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[コラム] グーグルのオファーを断ってモノづくりに賭けたエンジニア。ユニデンCTOが語る、世界で戦う技術者に共通する2つのポイント

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海外メーカーの製品力が上がり、これまで製品の質の良さをアピールしてきた日本メーカーが窮地に立たされている。
事業の統廃合や撤退など、なかなか明るいニュースが届かない中で、日本メーカーで働く若いエンジニアたちが世界で戦える技術者になるためにはどうすれば良いのか。世界有数の外資系企業の一線で活躍し、2012年1月に若くして日系メーカーのCTOに就任した日本人技術者へのインタビューを通して、世界に通用する技術者に必要な要素を明らかにした。

ユニデン株式会社 最高技術責任者
森 英悟氏
日本アイ・ビー・エム、ノキア・ジャパンと日本の外資系企業に勤め、その後、フィンランドのノキア本社に転職。フラッグシップとなるスマートフォン『N9』のマルチメディア開発責任者として実績を残す。2012年1月、ユニデンに転職。最高技術責任者として、技術開発オペレーションの改革、次世代の製品開発を担当する

日本アイ・ビー・エムやノキア・ジャパン、ノキア本社と、外資系企業で活躍してきた森英悟氏。スマートフォンのマルチメディア開発責任者を務めた後、グーグルから複数のポジションでオファーを受ける。

だが、その誘いを断って森氏が次の活躍場所に選んだのはユニデンだった。今、最高技術責任者(CTO)として腕をふるい始めたところだ。

その選択理由について、森氏はこう語る。

「今回の選択は、日本メーカーが危機的な状況にある中、今、自分にしかできないチャレンジとは何か、と考えた結果です。加えて、日本の会社で日本人として働くこと自体が、わたしにとって新しいチャレンジであったことも大きいですね」

ユニデンを選んだ理由はそれだけではない。日本企業の中において、いち早く海外展開に成功したユニデンだからこそ、森氏は入社を決めたという。

「ユニデンは日本で開発、アジアで製造、アメリカで販売というモデルを早くから確立し、グローバルオペレーションを行ってきました。時代の先を見てフレキシブルな動きができる会社であるところに、新しい時代を作り出せる素地があると感じています」

CTOである森氏の目の前には、日本における技術開発のオペレーションを改革するという課題がある。

「ユニデンの主力製品であるコードレスフォンはコモディティ化しており、その中で勝負していくには、価格、品質、開発スピードにおいて優位に立たなければなりません。そこで、チップベンダーやソフトウエア会社と協業して、パッケージとしてまとめ上げて競争力のある製品とする。同時に、ユニデンのコア技術であるワイヤレスやポータブル化の技術をベースに、イノベーションを積み重ねて新たなプロダクトを開発する。この2つの手法によって、ウイニングパターンを築きたいですね」

理想に近づくために、チャレンジを繰り返す

森氏の経歴を振り返ると、そこには常にチャレンジがあった。

北海道大学でロボットや人工知能の研究に打ち込んだが、博士課程を修了した後、日本アイ・ビー・エムに就職する。通常、博士課程という学歴がある場合、研究所などに勤めることが多いが、森氏は現場でSEとして働くことを希望。基幹業務システム『SAP R/3』のスペシャリストとなって、クライアントの要望に即応するために忙しい日々を過ごした。

当時、現場での仕事に没頭すればするほど、森氏は、自分の胸の中でぼんやりとした不満が大きくなるのを感じていた。それは、外資でありながらも日本国内の企業を相手に日本語でやり取りすることへの違和感だ。

ちょうどそのころ、世界最大の携帯電話メーカーであるノキアの日本法人、ノキア・ジャパンを訪ね、数人の責任者と面接を重ねるうちに、その不満がはっきりとした形となる。

「本当にグローバルな環境で、ゼロからモノづくりをしたい」

大学時代から、「グローバル」と「モノづくり」に掛ける思いが強かったという森氏

大学時代から、「グローバル」と「モノづくり」に掛ける思いが強かったという森氏

ノキア・ジャパンからオファーを受けた森氏は、日本人と外国人が半々という環境で働くことを決意し、数年後の製品化を目指した応用研究を担当することに。

ユーザーインターフェース、センサーテクノロジーなどの応用研究を行って、そのプロトタイプをノキア本社でプレゼンテーションするなど、希望通りのキャリアを歩み始めた。

「プレゼンの内容によって研究予算が決まるという厳しい環境なので、チームの代表として必死に英語で説明しました。英語が不得意などとは言ってはいられない状況でした」

そのようにして約7年間、森氏は研究チームを率いて活躍する。だが、ノキア・ジャパンは、日本における事業展開が思うように進まず、応用研究チームもついには解散。次の道を探していた時、ノキア本社のマネジャーからオファーを受け、フィンランドのスマートフォン開発部門で働くことを決意した。

