エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

[連載:企業に直撃!] ファッション女子向けアプリ『pape.mu girls』独自エンジンが変える情報キュレーションの仕組み

公開

 
パペルック株式会社
(左)取締役CCO 松浦和博氏  (右)代表取締役CEO 小澤一郎氏

「ITに詳しくなくても、気軽にネットでの情報発信や情報共有、情報収集ができるようにしたい。そんな思いで『papelook(パペルック)』と『pape.mu girls(パペムガ―ルズ)』、2つのiPhoneアプリを開発しました。『papelook』が情報発信で『pape.mu girls』情報受信のためのツールという位置付けです」

そう話すのは、明治大学法学部に在籍中の現役大学生で、パペルック代表をつとめる小澤一郎氏だ。

独自開発のレコメンドエンジンで、「手軽でおしゃれ」なアプリを作る

パペルックは2010年10月に学生団体として始まったスタートアップ企業。2011年6月にリリースしたiPhoneアプリ『papelook』は、日本のみならず台湾をはじめとする東アジア圏で人気を博し、現在までに約15万のダウンロードを果たしている。同年10月には法人化。2012年1月、iPhoneアプリ第2弾となる『pape.mu girls』を公開した。

『papelook』は、写真を手軽に切り抜いたり背景や文字を加えたりして、自分だけのスクラップ作成・共有できるアプリ。一方の『pape.mu girls』は、あらかじめリストアップされた約70種の女性ファッション誌の中から、自分が関心を持つ誌名を選ぶだけで、その雑誌に関連が深いとモデルのブログ記事やファッションブランド、ショップにまつわる情報が自動的に収集できるアプリだ。

いずれも、ファッションに関心の高い10代から20代の女性をターゲットに開発された。

キャプション

「ITリテラシーの高くない人でも手軽に使えるアプリが作りたかった」(小澤氏)

「ファッション情報はネット上にあふれていますし、ファッションを介在してオンライン上で人とつながるサービスはいくつもあります。でも、それらを収集して使いこなそうと思うと、ある程度のITリテラシーや手間が必要なんです」

確かに、スマホが発売され出した2、3年前であれば、「スマホユーザー≒ITリテラシーが高い」と言えたかもしれない。しかし今や、スマホは携帯電話のデファクトスタンダードになりつつある。「ファッションが好きで、ITリテラシーが高くないスマホユーザー」をターゲットにしたアプリが出るのは、時代の要請だとも言える。

「ネット上にあふれるファッション情報とサービスを、『手軽に使えるおしゃれ』なものにしたい。そんな思いが開発の原点になりました」

今年リリースしたばかりの『pape.mu girls』は、そんなパペルックの哲学、「手軽でおしゃれ」を体現したアルゴリズムを内側に秘めているという(下は『pape.mu girls』の紹介動画)。

同社で主にサーバサイドの開発を担当している取締役CCOの松浦和博氏はこう話す。

「最近のオンラインを介した情報収集には、検索エンジンを使った『狭く・深い』情報を取る能動的な方法と、SNSを通じた『広く・浅い』情報を得る受動的な方法の大きく2パターンがありますよね。

その2つの方法だけでは、リーチしきれていない層に向けて、新しいツールを提供しようと考えて『pape.mu girls』を作りました。それを支えているのが、独自開発したレコメンドエンジンです」(松浦氏)

「コンビニでする雑誌の立ち読み」的なレコメンデド機能が目標

鳥取大学大学院の工学研究科で人工知能を学んでいた松浦氏は、休学期間中にネット写真販売のフォトクリエイトに入社し、同社の基幹業務システムのリニューアル開発に従事。その後、退社してパペルックに参加したという経歴の持ち主だ。『pape.mu girls』の独自レコメンドエンジンは、同氏が中心になって設計・開発された。

キャプション

「好きな雑誌が分かれば、それだけである程度、志向性を分類することができます」(松浦氏)

「小澤と一緒にあらゆる女性誌を片っ端から読むことから始めました。雑誌に目を付けたのは、女性のファッションタイプを『読んでいる雑誌』によって類型化できると考えたからです。

