変化に伴って、現在SIerにはどのような顧客ニーズが寄せられているのでしょうか。

鴫原:一昔前であれば、車載システムの組込みエンジニアに要求されるのは「設計書通りにソフトウェアを書く」ことに尽きました。しかしここ数年は、設計段階から開発に関わってほしいと依頼されるケースが増えています。品質についても「当たり前品質」から「差別化品質」へと、より高レベルな開発力が求められるようになったのもここ数年の特徴といえるでしょう。

SCSK株式会社 鴫原忠大さん

鷺谷:我々もティアワンメーカーとお付き合いする中で、同じような感触を持っています。例えば「車載ECU開発の一部を任せたい」と言われるよりも「車載システム全体の設計からコーディングまでに携わってほしい」、「できればプロジェクトマネジメントも担ってもらえないか」というニーズが確実に増えているからです。

——両社とも車載システム開発では定評のある2社です。改めて自社の強みを教えてください。

鴫原:SCSKでは、高品質な車載ソフトウェア開発を支援する『QINeS(クインズ)』という車載システムの標準規格である『AUTOSAR(オートザー)』に準拠したBSW(Basic SoftWare)を中心とした自社プラットフォームの開発およびソリューション提供に加え、アプリケーション領域においては『Automotive SPICE(オートモティブスパイス)』に準拠したモデルベース開発向けのサービスなどを提供しています。2017年からSCSKは、AUTOSARのPremium Partnerに加わり、同規格の仕様策定にも関わっているため、技術力や提案力の面で大きなアドバンテージになっています。

鷺谷:Skyは、以前から取り組んでいるカーナビなどのインフォテインメント領域に加え、現在はパワートレイン系ECUや自動ブレーキ、車線維持支援など、安全性と利便性を向上させるADAS(先進運転支援システム)のモデルベース開発に力を入れています。先ほども触れた通り、車載システムの開発に必要な要素技術は多様化の一途を辿っており、Skyのサーバ技術や近距離通信技術、画像処理技術を車載システムに応用したいというご要望を伺う機会が増えています。それはお客さまが、業務系システムやモバイル、デジタル複合機の開発部隊を持つ我々の総合力を評価してくださっていることの証といえるかもしれません。

SIerは企業の頼れるパートナーに。
変革期の今、車載システム開発に携わる醍醐味

——これまでのお話の中で、車載システム分野におけるSIerの役割が変わりつつあることは分かりました。今後SIerは、完成車メーカーや部品サプライヤーとどのような関係を築いていくのでしょうか。

鷺谷:幅広い分野で開発実績を重ねてきた経験を活かし、多様化、複雑化、高度化する顧客ニーズに応えられるSIerは、お客さまと対等なパートナーとして迎えていただけるはずです。お客さまが現状お持ちでないテクノロジー領域をいかにカバーし提案できるかが、SIerの勝敗を分ける鍵になるのではないでしょうか。

Sky株式会社 鷺谷善久さん

鴫原:鷺谷さんが言われた通り、自動車に搭載されるECUの数は着実に増えており、開発規模も増大する傾向があるだけに、お客さまの期待に応えられるSIerは貴重な存在になっていくと思います。SIerが対等なパートナーとしての地位を確かなものにするには、我々自身が開発体制を強化し、提案型ビジネスへ移行することが欠かせません。各社ともソフトウェア領域における「ティアワン」を目指し、しのぎを削ることになるのではないでしょうか。

——こうした自動車業界を取り巻く環境の変化によって、この分野で活躍できるソフトウェアエンジニア像は変わっていくのでしょうか。

鴫原:コネクテッドカーや自動運転車への期待が増す中、上流工程を担える統合システムエンジニアやクラウドエンジニアが活躍する場が車載分野にも広がっています。非自動車分野での開発経験が生かせる可能性が高まっていると言えますね。

鷺谷:Skyではスマートフォン関連サービスなど、自動車とは関わりのない分野で経験を積んだエンジニアがその力量を高く評価され、車載システム開発で活躍するケースも多いです。プロジェクトリーダーやプロジェクトマネジャークラスの需要も高まっている印象です。

鴫原:SCSKも状況は同じです。自社プロダクトである『QINeS』事業に乗り出した際、自ら手を挙げて志願してきたエンジニアには車載システムの開発経験が無い者もいました。車載システムは、先端技術が集積するだけではなく、お客さまと一緒に上流工程から開発に携わることができる分野です。エンジニアの好奇心をくすぐる環境があるのは確かでしょう。

鷺谷:従来の自動車業界に染まっていないからこそ生み出せる新しいアイデアや着眼点には大きなポテンシャルがあります。彼らの経験と車載システムエンジニアの知見を掛け合わせれば、大きな成果を生み出す原動力になるかもしれません。

——車載システム開発をさらに大きなビジネスにするために、今後乗り越えるべき課題はどこにあると思われますか。

鴫原:車載システムの開発を担うエンジニアの数が足りないことが課題です。国内では近々、車載システムエンジニアは頭打ちという悲観的な調査があるほどその欠乏感は深刻です。しかし、我々の目から見ると数学、物理、英語、コミュニケーションといった素養のあるエンジニアは少なくありません。こうした事実を広めていくことも、我々の大事なミッションの一つなのではないかと考えています。

鷺谷:車載システムは SIerの中でも成長性が注目されている分野です。通信機器や家電などの組込みシステムとの共通項も少なくありません。異分野の視点が生かされることも多いにあるので、もっと多くのエンジニアに車載システムの魅力を知っていただきたいですね。

——人材不足ということですが、異分野からの転身を助ける制度などはありますか。

鴫原:SCSKでは、車載システム固有の技術研修を用意しています。また、車載システムの開発はグローバル化の真っ只中にあるため、英語やコミュニケーション力を鍛える教育にも力を入れているところです。

鷺谷:Skyではここ数年、業務の効率化と労働時間の適正化に取り組み、車載システム開発にも女性エンジニアの活躍の場が広がりつつあるのが特徴の一つです。我々も教育や研修には力を入れていますから、経験分野の違いや経験年数の少なさ、性別を気にする必要は全くありません。

——改めて、これから組込みエンジニアが車載システム開発に携わる醍醐味を教えてください。

鴫原:コンピュータによる自動車の制御は、単一のアクチュエーターをコントロールすることから始まり、現在では車両全体を制御する統合システムへと進化を遂げました。組込みエンジニアは自動車のインテリジェント化になくてはならない存在です。この道でキャリアを極めたい方にとって絶好のチャンスがきているのは間違いありません。

鷺谷:私も同感です。自動車業界は100年に一度の大変革期にあります。そのインパクトは業界内だけに留まらず、私たちの社会や暮らしを大きく変える巨大な変化です。車載システムの開発に携わるということは、その中心に身を置くことと同じ意味を持ちます。エンジニアとしてこうしたダイナミックな変革期に立ち会える機会はそう多くはありません。ぜひこの好機を我がものにしてください。

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取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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