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[連載:五十嵐悠紀⑦] 「天才プログラマ」が語る、IPA未踏ソフトウェア採択までにすべきこと

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天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

わたしの連載でも何度か出てきたIPA 未踏ソフトウェア。今回はこの事業について採択当時を振り返りながら、ご紹介しようと思います。

これは独立行政法人情報処理推進機構というところで行っている事業の1つです。「未踏IT人材発掘・育成事業」という名前が掲げられている通り、ソフトウェア関連分野において独創的なアイデアを持ち、技術を活用していく能力を有する優れた個人を発掘育成する事業です。さらっと書きましたが、「個人」を支援してくれる事業はなかなかありません。

大学の研究・会社の仕事とは独立したもので、指導教官とは別に未踏のプロジェクトマネジャー(PM)のもと、自分の提案した内容を研究開発する、といったものです。研究費・人件費(自分の給料、人を雇うお金など)ももらえるので1年間仕事をせずに未踏事業に専念してこれで食べている人もいました。

採択されれば外部会社がプロジェクト進捗をマネジメントしてくれる

最初は提案書を提出して書類審査されます。当時学部4年生だったわたしは、電子申請を行うのも初めてだったのでドキドキでした。提案書には、世の中で何がなされているのか、自分は何をやりたいのか、どのようなことが世の中の貢献につながるのか、など自由に具体的に記載します。

周りの先輩たちが皆これに採択され、研究している姿を見ていたので、先輩から「出してみない?」と言われたときには二つ返事で出すことを決めたものの、まず提案書を書くのが最初の難関でした。

とはいえ、今振り返ると一番重要な体験をさせてもらったと思います。アカデミアの研究者にとって、研究費獲得のための申請書書きは大事な仕事ですし、こういった経験を若いうちからできるというのも未踏事業の利点です。

IPA未踏ソフトウェア創造事業で活躍した天才プログラマーたち。そうそうたるメンツがならぶ

IPA未踏ソフトウェア創造事業で活躍した天才プログラマーたち。そうそうたるメンツがならぶ

書類審査の後は、面談がありました。学会発表すらしたことのなかったわたしにとって、初めての面談。プロジェクトマネジャーとして選んだのは、はこだて未来大学の学長・中島秀之先生でした。中島先生とお台場の産業技術総合研究所での面接だったので、早めに現地へ赴き、隣のロッテリアでPCを立ち上げて、発表練習をひたすらやってから、ポケットにアンチョコをしのばせて行ったのを覚えています。

プロジェクターを用いての発表も初めてだったのですが、なんと最初の数ページで自己紹介をしたあたりで「バン!」という音と共にプロジェクターのランプが切れてしまいました。結局、その後はプロジェクターが使えず、中島先生と隣同士に並んで座り、ノートパソコンの画面を見せながら説明するという、その後の研究人生を考えても前代未聞な体験でした。

こっそり先輩に教えてもらっていた、”プロジェクターの画面とPCの画面を切り替えて、PC画面の方にしゃべる文章を書いておく”という作戦も、これでパアに……。でも、難しいことを専門用語を使ってしゃべることよりも、自分の言葉でしっかり説明できることの方がはるかに大事です。すぐ隣でアンチョコを見るわけにもいかず、あとは気合いと熱意で説明しました。

そして無事採択。採択された後は着手発表会。同じPMに採択された同期の人たちと一緒に、今後1年間何をするかなどを発表するのですが、これは福岡で、4人のPMグループと合同で行われました。1人15分程度の発表だったと思いますが、総勢40人程度で朝から夜まで行われ、自分の発表は一番最後。

そんなに大勢の前で発表するのも初めてだし、飛行機に一人で乗るのも、ホテルに一人で泊まるのも初めて。「何もかもが自分にとって未踏だよ!」と思いながらこなしたのを覚えています。メンバーの年齢は、20代から上は5、60代まで。幅広い年齢層に、幅広い研究分野の方々がいらっしゃる中、知り合いが増えていくのはとても面白い体験でした。

ほかにも、中間報告会や最終報告会、その後もOBとして参加したりもしました。報告会は自分の研究内容の進捗を報告すると共に、PMをはじめ、他の同期の人からの意見・感想などももらえるので、研究内容を軌道修正したり、方針をガラッと変えたりすることもあります。時には厳しい意見をもらったりもします。

また、ほかの人の進捗を聞いて別の研究を思いついたり、コラボレーションして新しい研究が始まったり、と人が集まって議論をすることで生まれるアイデアというのはとても重要で楽しいものだと感じたのも未踏事業でした。良くも悪くも大学の研究室内では同じような環境にいる人たちなので、研究室内の先輩後輩から得る影響も大きいですが、未踏で知り合った人たちから受ける影響はとても大きかったと思います。

採択されている間は、コンピュータを用いてプログラミングをしたりしますが、自分が働いた時間を勤務表につけたり、研究費で購入した物品の書類を作成して提出したり、といったこともしました。IPAと自分との間にプロジェクト管理会社というものが入っていて、管理会社の人に書類作成など管理してもらったり、プロジェクトがきちんと進行するための作業を手伝ってもらったりしました。

そんなことを1年間行い、ミニ研究者体験のような日々でした。

子どもたちの感想をユーザー評価とするのも”未踏”がきっかけ

1年間が終わったとき、次は別のテーマで再度未踏に応募し、2年目はNTT コミュニケーション科学基礎研究所の原田康徳PMの下で始まりました。この時は、「研究を閉じた世界で終わらせてはダメ。子どもたちでも使えるシステムを目指すのであれば、実際に子どもたちに使ってもらうところまでしないと」と原田PMに言われ、“提案システムを用いて子どもたち向けのワークショップを行う”ことを条件に採択されました。

われわれの分野での論文に載せるユーザー評価といえば、研究室内の先輩後輩が被験者になり、4~5人の被験者で行うようなものがほとんどなので、最初はどのようにワークショップを開催したら良いか悩みました。しかしこの経験が、以前紹介したようにわたしがワークショップをやっていく礎にもなりましたし、原田PMの下で知り合った未踏同期・先輩の方々からは、ワークショップをやっていく中でとても重要な意見や考え方を学ぶことができました。

1年間のプロジェクト終了時には、特に独創性とすぐれた開発力を 認められた人たちが「スーパークリエータ/天才プログラマ」と認定されます。IPAのホームページには歴代のスーパークリエータの人たちも掲載されているので、ご興味のある方はぜひそちらも読んでみてください。

今では未踏事業は年齢制限もできてしまい、1度採択されたら再度応募はできないようになってしまったようですが、自分の分野以外の人と出会うチャンス、自分の研究を外に伝えるチャンス。ご興味のある方はぜひ応募してみてくださいね(ちょうど今年度分の募集は9月末に終了してしまったところのようですが、今年も面白いプロジェクトが採択されることでしょう)。

※編集部注 本記事におけるIPA未踏ソフトウェアに関する情報は、2004年度下期~2005年度下期のものです

撮影/小林 正(人物のみ)