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[連載:高橋信也⑧] 失敗しないエンジニアになる2つの方法。そして、成功とコンプレックスの不思議な関係

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PMOの達人・高橋信也のプロジェクト最前線
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株式会社マネジメントソリューションズ  代表取締役/CEO
高橋信也

外資系コンサルティングファーム2社を経て、大手メーカー系システム会社へ転職。PMとしてグローバル案件などを手掛けた後、2005年に各種プロジェクトマネジメント支援を行うマネジメントソリューションズを設立。著書に『PMO導入フレームワーク』(生産性出版/税込2310円)がある

前回の連載では、「経営者だけでなく、エンジニアのキャリア形成にもリスク感度が必要だ」という話をしました。では、どうすればリスク感度を上げていくことができるのか。今回はそこから話を進めていきましょう。

わたしの知る限り、実は自分自身のリスク感度を上げる方法は一つしかありません。危機に対する肌感覚を磨く――これしかないんです。じゃあ、どうすれば肌感覚を磨けるのかと言えば、身を置く業界でひたすら経験を積み重ねていくしかない。元も子もない言い方になりますけれど、リスク感度を向上させるための近道はない、とわたしは考えています。

前回の連載でも触れましたが、今の時代、どんな技術が「旬の技術」になるかは、誰にも予測不能です。大切なのは、今、自分が勉強したり、注目している技術の可能性を信じつつ、同時に「まったく別の技術が注目されて自分は出遅れるかも」という危機意識も常に胸に秘めておくこと。失敗するかもしれない覚悟をいつも持ちながら、開発に励むことが重要になるのです。

もちろん、この見極めには、生まれ持っての性格なども影響してくると思います。生まれたばかりの技術分野を「絶対にメインストリームになる」と断言する性格の人もいれば、もうすでに隆盛し始めている技術なのに「まだどう転ぶか分からない」と慎重に評する人もいる。どちらかが正解で、どちらかが不正解とは言い切れません。

しかし、それでもわたしはすべての人に「リスク感度を磨くべき」と伝えたいです。危機意識ゼロでも1度や2度は成功する場合もあるでしょう。けれども、長い人生、1度や2度の成功だけで食べていけるほど甘くありません。だからこそ、どんな性格の人であろうと、どんなに今まで成功してきた人であろうと、現状に対するリスク感度は絶対に必要なのです。

ザッカーバーグに学ぶ「歴戦のツワモノ」を味方にするリスク回避

さて、「己のリスク感度を高める近道はない」と書いておきながら、今回は賢くリスクを回避する、もう一つの方法についても述べておこうと思います。ポイントは、先ほどわたしが【自分自身の】リスク感度を上げる方法は一つしかないと説明した部分にあります。

From Andrew Mager 「コードの書ける投資家」ショーン・パーカーは、非公式でFacebookをサポートしていると言われている

From Andrew Mager

 「コードの書ける投資家」ショーン・パーカーは、非公式でFacebookをサポートしていると言われている

もし、現時点の自分に十分なリスク感度が備わっていないならば、リスク感度の高いパートナーを手に入れるという道筋もある、というわけです。

具体例を挙げましょう。昨今のIT業界で最も成功した起業家の一人に、マーク・ザッカーバーグがいます。彼は映画『ソーシャル・ネットワーク』などで生粋のギークとして語られていますが、隣にはビジネス面で貴重な助言をしてくれる素晴らしいパートナーがいました。『ナップスター』共同設立者として知られる、投資家のショーン・パーカーです。

ザッカーバーグだけでなく、世の中の多くの成功者は、たいていの場合、常に頼れる相棒を得ているものです。自分にはない見識を持っていて、時に自分のチャレンジを後押しし、時に「無謀だ」と諭してくれるような存在。そんなパートナーを得ることができれば、成功の可能性は劇的に高まるでしょう。

ただし、「じゃあ自分自身のリスク感度を上げる努力なんていらないじゃん」と考える読者がいるとしたら、それは誤りです。リスク感度に長けている人をパートナーにすることは、そんなに簡単ではありません。

最初に書いたように、リスク感度を高めるには経験値が必須。つまり、リスク感度が高い人というのは、ビジネスの酸いも甘いも知る歴戦のツワモノだということです。そんな人に、「こいつは少々危なっかしいけれど味方になってやろう」、「パートナーとして一緒にやってみよう」と思わせるのは、当然ながら認めてもらえるほどの何かを備え持っていなければなりません。

自分の存在をワンワードで記憶させる工夫を!

