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平均年齢35歳。”オトナ”なスタートアップが『PoiCa』で描く、ポイントカードの未来と直面する正念場【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、『CrowdWorks』ご推薦のインサイト・プラス。財布を占領する何種類ものポイントカードを、スマートフォンでひとまとめにできるアプリ『PoiCa』を提供している。平均年齢35歳。経験豊富なチームが直面した思わぬ壁とは?
株式会社インサイト・プラス
(左)代表取締役社長 八木岳郎氏    (右)CTO兼ソフトウェアエンジニア 西代健児氏

家電量販店やドラッグストア、スーパーマーケットが発行するポイントカード。サイフの中でかさばりがちなポイントカードをひとまとめにしようというのが、iPhone用の無料アプリ『PoiCa』の基本コンセプトだ。

使い方は簡単。まずは『PoiCa』を立ち上げ、手持ちのポイントカードに印刷されているバーコードをカメラで読み取り登録しておく。次に店舗での会計時に『PoiCa』に登録したバーコードを表示させ、店員にレジ付属のバーコードスキャナで読み取ってもらうことで、ポイントの取得や行使ができる。登録も利用も、非常にシンプルかつ手軽だ。

2012年3月15日のリリース以来、およそ1カ月半でダウンロード数は約2万。現在読み込めるバーコードは、全国で約1万5000店舗で採用されている13桁や16桁の一次元バーコードのみ。

だが、今後はQRコードや磁気ストライプカード、NFC通信を用いたポイントカードにも対応するほか、カードの認証機能を備えてセキュリティ向上を図り、クレジットカードや携帯電話会社のポイント、マイレージなども視野に入れてサービス拡大を図る構えだ。今夏にはAndroid版のリリースも予定している。

『PoiCa』に先行してリリースされた、気になる商品にチェックインして記録・共有するサービス『shopping+』

『PoiCa』に先行してリリースされた、気になる商品にチェックインして記録・共有するサービス『shopping+

『PoiCa』を企画したのは、アフィリエイト広告を手掛けるトラフィックゲートで副社長を務めていたこともある八木岳郎氏。開発のきっかけは、先行してリリースした『shopping+』を作るにあたって、全国で延べ400~500カ所の売場を視察していた時のことだった。

会計の際の店員さんとお客さんのやり取りを見て、「レジ回りのイノベーションってあまり進んでいないと感じた」という。

「かさばる財布をかき分けるようにしてポイントカードを探すお客さんも多かったですし、そもそも忘れているお客さんも少なくありませんでした」(八木氏)

ここにボトルネックを感じとった八木氏は、同時にビジネスチャンスを見いだす。

「前職で、アフィリエイトを使ってECサイトやネット上の金融サービスに送客する仕事を行っていましたが、リアルな店舗の活性化に貢献する機会はありませんでした。そこで日本の買い物習慣を変えるために起業し、開発を進めたのが『shopping+』だったのですが、度重なる売り場視察で別の課題に気が付きました。それが、ポイントカードシステムの効率化だったんです」

行き着いたのは、ネットにつながるデバイスでポイントカードを最適化すること。『shopping+』に続く新プロジェクトとして『PoiCa』が立ち上がった瞬間だった。

財布からポイントカードを取り出す速度を上回ること。そして、どんな条件でも使えるようにする。それがCTO兼ソフトウェアエンジニアである西代健児氏に与えられた課題だった。

「お店に特別な機器を入れなければならなかったり、使える人が限られるようなサービスではダメ。買い物を便利にするという開発の目的を果たすには、ソリューションに寄り過ぎず、誰にでも使えるシンプルなものに仕上げることが必要だと感じました」(西代氏)

広く普及が進んだiPhoneと、レジに付属しているバーコードスキャナーの組み合わせによるサービスは、こうした発想から生まれた。

「それだけでなく、お店が地下にあっても使えるよう、レジ前で必要になる情報はできる限りデバイスのアプリ側に持たせるようにしました。サーバとの通信は回線品質が良くなった時点でまとめて行うようにしたり、UIも必要なポイントカードを直感的に選択できるようにするなど、ユーザーの体感速度を重視した作りになっています」(西代氏)

また、操作中は常時バーコードを表示させておく方がユーザーに安心感をもたらすと考え、画面の下半分だけをフリックで操作できる仕組みをイチから手作りしたりもした。

「一次元バーコードは非常にローテクですが、逆に言えば時間とともに普及したもの。ITリテラシーが高くない人にとっても、仕組みが理解しやすいという利点も多いんです。最先端を追い求めるより、レガシーなものと新しいデバイスを組み合わせることで、安定稼働を保障することの方が大事だという考えで開発を進めました」(八木氏)

受託開発で刷り込まれた「無意識」がスタートダッシュを邪魔した

インサイト・プラスを起業するまでは、それぞれ別々のキャリアを積んでいた2人。だからこその難題も...

