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グロースハックを実装レベルで学べる情報源と、Matzとの対話で得た気付き【2014年前半のインプットlog-今村雅幸】

公開

 
業界で名の知れたプログラマーは、今年の上半期に何を学んでいたのか? 「同業者が役に立ったものは、自分にも役に立つはず」という仮説を基に、彼らの学びlogから、2014年上半期の流れを振り返り、今後の動向を予想してみよう!
プロフィール

株式会社VASILY 取締役CTO
今村雅幸氏

1983年奈良県生まれ。2006年、同志社大学経済学部を卒業。大学時代は大学生向けポータルサイトの運営や情報システムの研究、ソーシャルネットワークシステムの研究などを行う。新卒でヤフー株式会社に入社し、ビューティー、ファッション、XBRANDなどのシステム開発やサービス立ち上げを担当。2009年5月に株式会社VASILY立ち上げと同時に取締役CTOに就任

グロースハックの「他社事例」をあまり追わない理由

Google Playスタッフが選ぶ『2014年上半期ベストアプリ』にも選出された『iQON』(※画像はWeb版)

ファッションアプリ『iQON(アイコン)』を手掛けるVASILYは、ここ1~2年で話題になることが増えたグロースハックに注力するスタートアップとして知られている。

『iQON』のグロースハック術をイベントなどで積極的に公開する一方、同社の展開するGROWTH HACK BLOGでは他社のグロースハック施策も豊富に紹介。情報発信の質と頻度の双方で注目を集めているのだ。

そのVASILYでCTOを務める今村雅幸氏が、今年前半、「技術書を読むという基本的な勉強」以外に注力していたのは

【1】ビッグデータ解析
【2】アプリのパフォーマンスチューニング

に関する最新動向を追うことだったと語る。

「グロースハックの施策はアプリごと、サービスジャンルごとに異なりますから、他社事例をそのままマネしようとしてもうまくいきません。でも、グロースハックを支える土台はデータ分析であり、チューニングの技術です。特にチューニングについて、スマホアプリのアーキテクチャはWebサービスのそれとは異なる部分が多いので、良いアプリサービスを展開する企業は具体的にどう実装しているのか、いろんな事例を知りたいと思っていました」

ちょうど『iQON』が新しいAPI設計モデルに移行している途中ということもあり、最新のアーキテクチャやアルゴリズムに関する情報を調べる機会が多かったそうだ。それに加え、今村氏は、

【3】IoT(Internet of Things)やウエアブルコンピューティング

の動向にも関心を持っていると話す。

「ウエアラブル端末と連携するサービス開発には、モーションコントロールやBluetooth Low Energy、次世代通信プロトコルに関する技術知識が欠かせません。これらを今のうちに吸収しつつ、いずれ“ウエアラブルシフト”が起こった時に備えておきたいというのが狙いです」

そんな今村氏が、特に時間を割いて追っていた情報ソースは以下の通りだ。

今村氏がよく参考にしていた情報ソース

【1】データ解析・チューニング関連は海外サイトやSFスタートアップのTechブログから

取材中、今村氏がたびたび「良い情報源」として挙げていたAirbnbのTechブログ

欧米で勢いのあるスタートアップは、自社のエンジニアブログで開発に取り入れたライブラリやログの分析手法、実装したアルゴリズムなどを頻繁に紹介しています。

日本の会社でもエンジニアブログで情報発信しているところはありますが、具体的な実装のプロセスまで公開している会社はあまり多くないというのが僕の印象。日本語の技術サイトでは『Qiita』などによく目を通しますが、情報の鮮度という意味では、やはりサンフランシスコ周辺のスタートアップが一段上を行っている感じがしています。

特に以下のブログは、実践的なノウハウが多いのでよく見に行っています。

■infoQ
http://www.infoq.com/

infoQは、海外系の情報ソースの中でよく目を通すサイトです。

■Dropbox Tech Blog
https://tech.dropbox.com/

■Airbnb Engineering | Nerds
http://nerds.airbnb.com/

Airbnbにはテクノロジー企業っぽくない印象を持っている方が多いかもしれませんが、彼らのエンジニアブログはサービス改善プロセスやフレームワークの使い方について詳しく取り上げています。

特に以下のエントリには、彼らが行ったA/Bテストの工夫について語っているYouTube動画が貼ってあり、とても参考になりました。
http://nerds.airbnb.com/experiments-airbnb/

