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[コラム] 注目のソーシャルサービスを作った元証券マンがFacebookで学んだこと

公開

 
フューエル株式会社  CEO
仲 暁子(なか・あきこ)さん

インターネットを開けば、Webサイトを開発するための技術知識・ノウハウを誰もが手に入れられる昨今。エンジニアである・なしにかかわらず、本当に誰でもWebサービスを開発できる時代となっている。

そんな時代を象徴するかのように、非エンジニア職から一転、今年9月にソーシャルリクルーティングサービス『Wantedly(ウォンテッド)』を企画・開発して注目を集める女性がいる。

リリース元のWebベンチャー企業・フューエルで代表を務める彼女の名は、仲暁子さん(26歳)だ。同サービスを開発するために、Ruby on Railsを独学。1年で、サービスをリリースできるだけの技術力を身に付けたのだという。

ソーシャルの力で何かを一緒に始める仲間を探す『Wantedly』は、現在ベータ版として一部のユーザーに利用されている。ところが、リリース後、ある有名Webメディアに取り上げられたところ、ユーザー数が爆発的に増加。それまで1500人程度だったユーザーが、翌日には6000人に増加するなど、各方面から熱視線を受けている。

京都大学を卒業後、就職したのはゴールドマン・サックス証券で、それまで本格的にコーディングを学んだことすらないという仲さんが、なぜ短期間で時代の先端を行くサービスを開発できたのか?

話を聞いて浮かび上がったキーワードは、「Facebook」と「ファインチューニング」だった。

大学卒業後は、Webとのかかわりが少ない金融業界へ

仲さんは、こうと決めたら必ず実現してしまいそうな不思議な魅力を持つ

仲さんは、こうと決めたら必ず実現してしまいそうな不思議な魅力を持つ(インタビューは、現在留学中の面白法人カヤックにて)

「父の仕事の関係で、小学生のころからPCがある家庭で育ちました。小学校高学年のころには、自分専用のPCを持っていましたからね」

笑いながらそう話す仲さん。高校生の時には帰国子女のためのWebサービスを作るなど、幼少のころからインターネットと歩んできた。しかし、彼女は大学卒業後、ITとのかかわりがほとんど皆無のゴールドマン・サックス証券へ入社する。

「語弊を恐れずに言うと、当時は『エンジニア=搾取される存在』だと思っていました。指示されたことにしたがってひたすらコードを書いてます、みたいなイメージだったんです。だから、Webの世界には興味はありましたけど、仕事にしたいとは思いませんでしたね。結果的に、先輩たちがかっこよく見えたゴールドマン・サックスに入社しました。でもやっぱり、入社してみて違うなと思い、1年半で退職しちゃいましたけど」

Facebook社で、「エンジニア=搾取」から「エンジニア=神」へ

保育園時代は将来の夢に「マンガ家」と書くなど、幼いころからクリエイティブなものに強い興味を持っていた仲さんは、ゴールドマン・サックス退職後にマンガやイラストを共有できるサービス『Magajin』を立ち上げる。

「日本のクリエイターって、よく搾取される対象として見られがちじゃないですか。でも、世界にはクリエイターを大きく評価する国や地域があります。だから、日本のマンガ家さんやイラストレーターさんに、もっと評価される場とチャンスを与えられればと思い『Magajin』を立ち上げました」

しかし、運営はなかなかうまく行かなかったという。

「立ち上げたは良いものの、いろいろな課題が浮き彫りになり結果的にはサイトをたたむことになりました。このサービスに対する想いは強かったのですが、パッションだけでは解決できないんだなということを強く感じましたね。Webサービスに必要なことは、立ち上げた後のファインチューニング(改善)が大切なんだ、と」

『Magajin』立ち上げ後しばらくして、ひょんなことから米Facebookへ入社した仲さん。ここで、一つの大きな転換期を迎えることになる。

「カルチャーショックは大きかったです。Facebookでは、エンジニア一人一人の決裁権が非常に大きい。Facebookに機能を一つ付け加えるにしても、個人の権限でできるんです。だから、開発スピードも速い。はじめはバグが発生してもいいからリリースしてしまい、その後のファインチューニングで理想の機能に近づけていくんです。それから、ストックオプションという制度が根付いているので、私よりも若くして億万長者になってるこたちもいる。そんなこたちが同じオフィスで隣で働いてて、キャリアパス的にも日本にはないものなので衝撃的でした。もう、自分で企画から開発までできるエンジニアは”神”のような存在なんだなと、価値観が大きく変わりました。」

そして、Facebookを去り、独学で学んだRuby on RailsでWebサービスを開発。デザインまですべてを一人で作り上げ、『Wantedly』が誕生した。

Facebookでの経験を活かし、進化する『Wantedly』

SNSを活用した企業の採用活動も盛り上がりを見せるなか、高い注目を集める『Wantedly』

SNSを活用した企業の採用活動が盛り上がりを見せるなか、高い注目を集める『Wantedly』

「『Wantedly』をリリースする前の構想としては、店と人とモノに関するQ&Aサービスを作ろうと考えていたのですが、付けたいサービスをすべて付けるととても使いづらくなっちゃって。ユーザーが使ってくれないサービスでは持続性がありません。ユーザーが使いやすいものにすることを考えた結果として、人にフォーカスしたサービスに落ち着いたんです」

正式なリリースをしていないとはいえ、現在の『Wantedly』は傍目から見ても完全な状態とは言えない。だが、そこには彼女の明確な意図が存在している。

「ベータ版ということもあって、日々ユーザーからの機能改善の要望や問い合わせが絶えません(笑)。でも、本当にありがたいことだと思っています。いかにユーザーが使いやすいWebサービスにするかは、実際に使ってもらわないと分からないですから。周りの人にもいろいろとアドバイスをもらいながら、少しずつではありますが着実にファインチューニングは進んでいます。ただ、わたし一人の開発スキルだとどうしてもスピードが遅くなってしまうので、優秀なエンジニアにも来てもらいたいですね。そして、サービスをより良いものにして、日本だけじゃなく世界中のユーザーに使ってもらえるようにしていきたいです」

ベータ版とはいえ、現在ユーザーはおよそ1万人にのぼる『Wantedly』(2011年9月16日現在)。まずはユーザー数を増やし、ゆくゆくは企業の採用担当者などにサービスとして利用してもらえるようなビジネスを考えているという。

もしかすると、このサービスはクリエイティブな気持ちとリアリティを重視する彼女だからこそ、生み出すことができたのかも知れない。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)