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[連載:法林浩之①] 運営歴20年以上のITイベンターとして、ソーシャル全盛の今、コミュニティに参加する意義を考える

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ITイベンター・法林浩之のトップエンジニア交遊録

日本UNIXユーザ会 幹事・フリーランスエンジニア
法林浩之(ほうりん・ひろゆき)

大阪大学大学院修士課程修了後、1992年、ソニーに入社。社内ネットワークの管理などを担当。同時に、日本UNIXユーザ会の中心メンバーとして勉強会・イベントの運営に携わった。ソニー退社後、インターネット総合研究所を経て、2008年に独立。現在は、フリーランスエンジニアとしての活動と並行して、多彩なITイベントの企画・運営も行っている。

僕が初めてIT系のコミュニティ活動に携わったのは、1989年のことでした。当時、僕は大学4年生。所属していた研究室には、そのころはまだ珍しかったインターネットが通じていて、僕は研究もそっちのけでメーリングリストやニュースグループに熱中していました。

今のようにITコミュニティが多くなかった当時から、日本UNIXユーザ会のメンバーとして活躍していた法林氏(写真中央)

『UNIX Fair’89』の様子。今のようにITコミュニティが多くなかった当時から、日本UNIXユーザ会のメンバーとして活躍していた法林氏(写真左から2番目)

その研究室は、日本UNIXユーザ会(以下、jus)とつながりがあったんですね。そんな縁で、ある日研究室の先生から、「jusの展示会『UNIX Fair』の手伝いをしないか」と誘われたんです。最初にお手伝いした時のころは今でも鮮明に覚えています。新宿NSビルの会場で受付などの仕事を担当していました。以後、大学院を修了するまで、毎会手伝いに行くようになっていました。

ちなみに同じころ、音楽好きだった僕は研究室のワークステーションを使って『さだまさしメーリングリスト』を設立したりもしていましたね。僕はこのメーリングリストの初代管理人で、今でも活動しています。こちらはインターネットを活用したコミュニティとして、かなり古い部類だと思います。

そんなこんなで今に至るまで、ITイベントとネット上のコミュニティには、かれこれ20年以上もかかわっていることになります。なぜ、これほど長くかかわっているのかを問われると、明確な答えが出てこないんですが(笑)、しいて言えば「たくさんの技術者とのネットワークができる」ことが楽しかったんでしょうね、やっぱり。

例えば、最初に就職したソニーで、1994年に社内ネットワーク部門に異動した時は、このネットワークがとても役に立ちました。当時のソニーは、企業のコーポレートサイトもないような状況。社内LANなどの環境を整える担当者として、学生時代からインターネットに熱中していた僕に白羽の矢が立ったんです。

そんなわけで、僕はソニーのWebサイトの栄えある「初代サーバ管理者」になったわけですが、ソニーのWebサイトには世界中から膨大な数のアクセスがあり、大量のアクセスが集中するとサーバがどのように動くかなど、手探りで勉強していかなければなりませんでした。94年はまだPCも普及していない時代ですから、今と違ってネット上にも参考にできるノウハウがほぼ皆無でしたから。

それでも何とか対処できたのは、jusで多くのエンジニアと知り合い、彼らや先輩たちから逐一情報をいただき、学ばせてもらったから。最初は「なんとなし」に携わっていたコミュニティ活動でしたが、こうやって本業でも役に立つようになっていきました。

「オープンソースまつり」で司会者・運営者として覚醒

ITイベンターとして大きな節目となったのは、1999年に開催した『オープンソースまつり』です。これは、jusとぷらっとホーム(UNIXに強いコンピュータ販売会社)、日本Linux協会の3者が、オープンソースを世に広めようと共催したイベント。僕は、今で言う「ライトニングトーク」のようなことを行う特設ステージをプロデュースしました。

ITイベントは、技術知識や経験だけでなく、これまでの人生で培ってきたあらゆる経験が活かせると話す法林氏

イベント運営は、技術知識や経験だけでなく、これまでの人生で培ってきたあらゆる経験が活かせるという

コミュニティ発の展示会なので、自分自身で20組ほどの企業・個人をピックアップして出演を依頼しました。司会役も僕が担当。事前の資料提出もない状態で、2日間、たくさんの人とアドリブで掛け合いをしました。学生時代にやっていたバンドでドラマー兼MCを務めていた経験が、思わぬところで活きた格好でしたね(笑)。

当時のITイベントとしては登壇者と司会が対話するスタイルも珍しく、お客さんの反応も上々でした。この時くらいから、「僕は、この道でやっていけるかもしれないな」と感じました。

