エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

[コラム] 結婚・出産後も好きな開発を続けていくために「20代の今から準備しておきたいmyセーフィティネット」

公開

 
今回のアドバイザー

ブラマンテ株式会社  代表取締役
田島弓子さん

『ワークライフ”アンバランス”の仕事力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)などの著者であり、日本とハワイに拠点を持ちながらキャリアやコミュニケーションについてのコンサルティング事業、セミナーなどを行っている。2007年に現職に就く前は、マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)の女性営業部長として活躍。IT業界の内情にも詳しい

Webサービスやデバイスの多様化もあってか、若手層を中心に、女性プログラマーやデザイナーが増え始めている昨今。だが、そもそも多忙なことで有名なIT業界では、「いつまで好きな開発を続けていけるのか」と考えてしまうシチュエーションもまだまだ多い。

また、この業界は長年「男性社会」だったせいもあり、結婚・出産といったライフイベントを経た後も第一線で開発に携わっている女性エンジニアが少ないのも現実だ。となると、20代の女性エンジニアたちは、自分たちなりのワークライフバランスを見いだし、それを実現するための環境を整えていかなければならない。

では、結婚や出産後もやりたい仕事をあきらめず続けていくためには、何を準備しておけば良いのか。

マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)で女性営業部長を務め、現在は『ワークライフ”アンバランス”の仕事力』などの著書で知られるブラマンテ代表の田島弓子さんに、今から用意しておくと後々助かる「ヒト・モノ・考え方」をアドバイスしてもらった。

1. まず与えられた仕事でベストを ―何をするかより、どうやるか

組織において「働く」とは、「相手(クライアント、マーケット、社内関係者など)」に対して自分の労働力を「提供」することです。

したがって、少なくとも20代において「働く」とは、やりたい仕事にこだわる(「何をするか」)のではなく、どんな仕事でも相手のために成果を出すこと、つまり「どうやるか」のために徹底的に汗をかくことだと言えます。

若い時期は丁稚奉公的な仕事が多くてうんざりしてしまいがち。ただ、その積み重ねが周囲の信頼を獲得する土台に

若い時期は丁稚奉公が多くてうんざりしてしまいがち。でもその積み重ねが信頼を生む土台に(※写真はイメージ)

まだ経験が浅いエンジニアであれば、最初は検証作業やバグ出しなどのルーティンかつ単純作業が主要業務であることも多いと思います。それは決して面白いものではないでしょう。しかし、組織で働く以上、与えられた仕事で成果を積み上げていかない限り、やりたい仕事をやれるようにはなりません。

長く仕事を続けていくための第一歩は、働くとは「何をするかよりも、どうやるか」だと心得て、たとえつまらないと思う仕事でも、それをどう面白くして、結果に結びつけるかに知恵を絞っていただきたいのです。

こうして、20代のうちに与えられた仕事でコツコツと成果を積み、基本の仕事力を磨いていくことが、結果的に結婚や出産後もやりたい仕事をあきらめずに続けていくためのベースとなるのです。

2. 仕事は独りでしているのではない ―チームの中で信頼を得る

皆さんは独りで仕事をしているのではなく、チームの一員として機能していることを普段から意識しているでしょうか? エンジニアの仕事はPCや製品に一人向き合って作業をすることが多いという特性から、ついつい仕事の視野を狭めてしまったり、目的を見失ってしまうことがあるようです。

しかし、常に「チームの一員として成果を出す」という意識を忘れずに業務にあたることができれば、チームやクライアントから頼られるエンジニアになれます。しかも、チームメンバーから「頼られる」ということは、仕事において何よりの喜びであり、やりがいにつながるはずです。

わたし自身、担当クライアントが突発的なトラブルに見舞われた時、多忙を極める担当SEが最優先でトラブルシューティングをしてくれた時には、本当に彼を頼もしく、また有難く思ったものでした。営業やマーケティングの緊急事態を助けてくれるエンジニアほど、心強い存在はありません。

特に女性は、まだまだ男性社会的な日本企業の中で、男性的組織のルールを理解し、チームの一員となれるよう腐心している方が多いように感じています。その中で自然と、周囲の状況を把握し、自分がどう受け止められているかを知るといった「観察力」や「察知力」、そしてチームの中でうまくやっていくための「コミュニケーション力」を磨いているのです。

皆さんがそんな自分の能力を認識して、営業が抱えているトラブルをいち早く察知して、力を提供することができれば、チームにとってなくてはならないエンジニアとなることができるはずです。
 