インサイト・プラスを起業するまでは、それぞれ別々のキャリアを積んでいた2人。だからこその難題も…

「買い物を便利にする」という理想に惹かれて集ったメンバーの平均年齢は35歳。それぞれ10年以上のキャリアを持つ、”オトナ”なメンバーだ。

いずれも入社のきっかけは前職や勉強会、共通の知人を通じた紹介が中心で、学生時代の同級生といった気安い関係をもとにした集まりではない。

「現在開発メンバーは3人。わたしのようなパッケージ開発経験者もいれば、SIer一筋だったエンジニアもいます。全員のバックボーンはバラバラ」(西代氏)というように、経験豊富なベテランが集っている。

そのせいか、一緒に仕事をし始めた当初、チーム内に遠慮がちな雰囲気が漂っていたという。大人同士であるゆえに、相手を尊重しようという意識が強く働き過ぎたのだ。しかし、原因はそれだけではなかった。

「わたしにも憶えがあるのですが、受託開発の現場に長年いると、若いうちから『失敗しちゃいけない』っていう意識を徹底的に叩き込まれる。ブレーキを踏むのも、アクセルを踏むのも上司の仕事。どうしても受け身な考え方をしてしまいがちなんです」(西代氏)

全員が

全員が”オトナ”だからこそ、皆が主張を控える…そんな空気を打破するのが大事だったと八木氏

エンジニアが自社サービスの開発に携わるなら、受託開発とは正反対の意識や行動が問われるのは言うまでもない。必要だったのは、仕事に対するオーナーシップだ。

「同じ目的のために仕事をしているのに、小さなチーム内でさえ『発注者』と『受託者』に分かれてしまってはもったいないと。もし、開発の過程でエンジニアから『仕様を決めてくれたら作る』なんていうセリフが聞こえてきたら、どんなに忙しくてもいったん立ち止まって『そもそも僕らは何をしようとしていたんだっけ?』ってところから巻き直しました」(八木氏)

「何を」とはつまり、「買い物を便利にする」という起業の理念。その理念を共有した上で、「一緒に自分たちの手でサービスをつくり上げる経験をしたかった」と八木氏は話す。

プロダクトアウトで新市場を開拓する際に克服すべき大きな課題

こうした無意識の壁を少しずつ突き崩した結果、肩書きに関係なく忌憚のない意見をやり取りすることが当たり前になった。今はコンセプトワークの段階から議論を尽くした上で、代表である八木氏が最終的なジャッジを下すというスタイルで物事が決まる。

「気心が知れた友人同士ではなかった分、人間関係を作るのに時間が必要でした。同じプロジェクトにかかわる中で、少しずつ連帯感も生まれましたし、お互いの主張も理解し合えた。これはこれで、大事なプロセスだったのだと思います」(八木氏)

いわば「理念先行」で開発された『PoiCa』だが、普及にはマーケットの支持を得るための取り組みも

いわば「理念先行」で開発された『PoiCa』だが、普及にはマーケットの支持を得るための取り組みが必要不可欠

傍らに意識の共有という大仕事を抱えながら、3カ月半の開発期間でリリースに漕ぎつけた『PoiCa』。リリース後のダウンロード数はまずまずの滑り出しを見せている。

が、現在は公式に『PoiCa』の利用を認める小売店・飲食店がないため、店舗やレジ担当者によっては利用が断られるケースもあるなど課題も多い。また、当初予定していたポイント数や有効期限を確認する機能は、まだ制限されたままだ(※いずれも2012年4月現在)。

「お店の方からお叱りを受けることもあります。その時は、可能な限り足を運び、丁寧に頭を下げてご理解していただくよう務めるほかありません。とはいえ、『PoiCa』がユーザーにとっても店舗にとっても有益なサービスなのは確か。提供を始めた以上、地道に普及拡大に努めていくつもりです」(八木氏)

現状を見て、「店舗側の了解を得てからサービスインすべきだ」という意見もあるというが、一方で提供できるサービスを先に開発し、徐々に市場を開拓していくという考え方もある。どちらが正しいとは言い切れないが、彼らは後者を選び、走り出した。

「当面の目標は、100万ユーザーを目指してサービスを拡大すること。それと並行して、マルチデバイス、マルチリンガルに対応しながら東南アジア圏にも進出する予定です」(八木氏)

また、開発面では「中小規模の小売店や飲食店を対象に、ASPによる成果報酬型のポイントプログラムやスタンプカードソリューションを提供を進めるほか、支払い時以外の場面でユーザーと接触を増やす開発も検討している」(西代氏)という。マネタイズの糸口となる新サービスも、近々リリースする予定だ。

経験豊富な”オトナ”なスタートアップは今、ローンチ後に迎えた最初の正念場に直面している。彼らはこの課題をどう乗り越えるか。期待を込めて見守りたい。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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