こうした取り組みが徐々に知られるようになって、各種のコミュニティを集めたイベントの企画・運営役を務める機会も増えました。現在も続いているイベントで言えば、『Internet Week』(1997年~)、『関西オープンソース+関西コミュニティ大決戦(KOF)』(2002年~)、『Gadget1』(2010年~)、『Tech LION』(2011年~)などがあり、つい先日(8月20日)に行った『Lightweight Language Planets』(『LLイベント』として2003年から開催)もその一つです。

イベントの運営役には、地道な事務作業が求められるんですね。たくさんの関係者と連絡を取り合って調整したり、イベント終了後にはWebサイトに報告ページを掲載したりしなければなりません。そういう作業をこなせるエンジニアって、意外と少ないんです。僕が重宝されている理由は、その辺にあるのかもしれません(笑)。

イベント運営で特に面白いのは、たくさんの人と交流できること。例えばjusのイベント会場にいた時は、日本のインターネットの父である村井純さんや、Ruby開発者のまつもとゆきひろさん、アルファブロガーの小飼弾さん、Perl開発者のラリー・ウォールさんといった有名エンジニアとも普通に話せましたし。また、さきほど説明したように、たくさんのエンジニアから教えを請うたり、情報交換ができるようになるのも良さと言えます。

こうした経験は、僕にとって大きな財産になっています。この連載では、ぜひ、これまでの出会いについても書いていきたいと思っています。

ネット上では出会えない「リアルな仲間」とつながるチャンス

さて、前置きが長くなりましたが、初回となる今回は、エンジニアがこういったコミュニティ活動に参加する意義について、僕なりに分析してみたいと思います。

『Tech LION』(第2回目)の様子。日本Rubyの会会長・高橋征義氏を向かえ、彼とRubyKaigiとのかかわりを紐解いていった

『Tech LION』(第2回目)の様子。写真左端が法林氏

ちょうど今年3月に発足した『Tech LION』で、ゲストの宮原徹さん(びぎねっと代表取締役)が、こんな指摘していました。彼が運営しているイベント『オープンソースカンファレンス』は、エンジニアにとって「同質性を確認する場」、つまり同じ考え方を持つ人がいて、自分が一人ではないことを確かめる場だと言うのです。

7月に行われた日本Ruby会議の最終回でも、「ぼっち」という言葉をたびたび耳にしました。今でこそRubyはメジャーな開発言語として普及していますが、ほかの言語と比較すれば仕事でRubyを使うという人はまだ少数派。そのため、Rubyプログラマーは周囲に仲間が少なく、「ぼっち」になりやすいという意味だそうです。

でも、Ruby会議のようなイベントに参加すれば、共通の話題で熱く語り合える友だちが見つかる。しかも、ネットでの知り合いとは異なり、その場で同じ空気を吸って盛り上がることができる。これは大きいですよ。

昔に比べると、エンジニア同士が仲間とつながる場は増えています。特に、ネットの存在感は本当に大きいですね。TwitterやFacebook、ブログなどを通じ、交流の輪を広げているエンジニアも多いでしょう。ただ、リアルなつながりには、リアルにしかない良さがあります。

僕がソニーの初代サーバ管理者として四苦八苦していた時、多くのエンジニアからアドバイスをもらえたのも、この「リアルなつながり」があったからだと思っています。こうしたつながりは僕がフリーエンジニアになった今も大きな助けになっていますし、何よりフリーになる道を選んだのは、社外のエンジニアたちの活躍ぶりを見て感化されたからなんです。

会社や常駐先という”閉じた世界”に埋没しがちなエンジニアにとって、イベントは社外の優秀な技術者たちと「本当の仲間」としてつながれる最大のチャンス。皆さんにも、面白そうなものは、ぜひ、ライブで体験してほしいですね。

会場に足を運び、自分の目で新しい技術的な取り組みなどを確かめる。興味のベクトルが同じ仲間と、リアルなつながりを持つ。そうやってイベントを楽しむことは、エンジニアのキャリア形成にとって、かけがえのない体験だと思うのです。

<イベント告知>法林氏が運営する第3回『Tech LION』開催!
主催:USP友の会
協賛:オライリー・ジャパン、ドリームワード
後援:EM ZERO、日本UNIXユーザ会、
   キャリアデザインセンター『エンジニアtype』
日時:2011年9月22日(木) 18:30開場、19:30開演、22:00終了予定
場所:ネイキッドロフト
料金:前売2,000円、当日2,500円 (+1ドリンクから)
問い合わせ先:Tech LION事務局 
   (E-mail:techlion[at]usptomonokai.jp)