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“やさしく稼ぐ”スタートアップ・42が実践する、ソーシャルグッドなサービス開発【連載:企業に直撃!】

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『311HELP.com』創設者が「復興支援のセカンドフェーズ」として作った『toText.jp』

『311HELP.com』創設者が「復興支援のセカンドフェーズ」として作った『toText.jp』

2011年3月11日に発生した東日本大震災からわずか6日後、被災地や避難所で必要な物資、支援をリアルタイムで書き込むことのできるサイト『311HELP.com』が開設された。

地元の高校生ボランティアがいち早く活用したことで大きな注目を集め、同サイトが復興支援サイトとして大いに役立ったことは記憶に新しい。

そして、今月4月6日。『311HELP.com』開設者でもあるスタートアップ・42(フォーティーツー)代表取締役の田原大生氏が、新たな復興支援として、新サービス『toText.jp』を立ち上げた。

復興支援:ビジネス=7:3の新サービス『toText.jp』

「『311HELP.com』を作った時は、被災状況を報道で見ていて『何かやらなきゃ』と強く思って動いていました。その当時と比べると、復興支援のフェーズは大きく変わりましたよね。そこで作ったのが、『toText.jp』とiPhoneアプリ『録音+メモ』です」

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「被災地に知り合いや友人がいたわけじゃないけど、いてもたってもいられず動いた」と、3.11当時を振り返る田原氏

『toText.jp』は、『録音+メモ』アプリを使って録音した音声データをテキストファイルとして文字に起こすサービスだ。ユーザーは、アプリ内で30分、60分と録音できる時間を購入し、文字で書き起こしてほしい音声データを秒単位で発注できる。

秒単位で発注できる点や、録音した音声データを面倒なデータ変換や手続きなしでアプリ経由で発注できる点は、従来の音声データ書き起こしサービスにはない特徴だ。

田原氏はもともと、復興支援の一環として被災地にいるiPhoneユーザーが支援要請を『311HELP.com』上の地図に投稿できるアプリ『311HELP』を提供していたが、これを応用したものだと話す。

「投稿した声や写真を見る人がいるなら、録音した音声を文字にして残したいという需要もあるはずだと考えました。それに、『文字に起こす』という部分は人の手が必要になりますので、雇用の創出にもつながるのではないかと思ったのです」

このサービスを通して被災地に新たな雇用を創出することが、田原氏の考える復興支援のセカンドフェーズだ。

田原氏が、『toText.jp』を復興支援のネクストフェーズとして続けていくために意識しているのが、同サービスにおけるビジネス的視点である。

オンザボードさんとエンジニアtypeさんの3社共同で昨年秋ごろから続けている復興支援ミーティングISAM(ICT Social Action Meeting)で出会った技術者と話していた時に、『みんなお金ないんだな』と痛感しました(笑)。今後も復興支援を続けていくには、ちゃんとマネタイズについても考えないといけないなぁと強く思い始めたのも、そのころからです」

一方で、100%儲けるための事業ではないことも強調している。

「復興支援とビジネスの割合は、7:3くらい。被災地の方々の目線で考えたら、より文字起こししやすいツールを独自に開発して配布したりすることも考えています。実際に『toText.jp』のユーザーが増えていけば、会社の事業として本腰を入れていきたいと考えていますが、限りなく被災地の方々の目線でビジネスを考えていく予定です」

『311HELP.com』が教えてくれた、会社のビジョンと方向性

2011年から採用も行い、iPhoneアプリ開発などに詳しいCTOの中川俊孝氏(写真右)もジョイン。開発体制を整えた

2010年の起業から東日本大震災が発生するまでは、WebプログラムやWebデザインのほか、スマートフォン向けアプリの受託開発などを手掛けていた田原氏は、自身の復興支援活動をこう振り返る。

「TVで取り上げられた時にどれくらいのサーバ台数が必要なのかといったことや(笑)、官公庁の役人の方など普段出会えないような方々とお会いできたことなど、『311HELP.com』を作ったことでとても貴重な経験ができました。ただ、何より勉強になったことは、たくさんの人に使ってもらえるサービスを作れたことです」

さらに、被災地に住む人や自治体など行政の担当者、そして同じ志を持つ開発者たちとの交流を通じて、自社のビジョンや理念も明確になってきたという。

「起業して受託開発を続けてきて、それ自体は悪いことではありません。ただ、受託開発は一人(または一社)のクライアントを相手にするけど、Webサービス開発はより多くの人にユーザーとなってもらう点で対照的。今でもすごいニッチなサービスを作ったりもしますが、復興支援に携わったおかげで、より”社会”を意識したサービス作りを心掛けるようになりました」

田原氏は、自身も子どもを持つ身として、次の世代のITリテラシーを底上げするサポートをしたいという

田原氏は、自身も子どもを持つ身として、次の世代のITリテラシーを底上げするサポートをしたいという

そこで生まれたのが、4月11日にリリースされたばかりの子ども向けiPadアプリ『おしゃべり あいうえお』だ。自身も二人の幼い子どもを持つ田原氏が、かねてから注力したいと考えていた教育分野への取り組みの一つだ。

「絵と文字と音声を組み合わせて50音を学ぶためのアプリですが、こんな風に楽しみながら役に立つものを作っていきたいというのが、わたし自身と会社のビジョン。おもしろい、便利というだけではなくて、未来を担う子どもたちのためにもITを役立てられないかなと最近はよく考えるようになりましたね」

会社設立から3年目を迎えた田原氏だが、これまでの一年は復旧・復興支援にまい進してきた印象がある。今後、この取り組みはどの方向を目指すのだろうか。

「事業としては、復興支援から一転してむちゃくちゃビジネス視点でサービスを開発していきます。それでいて、『おしゃべりあいうえお』のような、次の世代を育てていけるようなサービス開発も引き続き進めていく予定です。今後は、iPadをツールとして創造的に遊べるような玩具なんかも作れたら良いですね」

最後に、田原氏にとっての復興支援はいつまで続くのかを聞いてみた。

「ほんと、いつまで続けるんでしょうね(笑)。初期衝動のまま始めたので、引っ込みがつかないのも、正直なところです。ただ、必要としている人がいて、必要とするものがあって、それを自分が何らかの形で提供できるなら、やり続けようかなと思っています」

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正