ならば、その何かをどう身に付け、どう周囲に伝えていけば良いのか。ここで思い出してほしいのが、わたしの連載の第6回目の内容です。

わたし自身が起業した時の話を例に挙げて、「ヒゲの高橋」から「PMOに詳しい高橋」へと周囲のイメージを変えていった、という話を書きました。これと同じで、リスク感度の高そうな有力者との出会いを積極的に求め、その人たちに「こいつに賭けてもいい」と思わせる強烈な印象を与えなければなりません。

かつてのわたしがそうだったように、若いエンジニアの人なら、最初のきっかけは見た目や振る舞いの特徴で記憶にとどめてもらう形でも構わないと思います。覚えてもらうための入口は、何だって良いのです。

ただ、そこからできるだけ早いタイミングで、もっとビジネスに直結する形容詞で自分を記憶してもらうこと。それが重要になります。当然、自分を一つの形容詞で表現できるほど何かに没頭している、もしくは精通しているかどうかが問われます。

わたしは起業前からPMOノウハウの習得に打ち込んでいました。だから「PMOの高橋」として記憶してもらえた。これによって、すでに独立して企業経営をしている前職時代の先輩などに、「そういえば高橋という若いのがPMOを専門にやっていたな」と思い出してもらい、いくつものビジネスチャンスを得ていきました。

また、何を得意にしているかだけではなく、将来どうしていきたいかといったビジョンを周囲に語っていくのも有効でしょう。ザッカーバーグはもちろん、故スティーブ・ジョブズのような成功者たちは、おそらく壮大なビジョンで人々を魅了し、多くの味方を手に入れていったのだと考えています。

魅力的なビジョンと、それを実現できる技術力(もしくは行動力)の両方があって初めて、リスク感度の高いツワモノたちが振り向いてくれる。うまくいけば、自分の成功を応援してくれる存在になってくれるのです。

弱点を自覚すれば、次第に強みが見えてくる

「それはあなたが人に取り入るのがうまいからできたんだ」と思う方がいるなら、わたしは真っ向からノーと言います。今でこそ、多くの方々に鍛えてもらったおかげでいろいろな世界の人とコミュニケーションを取れるようになりましたが、学生時代のわたしは、どちらかと言えば内向的な人間でした。

From Andrew Feinberg 見た目や話し方が洗練されていなくても、ザッカーバーグが「Cool」と評されるのは、圧倒的なビジョンとアイデアゆえ

From Andrew Feinberg

見た目や話し方が洗練されていなくても、ザッカーバーグがCoolと評されるのは、圧倒的なビジョンとアイデアゆえ

経営者になった今も、本質的には変わっていません。人と接するのが苦手で、極言すればコンプレックスすら抱えています。

そんなわたしだからこそ伝えたいのは、むしろコンプレックスを持っているくらいの人間の方が、強いパワーを発揮できるという持論です。

今回モデルケースに挙げたザッカーバーグを見ても、決して人当たりが良く、弁が立ちそうな人物には見えませんよね? しかし、「人当たりの良しあし」で成功・失敗は決まらないということも、彼は世界に示しました。

読者の皆さんの中にも、他人とのコミュニケーションを苦手にしている方はいるでしょう。でも、エンジニアにはエンジニアにしかない武器があります。それは、やはり技術知識です。そこに情熱や行動力が加われば、そして魅力的なビジョンを持っていれば、表現力なんて低くても思いは伝わる。わたしは自分の経験を通じて、そう確信しています。

リスクを回避していくためのパートナー探しに話を戻すと、彼らは上手にペラペラと話す輩に簡単にだまされるような人物じゃありません。逆に言えば、あなたの表現力がどんなに乏しくても、アイデアやビジョンの本質に光るものがあれば、そして、そのビジョンを実現できるだけの技術力の持ち主だと分かれば、ツワモノは気付いてくれます。

今回の結論はこうです。リスク感度は経験でしか向上しない。積極的にいろんな経験を積んでいってほしい。ただし、経験を十分に積めていないうちは、積極的に歴戦のツワモノたちに会って、懸命に自分を伝える努力をしていこう。

これらの作業を惜しまず繰り返せば、成功は実現可能になっていくのです。 

撮影/外川 孝(高橋氏カットのみ)