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[連載:山海嘉之①] 新技術で市場を創る「開発型指導者」が持つ3つの要素

公開

 
ロボット博士・山海嘉之の未来創造塾
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CYBERDYNE株式会社  CEO  筑波大学大学院 教授  工学博士

G-COE:サイバニクス国際教育研究拠点 リーダー  内閣府 FIRST:最先端サイバニクス研究拠点 統括者
山海嘉之

筑波大学大学院システム情報工学研究科で、1991年からロボットスーツHAL®の開発に着手。機械工学や生体医学などを融合した学術領域「サイバニクス」を創出し、約17年を経てHAL®を完成へ導く。2004年に設立したCYBERDYNE株式会社では医療・福祉現場にサービスを展開中

わたしが開発したロボットスーツHALの原点は、子どものころに読んだ小説『アイ・ロボット』や、アニメ『サイボーグ009』にあります。当時覚えたあこがれは、「社会の役に立つモノを創りたい」という夢や情熱につながりました。HALを創った理由、CYBERDYNEを設立した理由も、未来を創りたいという一心からでした。

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山海教授が生んだHALは、海外での評価も高い

Prof. Sankai University of Tsukuba/CYBERDYNE Inc.

今は主に福祉や障害者向け歩行補助装置として活用されていますが、HALの用途はもっと広がっていくと思っています。それも、日本国内のみならず世界で、です。福祉大国であるデンマークやスウェーデンからは国を挙げてHALの普及をサポートしていただき、ドイツなど欧州各国にもCYBERDYNE現地法人を展開予定です。

これは、われわれが創出したサイバニクス(Cybernetics+Mechatronics+Informaticsから成る造語)をもって、日本から世界にビジネス展開していくという、新しい起業モデルをつくる挑戦だと自負しています。

革新技術を駆使してプロダクトを設計するだけでなく、それを社会に出していく仕組みも設計し、世界中で産業化していく道筋まで設計する――。こういった取り組みを、日本の製造業各社はこれまで本気で手掛けてきませんでした。しかし、今、グローバル経済下で戦っていくには、こうした全体設計の発想が不可欠です。だから、わたしにとってはCYBERDYNEもまた設計の産物であり、社名を英語表記にしたのも、研究成果を自分の手で世界に届けたいと願ったからでした。

そこまでやり切ることのできる、高度な設計能力を持つエンジニアを、わたしは「開発型指導者」と呼んでいます。
 

本当に優秀な開発者は、アイデアの出口まで設計する

革新的な技術というのは、誕生からしばらくの間、社会から敬遠されるものです。企業の中でも、似たような状況が生まれていることは、読者の皆さんの方がよく知っているはずです。

新しい技術や発想が、守旧派に疎まれるのは世の常。結果、多くの研究者・開発者は――中には才能も情熱もある素晴らしい人がいるにもかかわらず――社内調整に疲れ果ててしまい、工数管理などを行う調整役に成り下がってしまうのです。

けれども、彼らがもし、技術をソリューションとして昇華して、使い道、つまり「出口」まで設計できればどうでしょう。周囲の人間は描かれたグランドデザインに興味を持ち、より良い未来を信じ始めるはずです。そこまで導ける人こそが、「開発型指導者」になれるのです。

そもそも、人類というのはほかのどの生物とも違い、周囲の環境を変えてしまうことで生き延びてきた唯一の生命体だとわたしは思っています。ある意味、身勝手な生き物とも言えるでしょうが、ポジティブに変換すると「未来を自分たちで創っていける生き物」となります。

では、人類はどうやって周囲を変えてきたか? テクノロジーです。工夫をし、新しい技術を生み続けることで、人類は未来を創ってきました。ということは、テクノロジーに携わる人間とは、未来を創り出す担い手なのです。

一介の研究・開発者から、未来を創り出す開発型指導者を目指すために必要なのは、【テクノロジーに関する高度な知識+全人的な人格】です。ただ、これらを身に付けるのは口で言うほど簡単ではないと、わたし自身が痛感しています。両方とも、身に付ける素地となる環境要因が、とても重要だからです。

例えば、あなたは上司から「このアイデアはどう思う?」と提案された時、どんな反応をしているでしょうか? 技術的な問題や過去の経験則などから、「いや、こういう理由で無理ですね」と応えるのが口癖になってはいませんか? もしくは、先輩や同僚たちが、常にそう返答するような職場に身を置いていないでしょうか。

もしそうならば、開発型指導者として成長していくのは難しいかもしれません。「できないこと」を前提に、物事をとらえているからです。人間とは、見ているもの次第で、できることが変わってしまう生き物ですからね。視座を未来に持っていく発想転換が大事であり、それをうながしてくれる環境がもっと大事なのです。
 

社員を改めて大学に通わせたのは、「思いやる視点」を育むため

可能性を秘めた若者たちが開発型指導者として育つように、わたしがCYBERDYNEでやっていることの一例を紹介しましょう。

CYBERDYNEにはさまざまなバックボーンを持つ社員がいますが、その中の一人に、オランダ出身の社員がいます。彼は、オランダの名門大学を卒業して来日し、東京工業大学で博士号を取ってからCYBERDYNEに入社してきました。

しかし、HALを形成するサイバニクスとは、機械工学、電子工学、人間工学、脳神経科学、生理学、心理学、システム工学など、さまざまな領域をすべて横断した技術の結晶です。わたしは彼に、もっと幅広い視点で開発をとらえ直してみた方が良いのではないかと話し、半年後に筑波大学への入学を勧めました。

彼は、知識面でほかの開発者より劣っていたわけではなく、情熱を持った素晴らしい若者です。ただ、彼が開発型指導者を目指すなら、もっと豊富な知識と見聞を持った方が良いと判断して、大学へ”戻って”もらいました。わたしは、さまざまな世界、あらゆる学術を行き来することで、人や社会を思いやる心、つまり先見の明が育まれると考えているからです。

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HALが福祉分野に広まったのも、市場投入前から「社会の未来を思いやる視点」があったから

Prof. Sankai University of Tsukuba/CYBERDYNE Inc.

この「社会の未来を思いやる視点」がないと、あふれる情熱や、高度な技術知識を持っていても、単なる夢想家か誰かのフォロワーで終わってしまいます。この3つがそろったときに初めて、未来を設計できるようになるのです。

さて、次回はこの話の続きをする予定ですが、その前に、皆さんに宿題を出しておきましょう。

「電話技術が今まさに生まれた」と仮定して、あなたが世界で初めて電話機を開発した人だとしましょう。その際、世界中の人に使ってもらうために、あなたなら世間にどんな提案をするでしょうか? どうやって、人の役に立つ技術だと社内外にプレゼンしますか?

その答えを、ぜひ考えてみてください。ベターな答えを出すためのヒントは、今回お話しした「未来を思いやる視点」にあります。

※『ROBOT SUIT』(ロボットスーツ)、『ROBOT SUIT HAL』(ロボットスーツHAL)、
『HAL』(ハル)、『Hybrid Assistive Limb』は、
日本国または外国におけるCYBERDYNE(株)の登録商標です。