■The Netflix Tech Blog
http://techblog.netflix.com/

■LivingSocial’s Technology Blog
https://techblog.livingsocial.com/

【2】IoT、ウエアラブル関連の技術情報はKickstarterから

日本でもメジャーになってきた米のファンディングサイト『Kickstarter

最近は、指輪型やバングル型のウエアラブルデバイスなど、【ファッション×IT】分野のプロダクトも徐々に増えています。『Kickstarter』は各プロジェクトの紹介記事に「どういう課題を、どんな技術で解決しようとしているか」が詳しく書いてあるので、純粋に勉強になるんです。

それらの“仕様書”に目を通しながら、「ジェスチャー認識の技術は何を使っているのか」、「自分ならどうプログラミングするだろうか」などと思考実験を繰り返す場として活用しています。

■Kickstarter
https://www.kickstarter.com/

いろんなプロダクトが掲載されている中で、特に今年前半興味を持って見たのは、日本でも話題になった指輪型ウエアラブルデバイス『Ring』のページでした。
https://www.kickstarter.com/projects/1761670738/ring-shortcut-everything

技術顧問に就任したまつもとゆきひろ氏に学んだこと

VASILYのTechブログに載っている、まつもとゆきひろ氏の技術顧問就任インタビューはこちら

ここまで紹介したのはネット上の情報ソースだが、むろん、ネット以外から得た情報、特に「人」からインスパイアされることも少なくないと今村氏は言う。

VASILYは今年6月にRuby作者として知られるまつもとゆきひろ氏(Matz)を技術顧問に迎えて話題になった。当然、Matzの豊富な見識にも刺激を受けているようだ。

「まつもとさんとは、あるカンファレンスで弊社エンジニアがお話をする機会があり、その後、VASILYの目指す方向性をお伝えして興味を持っていただいたのが就任のきっかけでした。僕らは、ファッションという感性がモノを言う世界を、テクノロジーで変えようとしている。この『ロジックでは説明できない部分』をどうITで変えていけばいいか? という大きな命題について、さまざまな示唆をいただいています」

今村氏が言うように、ファッションECは人の感性と徹底的に向き合う必要があり、サジェスト機能やレコメンドについてもまだまだ改善の余地がある。また、女性ユーザーが9割を占める『iQON』は、男性が多いエンジニア界隈では身近な存在とは言いがたい。

そんな中、VASILY発で【ファッション×IT】分野のイノベーションを生んでいくには、他社事例を参考にするのでなく、自分たちが「ゼロイチ(今までにない価値を具現化すること)をやり遂げる開発体制」を作らなければならない。

それゆえ今村氏は、Matzとの対話の中でも「テクノロジーカンパニーとしての文化づくり」や、「技術者採用を含めた対外的なPR」についての助言が強く印象に残っているという。

まだ数回しかミーティングを実施していないものの、すでに「優秀なエンジニアを集めるには情報発信をし続けること」、「勉強会は参加するよりホスト側になった方がいい」などのアドバイスをもらっている。

「いまやテクノロジーカンパニーとして認知されているクックパッドさんも、『料理レシピ×IT』の魅力を広めるため、地道な情報発信を行ったと聞いています。まだ誰も解明していない謎に対し、テクノロジーで斬り込むという意味では、僭越ながらVASILYもかつてのクックパッドさんのような立場にあるのではないでしょうか。今後はまつもとさんのお力も借りながら、勉強会やイベント、ブログなどを通じて、日本のエンジニアの皆さんに『ファッション×IT』の可能性を各論で広めていきたいと思っています」

《告知》VASILYとハースト婦人画報社が「日本初のハッカソン」を開催

Matzの助言を受けたVASILYが、今年9月6日~7日、さっそく自社がホストになってハッカソン『THE FASHION HACK IN TOKYO』を開催する。

このハッカソンの企画は、米国のメディア・コングロマリットであるハースト・コーポレーションが、2013年ニューヨークで約150名を集めた「Hearst Fashion Hack」を開催したことに端を発しているそう。今回、日本では『エル・ジャポン』など多くのファッション誌を発行するハースト婦人画報社とVASILYが共催する形で行われる。

「ファッション×ウエアラブルデバイス」、「ファッション×音楽」、「ファッション×ロケーション」など、ファッションと“何か”をマッシュアップしてイノベーションを生み出したいエンジニア&デザイナーはチェックしておこう。

■参加募集は8月20日(水)まで
■会場:六本木ヒルズ
■最大15万円の各賞を準備
■参加費:2000円

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取材・文/武田敏則(グレタケ)  撮影/玄樹

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