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[連載:企業に直撃!] スペースビジョンがもたらした”世界初”の3Dスキャナーが、「飛び出す未来」を実現させる!?

公開

 
株式会社スペースビジョン
代表取締役社長兼CEO 工学博士
佐藤幸男氏

もしも、世の中に氾濫する画像の多くが、2Dから3Dに置き換わったら……?

そんな風に空想を膨らませてみたことはないだろうか? すでに映画やテレビなどエンターテインメント領域では「3D」がビジネス上の重要なキーワードになっているが、まだまだ未来社会のあり様をイメージできる立体画像は、人をワクワクさせる要素を持ち続けている。

発端は2004年。慶應義塾大学教授の佐藤幸男(現・スペースビジョン社長)氏が、慶應大学および名古屋工業大学での研究成果を結晶させ、3D静止画カメラのコンパクト化を成功させたところから始まる。

“異分野”からの発想が、3D撮影の最速化を実現

慶應義塾大学大学院の客員教授、名古屋工業大学の名誉教授として自身の研究も続ける佐藤氏

慶應義塾大学大学院の客員教授、名古屋工業大学の名誉教授として自身の研究も続ける佐藤氏

「技術的には、この時点である程度の満足を得て、さらに研究を深化させたいと思っていたのですが、文部科学省の産学連携の取り組みなどから声が掛かり、ビジネス化を考えるようになりました」

ベンチャー創出支援の国家予算を有効活用して、どうビジネス化するか。そんな課題を得た佐藤氏は、ボディスキャンという領域に関心を抱く。すでに世界では、3D画像で人体をスキャンし、データをビジネス利用する動きがあった。先進企業はアメリカやドイツ。日本でも数社がこの分野にかかわっていたのだが、いずれのボディスキャナーも光切断という形式である。まるでCTスキャナーやコピー機内部のように、カメラが光源とともに移動しながら人体をスキャンし、得たデータを解析・合成することで「人体の3D画像」を導いていた。
この方式の問題点は多い。一つはスペースの問題で、上下駆動するカメラを支える機材などを四方に設置するため、ちょっとした小部屋程度の空間が必要だ。また、撮影時間に関しても、駆動しながらの撮影のため、数年前の同形式スキャナーは1人の3D画像を作成するために十数秒を要していた。

「わたしたちが開発した3Dカメラを12台ほど配して、同時に撮影を行い、これをソフトウエアで解析・合成すれば、全身でも数秒でスキャンが完了するはず。そう考えたんです。もしかすると、わたしたちが3Dボディスキャナーの開発を本業にしていなかったことが、従来の発想とは違うアプローチに成功した一因だったのかもしれませんね」

ファッション・医療・スポーツ…広がる3D画像の可能性

佐藤氏のイメージしたボディスキャナー試作機ができ上がるまでに、さして時間はかからなかった。そして、その試作機は目論見通りの精度とスピードを示した。現在スペースビジョンが提供するボディスキャナー『カーテジャ』シリーズは、たった2秒で高精度の3Dボディ画像をコンピュータ画面に映し出すことができる。

実際に触らせてもらったが、重さは一眼レフカメラほどで、片手で楽に持ち運べるほどの軽さがあった

実際に触らせてもらったが、重さは一眼レフカメラほどで、片手で楽に持ち運べるほどの軽さがあった

しかも機材は小さく、持ち運びや組み立てが容易。既存のスキャナーのように広いスペースもいらない。さっそく世界中の企業や政府関係者が佐藤氏の下に連絡をしてきた。

例えば韓国。数年前から同国政府とファッション関連産業などが共同の取り組みで進めている「アイファッション」というプロジェクトから声が掛かった。

「簡単に言うと、人体の正確なサイズをデータ化することで、衣料の販売に活用していく取り組みです。このアイファッションでも当初は光切断方式のボディスキャナーが導入されていましたが、当社のカーテジャ・ボディスキャナーを活用することで、さらなる進展を目指そうと考えてくれたんです。すでに試作機レベルの納入は2011年の1月に済んでいますが、ゆくゆくは3Dスキャンを多くの人に実施してもらうための施設設置など、大規模な構想が具体的に動いています」
例えば米国。光切断方式の領域で世界をリードする企業の一つだった米国TC2社が、スペースビジョンとの連携を申し出てきた。カーテジャ・ボディスキャナーとTC2が研鑽を重ねてきた3Dデータ解析用アプリケーションを連動させ、これを世界市場に打ち出していこう、というものだ。