普通だと、興味のある分野をキーワードで選ばせるところですが、好きなブランドやモデルなど、挙げていけばキリがない。雑誌であれば2、3誌、好きなものを選んでもらうだけでタイプが分かりますから」(松浦氏)

「好きな雑誌」をもとに、まずは各雑誌を特徴付けるもの(=登場頻度の高いモデルやブランド、ショップなど)を挙げ、相関関係を分析。それぞれにレーティングを付加することで、関係性の深さをランキングにして、その女性誌『らしさ』を数値化した。

「ただこれだけでは、『雑誌を読めば良いじゃん』となってしまうので、検索エンジンでの検索数や女性ユーザーの認知調査、またログデータの閲覧履歴などを参考にしながら分析を加え、各項目の重み付けに微調整を施します。

具体的に言うと、アルゴリズムは3段構成で、1段目は既存の紙雑誌の傾向をもとにしたざっくりとした設定。2段目は、ユーザー数が少ない段階でもレコメンドアルゴリズムが有効に働くよう、パラメーターをベースにした推定。3段目は、多くのユーザー数の動向によりリアルタイムに変化する統計的アルゴリズムです。

これらに対して独自の重み付けをし、反映したものがタイムラインになります。『pape.mu girls』は、こうしたアルゴリズムの精度を上げる仕組みを内包したシステムと言えますね」(松浦氏)

キャプション

[写真左]のような設定画面で好きな雑誌を選べば、選択した雑誌に関連の深い人物やブランドの情報が、[写真右]のようなスクラップ状に自動生成される

このアルゴリズムこそ、独自レコメンドエンジンのキモ。網の目のように張り巡らせたレーティング情報の上にユーザーの行動履歴を加味することで、提供する情報の精度を少しずつ上げることができる。

例えば、Aというモデルの情報を見たユーザーが、Bというモデルの情報にも関心を持つ傾向が見られた場合、その数が一定の閾値を超えるとシステム側が「レコメンドすべき情報」と判断。同じ傾向を持つユーザーに情報を提示するようになる。

つまり、ユーザー自身が意識することなく、興味の向くままにページを遷移するだけで、自分にフィットした情報ツールに育っていく仕掛けになっている。

「能動的な検索が『自分で本を買うこと』、受動的なSNSが『友だちから話を聞くこと』だとすれば、『コンビニでする雑誌の立ち読み』みたい感覚ですね。

深く考えたり、面倒な設定をしたりする必要なく、手軽に手に取った雑誌から情報を手に入れるような仕組みをiPhone上で再現したかったんです」(小澤氏)

汎用性が強みの独自エンジンを軸に仕組みをプラットフォーム化したい

今後はコンテンツホルダーとの提携を強化し、提供する情報に幅を持たせるほか、出版社やファッションブランドなどからの広告収入や統計データを活用したコンサルティングサービスへ参入を見込んでいる。

「今は女性向けのコンテンツに注力していますが、設定を入れ替えればどんなカテゴリーにも対応可能なのが、このエンジンの強みです。男性向けやママ向け、またはペットやガジェットなど、ターゲットのセグメントや嗜好によって内容を変えることができます。将来的にはこの仕組みをプラットフォームとして、さまざまな分野で展開していくつもりです」(松浦氏)

キャプション

アジア圏を中心とした海外展開を強化したいと話す2人。アプリの販売は、計画の一端に過ぎない

近々、Andriodやフィーチャーフォン、PC対応版のリリースと、アジアを中心とした海外展開に力を入れ、早々に100万ダウンロードを目指すという同社。最後にアプリ開発やWebサービスをベースとしたベンチャー起業を目指すエンジニアに、先輩の立場からアドバイスをもらった。

「よく言われていることですが、情報過多の時代、『キュレーション』や『レコメンド』が、これからのアプリやWebサービスには欠かせないものになります。

かつて、それらの機能を実装するためには、画像解析や文脈理解など、技術的ハードルが高いものばかりでしたが、最近では『Face.com』や『OpenCV.jp』、『Namazu』など、オープンに使えるものがたくさん出ています。こうしたものを積極的に使えば、企画の実現可能性は大きく広がると思いますね」(松浦氏)

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桜井 祐(編集部)