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[連載:五十嵐悠紀③] 仕事と家庭の両立を「あきらめない」ために。まずはあらゆる事例をインプットする

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天才プログラマー・五十嵐 悠紀のほのぼの研究生活
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筑波大学  システム情報工学研究科  コンピュータサイエンス専攻  非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻 非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する。プライベートでは二児の母でもある

こんにちは。早いもので連載も3回目。今回はこれまでとは趣旨を変え、少しプライベートな部分にも突っ込んで、子持ちの女性研究者として、わたしが考える「ワーク・ライフ・バランス」について、お話ししたいと思います。

どのように研究と家庭を両立しているのか? ということをよく聞かれます。

わたしは大学院生で結婚し、博士2年の冬に第1子が生まれました。ちょうど息子が生まれた12月、大学構内に教職員・学生ともに使える保育施設が開設し、一方、自宅付近の保育所は、いわゆる”入所待ち状態”。結局、息子をベビーカーに乗せて1時間電車通学をすることにしました。

学生なので時差通学ができるのが利点で、お昼ごろの電車が空いている時間に登校し、帰宅時間が通勤ラッシュにかぶりそうだと、少し待ってから帰ったり。

同じ敷地内に保育園があるおかげで研究の合間に出向くこともでき、ゼミ(研究室のメンバーと共に研究の進捗などを発表し合う会議のようなもの)の前に出向いて母乳をあげて、また研究室に戻ってゼミを行うということもありました。学内の子持ち研究者と知り合いになれたのも学内保育園に預けて良かった点です。

大学院卒業後は、子どもがまだ小さいので大学の研究員(ポスドク)を選びました。時間が自分自身の裁量で自由に使えることが大きなメリットですが、普段の生活は多くの研究者・エンジニア・企業勤めの人とさほど変わらないと思います。

普段は大学の研究室や自宅で研究をしていますが、年に数回の国内外の学会発表は避けては通れません。わが家は夫も同業者なので、参加する学会はほとんど同じ。当初は悩みましたが、結局子連れで参加しています。

息子の初めての学会参加は、生後2カ月で場所は都内。その後、新幹線移動や国内飛行機移動など、移動距離がどんどん延びていき、まだ首が据わらないころパスポート写真を撮りました。

もちろん出張に毎回連れて行くことに両親は良い顔をしませんでしたし、海外出張から帰国した息子が当時猛威を奮っていた新型インフルエンザに感染してしまったときには、もう次は連れて行かないよね? と言われました。そんな両親も今では、われわれ夫婦のスタンスを見守っていてくれています。

今まで出会った人たちが、自分のロールモデルになる

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学会のポスターセッションをベビーカーで回る夫と息子

海外では女性研究者の割合も日本よりはるかに多いですし、子連れでの学会参加もよく見られます。ただ、国内ではやはり例は少なく、うちの子だけのことも多いですね。

しかし、最近では託児所併設の学会やシンポジウムも増えてきました。これからは共働き夫婦もますます増えてくるでしょうし、大学や研究業界だけでなく企業でも託児施設を併設し始めているので子連れ出勤率、子連れ出張率も高まってくるのではないでしょうか。

わたしは、中学・高校・大学と女子校を経て、たくさんの女性の先輩方が身の回りにいるという環境に育ちました。中学時代の担任の先生(男性)は、「これからは女性が社会進出し、男性も育児を率先してやる世の中になる」と話し、実際に育児休暇を1年取得して子育てをして、復帰した後には授業でその経験を語ってくれました。

その先生の育児休暇取得後、何人もの男性教員が半年~1年間という長期の育児休暇を取るようになりました。今では男性が育児休暇を取ることも少しずつ増えてきましたが、わたしが中学生のころの話なので今からざっと15年前です。

