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[特集:ギークなままで、食っていく 3/4] 和田修一氏:「コードの書ける経営者」として総合力で勝負する

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「ギークなままで、食っていく」起業編

株式会社ロケットスタート 取締役 最高技術責任者
和田修一氏(@wadap

中央大学経済学部卒業後、2005年に楽天入社。国内『楽天市場』の運用のほか、台湾版『楽天市場』の設計・構築・運用などに携わるなど、インフラエンジニアとして活躍。退職後、現職に就任。2009年9月オープンのライフレシピ投稿サイト『nanapi(ナナピ)』を技術・経営の両面から支える。個人ブログ『Unix的なアレ』も人気。idはwadap(わだっぷ)

<和田氏が「ギークなままで食い続けてこられた」ポイント>

前職の楽天時代にゼロからUNIXを学んだ経験から、あまりに初心者向けの情報が少ないことを痛感したため、UNIXにまつわる技術的なTipsや最新情報を提供する個人ブログ『Unix的なアレ』を開始。

このブログでの情報発信が注目を集めるようになり、ITイベントでの講演やメディアでの連載記事執筆などの依頼が来るようになったという。

着目すべき点は、使い古された技術分野でも、【UNIX×初心者】という自分なりのジャンルを開拓し、情報発信をし続けていた点。そして、その発信のおかげでできたギークな人たちとのつながりから、新しい技術トレンドを学んでいった点だ。

スタートこそ「先行者」ではなかったが、情報発信を機にアーリーアダプターとの交流の接点を作り、徐々に先行者となっていった好例といえる。

現在はロケットスタートのCTOとして、「コードの書ける経営者」というポジションを確立している和田氏。その優位性を挙げるなら、それは自社サービスを動かすスピード感に表れる。ある経営会議の席上では、こんなことがあった。

ライフレシピ投稿サイト『nanapi(ナナピ)』

ライフレシピ投稿サイト『nanapi(ナナピ)

自ら作ったライフレシピサイト投稿サイト『nanapi(ナナピ)』のユーザーコメント欄について、今まで通り自社側で構築するか、Facebookのソーシャルプラグインに移行させるかという議論があった際、その場で後者を選択する決断をし、会議が終わるまでに実装を終えていたそうだ。これと似たケースは日常茶飯事だという。

投資家が参加するような経営ミーティングでも、アイデアをその場で実装しながら会話を続けることが多々あるというから、当然、出資者たちの信頼は高まっていくはず。ビジネスの話ができるギークは、総合力の面で最強なのである。

和田氏らロケットスタートの創業メンバーがゼロから企画し、手塩にかけて育ててきた『nanapi』がまさにそれにあたる。

最初は「何か面白そうだから」と開発に着手した『nanapi』は、現在、約3万件におよぶ記事情報やユーザー履歴を蓄積している(2011年9月現在)。そのデータベースを軸に、将来新たなサービスとマネタイズモデルを開発するための布石として、今は最新のデータマイニング技術を駆使したテクノロジーの導入を進めているという。

IT業界の内外で話題を呼んでいる『nanapi』の行く末から目が離せない。

「コードを書いてナンボ、の世界では戦わないと決めた」

平日の忙しい時間帯にもかかわらず、さわやかな笑顔を浮かべながら取材に応じてくれた和田氏

平日の忙しい時間帯にもかかわらず、さわやかな笑顔で取材陣を迎えてくれた和田氏

プログラミングとはまったく縁のない文系学生が楽天に入社し、その4年後、友人とともに立ち上げたベンチャー企業の最高技術責任者に就任して辣腕を振るう――。

nanapi』を運営するロケットスタートでCTOを務める和田修一氏を、短期間で「ギークなわだっぷ(ITコミュニティでの通称)」にしたものは何だったのか。それを知るためのカギは、こんな言葉に凝縮されている。