世界20カ国のハッカーを従え、フラッグシップ機『N9』を開発

「もう日本へは帰らない」という気持ちで転職した森氏。報酬は以前の半分となり、同じノキアとはいえ、まったくの再スタートとなった。

最初は数人のチームを率いていたが、4年後にはシニアプロジェクトマネジャーに再び上り詰め、ノキアのフラッグシップ機であるスマートフォン『N9』のマルチメディア開発責任者となる。

部下は約100名。国籍は20を超え、日本人は森氏だけ。ハッカーと呼ばれる世界を代表するエンジニアが、世界各国にプロパーと同数くらい在籍し、およそ半分の部下はバーチャルオフィスで仕事をするという環境だった。森氏は、当時をこう振り返る。

「優秀なエンジニアがいれば、どこにいようと、すぐにアクセスしてプロジェクトに参加してもらいました。インドやブラジルなど世界中にハッカーがいるので、時差の関係で2つの部隊に分けて運営したりもしましたね。一緒に仕事をしているけど、会ったことのないハッカーもいたくらいです」

まさにグローバルな環境であり、森氏は、その個性あふれる優秀なエンジニアたちをまとめ上げて結果を出す。『N9』は、携帯電話のエキスパートから「ここ10年間においてノキアで最も素晴らしい製品」という高い評価を得た。

『N9』は製品としてのレベルは高かったが、iPhone、Android搭載のスマートフォンが主流となっており、市場ではその実力が正当に評価されなかった。

その結果、ノキアは、スマートフォンのOSをLinuxからWindowsへと方針転換するが、森氏はその流れに乗るつもりはなかった。ノキアを退社した後に、新たなチャレンジとして、世界的なIT企業・グーグルの面接を受ける。

その面接では、「孫正義とスティーブ・ジョブズのマネジメントの違い」や、「嫌いなソフトウエアを言い続けて、その理由を説明せよ」など、いくつものユニークな質問に答えて、2つのポジションでオファーをもらったという。

「ノキアでの経験で、自分はどこでも働けるという自信がつきました。有名企業であるグーグルからオファーを受けたことは純粋にうれしかったですが、そこで働くことに満足するのではなく、自分が一番チャレンジできる場所を選ぶべきだと思ったんです」

これが、冒頭に紹介したユニデン入社の最大の理由である。チャレンジすることで森氏は、世界トップレベルのエンジニアとなり、そうなった時、もっともチャレンジだと思える仕事を選択したのだ。

世界で戦うエンジニアが持つ、2つのポイント

今回のテーマでもある「世界で戦えるエンジニア」に共通するポイントについて尋ねてみると、森氏は「コミュニケーション力」と「マインド」について語ってくれた。

「まずはコミュニケーション能力。大切なことは流暢かどうかではなく、英語を使ってきっちりと自分の言いたいことを説明できることと、英語で多国籍チームをリードしていけること。この2つが最低限の要件です。それに加え、議論しながら、その中で解を見つける能力を身に付けなければ、世界標準で優秀なエンジニアとはいえません」

続いて、世界で活躍しているエンジニアが持つマインドについて、森氏はこう話す。

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コモディティ化するコードレスフォンが、森氏の推し進めるイノベーションによってどのように変化していくのか楽しみだ

自分の製品がユーザーにどのように使われるかを理解すること。最終的に作られるプロダクトはどういうもので、どうすれば良くなるのかという視座を持っていないと、大切なところで自分を見失ってしまいます」

エンジニアは、時に目の前の課題にとらわれがちになるが、それだけではイノベーションを起こすような技術開発ができない。自分がしていることを否定するくらいの視座の高さが必要になると話す。

「優秀なエンジニアの特徴は、自分がやっていることが、もしかしたらムダかもしれないと思っていること。例えば、ボタンを押しやすくしようとする時、そもそもの話をしていくと、もしかしたら『ボタンは必要ない』と考えることもできる。そういう一歩違った視点に立つことの先に、イノベーションがあるのです」

視点を変えることの重要性は、エンジニアとしての立ち位置についても同じことがいえる。

「会社という組織から離れて、自身のエンジニアとしての立ち位置を世界レベルで見て、自分の絶対値を知ること。そのことが、グローバル時代のエンジニアとして必要なこと。日本の大手メーカーであっても一生勤められるかどうか分からない状況なのだから、会社の中でどう評価されるかではなくて、世界レベルにおける自分の絶対値を高める努力をしていくべきです」

自分の絶対値を高めていくには、森氏のように自分の”最高”を試すことができる場を探し、そこで自分の技術と能力を最大限に発揮することだ。

取材・文/中村文雄 撮影/安井健太郎