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[連載:五十嵐悠紀②] 技術者と非技術者をつなぐ”翻訳者”が足りない!

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天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

みなさんは大学ではどんな研究がされているかご存知でしょうか?

2~3年で製品化され、ユーザの手元に届くものが多い企業の研究開発に対し、大学の研究は、10年後世の中に使われる技術になるかどうかも分からない「基礎研究」。基礎研究の研究成果が、製品化などの形で一般の方の目に止まることはごくわずかで、世の中に出ずに埋もれて行く研究成果もたくさんあります。

これらは論文や特許として公開されているので、検索すれば誰でも読めます。ただ、実際には一般の人の目に触れることはあまりありません。それでは、どのようにすればより多くの一般の人の目に触れられるような学術的成果発表ができるのでしょうか?

ワークショップを開くことが、ユーザ・研究者双方にとって重要

前回述べたように、わたしの目標は、手芸に関する専門知識を持たない子どもたちや主婦でも家庭にあるコンピュータを用いて自分だけのオリジナル作品をデザイン・手作りできるようにすること。

その働きの一環として、日本科学未来館に協力してもらい、子どもたちを対象に、実際にシステムを使ってもらうワークショップを開催してきました。以下、簡単に紹介します。

あみぐるみデザインシステムKnittyを使ったワークショップの様子

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ユーザの入力を元に、糸でらせん状に編んでいくような形状・それを編むための編み図を、コンピュータが自動生成するシステムです

ステンシルデザインシステムHollyを使ったワークショップの様子

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ステンシルの図柄は、1枚の板につながっていなくてはならないので、手作業で作るのは大変。でもシステムの助けを借りれば、ユーザは絵を描くだけで1枚の板につながった図柄を出力することができます

ラインストーンデザインシステムDECOを使ったワークショップの様子

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一つひとつ、ストーンを使って絵を描いていくラインストーン。このシステムでも、ユーザがデザインした形状に対して、コンピュータが自動的に特徴のある部分にラインストーンを置いてくれます

最近では、このような研究段階の製品化されていない最先端技術の、ユーザスタディ(実証実験)を兼ねたワークショップを、日本科学未来館のような一般向け施設で行うことが、少しずつではありますが、増えつつあります。

上のワークショップのような「体験型教育科学フィールドワーク」の場を広げることは、科学立国日本を標榜する上で、非常に大きな意味を持っています。なぜなら、研究者側にとってフィールドワークは、

★基礎研究から実際の応用への臨床経験を積める
★ユーザ・サンプルを容易に取得可能
★一般の人の視点からのフィードバックを研究へ応用可能

といったメリットにつながりますし、一般の人々にとっては、

★最先端の科学技術に触れることができる
★研究という仕事・研究者という職業を身近に触れることができる

などの利点があるからです。

体験型のミュージアムがまだまだ少ない日本

科学離れが叫ばれている今日、子どもたちに科学の楽しさを教えてくれる身近な存在は不可欠です。

わたしは若手研究者の一人としての視点、女性としての視点、また子どもを持つ母親としての視点を活かして、科学に興味を持つ子どもたちの育成支援を教育・研究の場から取り組んでいます。特に女性研究者がもっと身近な存在になることで科学に興味をもつ女子の育成にも貢献できると考えています。

わたしがワークショップを行ってきた日本科学未来館は、世界に向けた知的ネットワークの形成、および最先端の科学技術の情報発信を担う「体験型教育科学ミュージアム」です。

海外に目を向ければ、同様の施設は数多く存在します(前の連載記事で紹介したぬいぐるみデザインシステムPlushieや、あみぐるみデザインシステムKnittyは、オーストリアのARS Electronicaにて展示中)。日本でも今後、同じような施設が全国に増えてくることが期待されます。

また、最先端の研究・開発技術を一般の人に伝えるためには、技術の専門家と一般の人をつなぐ”翻訳者”の存在が不可欠です。日本科学未来館には科学コミュニケーター、友の会担当の方々をはじめとして、研究段階の技術を子どもたちでも分かりやすい内容にして伝えるプロフェッショナルがたくさんいらっしゃいます。

これから、体験型教育科学フィールドワークや体験型教育科学ミュージアムへの関心が高まるにつれ、上記のプロフェッショナルのような、新しい職業が注目されていくことでしょう。

身近な技術をはじめ最先端の研究開発技術に至るまで、老若男女、素人や専門家を含めて、皆で共に触れて考えることのできる世の中になる日は、きっと近いはずです。

本稿に掲載したワークショップ開催の内容にご興味がある方は、わたしのHPのワークショップページをご覧ください。

撮影/小林 正(人物のみ)