「楽天時代に覚えたインフラ設計には多少の自信があるし、ビジネスモデルを考えたりするのも好きな方だと思います。あえて一番苦手なことを挙げるなら、コードを書くことではないでしょうか」

学生時代は、バンド活動に精を出す普通の学生。現在の仕事につながることといえば、ホームページビルダーでバンドのホームページを作ったことがあるくらい。世に言うギークな学生とは、縁遠い生活を送っていたという。

そんなごく普通の文系大学生が入社することになったのが楽天だった。特にエンジニアを希望したわけではなかったが、配属先は楽天を陰から支えるインフラ部門に。ここで、24時間365日止まることが許されない巨大ECサイトを運営する厳しさを叩き込まれた。

「入社3年目に楽天が台湾に進出する際の立ち上げに参加することになるのですが、最初の2年間は国内でサーバやストレージの運用を担当していました。職種で言えばインフラエンジニアですね。仕事を通じて初めて知った世界でしたから、面白さも感じる反面、まったくのゼロから技術を学ぶことの難しさも痛感させられたのを覚えています」

こうした思いから書き始めたのが、個人ブログ『Unix的なアレ』だった。ブログ開設をきっかけに、講演や連載依頼が舞い込むようになり、その要望に応えるにつれ、これまで交流がなかった社外のエンジニアたちとのつながりもできていった。

それが、和田氏の視野を開く契機になったという。何より大きかったのは、「コードを書くことで競争しない」というスタンスを身に付けたことだ。

「新卒で楽天に入ってからほかの会社のエンジニアがどんなふうに仕事をしているのかさえ知りませんでしたから、他社で活躍しているエンジニアとの出会いは新鮮でしたし、勉強にもなりました。こうして経験を重ねるうちに気がついたのは、『コードを書いてナンボ』の世界では戦えないということ。ちょうどそのころから起業願望を持ち始めたので、ならば自分は違う道で勝負しようと思うようになっていました」

「僕の強みは『活きたサービス』を運営してきた経験値にある」

その試行錯誤の結果、選んだのは、友人の古川健介氏(ロケットスタート代表取締役)らと設立した会社で「技術の分かる経営者になる」という道。ほかの取締役やエンジェル(投資家)たちとブレストを重ねた末、自らが中心となって開発したライフレシピ投稿サイト『nanapi』は、その第一歩となる作品だ。

「リリース当初は、アプリケーションを開発するため、今まで仕事で使う機会がなかったJavaScriptやPHPを必死で覚えました。でも、どこかで『インフラさえしっかり作っておけば、アプリ開発は後からどうにでもなる』って達観していたところはありましたね」

開発で最も心を砕いたのは、「ユーザーに快適に見てもらうための応答速度の速さだった」というのも、”ビジネスギーク”らしいエピソードといえる。

「僕の技術的なバックボーンはインフラの現場で身につけたものですから、おのずとそういう視点で物事を見ているのかもしれません。焦りも不安も感じなかったのは、これまで『活きたサービス』を作ってきた自負というか、ミッションクリティカルなサービスを運営してきたんだっていう自負があったからだと思います」

経営と開発に割く時間を比べると、徐々に経営の方に比重が移りつつある立場だが、今後もコードを書き続けるCTOでありたいと和田氏は考えている。

「僕が現場にいたら、開発の一線を退いたCTOの下では働きたくないので(笑)。その一方で、僕の強みは技術屋としての総合力にあると自覚しているので、常に新しい技術をキャッチアップするために社内外の人とコミュニケーションを取りながら、どうすればテクノロジーを駆使して収益を上げられるのかを考え、プランを実行していきたいと思っています」

言葉の端々に感じるのは、技術はあくまでもビジネスのツールだという発想。かといって技術を軽視せず、新しいトレンドをつかもうと励む姿勢も持ち合わせている。この2つの両立こそが、仕事とお金に愛される新型ギークの条件になっていくのだろう。

(4/4 ミクシィ・田中洋一郎編に続く)

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