これらは、反響の一例に過ぎない。すでに佐藤氏の下には15社以上から、導入や連携、技術供与などの申し入れが届いている。

「やはり多いのはアパレル産業ですが、例えば人体に完全にフィットする衣服を求める軍関係やスポーツ関係のところからも話は来ています」

3D撮影の技術革新で、「未来」が飛び出す

意外なのは、ゲームなどエンターテインメント業界からは、今のところさほど大きなアプローチがないという点。おそらく「これからの技術」ゆえに、様子見モードでもあるのだろうが、考えてみれば3Dスキャンの価値は「2Dをはるかに超えるリアリティある画像」という点だけではないのだ。立体を正確にサイズ測定できる部分に、アパレル産業などが飛びついた点からも、それはうかがえる。

こちらはフラッシュ撮影することで顔の3D画像を制作することができる。1秒も掛からない速さで、高精度な立体画像に仕上がる

こちらはフラッシュ撮影することで顔の3D画像を制作することができる。1秒も掛からない速さで、高精度な立体画像に仕上がる

「例えばアイファッションで韓国の方々が目指しているのは、エンドユーザーがネット通販などでも衣服を安心して買えるようにすること。企業サイドにしてみても、顧客のボディサイズにピッタリな服を受注後に生産していけば、高効率な収益モデルを築けるかもしれない。そうなれば、在庫リスクを懸念する経営から解放されるわけです」

仮にカーテジャ・ボディスキャナーが都市の各所に設置され、多くの人が自分のボディの正確な3Dサイズデータを持ち歩けるようになれば、ネット通販であろうと、安心して簡単に、自分にジャストフィットする衣服を購入できる。メーカーサイドは、SMLサイズを需要予測しながら一定数量ずつ生産し、在庫が残ってしまうリスクと戦うビジネススタイルを一掃できるかもしれない。

佐藤氏によれば、ここへ来て医療領域や健康関連産業からの引き合いも来ているという。いずれはメタボ判定や、ダイエット効果の測定などに、手軽に3Dデータが活用されるかもしれない。

「当社のカーテジャシリーズにはフェイススキャナーもあり、こちらは1秒で撮影が完了します。例えばスマートフォンのアプリに簡易的な3D撮影機能を搭載させることも、技術上は可能です。将来的には、人体や顔ばかりでなく、ありとあらゆるモノの画像が3D化して、テレビやWebの世界にあふれる日が来るかもしれない。そうなれば、未来社会を描いた映画みたいな世界観が現実になるかもしれませんね」

スペースビジョンと連携するTC2では、今後、家庭用の簡易ボディスキャナーを格安で開発する道筋を探っているともいう。秒単位で3D撮影できてしまうテクノロジーが、家庭内やスマートフォンにまで載ってしまえば、佐藤氏の言う「世界中に立体画像があふれる日は」そう遠くない未来に実現できてしまう。

「現状の課題はコスト、プライスの面。ですが、利用シーンが広がれば、需要に合わせて低価格化できるかもしれません。わたしは基本的に大学の研究者ですから、本音としてはもっと3D技術の追究をしたいところですが(笑)、今しばらくはこの新しい領域のビジネス化を楽しみながら、可能性を広げていきたいと思っています」

3D画像があふれる「飛び出す未来」は、もうすぐそこまで来ている。
 
取材・文/森川直樹 撮影/小禄卓也(編集部)