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[コラム] ジオメディア業界の革新的な位置情報サービス『GeoHex』は、ソーシャルの未来を変える

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GEOR_105.jpgのサムネール画像

『GeoHex』プロジェクト代表
笹田忠靖氏(@sa2da

「Google MapのAPIをいじってるとき、Hex(六角形)を地図の上に敷き詰めたらカッコいいんじゃないかと思ったのが最初のきっかけ。何個か描いた段階ですぐにワクワクしだしたのを覚えています」

そう話すのは、スマートフォンアプリ開発のディレクター職につく傍ら、自ら興した『GeoHex(ジオヘックス)』プロジェクトの代表として、同プロジェクトのエバンジェリスト(伝道者)を務める「sa2da」こと笹田忠靖氏だ。

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世界地図がHexで埋め尽くされているのを見ると、あの名作地図ゲー『大戦略』シリーズを思い浮かべる人も多い!?

笹田氏が生み出した『GeoHex』は、六角形を二次元上に敷き詰めると縦横斜め方向に隣接するすべての六角形同士の距離が等間隔になるという特性を活かしたマッピング図法であり、座標管理用のコード体系を含む包括的なシステムのこと。

独自に設計した斜形グリッドの交点をHexの中点とするアイデアにより、Hex生成にかかわる演算を大幅に簡略化できる特性を活かし、環境モニタリングなどにおける統計分野や、ゲームやルート検索などのGPSトラッキングへの活用が期待されている。

自分の価値観や世界観を大きく変えた、衝撃の『Where2.0』

笹田氏は今年4月、この『GeoHex』をひっさげ、シリコンバレーで開催された世界最大級の位置情報サービスカンファレンス『Where2.0』の『Ignite』部門に唯一の日本人として登壇し話題を集めた。

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来年の『Where2.0』では、『Ignite』でなくメインプログラムでの登壇を目指すと意気込む笹田氏

「2008年にはじめて『Where2.0』に参加した当時は、約800人の来場者に対し日本人はわたしを含め10人ほどしかおらず、登壇者はゼロ。世界のメインストリームに日本人がいないことに寂しさを覚えました。この光景を見て、いつか登壇して日本の存在感を世界に示したいと思うようになったんです」

当時は何を語るべきかまでは分からなかったが、『あの舞台に立つ』のを目標に、英語でのプレゼン能力を磨き、日本発の革新的な位置情報サービスのあり方を探り続けた。

「参加してみて印象的だったのは、参加者の目の輝きと情熱でしたね。みんなでマーケットを作って次につなげていこうという意思の強さも感じました。あそこで受けた刺激が着眼の原点になりました」

やがて『GeoHex』プロジェクトを独力で立ち上げ、2008年のカンファレンス初参加から3年を経た今年の4月、3度目の応募でようやく登壇のチャンスをつかんだ。それを機に、笹田氏はOpen Street Mapの創始者スティーブ&ハリケーン・コースト夫妻など、位置情報関連業界の最重要人物たちからも注目を集めるようになった。

「5分間という短いプレゼンでしたし、自分の英語力にも満足してはいませんが、思い切ってチャレンジして良かったと思います。なにせ世界的なプレーヤーでありコアな開発者である彼らと直接話せる機会を持つことができ、後日『 GeoHex is awesome(スゴイ)! 』と、Tweetしてもらえたんですから(笑)」

目標は、GoogleやFacebookのコアサービスとの連携

『Where2.0』でのプレゼンをきっかけに、『GeoHex』普及に大きな手応えを感じた笹田氏だったが、プロジェクトとして本格的に取り組み始めた当初はかなりの試行錯誤を要した。

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「六角形、1000個くらいは書いたんじゃないでしょうか(笑)」

「実のところ、『GeoHex』は紙とペンと思いつきの賜物なんです。最終的なイメージが固まってから動き出したプロジェクトではないので、当初は地図をプリントアウトして、六角形をひたすら描きまくることから始めました。今振り返ってみてもかなりアナログな作業でしたね」