3. メンタルマネジメントに効くスケジュール活用法

かつて大組織で働いていたわたしが、多忙を極めていた時にやっていたのは、スケジューリングをメンタルマネジメントのために行うというものでした。

毎日、帰り際にGoogleカレンダーで明日の予定を立ててみて。意外な「隙間時間」が見つかることも

毎日、帰り際にGoogleカレンダーで明日の予定を立ててみて。意外な「隙間時間」が見つかることも

具体的に何をしていたかというと、1日の終わりに明日のTo Doをスケジュール帳に書き出してから帰るようにしていました。

人間は仕事において、やった仕事の多さよりも先が見えない不安にストレスを感じると言われています。したがって、明日やるべきことが分かっていれば、後は安心して仕事のことを忘れ、オフタイムを過ごすことができるというわけです。

特に女性が今後、仕事と家庭の両立を行っていくためには、ONとOFFのスイッチを時間だけではなくメンタル面も含めて切り替えられることが重要になってきます。そこでスケジュール帳を活用しながら、時間やタスクだけでなくメンタルも自分でコントロールできるという実感を持つことができれば、ストレスレベルを軽減し、メリハリの効いた生活を送ることができるはずです。

皆さんもすでにスケジュール帳を活用しておられることと思います。ぜひこのメンタルコントロールを意識したスケジュール帳の活用を試してみていただきたいと思います。

4. ナレッジシェアは両立への第一歩

わたしは以前、ある企業様から「部下が仕様書を書かない」というご相談を受けたことがありました。エンジニアは専門職であるがゆえに、自分の技術力を自分だけの武器にしておきたいという思いからか、なかなかそれをシェアする(仕様書を書く)ことに腰が重いようです。

しかし、エンジニアにかかわらず「デキる社員」というのは、むしろ自分の成果はさっさとシェアし、自分は次のチャレンジに飛び込んでいきます。そしてわたしは、女性の皆さんが仕事も家庭を両立させたいと望まれるのであれば、特にこのナレッジシェアを積極的に行ってほしいと思うのです。

シェアすることで、自分ではなくても誰かができるようになったり、何かあった時には誰かがサポートしてくれる、そういう状況を作り出すことができます。

しかも、ナレッジシェアを行うことで、それは自然と成果を周囲に認知させ、「あの人はデキる社員だ」という評価につながっていきます。それは結果的に、昇進ややりたい仕事へのチャレンジといったフェーズにつながっていくでしょう。

組織で身動きが取りやすくなるということは、周囲から信頼された証。つまり皆さんが今後、結婚や出産、子育てなどで「仕事と家庭の両立を図りたい」と望まれるのであれば、仕事で信頼を得ることを目指していただきたいのです。

もちろん、両立のためには社会制度や社則の改善、進歩も必要でしょう。しかし、仕事と家庭の両立を女性の既得権益と考えず、むしろ、自らの努力による仕事の成果で信頼を得て、出産や育児の際にはチームの皆が喜んで手を差し伸べてくれる――。そんなエンジニアになっていただきたいと思います。

5. ワークライフバランスは心のバランス

「仕事の報酬は仕事」という言葉を聞かれたことがあると思います。皆さんが努力を積み重ねて仕事の成果を出していけば、その次にはまた、新たなチャレンジがやってくる。やっとこさ今の仕事を仕上げたのに、さらにそれより難しい仕事がやってくる。

人生はシーソーと同じ。静止している状態じゃあ、面白みはない。どちらかに

人生はシーソーと同じ。静止している状態じゃあ、面白みはない。どちらかに”振れる”時期もまた、大切なのだ

そうやって、真剣に仕事にのめりこんでいく姿は、周囲から見れば「ワークライフ”アン”バランス」に映るかもしれません。しかし、わたしはワークライフバランスとは、一人一人の「心のバランス」だと考えています。

つまり、周りからアンバランスに見えたとしても、それで自分が納得しているのであれば、遠慮なく仕事をしていけば良いと思うのです。

そうはいっても、女性はいつか仕事と家庭の両立のために「物理的なバランス」を取る必要性に迫られる日が来ます。物理的なバランスの取り方は人それぞれですが、20代、30代のうちにアンバランスに仕事に没頭していたから、40代以降になった時、心置きなく物理的なバランスを取れるようになる――。そんなバランスの取り方だってあるでしょう。

要は、「ほどほどの人生」ではなく、何事も「全力でやり抜く人生」を皆さんにはぜひ体験していただきたいのです。なぜなら、それが結果的に後悔のない人生につながると思うからです。

今回の大震災と原発事故による影響で、性別や職種を問わず「これからの働き方」が変わる可能性があります。そんな中、皆さんのような女性エンジニアの方々には、自分の理想のワークライフバランスを追求しながら、次の時代のワーキングウーマンのロールモデルになっていただきたいと願ってやみません。

取材・文/伊藤健吾(編集部)