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6月2日(土)に経産省とハッカソン開催!『Hack For Japan』の及川卓也氏・岩切晃子さんが語る【IT復興2.0】

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昨年の震災直後、グーグルのシニアエンジニアリングマネージャー・及川卓也氏による呼びかけから生まれたIT復興支援コミュニティー、『Hack For Japan』。現在では、Facebookグループのメンバーだけで301名(※2012年5月23日時点)にものぼる、日本有数の復興支援コミュニティーだ。

そんな『Hack For Japan』が、6月2日に経済産業省と共同で、ハッカソンを開催する。
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「これまでは正直、コミュニティー参加者の多くが、復興支援に対するモチベーションを維持できていないこともあった」と話す及川氏だが、今回、また新たに活動を始めるきっかけとなったものは一体何だったのだろうか?

同じく『Hack For Japan』のコアメンバーの一人である、翔泳社の取締役・岩切晃子さんを交え、約1年の『Hack For Japan』の活動から見えてきた「継続的な復興支援に必要なこと」や、今後の展開について話を伺った。

「リーダーを置かない」メリットとデメリットから見えてきた課題

(写真左より)グーグル株式会社

及川卓也氏(写真:左)と岩切晃子さん(写真:右)

「テーマやプロジェクトごとにリーダーはいるが、その役割はコミュニティーを円滑に維持ことであって、組織全体を統率する立場ではない」と、『Hack For Japan』のコミュニティーのあり方について話す及川氏。岩切さんも、続けてこう話す。

「若い世代であれほど広範囲におよぶ大災害を経験した人はほとんどいないでしょうし、地域ごとに復興のニーズも違う。それに、時間の経過とともに必要とする支援も変わりますから、リーダーの指示を待ってから動くのでは対応が遅れてしまうと考えたんです。だから、参加者が『やるべき』と判断したことはどんどんやる形になりました」(岩切さん)

自律的に活動できる個人が緩やかに連携しながらプロジェクトを進める。『Hack For Japan』は、「オープンソース・コミュニティ」のような柔軟性を内包した組織だったからこそ、変化に強く息の長い支援を継続してこられた。しかし、その組織構造ゆえに生じた課題もある。

「支援要請や相談は、Facebookグループやメーリングリストに直接投げられ、対応可能な有志によって実現されていくわけですが、『やります』という人が現れなければ、事が動かずそのまま立ち消えになってしまうこともある。それでは、頼んだ方は『何なんだ?』ということになってしまいます。実際に、そんな問題がいくつかあったのは確かです」(及川氏)

もし強力なリーダーをトップに置くピラミッド型の組織であれば、強制力を利かせることもできただろうが、彼らの組織はあくまでもフラット。そうした権限を持つ者はいない。

「今にして思えば、『こんな風にしたら実現の可能性が高まりますよ』といった具合に、遅滞が起こりそうな要請を察知し、ポストした依頼者にアドバイスすることならできたかもしれません。でも当時はそこまでできませんでした。今後、さまざまな面でアプローチを変える必要はあるでしょうね」(及川氏)

「そういう意味では、わたしたちは手を動かすだけでなく、もっと『ポータルな場』としての役割を果たすべきだったのかもしれません。わたし自身はこの反省を踏まえ、支援する側、受ける側の立場や要望を伺ってコンサルテーションしたり、しかるべき人や団体をご紹介するようなことにも、もっと力を入れていくべきだと思っています」(岩切さん)

「善玉ハッカーの提案で、社会全体が変わっていくかもしれない」

未曾有の災害を受けて『Hack For Japan』にかかわったエンジニアたちは、それぞれの立場で悩み、小さな失敗や喜びを分かち合いながら支援を継続してきた。この取り組みをきっかけに、参加した開発者たちに少しずつ変化が見え始めたという。

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「『Hack For Japan』のハッカソンがきっかけで、IT勉強会に積極的に参加するようになったエンジニアもいる」と話す

