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震災から3年。ヤフー×グーグルの写真保存プロジェクトから、「キオクと記録」を残す意義を考える

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2011年の3月11日に起こった東日本大震災。現在も復興に向けて奮闘している人がたくさんいる中で、当時のことを今も鮮明に記憶している人は少なくないはずだ。

その「記憶」にまつわる、ある取り組みを紹介したい。

まだ震災後の混乱が続いていた2011年の4月、ヤフーはデジタルアーカイブプロジェクトとして『Yahoo! JAPAN 東日本大震災 写真保存プロジェクト』を、続く5月にはグーグルが『未来へのキオク』をそれぞれ立ち上げた。

同年10月には両社がシステムを連携させ、共同プロジェクトとして写真を共有。今日までに集まった写真は、およそ6万3000件に上っている。

あの大震災から3年が経った今、両社はデジタルアーカイブの意味と可能性を、どのように考えているのか。今年3月5日~11日に東京・六本木ヒルズで開催されたトークイベント『震災から3年、キオクと復興の今』の一つ、『失われた思い出を求めて~未来へのキオク、Yahoo!写真保存プロジェクト』の中で、グーグルの馬場康次氏とヤフーの高橋義典氏が想いを語った(当日の様子は以下のYouTubeにて)。

今振り返る、検索エンジン大手2社が連携した理由と意義

実は震災直後から、グーグルとヤフーの双方に対して、被災地の内外から「津波が来る前の写真を残したい」、「震災前の風景が見たい」、「震災の現状を記録したい」という声が多く寄せられていたという。

そのような声もあってデジタルアーカイブプロジェクトが発足したわけだが、その後検索エンジン大手である2社が連携したのはごく自然な流れだったという。

「2社がバラバラに活動しているのはどうなんだろうか、という気持ちは当初からありました。そんな中、(2011年の)8月にたまたま高橋さんとお会いする機会があり、どちらともなく一緒にやろうかという話に。どちらのサイトからも見られるようにすることが、写真を求めている方々にとって一番良いことですしね」(グーグル馬場氏)

話をした2カ月後の10月には連携を開始。グーグルとヤフーが連携するというのは何とも不思議な気もするが、「投稿された写真は国民レベルの資産。集まった写真を1人でも多くの方に見てもらうことが大義」(ヤフー高橋氏)という、2社の志が一致した結果だった。

(写真左奥から)Googleの馬場康次氏と、ヤフー社会貢献ユニットの高橋義典氏

こうして共同プロジェクトが立ち上がり、グーグルの『未来へのキオク』では、集めてほしい写真のテーマを被災地に設置した特設ポストで募集するという取り組みも始まった。

すると、10歳の男の子から「石巻市に打ち上げられた造船『サン・ファン・バウティスタ号』の写真を残したい」との投函があったり、82歳のおばあちゃんが「サンマ船がトラックに大漁のサンマを積む風景」と投函するなど、幅広い年代から意見が寄せられ、それぞれがふるさとに対する強い想いを持っていることが分かった。

と同時に、両社は「全国から少しずつでも写真を集めることで、そういった想いに応えられる」と実感し、このプロジェクトは意味のある活動であると確信を持ったという。

投稿の一例を紹介しよう。

「新聞に掲載されたら『不謹慎だ』と言われてしまいそうな写真ですが、現地の方が投稿することで自衛隊との信頼関係が見えたり、少しゆとりが出てきたのかな?など、いろんなことが感じられる一枚です」(出典元

「これは千葉の海辺のタンクで起きた大きな火災をとらえた一枚です。東京で震災が起きた時に何が起きるのか。防災プロダクトの担当者として、この写真を見て気を引き締めています」(出典元

ほかにも多様な写真が投稿されてきたが、石巻市の小学校の卒業式で米軍が花道を作っている風景、石巻での子どもたち向けイベントをとらえた写真など、「市民が撮影した写真とコメントだからこそ、報道とは違う現地の様子や人々の気持ちを感じることができる」(ヤフー高橋氏)ツールとなっているのは、インターネットならではの特徴だろう。

迅速な連携を可能にしたのは、技術的、思想的な「オープンさ」

被災地の想いに応える意味でも、または防災の情報源としても、意義のあったデジタルアーカイブプロジェクト。あえてこのプロジェクトにおける技術的なポイントを挙げるとすれば、はじめから「誰でも二次利用できる」ようにしたことにある。

「デジタルアーカイブはデジタルな分、多くの場面で活用できる良さがあります。いろんな場所で利用してもらうためにも、ここに掲出されている写真を誰もがアプリやサイトで二次利用できるAPIを用意してデータを公開したり、非商用目的であれば自由に使っても構わないという承認を事前に投稿者より得ることを重視しました」(ヤフー高橋氏)

グーグルとの連携がスムーズに進んだのも、システムそのものがオープン化していた点が大きかったそうだ。

「グーグルはPicasaやYouTubeのオープンプラットフォームを使用しています。お互い『誰でも使える』を重視していたので、連携することが決まってからも、やりやすかったですね」(グーグル馬場氏)

もう一つ、後日談を。実は両社ともに、アーカイブのローンチ前はいろんな葛藤を抱えていた。

《家がなくなって避難している人に対して「写真をアップしてください」と呼びかけるのは不謹慎なのではないか》

《被災地から震災前の航空写真を残してほしいなど要望はあったが、本当に正しいことなのか》

そんな状況下でアーカイブプロジェクトを開始する決断を後押ししたのは、やはり被災地からの「やってほしい」という声だった。

「投稿の呼びかけをして公開するまでに1カ月ほどタイムラグがありましたが、その間に約1万枚の写真投稿がありました。多数の投稿をいただいて安心した部分もありましたが、被災地の悲惨な状況を写した写真と、強い想いのコメントを拝見して、しっかりと人々に伝えるサービスにしなくてはいけないという責任を強く感じました」(ヤフー高橋氏)

プロジェクトは試行錯誤しながら進められたが、サービス開始から2年の間には、次第に笑顔の写真の投稿が増え、被災地の住民から「皆に『ありがとう』と伝えるために写真を投稿した」という言葉も寄せられるようになった。

「変化がリアルタイムで見える、伝えられる」のは、インターネットの大きな利点。防災の情報源としても、引き続き各社ともこの活動を続けていくという。

取材・文/天野夏海(編集部) 撮影/伊藤健吾(編集部)