大学時代も「理学部情報科学科」にいたにも関わらず、学科の教員の半数は女性でした。

「女性の先輩の姿を見せることは女子学生にとってとても重要なことだから」、とあえて女性教員の割合が半数になるようにしているとのことでした。また、学部時代の研究室では、深夜まで研究をする先輩がたくさんいましたし、研究室の階から見える東京タワーを眺めながら、「ライトアップが消えるまでに今日は帰れるかなぁ?」という会話もありました(ちなみにライトアップは深夜0時で消えます)。

ほかには、結婚してお子さんもいらっしゃる先輩がいたり、卒業して企業に勤めている先輩が博士号取得を目指して社会人博士として土日に研究室にいらっしゃったり。研究室を卒業して企業で最先端の研究をされている先輩は少しでも現場を離れると世の中はすぐ変わってしまうから、と育児休暇を取らずに産前産後休暇あわせてたった3カ月で復帰していました。

そんな先輩方を見ていたので、博士課程に進みたい、結婚もしたい、若いうちにママになりたい…。という一見両立しなさそうな夢も「あきらめなくていいんだ!」と思えました。両親や夫にも「周りにはこんな先輩たちがいるんだよ」と先輩たちの事例を話したりもしました。

大学での研究職だけでなく企業での研究・開発のような技術職でも、おそらく女性の数は同様に少ないことでしょう。何人もの女性の後輩に「研究は楽しいけど、結婚・出産を考えるとこのまま研究を職業にしていいか悩む」という話を相談されました。

わたしは修士から共学の大学へと移った際、学科の先生方も男性ばかり、研究室内も男性ばかりという状況になりました。この記事を読まれている女性の方も、部署に女性は自分だけという状況の人は実は多いのではないでしょうか。

わたしは女性ばかりの中で育った10年間で多くの女性教員・先輩方・同期を身近にして、「唯一のロールモデル」というよりは「出会った人たちがみんなロールモデル」な状況でした。

たくさんの先駆者のさまざまな面のうちいくつかをここで紹介させてもらいましたが、この記事を読んで「人生何でもありなんだ!」と思ってもらえれば、うれしいです。

育児は未来の自分のキャリアに対する”投資”だ

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一緒に自作のポジションペーパー(名札)をぶらさげて学会に参加。息子がポジションペーパー賞を受賞(笑)

最近では「ワーク・ライフ・バランス」について話題に上ることも多く、シンポジウムや講演会などもたくさん企画されています。わたしは、可能な限り聞きに行って勉強しています。たくさんの事例を聞くことで、一つでも、わが家の例に当てはめて活かすことができるのではないかと考えているからです。

女性が少ない企業では、女子会のようなものが結成されているという話も聞きます。自分が納得するワーク・ライフ・バランスの形を探したい意思があるのであれば、せめて身近な女性同士でお互いのノウハウを皆で共有するといった能動的働きかけは、必要だと思います。

たくさんの女性の先輩たちを見てきて、みなに共通すること、そしてわたし自身常に思っていることは、「あきらめない」ことです。

仕事でのキャリア、私生活の結婚・出産。両立するかしないかは、やってみなくてはわかりません。両立の仕方もそれこそ千差万別。

「休む勇気を持ちなさい。キャリア形成は数十年単位で考えて」と言われたこともありますし、某企業のトップにたつ女性は講演会で「何よりもパートナー選びが最大の分かれ目! 仕事や育児の価値観・考え方が合うことがワーク・ライフ・バランスを保つ上で大事」とおっしゃっていました。

また、わたしの友人が社内の先輩に聞いてきた話で、「育児に費やすお金は未来の自分のキャリアへの投資」だという言葉もありました。保育園代は本当に高くてびっくりしていたころに聞いた話だったのですが、これは育児そのものについても言えるのではないかと思います。

育児のせいでキャリアをあきらめる、留まってしまうのではなく、今している育児が未来のキャリアにつながっていくのだと、わたしは考えたいです。

「夫婦の仕事(キャリア)をお互い大事にしながら、家庭も子育ても充実した生活を」

これがわたしの今の課題であり目標です。

撮影/小林 正(人物のみ)