「ある参加者は、ハッカソンをきっかけに立ち上げた支援サービスが被災地で本当に役に立っているのかを確かめるために、2度ほど現地へ足を運んだそうです。

その方は、感じた気付きを日記にまとめてわたしたちに共有してくださいましたが、ITによる支援の模索から始まった支援活動が、ITだけに留まらない動きをされている方も少なくないようです」(岩切さん)

岩切さん自身、岩手県出身ということもあって『Hack for Iwate』の立ち上げに携わり、現地と密にコミュニケーションを取りながら活動を続けている。

「自宅の電話がなくなり被災後にはじめて携帯電話やインターネットに触れたという方が多くいらっしゃり、皆さん最初は戸惑いがある様子でした。が、それでもTwitterやメールを使えるようになれば、見ず知らずの方からリアクションがあったり、時には物資が届いたりもする。インターネットの便利さや意義に気付いていただけたのは、震災がきっかけになったように思います」(岩切さん)

岩切さんはこうしたアクションで、現地の支援団体である『遠野まごころネット』のと縁ができ、サイトリニューアルを手伝ったり、被災地のNPOに仮設のネットカフェの設置を提案したりしてきたという。

そして『Hack For Japan』の活動は、個人の動きだけでなく中央官庁にも変化をもたらした。

意図していなかったとはいえ、「復興」をテーマに活動を続けてきたことで、政府が動くきっかけを作ったことは、非常に価値のあることだ

「復興」をテーマに活動を続けてきたことで、結果的に政府のICTにまつわる新しいアクションを促すことにつながった

「実は、経産省の方がわたしたちのFacebookグループにポストしたことが契機になって、冒頭にもあったハッカソンを開くことになったんです」(及川氏)

現在、震災からの復旧復興のための各種支援制度が国や地方自治体から提供されているが、その手続きは複雑で周知徹底がなされていない。そのため経産省は2012年2月にRSSやAPIの提供を行ったが、今度は開発者側の利用が進まないという新たな問題に直面していた。

そこで、『Hack For Japan』の呼びかけでハッカソンが開かれる運びとなったのだ。

「わたしたちは、あくまで被災地で沸き起こっている復興支援の問題解決をお手伝いしているので、『政府を動かす』なんてことは考えてもいませんでした。ただ、官公庁の方々がわたしたちの活動に興味を持ってくださり、結果的に善玉ハッカーの提案によって社会全体が何か変われば良いとは思っています」(岩切さん)

開発者たちの「アジャイル」文化を、社会に普及させたい

いまだ被災地の震災復興は順調に進んでいるとは言い難いものの、被災地以外ではすでに震災への関心が薄らぎ始めている。こうした状況の中で、『Hack For Japan』は今後どう活動していくのだろう。

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「活動を続けてきたこと自体は良かったが、今後の課題は多く、一つ一つクリアしていきたい」と話す及川氏

「継続的に活動を続けるためには『達成感』が必要だとよく言われますが、この一年をとおして、まだ胸を張れるような成果や達成感を感じるまでに至っていません。だからこそ、これからは参加したエンジニアたちが達成感を感じられるような状況を作ることが、わたしの当面の目標です」(及川氏)

ボランティアの仕事とはえ、やることはビジネスでWebサービスを立ち上げるのと何ら変わらない。アジャイルで素早くプロジェクトを遂行することは、これからの日本にとって必要な文化となってくるだろう。「これからもこうした支援を続けながら、広く一般にこの意識を根付かせていけると嬉しい」と、及川氏は話す。

「東北の惨状や福島の原発事故を目の当たりにして、生きていく以上、この国にもっとコミットしなければならないと強く感じるようになりました。東北に思いを寄せるということは、自分たちが生きていくことに思いを寄せることなんだと、今は強く感じます。個人的な活動目標としては故郷の岩手県だけでなく、今もっともITの力を必要としている福島県での活動を行う機会を作りたいと思っています」(岩切さん)

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小禄卓也(編集部)