毎日ひたすら紙の地図に向かってペンで六角形を描いては、数式に落とし込む作業が1カ月ほど続いたある日。隣接する六角形の中点を直線で結ぶと、美しい斜形グリッドになることに気がついた。

「めちゃめちゃ美しい、と思いましたね。結果的にこのひらめきがブレークスルーとなって、基本的な演算の仕組みができたんです」

総務省が統計データを作成するために規定した「地域メッシュ区分」のような矩形の直交グリッドを利用するのが当たり前だったGeo業界にとって、斜形グリッドによるアルゴリズムを用い、地図上にHexを敷き詰めるという手法はまさに革新的なことだった。

「国内の業界関係者からは『なんて大それたことをやるんだ』と、冗談めかしていわれることもありました。もしわたし自身が位置情報技術にどっぷり浸かったエンジニアだったら思いつかなかったかもしれませんね」

冒頭に紹介したとおり、笹田氏は企画立案を手掛けるディレクターであってエンジニアではない。

技術的な課題に直面するたび、一つ一つ独学しながら克服してきた。

「今はネット上にたくさんの情報が転がっているので、簡単なものであればわたしのような企画屋でもプログラムを作ることはできます。それにTwitterをはじめとするソーシャルメディアも活用できますから協力者も見つけやすいですしね」

実際、笹田氏がJavaScriptで組み上げたプログラムは、全国の有志によってさまざまな開発言語に移植され活用の幅が広がっている。

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「O’REILLYのメイカー・フェアの責任者から『GeoHex』を利用したいと依頼が来たり、可能性は広がります」

「今、位置情報に関連する業界では、ソーシャルメディアとの融合を背景に『セレンディピティ』という『ハッピーな偶然を導く仕組み作り』に注目が集まっていますが、『GeoHex』プロジェクト自体もセレンデピティに恵まれているような気がしています。コアなエンジニアとの出会いやイベントのタイミングなど、偶然が重なって必然になっているような感覚です」

『GeoHex』が目指しているのは世界規模での普及。GoogleやFacebookのコアサービスに食い込むようなレベルにまで成長させることが、笹田氏の描く最終目標だ。そのためにはまだまだ足りないものがある。

「『GeoHex』はオープンソースですから、どんどん新しいサービスに活用してほしいですし、『GeoHex』に興味を持っていただける方にもぜひ声をかけて欲しいですね。とくに今は、将来に向けて世界での普及を図ろうというタイミング。このタイミングで参加していただければ、非常に面白い世界が見えるんじゃないかなと思いますよ」

『GeoHex』が秘める夢は当面尽きることがなさそうだ。

『GeoHex』が世界のジオメディア業界で注目される5つの理由

1.なにより見た目がクール
位置情報をHexで表すため、シミュレーションゲームと同様に理屈抜きにシンプルかつクールな印象を演出。

2.演算が軽量かつシンプル
新設計した斜形グリッドの活用により、Hexの各頂点を示す座標情報を持つ必要がなくなり演算の軽量化に成功。距離測定する際も三角関数は不要。

3.オープンソースである
クリエイティブ・コモンズによる「CC BY-SA」ライセンスにより、改変、再配布、商用利用が可能。
※ただし、クローズド環境での利用や、バックエンド処理のみの利用の場合には別途ライセンス契約が必要

4.開発言語の多様性
『GeoHex』に賛同するエンジニアたちにより複数言語への移植が進む。開発言語には、Perl、Ruby、Java、PHP、ActionScript、JavaScript、Objective-Cなどがある。

5.個人情報保護にも有効
Hexの大きさは25段階で調整可能なため、検索結果をピンポイントで表すことによる個人情報流出リスクをあらかじめ回避できる。

取材・文/武田敏則(グレタケ)